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巫夏希

第四十六話 ひとまずの決着


「ラルク! どうしたんだ!? ラルク!!」

 ルーシーの必死の呼びかけにも、ラルクは耳を貸さない。
 彼女はその代わりに、虚ろな目をルーシーに向けた。
 そして手にしたやいばを、 動けないルーシーの喉元に突き付ける。

「先生ぇえ!! あなたって人は!」
「ホント、滑稽ね。自分の“守護”霊に殺されるんですもの」

 サリーは腕を組んで、 まるで漫才や漫談の類を見ているかのように一際大きな笑い声をあ げる。
 その笑いも段々収まってきて、こう言葉を吐き捨てた。

「はぁ。もう飽きた。ラルク、やりなさい」

 剣が大きく振りかぶられる。
 そして、標的に向かって加速を始め、

「ラルク! こっちだ!!」

 彼女は剣の軌道を一瞬にして変え、 襲い来るシルフェの剣をカキィンと弾いた。

「フル!」

 ラルクはパワーで押され、サリーの元に。
 フルは、そのままルーシーの元に着地した。

「ルーシー、とりあえずこれを」

 そう言ってルーシーの動かない手に知恵の実を渡す。

「そうか。これなら術式無しに発動できる!」

 一瞬、ルーシーの全身が蛍のように淡く光って、硬直が解けた。
 そしてルーシーは、一つ質問をフルに投げかける。

「君の決着はついたのかい?」
「ああ、なんとかね。さっきの爆発でゴードンは伸びてるけど、 いつ気がつくとも判らないよ」
「そうか、とりあえずよかった…… それにありがと」
「いいや。当たり前のことをしたまでさ」
「そこ。そんな胡散臭い友情ごっこはそこまでにしなさい」

 サリーは口をはさんで、さらにこう続ける。

「ヤタクミ、これはルール違反ではないのかしら? 私とアドバリーの勝負に手を出すなんて」
「いいや、俺はラルクと戦ったんだ。 あんたと戦ってなんかいないさ」
「とんだ屁理屈を…… まあいい、さっきのはただのお遊び。 主従融合ができない貴方など、敵ではありません。 いつでも来なさい」

 そう挑発すると、

「いくぞ!!」

 シルフェの矢を放つ。
 サリーはそれを楽々とかわし、

「遅いですよ。アドバリー」

 瞬時にルーシーの目の前に移動して、拳を下から腹に一発。
 それをもろにくらって体は浮き上がり、ぶはっ、 と口から透明なものを吐き出した。
 ルーシーの足が地面に着く前にサリーは彼の頭を掴んで下に打ち付 ける。

「見え見えな空間で、弓矢なんて使っても無駄よ」

 頭から流血しつつも、ルーシーは立ち上がる。

「それなら…… これで!」

 知恵の実をとりだして、剣を作り出す。

「うぉぉおおお!」

 型もめちゃくちゃに、ただ一直線に剣を振る。

「貴方、剣の才能はまったくないのね」

 サリーはわざと紙一重に避けてみせる。
 剣を振り切った直後、ルーシーの腹に今度は膝蹴りを入れた。

「私、さっきから魔法の類は一切つかってないわよ。体術でも、 貴方は私に到底敵わないわ」

 そう言葉を放ちつつ、サリーは次々にパンチを、蹴りを、 ルーシーに浴びせてゆく。





 ラルクは閉じ込められていた。
 実態の無い精神体の彼女は、物理的にでなく、 自分の心の奥底に閉じ込められたようだ。
 ただ、外の状況は何と無く伝わっていた。

(マスターが苦しんでる……)

 血反吐を吐くような音が聞こえる。
 殴られているうような、鈍い音が聞こえる。
 苦しんでいる顔が見える。

(私は守護霊…… マスターを、守らなきゃ……!)

 ラルクの意識は、覚醒した。







「マスター!!」
「ラルク!?」

 ラルクは主人ルーシーの胸に飛び込む。
 そして瞬時に主従融合した。
 ルーシーは、 あれだけ殴られ蹴られても離さなかった剣を再び握りなおす。
 そして、相手に驚く隙も与えず、

「すみません。先生……」

 サリーの心臓を貫いた。

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