ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

74話ー興味ー

そもそもその思想さえ仮定のもので、本来の目的がどうなっているかなどは不明であるが。

「捕らえた奴らはどうなってるんでさ?  姐さんがやたらいじめたから随分治療に手こずってるんじゃ……」

新田が言う奴らとは言わずもがな、静流と葉月が捕らえた青年と少女のことである。
新田が言った言葉に対し蘇芳は素知らぬ顔でそんな虐めてないしと言ってみせるが……。

「蘇芳が与えた傷もそうだが、身体的に限界だったらしい。栄養失調に軽い脱水症状を起こしていたと連絡が来ている。おそらく補給もなく、相当長い間あの採掘シャフトに潜伏していたのだろう」

「この都市のセキュリティじゃ食糧調達すら満足にできねェからなァ。俺もあんときゃ死ぬかと思ったぜ……」

「なんやのん?  その言い方やと昔同じ立場やったような言い草やねぇ」

「あ?  まあ同じ立場っちゃそうなのか。密入国経験あるからな、俺ァ」

 その場の空気が一瞬凍りつくが……。

「別に隠してるわけじゃねェから言いふらしてもらっても構わねェぜ?」

「そんな物議を醸しそうなことよお言わんわ。ちょっと後で詳しく聞きたいわぁ……。ああ話戻すけど、まあその子らがうまく話してくれるかどうかやねぇ。偽の情報掴まされてしもうとるんやろ?」

「それなんだが……。祠堂、奴らとの対話はお前に任せて大丈夫だろうか?」

  アルビナからの言葉に雛樹は首を縦に降る。おそらくそうなるだろうという予感はあった。
  直接的に会ったことはないが、彼らは自分を知っていてかつ同じ本土出身者だ。ある程度スムーズに話し合いはできるだろう。
  それに聞き出したいこともいくつかあった。とくに伊庭の件について。

  その後も今回の報酬や企業ポイントのことが話し合われ、終わる頃には20時を超えていた。
  最後にガーネットに興味を示した蘇芳が随分と絡んでいたが……。

「ふぅん、えらい別嬪さんやねぇ。むすっとしとったらもったいないわぁ」

「……」

顔を触ろうとしてきたため、ガーネットは触れられないように距離をとり……。

「気安く触ろうとしないでほしいんだけどぉ」

「ふふ、堪忍なぁ。いやでもほんまに別嬪さんやわぁ。うまいことやったらすーぐ有名になるんやない?  女の子のエンジニアなんて珍しいしやぁ」

「有名になられて他の企業に引き抜かれると困りますので」

「んふふ。それもそやねぇ」

  本性を知っているRBにとっては戦慄ものの光景ではあるが、確かにガーネットは美しい。
  褐色の肌に柘榴石のように赤い瞳、切れ長の目に長い睫毛。
  身長などの見た目年齢で言えば中学生ほどしかない彼女だが、その容姿の整い方は可愛らしいというより美しいと言わざるを得ない。

「おっぱいもおっきいしなあ。うちより全然おっきいやん、うらやましわぁ」

「いい歳こいてあんたのがちっこ過ぎるだけじゃねェか。洗濯物の汚れとかすげェ落とせそうだぜ、笑える」

「あー……これはお仕置きやわぁ。うちかてちょっと揉めるくらいはあるよって」

 「贅肉なんざ男のでも揉めるってもんだ」

  蘇芳に対しやたら挑発的な言葉を投げかけるRBはしっしっとガーネットに向かって手を払う。
  ガーネットは相変わらずむすっとしながらもその場を離れ、雛樹と葉月とともにブリーフィングルームを出ることに。

 その後から新田が蘇芳を全力で止めにかかる叫びを聞き……。

「え、えっと……よかったのかしら。RB軍曹、気を利かせてくれたみたいだけど……」

「知らなぁい。それにしても別嬪別嬪ってうるさかったわぁ。はづはづぅ、別嬪ってどういう意味ぃ?」

「えっと……、容姿が整ってて魅力的な人ってことかしら」

「ふぅん……。しどぉ、あたしって別嬪なのぉ?」

  意味を聞いてから間髪入れずそう聞いてきたガーネットに対し、雛樹は何故それを俺に聞くんだと下唇を噛んで返答に困る。

「それは—……」

「まあべつにどうでもいいけどぉ」

  せっかく素直に別嬪だと言おうとしたところで遮られてしまい、再び雛樹は下唇を噛みなんとも言えない表情になってしまう。

 対するガーネットはなんでこんなことを聞こうとしたのか自分でもわからず、照れ臭くなってふいと顔を逸らしてしまった。

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