ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

43話ーシャフトダイバーー

 雛樹が冗談だと言うと、RBはこれまた呆れた風に肩を竦めた。
 雛樹にとって蘇芳の煽りは別段気にするほどのことではない。
 確かに陰湿ではあるが昔、本土の部隊でしごかれていた頃に比べると軽いものだ。

「ほな、今回の目的を最終確認させてもらうよって」

「姐さん、説明できるんですかい?」

「あんたなぁ、うちをなんや思っとるんよ。それくらい造作ないわ」

 このチームで一番位の高い蘇芳少佐が採掘シャフトの入り口前で仕切ろうとしたが、新田大尉が苦笑いを浮かべつつ水を差した。
 そこでRBは面倒臭そうな表情で雛樹に耳打ちする。

「ああ見えてゴリゴリ戦闘特化の女だからよ、ああやってマネジメントすんのは苦手なんだと」

「佐官クラスで許されるのかそれ……」

 この海上都市で採用されている階級制度はあくまでも個人の能力の高さ、都市に対する貢献度に比例して上がるものである。
 そのためたとえ佐官クラスであっても後方で部隊を従え指揮を行う……ではなく最前線に出て活躍する兵士も多い。

「アルビナはんに言われた通り、都市に入ってきたネズミ狩りが今回の目的やね。潜伏しとる可能性が高い言うだけやから無駄骨に終わる可能性もあるけど……まあ用心するに越したことあらへんわ。うちの経験上、こないなとき穏便に済んだことないからなぁ」

 今回で言えば都市に侵入した本土部隊……だけでなくタイムゲートシステムから現れた謎のドミネーター、BB(ブラックボックス)の件もある。
 BBが潜伏している可能性も考慮し、今回の後方部隊にはセンチュリオンテクノロジー、及びGNCの二脚機甲も控えているとのことだ。

「本土部隊の連中を発見し次第、薬を使用される前に捕らえろとのことだからな。ちょい要求難度は高いがね」

 ドミネーター因子が含まれる薬物を使用されると無駄な被害が出る上に使用者は大抵死亡するため捕らえて尋問することができない。
 
「要求難度が高いのはいつものことだろうが。御託はいいからさっさと行こうぜ、なあシドー」

「ああ。何手に分かれるんだ?」

「そんなん決まっとるやないの。ここえらい広いんよ? 4手に決まっとるやない。構内図にそれぞれの担当エリア表示させてもらいますよって」

 なんのために腕自慢が集まったと思っとるん? などとけらけら笑いながら蘇芳少佐はカードキーを扉にかざして入っていく。
 シャフト内、構内図を立体モニターに映しながら新田大尉も後に続く。

「だ、そうだぜ。当たりのエリアを引けりゃ骨の折り甲斐があるってもんだ」

「俺は随分と下の区域だな……」

「こん中じゃお前が一番耐性あるからだろうぜ。2番目はあの狐女だ」

 今回はグレアノイドにある程度の耐性がある4人に任されているが、その中でもやはりずば抜けてグレアノイド耐性があるのは雛樹である。
 そもそも耐性どころか親和性があるに等しいのだが、見てわかるよう数値化する際不自然にならない程度には偽造されている。


 施設内を抜けてグレアノイド汚染マークがでかでかと記された鋼鉄製の気密扉を開く。
 磯臭い臭いと共に湿った空気が抜けてきた。

 採掘シャフト、その巨大な縦穴はまあ確かに……ガーネットが嫌がるほどには醜かった。
 グレアノイドの採掘をするだけあり、そこら中がグレアノイド侵食を受け黒化している。
 ドーム状の巨大なスポーツ競技施設を連想させるほどの広さ、下を覗くと暗くて底が見えないほど深い穴。

 その所々にメンテナンス用の足場や階段があり、縦穴側面にはいくつもの水密扉が見える。
 あれがシャフトメンテナンス用と言われる通路への入り口たちなのだろう。

「ほなお先に行かせてもらいますよって。通信はでけへんようになってまうから、各々調べ尽くしたらさっきの入り口で待機なぁ。もしネズミを見つけたら各個対処。ええね?」

「姐さん、ルーキーとエリア近いんすから一緒につれてってやったらどうですかい?」

 その言葉を聞いて、今すぐにでも縦穴に飛び降りようとしていた蘇芳少佐が止まる。
 そして採掘シャフトの広大さと深さに目を丸くしている雛樹にその細い目を向け……。

「うちにあんなけでかいお口叩いたんや、助けなんていらしまへんやろ?」

「お先に失礼します」

 ……と、雛樹は走り出し足場の手すりにワイヤーガンのアンカーを引っ掛けるとそのまま縦穴の底へ向けて落下していった。

「ふふ、意外と負けず嫌いなんやねぇ。あー余計いじめたぁなるわぁ」

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品