ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

27話ー依頼ー

「お邪魔するよぉアルビナはーん」

 アルビナの書斎に向かった4人の中で躊躇なく先頭切って扉を開いたのは蘇芳少佐だった。
 ノックもせずかなり無遠慮な行いではあったが、アルビナは少々あきれた風にため息をつくと……。

「部下の前でくらい立ち振る舞いはしっかりしないか、蘇芳」

「そないなことアルビナはんに言われとうないわぁ。娘同様、ちぃとばかしへこんどるんやろなぁ思て明るしたったわけやないの」

 先に入ってアルビナと話す蘇芳の後ろから、残りの三人が入ってきた。
 RBはずけずけと、雛樹と新田大尉は扉前で頭を下げてから書斎に入り横一直線になるよう並ぶ。

「お前も相変わらずだな、RB軍曹」

「オイオイ固ェこと言いっこなしだぜアルビナさん。さっさと話を始めてくれ。俺も暇じゃあねェんだ、この舞妓ゲイシャと違ってな」

 親指を立てて隣の蘇芳少佐を指し示しながら、RBは話を急かすが……。

「なぁんやあ? RBはん、随分余裕のない物言いやないの。どないしはったん?」

「さっき言っただろうが。暇じゃねェんだよ」

 冗談を言っている風ではなく、本当にRB軍曹には何か立て込んだ事情があるようだ。
 しかしそんなことは知ったことかと蘇芳少佐はなにか口汚く言い返そうとしたのだが……。

「だはは、その辺にしときやしょうぜあねさん。RBにゃ随分世話になってんだからよ」

 随分と不満そうではあったが、その後のアルビナの言葉によりなんとか落ち着いた面々。
 そのこともあり、アルビナは口早に本題に入ろうと話しだす。

「お前たちには伝わっていると思うが、企業連研究施設にあるタイムゲートシステムから小型のドミネーターが出現した。その件についてある依頼と確認をさせてもらう」

「相変わらず話の切り口が大雑把やねぇ。うちらその小型ドミネーターのことなぁんも聞かされとらんのやけど」

「結月少尉の戦闘記録から判明した情報をモニターに出す。確認しろ」

 随分とざっくりした物の言いようではあるが、センチュリオンテクノロジーにアルビナと同じく所属している新田大尉と蘇芳は言わずもがな、雛樹とRBも彼女の性格は知っていたのである程度は許容し、情報を待つ。

 その小型個体のスペックを聞き、雛樹以外の三人は随分と驚いた様子だった。
 それもそのはず、ウィンバックアブソリューターの武装を乗っ取り操るドミネーターなど聞いたことがないのだから。

「そしてタイムゲートシステムの不正起動に加担した者はおそらく、パレード襲撃の際に都市へもぐりこんできた本土の人間だろう。私の方で大方のあたりはつけた」

 ……と、モニターに映し出された人物の顔写真を見て、雛樹は少しばかり表情を強張らせた。
 自分にタイムゲートシステムを起動するよう命じてきた若い男性兵士と女性兵士の姿もそこにあったからだ。

「坊や、この部隊章に見覚えがあるだろう?」

「はい。まあ随分突っかかってくることが多かったとこで」

「そうだ。RB軍曹、このリストの中の数名は本土軍のある部隊でな。お前のところの伊庭少尉の古巣だ」

「へェ……なるほど。俺を呼んだのはそのためか」

 伊庭少尉がもともと本土にいた際に所属していた部隊。
 その部隊がこの都市に潜り込んでおり、伊庭と接触を図るかもしれないという懸念があった。
 そのため、伊庭を見張っておけということだったのだ。


……——。

 話し合いが続く中、去り際の雛樹の表情が気になっていた静流は少しばかりそのことについて思案しながら、一人本部屋上の空中庭園へ来ていた。

 ビルの屋上とは思えないほど緑豊かで、ささやかな水路が川のせせらぎのようである。
 センチュリオンテクノロジーに所属している軍部の人間にとっての憩いの場であるのだが……。

「……なぁんであんたが来るのよぉ」

「……すっ、ステイシスっ?」

「がーねっとぉ」

「は、はい。そうでしたね……」

 その川に流れる冷たい水に足を浸けてのんびりとしていたのは、髪を後ろで束ねて結い、少々雰囲気の変わった方舟の最高戦力だった。

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