ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

24話ー腕の立つ歩兵たちー


 結局のところ、静流の憔悴っぷりは仲間に知れ渡っていたのだ。
 今回の失敗で静流を咎めるものは少なからず存在する。
 その心無い言葉を静流自身聞くこともあったが、そんな言葉をなんとかやり過ごしていられるのはこの仲間たちのおかげだろう。

「元気ないて聞いて来てみたら、そうでもなさそうやねぇ。静流はん」

「がはは、ええこったええこった! ええ仲間持っちょるようで安心したわい」

 着崩した鮮やかな赤い着物に赤漆の簪で美しい銀髪をまとめ上げた、明らかに軍部にふさわしくない花魁のような格好をした妖艶な女性。
 そしてその隣にいるのは黒い着流しを纏った、右目に大きな古傷を抱えている大柄の男。

 その二人が揃って、休憩室に移動しようとしていた静流たちのもとにやってきたのだ。

「蘇芳少佐、新田大尉まで……。ご心配をおかけして申し訳ありません……」

「ええよ、そんな畏まらんでも。うちらオフやし、気軽にしてぇな」

「こっちの部署でも結構心配してる奴らぁおったんやわ。ちょおど休みやったし、まあ用事のついでに様子でも見に行ったろかぃっつってのお」

 部署が違う……ということは、静流たちとはまた別の部隊の二人なのだ。
 派手な花魁の格好をした女性が蘇芳少佐、大柄三白眼の男の方が新田大尉。

 彼らはある意味でセンチュリオンテクノロジーのツートップである。
 ウィンバックアブソリューターパイロットとしてエリートの座をものにしている結月静流とは違い、この異色の男女二人は企業連でいうRB軍曹のような立ち位置の人物だ。

 そう、二脚機甲には乗らず歩兵としてここまでの地位にのし上がってきた人物たちなのだ。

 いくら対ドミネーター兵器の最適解が二脚機甲といえども、歩兵の重要性は依然変わらない。
 最新鋭の兵器に頼りきったテンプレート的兵士ではなく、歩兵として数々の作戦をこなし、下位ドミネーター程度では臆しもしないのが彼らである。

 華やかしい彼女、もしくはとんでもなく和風ラフな彼の姿からは考えられないことではあるが。

「うっへ、おっさんそんな格好でようここ来れたもんやな。流石うちのエリート肉壁やわ」

「ぐはは! おいノックノックてめぇそれ褒めとらんのぉ」

「褒めとる褒めとる。まじきもいわ」

「はははは! おい蘇芳、こいつまじ生意気になっちょるのぉ!」

「こぉら、アインスはん。あんまりいじめんといたってぇな。このでかぶつ、こう見えて裏ではごっつぅ凹んではるんよぉ? うん、それにしてもエリス、珍しいねぇ、にぃやんとご一緒やなんて」

 アインスノックノックの妹であるエリスはそう蘇芳少佐に言われ、ぺこりとお辞儀をした。
 変な汗をかき、無理くり作ったであろう笑顔は引きつってしまっている。
 センチュリオンテクノロジーにおけるノックノック兄妹の育ての親とも言っても過言でもない蘇芳少佐には頭が上がらないどころか……躾においていくらかトラウマすら植えつけられているという。

 かつ、日本語を兄妹に教え込んだのも蘇芳少佐であった。
 おかしな関西訛りの言葉遣いは彼女譲りなのだろう。

「……で、静流はん、どないやったん? 見たことない相手やったって聞いてはおるんやけど」

「相対した私ですら……口ではうまく説明できません。おそらく、アルビナ少佐の方がその辺りは把握しているかと」

「ほぉん。なんやけったいやねぇ。まあ、どうせお呼ばれしとるから、その時にでも聞ぃてみよか」

 そう、オフにもかかわらずアルビナ少佐に呼び出され蘇芳少佐と新田大尉はここに来ていたのだ。
 そして、呼び出されていたのは彼女らだけではない。


「ッハ、随分な面子が揃ってるぜ。拝んでみなシドー。なんかいいことあるかもしれねェ」

「いや、さすがに初対面相手にそれは無茶振り過ぎるだろ」

 巨大な剣を背負った人相の悪い黒髪の男と、猫背気味のげんなりした男が二人して廊下を歩いてきていたのだ。
 その二人、特にその内の一人を見て静流は大きく気力を取り戻した。

「RB軍曹と、ヒナキ……!?」

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