ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第15話ー侵食ー

「出てきませんね……」

 ステイシスの討伐情報には同一ドミネーターの情報は載っていなかった。
 同じような事例はパレード襲撃の際、こちらへ打ち込まれてきたドミネーターが挙げられるだろう。

 もっとも、その人型ドミネーターは企業連所属のRB軍曹と夜刀神PMC所属の祠堂雛樹が処理したため、データが残っていない。

《少尉、気をつけて。それは研究所のタイムゲートから出現したイレギュラーだから》

「小型だからといえ、私に油断はありませ……ッ!?」

 モニター越しに捉えていたはずのドミネーターの姿が消えた。
 そしてけたたましく鳴るアラート音は右側からの接近を知らせていた。

 知らせを聞いて間もなく襲う、右側面からの重い衝撃。
 ブルーグラディウスの機体側面にエネルギーシールドが発生しているはずなのだが……。

「嘘……」

 エネルギーシールドの状態を示すモニターに、展開した部分のシールドが激しく消耗されている様子が映し出されていた。
 シールド強度残り20パーセントを割っている。

 ほとんど破壊され、攻撃の余波は装甲まで及んでいる。
 粒子砲の一撃をも軽く防ぐ強度を持つシールドがたった一撃でそこまで削られるとは。

「あいつ……さっきまで本気でやり合ってなかったのか……!!」

 ムラクモを当てがわれ、身動きが取れないでいる雛樹は歯噛みする。
 あの小型ドミネーターは攻撃の矛先をブルーグラディウスに変えるや否や、己の右腕に巨大なグレアノイド光の槍を形成し、付近のビルの壁を蹴って刺突した。

 その一撃は、シールドに防がれたかに見えたが、ドミネーターの背後に展開された無数の槍がそのシールドを貫いたのだ。

「くっ……!!」

 展開していたムラクモを一斉にドミネーターに向かわせたが、一手目二手目は躱された。
 しかし三手目で胴体を捉え、そのまま切り裂かんとムラクモのスラスターがより強く青い粒子を噴出させた……のだが。

「……ムラクモの制御が利かないっ」

 直前にそのムラクモとのリンクが切断され、制御ができなくなった。
 だが、そのムラクモの信号は残っている。破壊されたのではない。

 先ほどまでドミネーターを切り裂かんとしていたムラクモがグレアノイド侵食を受け、その白い刃を黒く染めていたのだ。

「グレアノイド侵食耐性を持つ特殊鋼のムラクモが……!?」

《ちょっと!! ムラクモの接続権が塗り替えられてない!? 結月少尉!!》

「……っ」


 展開していたムラクモはガスマスクの男の動きを止めるために使用していたものを含めて5基。そのうち1基がグレアノイド侵食を受けて接続を断たれた。
 そしてそれに応じるかのように残りの4基のムラクモの接続が切れ……。

 その刃の先を祠堂雛樹に向けたのだ。

「なんてこと……!!」

 ガスマスクの男の背後に位置していたムラクモが静流の制御を離れて動く。

 雛樹はそれに気づくのに一歩遅れた。
 このままでは……——。

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