ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第8話ー手間のかかる生き残りー

 今回に限り、要求を飲むことにした。
 選択としては屈する形となったが、それが間違いなのか正解なのかはわからない。

 ただその時、飛燕が随分と安堵したような表情を一瞬浮かべたのが気にはなったのだが。

「いいか、依頼の詳細はさっき言ったとこで聞け。俺から話せる情報はそう多くねぇし、時間切れだ」

 やり取りの間に、仕組まれた面会時間の限界が来てしまっていた。
 夜刀神葉月の身の安全は約束できたため、もうここにいる必要はない。
 雛樹はガーネットを連れて、この独房から外へ出た。

 疲労感を隠しきれない雛樹の表情にガーネットはひどく心配したのだが、それでも気を遣って声を執拗にかけることはしなかった。

 むしろ雛樹に謝られ、どう反応していいのかわからなかった。しかし……。

「あたしはぁ、別にしどぉが悪いことしてようが良いことしてようがどうでもいいからぁ。ただ、しどぉの近くに居場所だけは残してくれたらいい子でいられるかもぉ」

 雛樹はそう言って悪戯っ子のように笑うガーネットに、少なからず救われたような気がした。
 確かに本土でのことを忘れ、この都市での豊かな生活にどっぷりと浸かっていた。
 なんの責任も感じず、ただただ夜刀神葉月に言われるがまま仕事をしてきた。
 そのツケを遠からず払わなければならない時が来るのではと不安に思っていたことも事実。

 とにかく今から、飛燕に言われた場所に向かわねばならない。
 この都市の中でも、最も荒廃した場所へ。

……——。

「話はついたようで」

「……よぉ、うまくいったぜ、玉城の旦那」

 二人がいなくなった独房。
 そこに現れたのは、スーツ姿の男だった。
 祠堂雛樹のセンチュリオンテクノロジー入社試験を担当していた、玉城准尉。
 彼は檻の向こうにいる飛燕に、ごく自然に話しかけていた。

「まあ……後はそっちでうまくやってくれや。俺はもうダメだ。これ以上の尋問には耐えられそうにねぇよ」

「貴方はよくやってくれた」

「っへ、最後にだせェ真似しちまったじゃん……。ま、一思いに頼むぜ。俺はもう疲れた」

「ええ、あなたの存在はこちらとしても予定外です。残念ですが」

 玉城准尉は腰に差していた光学式ハンドガンを引き抜いて飛燕の頭部に向けた。

「後は頼むぜ、CTF201の生き残り……」

 その言葉の直後、頭部を撃ち抜かれた飛燕はどっと倒れこみ、沈黙する。
 静寂が訪れた独房の中で、玉城准尉が小型の銃を腰に差し、スーツの裾で隠しながら外へ出た。

「CTF201の生き残り……優秀なのは結構だが、こちらの手間が増えるのだけは勘弁願いたいものだ」

 そんな愚痴をこぼしながら。

……——。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品