ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら
ー宴前ー
……——。
「ぁうっ……!!」
「よし、入ったね。まさか君が巻き込まれてるとは思わなかったよ」
誕生日パーティー前、静流の部屋に父である結月恭弥が診察に訪れていた。
外れた肩を治すため、そしてその他負傷部分がないか確認するためであり、結構な数の診察器具を持ち込んでいたのだが、幸い大事はないようで父はほっと胸をなで下ろしていた。
「どうだい? 違和感は? 痛みはまだ残っているだろうけど、すぐに消えるだろう。心配いらないよ」
「ありがとう、お父さん。全く問題ありません。ほら」
痛みをこらえていた先ほどまでと違い、穏やかな声でそう言って、外れていた肩を大きく回してみせた。
それを見て父は器具をまとめて片付け、思い出したかのように言う。
「ああ、お兄ちゃんはどうしたんだい? さっきまで一緒にいたんだろう」
「うっ……まあ確かにお兄ちゃんではありますが。……雛樹ならステイシスを迎えに行っていますよ。ステイシスが断らないなら、一緒に来てもらう予定です」
それを聞いた父は、ほうと興味深げな反応を示した後、診察器具が入った重量感のある革製トランクを持ち上げた。
「それはそれは、驚きだね。方舟の守り神が来てくれるだなんて」
「問題ありませんか?」
「ああ、まったく問題ないよ。彼女の最近の状況については高部君から聞いていたからね。僕も興味はあったんだ」
静流の父は高部総一郎と面識があり、かつ仲が良いという。その辺りのことを深く聞いたことはないし、あまり興味のない静流はふーんといった薄い反応ではあったのだが。
兎にも角にも、もうすぐ静流の20歳を祝う誕生日パーティーが始まる。
同僚などは呼ばず、親しい知り合いだけで行うものではあるが、成人祝いだ。
それ相応に豪華な宴となるだろう。
さて、それは静流の口から雛樹に伝えておいた。あとはステイシスが来るかどうかだ。
実際のところ来るかどうかは5分5分といったところだろう。
しかしステイシスは今食べ物に目がないらしく、おいしいものが食べられるというなら、いくら自分を嫌っていようと渋々ながら来るはず……といった考えで、いうならば釣りの材料として言っておいたのだ。
ステイシスが嫌と言えば雛樹もこない可能性がある。それは嫌だし、なによりステイシスと一度面と向かって話をしておく必要がある。
そんな心配をしつつも、静流は背中と胸元が大きく露出したドレスを母に着せられ、髪も誕生日の主役として豪華にまとめ上げてもらう予定ではあったが、静流はそれを断固として拒否してしまう。
「あの……これ、ヒナキに結ってもらったんです、けど」
そう母に言うと一瞬目を丸くして押し黙った母は、しばらくして堰を切ったかのように笑い出してしまった。
「そんなに笑うことですか……」
「くくく……いや、悪い悪い。あの坊やもやるもんだとな」
すっかりぶすくれてしまった静流ではあったが、直後に来た夜刀神葉月があまりにも慌てて自分に詰め寄ってきたため、その対応に追われることとなる。
「しずるん、大丈夫!? ごめんね、私が危険なものプレゼントしちゃったから……」
「問題ありませんよ。注意書きをしっかりと確認しなかった私が悪いのですから」
その時は注意書きを見る余裕などはなかったが、葉月があまりにも罪悪感を感じていたためなんとか落ち着けてやろうと、その後しばらくフォローに追われることとなった。
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