ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

ー救世主デトネーターー

 先ほどまで雛樹が破壊していた箇所を、ハンドガン並みの大きさの銃から放たれたとは思えない威力で貫かれたドミネーターは活動を停止し、その場で瓦解していった。

「すごい威力だな……! いや、いい物もらっててよかっ」

 と、賞賛の意を込めて言いながら振り返ると、この展望台に設えられていた花壇に思いっきり尻から突っ込んで仰向けに倒れている静流がいた。

「だ、大丈夫か?」

 すぐさま花壇まで行き、静流の手を取って起こしてやったが随分目を回しているようだ。
 右肩が外れているようで、だらんと垂れたまま動かない。

「ひ……ひどい反動です」

「扱いに気をつけろっていうのは、これが原因か……」

 第三の携行兵器。補助の補助的な兵装であり、ことこれにいたっては緊急時に使用するための最終手段といったコンセプトで作られているため、使いやすさなどは度外視した随分風変わりな銃である。

 圧縮したフォトンノイドと共に50口径の弾薬を撃ち出すため、内蔵式のストックを肩に当てていても腕が吹っ飛ぶ勢いでノックバックする。

「でも、倒しましたよ……ヒナキ。どんなもんですか」

「ああ、もう……お前はほんと頑張り屋さんだな。でも今度はちゃんと戦い続けられるような手段を選ばないと……ほら」

「え……!?」

 高濃度のフォトンノイド反応に、仲間が倒されたことに気づいたドミネーターが一斉にここへ集まってきている。

 遅かれ早かれ、雛樹がその優先敵性体となってあたりのドミネーターを集めるつもりだったのだが、肩が外れた静流を庇いながら立ち回れる自信はない。

 逃げるにしても、もうほとんど囲まれてしまっている。背後から攻撃されて終わりだろう。
 と、なるとここで助けが来るまで持ちこたえるしかないが……あと何分かかるか……。

 と、考えているうちに状況は打開される。

 後方の空からすさまじい速度で海へ向かって飛ぶ漆黒の機体がぐっと高度を落とし、海面を裂きながらドミネーターに取りつかれ破壊されんとしていた軍艦に接近。

 機体から放たれた無数の赤い物質化光の帯が、取り付いていたドミネーターを貫き、釣り上げて宙に引きずる形となった。

「あの機体は……ステイシスの……ッ」

 そのほとんどがグレアノイド鉱を加工した装甲とフレームで組まれた機体はステイシスの愛機、ゴアグレア・デトネーターであった。
 一目で見てわかる機体のシルエットと、オモチャで遊ぶかのような無茶苦茶な戦闘方法は見間違うはずがない。

 光の帯で繋がれ、鈴なりとなったドミネーター群を連れてデトネーターは海上都市を守る壁に向かって加速し、音速を超えた速度でドミネーターを壁に叩きつけた。

 ぶどうをプレス機で潰すかのごとく、そのドミネーターはまとめて砕け散ってしまう。

「……こっちにくるぞ」

 遠巻きに見ていてもわかる。デトネーターのメインカメラ。つまるところ顔がこちらを向いたのだ。
 今頃はこちらの間抜け顏が拡大されて、補足完了といったところだろう。

 高度を少しばかりあげたデトネーターが展望台に向かってスラスターにより加速、あっという間に雛樹らの頭上に来て集まってきていたドミネーターを、まるでシラミでも潰すかのように、デトネーターのグレアノイドナイフで丁寧に破壊した。

《はろぉ。おじゃまだったかしらぁ?》

 展望台のすぐそばまで降りてきたデトネーターから、ガーネットの声が発せられた。

「そんなわけあるか。ほんと助かった。早かったな」

《丁度デトの操縦検査してたからぁ。帰ったらちゃぁんと頭なでなでよぉ? わかったあ?》

 そんなに頭を撫でられたいのかと思いはしたが、ガーネットの中では頭を撫でられるという行為が随分嬉しい気持ちいいらしく、ことあるごとにねだってくる。
 まだそれくらいしかねだれることを知ってはいないということもあるのだが……。



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