ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら
ーかつての呼び方ー
葉月の話によると静流は防衛学校時代、異性からも同性からも随分と好かれていたらしい。
入学して2年目までは異性からの告白やら何やらが多かったが、ふとある時期を過ぎてから同性から好意の視線を向けられることが多くなった。
全寮制だったそこで、静流は女子寮に入り生活していたのだが、それはもうものすごいモテようだったという。
「男子相手にも全く退かないし、頭いいし強いし、なにより頼りになるし……」
「それほど特別なことをしていたわけではないのですが」
葉月からプレゼントを受け取った静流が箱の中身を確かめようとすると……。
「あ、それ取り扱いに気をつけてね、しずるん。一応超小型粒子砲くらいの威力はあるから」
「これ前に私が欲しいと言っていたものじゃないですか。どこで手に入れたんですか?」
「ツテがあって。一丁だけ取り置きしててもらったのよ」
樹脂製の耐衝撃ケースから出したそれは、パッと見た感じこの都市でよく見るハンドガンだった。
しかしそれは対ドミネーター用の兵装であり、歩兵で扱えるものの中でも威力だけは上位に位置するものらしい。
何を隠そう、ガンドッグファクトリー製である。
パレード終盤で、クラッキングにより暴走した粒子砲を製作していた企業のものだ。
葉月がクラッキングされていることを知らせたにもかかわらず、聞く耳を持たなかったために暴走を食い止められなかった。
その時、ある程度のツテができたのだろう。あまりクリーンなツテではないだろうが。
「ありがとうございます、葉月」
「キスしてくれてもいいのよ?」
「やです。それではお仕事の邪魔になってもいけませんのでこれで」
「えー残念。うん、じゃあまた晩に伺うわ。誕生日パーティーでしょ?」
「ええ、おそらくは」
自分の誕生日には家族と知り合いが集まって盛大な誕生日パーティーを開く。毎年のことで、いつもその時になってようやく自分の誕生日なのだと自覚するのだが今年は違ったようだ。
外に出た静流はバイクに跨りながらため息まじりに言う。
「今日はヒナキと二人で過ごしたいのですが……」
「せっかく家族がいるんだ。祝ってもらえるなら数が多いほうがいいだろ」
「それは……そうですが……」
エンジンがかかり走り出したバイクの後ろで、雛樹には聞こえないよう静流はつぶやく。
「……おにいちゃんは甲斐性なしです」
「あ! その呼び方懐かしいな!!」
「ひいい!!」
聞こえてしまっていた。
このエンジン音と風切り音で聞こえないと思っていたのだが、腰に捕まって広い背中に密着しすぎていたのかもしれない。
風の中での会話なので雛樹が大きな声で応じ、さらに恥ずかしいことに。
「昔はずっとそうやって呼んでたろ! いつの間にか名前で呼ぶようになってさ!」
「そっ、それはヒナキが嫌がるかと思って……!! 実の兄妹でもないのに……」
「別に嫌じゃない。むしろそっちの方がしっくりくるくらいだな。昔はそんな流暢じゃなかったけどさ」
どこか発音のおかしなお兄ちゃんだったと記憶している。その頃の静流は日本語がままならなかったため、仕方ないことではあるのだが。
「い、いやですよ! 妹でもないのに……!!」
「妹扱いは嫌なんだったか?」
悪気ない笑顔で後ろを振り向いてきた雛樹に対し、焦って静流が言う。
「おにーちゃぁあッ!! ちゃんと前見て運転してください!」
入学して2年目までは異性からの告白やら何やらが多かったが、ふとある時期を過ぎてから同性から好意の視線を向けられることが多くなった。
全寮制だったそこで、静流は女子寮に入り生活していたのだが、それはもうものすごいモテようだったという。
「男子相手にも全く退かないし、頭いいし強いし、なにより頼りになるし……」
「それほど特別なことをしていたわけではないのですが」
葉月からプレゼントを受け取った静流が箱の中身を確かめようとすると……。
「あ、それ取り扱いに気をつけてね、しずるん。一応超小型粒子砲くらいの威力はあるから」
「これ前に私が欲しいと言っていたものじゃないですか。どこで手に入れたんですか?」
「ツテがあって。一丁だけ取り置きしててもらったのよ」
樹脂製の耐衝撃ケースから出したそれは、パッと見た感じこの都市でよく見るハンドガンだった。
しかしそれは対ドミネーター用の兵装であり、歩兵で扱えるものの中でも威力だけは上位に位置するものらしい。
何を隠そう、ガンドッグファクトリー製である。
パレード終盤で、クラッキングにより暴走した粒子砲を製作していた企業のものだ。
葉月がクラッキングされていることを知らせたにもかかわらず、聞く耳を持たなかったために暴走を食い止められなかった。
その時、ある程度のツテができたのだろう。あまりクリーンなツテではないだろうが。
「ありがとうございます、葉月」
「キスしてくれてもいいのよ?」
「やです。それではお仕事の邪魔になってもいけませんのでこれで」
「えー残念。うん、じゃあまた晩に伺うわ。誕生日パーティーでしょ?」
「ええ、おそらくは」
自分の誕生日には家族と知り合いが集まって盛大な誕生日パーティーを開く。毎年のことで、いつもその時になってようやく自分の誕生日なのだと自覚するのだが今年は違ったようだ。
外に出た静流はバイクに跨りながらため息まじりに言う。
「今日はヒナキと二人で過ごしたいのですが……」
「せっかく家族がいるんだ。祝ってもらえるなら数が多いほうがいいだろ」
「それは……そうですが……」
エンジンがかかり走り出したバイクの後ろで、雛樹には聞こえないよう静流はつぶやく。
「……おにいちゃんは甲斐性なしです」
「あ! その呼び方懐かしいな!!」
「ひいい!!」
聞こえてしまっていた。
このエンジン音と風切り音で聞こえないと思っていたのだが、腰に捕まって広い背中に密着しすぎていたのかもしれない。
風の中での会話なので雛樹が大きな声で応じ、さらに恥ずかしいことに。
「昔はずっとそうやって呼んでたろ! いつの間にか名前で呼ぶようになってさ!」
「そっ、それはヒナキが嫌がるかと思って……!! 実の兄妹でもないのに……」
「別に嫌じゃない。むしろそっちの方がしっくりくるくらいだな。昔はそんな流暢じゃなかったけどさ」
どこか発音のおかしなお兄ちゃんだったと記憶している。その頃の静流は日本語がままならなかったため、仕方ないことではあるのだが。
「い、いやですよ! 妹でもないのに……!!」
「妹扱いは嫌なんだったか?」
悪気ない笑顔で後ろを振り向いてきた雛樹に対し、焦って静流が言う。
「おにーちゃぁあッ!! ちゃんと前見て運転してください!」
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