ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら
ーわがままー
今思い返してみても、ステイシスはある時点までとても素直だった。
……——。
「検査ぁ?」
「そうだ。明日休みになっただろ? 丁度、高部さんから検査するからよこすように言われてたんだ。だから明日、企業連で受けてきてくれ」
「ふぅん……で、しどぉは?」
「俺は出かける用事を入れてある。悪いな、一緒についていてやることができなくて」
この前買ってやった黒のスパッツとスポーツブラを身につけただけの格好でソファーにうつ伏せになり、テレビを見ていたガーネットにそう言うと、気だるげな声で返された。
ガーネットはどうも、肌の露出を好むようで拘束を目的とした衣服のくせに露出の多い衣服しかり、そんな格好でいることが多い。
ガーネットの下着を買ってやってからはもっぱらそんな姿でくつろぐことが多くなった。
雛樹はあくまでも丁寧に自分に出かける用事があると、ガーネットの機嫌を必要以上に損ねないように言ったつもりだったが、覚悟はしていた。
あたしをお父様に押し付けて一人で出かけるとかぁ!! などと怒られるかと。しかし……。
「いいわよぉ。久しぶりにお父様と話したかったし……なによりこういう生活させてもらってるんだもの、わがままは言えないわぁ。しどぉも一人になりたい時くらいあるでしょぉ」
「えらく物分かりがいいな……」
物分かりが良すぎて怖いくらいではあったが、これがガーネットなのだろう。
物分かりがいいというよりは、現状の身にあまる幸せを享受し続けることが恐ろしいのだ。
ガーネットは今、雛樹との日々が楽しくて仕方ない。
朝起きると自分以外の人間が隣にいることが未だに信じられないくらいなのだ。
幸福で膨れた風船がいつ破裂してしまうかわからない。だからたまには我慢して、空気を抜いてやらねばならない。
そんな心持ちで、雛樹のわがままを受け入れていた。
「まあ、一人じゃないんだけどな」
「へぇ、はづはづとぉ?」
「いや、ターシャと」
「ターシャぁ?」
「あれだよ、結月静流と」
でも、わがままを受け入れていたのはそこまでだった。
「あたしをお父様に押し付けてあのクソ女と出かけるとかぁ!!」
「さっきまでの物分かりのいい発言はどこにいった!」
今更ではあるが、雛樹は己の失言に気づいていた。
そう、ガーネットはなぜか結月静流をひどく嫌悪している節があるのだ。
考えてみれば、自分が嫌悪している人間と出掛けられるのは嫌なものだろう。
「やだぁ、アルマ検査行かなぁい!!」
「いや、いつかは行かないといけないから……」
「しどぉがついてくるないくぅ。ついてこないなら行かなぁい。あのクソ女と出かけるならビンタぁ」
そこから幾らかの攻防……というか、雛樹が防ぎ続け、様々な条件やらを取り付けてなんとか許され、静流との外出を許可された。
当日、検査に預けるために拘束衣をしっかりと着用したガーネットをバイクの後ろに乗せ、企業連本部へ向かった。
そのステイシス格納施設の前で、檻である金属球を準備した防護服姿の検査員達が待機していた。
拘束衣が正しく起動しており、ガーネットの腕はきっちり後ろに回っており、ある程度の体の自由が奪われていたので、その姿を不憫に思わなくはなかったが。
「検査が終わったら迎えに来るからな」
「絶対よぉ?」
「ああ」
そういって背を向け、静流の屋敷に向かおうとしたのだが、何かに足を絡め取られて思いっきり前のめりに転けてしまった。
「ばいばぁい」
「ばいばいって……お前……!!」
防護服を着た検査員達があたふたしている。ガーネットがその白い髪を赤く光る物質化光を紐状に伸ばし雛樹の足をからめとっていたからだ。
ばいばいする気ないなこいつとげんなりした雛樹だったが、同時にガーネットの可愛げに吹き出してしまった。
「すまないね、祠堂君。ステイシスを送ってもらって」
「高部さん」
「あ、お父様ぁ」
そんな折だった。高部総一郎がわざわざ降りてきて、雛樹に声をかけたのは。
「離したまえ、ステイシス」
「はぁい……」
高部の言葉を聞いて、ようやく雛樹を解放したガーネットだったがやはり不満はありそうだ。
「じゃあ俺はこれで。また迎えに来ますんで」
「うむ、待っているよ」
そう言って去ろうとした雛樹ではあったが、数歩進んだところで振り向いて……。
「ああ、どんな検査をするか知りませんが、あまり変なことはしないでやってください」
「ふふ……わかった。そこは約束しよう」
「……しどぉ」
……——。
……——。
「検査ぁ?」
「そうだ。明日休みになっただろ? 丁度、高部さんから検査するからよこすように言われてたんだ。だから明日、企業連で受けてきてくれ」
「ふぅん……で、しどぉは?」
「俺は出かける用事を入れてある。悪いな、一緒についていてやることができなくて」
この前買ってやった黒のスパッツとスポーツブラを身につけただけの格好でソファーにうつ伏せになり、テレビを見ていたガーネットにそう言うと、気だるげな声で返された。
ガーネットはどうも、肌の露出を好むようで拘束を目的とした衣服のくせに露出の多い衣服しかり、そんな格好でいることが多い。
ガーネットの下着を買ってやってからはもっぱらそんな姿でくつろぐことが多くなった。
雛樹はあくまでも丁寧に自分に出かける用事があると、ガーネットの機嫌を必要以上に損ねないように言ったつもりだったが、覚悟はしていた。
あたしをお父様に押し付けて一人で出かけるとかぁ!! などと怒られるかと。しかし……。
「いいわよぉ。久しぶりにお父様と話したかったし……なによりこういう生活させてもらってるんだもの、わがままは言えないわぁ。しどぉも一人になりたい時くらいあるでしょぉ」
「えらく物分かりがいいな……」
物分かりが良すぎて怖いくらいではあったが、これがガーネットなのだろう。
物分かりがいいというよりは、現状の身にあまる幸せを享受し続けることが恐ろしいのだ。
ガーネットは今、雛樹との日々が楽しくて仕方ない。
朝起きると自分以外の人間が隣にいることが未だに信じられないくらいなのだ。
幸福で膨れた風船がいつ破裂してしまうかわからない。だからたまには我慢して、空気を抜いてやらねばならない。
そんな心持ちで、雛樹のわがままを受け入れていた。
「まあ、一人じゃないんだけどな」
「へぇ、はづはづとぉ?」
「いや、ターシャと」
「ターシャぁ?」
「あれだよ、結月静流と」
でも、わがままを受け入れていたのはそこまでだった。
「あたしをお父様に押し付けてあのクソ女と出かけるとかぁ!!」
「さっきまでの物分かりのいい発言はどこにいった!」
今更ではあるが、雛樹は己の失言に気づいていた。
そう、ガーネットはなぜか結月静流をひどく嫌悪している節があるのだ。
考えてみれば、自分が嫌悪している人間と出掛けられるのは嫌なものだろう。
「やだぁ、アルマ検査行かなぁい!!」
「いや、いつかは行かないといけないから……」
「しどぉがついてくるないくぅ。ついてこないなら行かなぁい。あのクソ女と出かけるならビンタぁ」
そこから幾らかの攻防……というか、雛樹が防ぎ続け、様々な条件やらを取り付けてなんとか許され、静流との外出を許可された。
当日、検査に預けるために拘束衣をしっかりと着用したガーネットをバイクの後ろに乗せ、企業連本部へ向かった。
そのステイシス格納施設の前で、檻である金属球を準備した防護服姿の検査員達が待機していた。
拘束衣が正しく起動しており、ガーネットの腕はきっちり後ろに回っており、ある程度の体の自由が奪われていたので、その姿を不憫に思わなくはなかったが。
「検査が終わったら迎えに来るからな」
「絶対よぉ?」
「ああ」
そういって背を向け、静流の屋敷に向かおうとしたのだが、何かに足を絡め取られて思いっきり前のめりに転けてしまった。
「ばいばぁい」
「ばいばいって……お前……!!」
防護服を着た検査員達があたふたしている。ガーネットがその白い髪を赤く光る物質化光を紐状に伸ばし雛樹の足をからめとっていたからだ。
ばいばいする気ないなこいつとげんなりした雛樹だったが、同時にガーネットの可愛げに吹き出してしまった。
「すまないね、祠堂君。ステイシスを送ってもらって」
「高部さん」
「あ、お父様ぁ」
そんな折だった。高部総一郎がわざわざ降りてきて、雛樹に声をかけたのは。
「離したまえ、ステイシス」
「はぁい……」
高部の言葉を聞いて、ようやく雛樹を解放したガーネットだったがやはり不満はありそうだ。
「じゃあ俺はこれで。また迎えに来ますんで」
「うむ、待っているよ」
そう言って去ろうとした雛樹ではあったが、数歩進んだところで振り向いて……。
「ああ、どんな検査をするか知りませんが、あまり変なことはしないでやってください」
「ふふ……わかった。そこは約束しよう」
「……しどぉ」
……——。
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