ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第3節7部—粒子砲射出—

《ゴフェル3、どうした》
《ゴフェル2からの応答がありません》
《緊張でもしているのか? もう一度回線をつなげてみろ。それでも応答しなければ直接確認する》

 ステイシスが参列したことで、再びパレードは動き出した。ゆっくりと、しかし確実に。

 その動きは第三区画にも表れていたのだが……。ある地点で詰まってしまい動けなくなっていたのだ。
 ある兵器が停止したまま動かなくなり、後続が進めない。

 そのある兵器は……不正アクセスのあった、ガンドックファクトリーの粒子砲。

「ああ? なんだあそこ、止まってんのか。なにやってんだガンドックの奴ら……」
「あァ……、伊庭少尉。他の警備兵共に連絡取れ。いますぐ避難誘導しねェと死人が出る」

 第三区画で警備に当たっていたGNC所属兵士、RBが異変に気付き粒子砲の方へ歩いていく。その背中に伊庭は言葉を投げかけた。

「オイ、どういうことだよ! この盛りの中避難勧告を出せってのか!? それこそ無茶だろ!!」
「ッハ、なら別に避難なんざしなくていいぜ。とにかく散ってもらやァ屍体袋の数が減る」

 その言葉の後にとったRBの行動は、常軌を逸していた。
 腰のホルスターに差された、おおよそ歩兵が扱える大きさの口径ではないリボルバーを抜き放ち、空に向け間髪入れずに発砲したのだ。

 この喧騒を裂く程の銃声が、第3区画中央に響く。先ほどまで騒がしかった観客たちが一斉に黙り込み、その後どよめき始める。

《あー……、今すぐ第三区画から外へ避難してください。ある兵器の異常が見つかり、暴発の恐れがあります。いますぐ第三区画から外へ避難してください》

 気を利かせた伊庭が、そのどよめきの間を縫って放送を入れたのだ。先ほどまでの騒ぎの中では効果が薄かったであろう警告も、あの銃声の後では説得力を増させる。
 そこから天地がひっくり返ったかのような様相を呈す。
 ひしめき合っていた観客たちが一斉に踵を返し、第三区画から離れようとしたために、混乱が生じたのだ。

「避難ってなんだ!? どの兵器が暴発する!?」
「嘘だろ、あんなバカでかいのが暴発するなんて!」
「今の声、 GNCの伊庭少尉よ! ふざけてこんなこと言うはずないわ!」

 GNC所属、そしてウィンバックアブソリューター乗りとしても人気の高い伊庭の声は、民衆にとって信用に足るものである。ろくに整理もされていない避難行動でごった返し始めた時……。

「うあー、やべーぞこれ。どうすんだめちゃくちゃじゃねーか」
「あんたはあのオモチャの出撃許可降ろした後、避難誘導手伝ってやんな。……気づくのが遅かったぜ、粒子の収束が終わってやがる。こりゃ間に合わねェな」

 RB、そして伊庭は中央で止まり続ける粒子砲が稼働していることに気付いたのだ。すぐさまそれに対する手を打ったが……。

 青い粒子を放ち始め、砲身を高速で回転させ始めたその兵器から青く輝く一筋の光が、とてつもない衝撃と共に放たれた。

「なんだ!?」

 その衝撃に気づいた雛樹が声を上げた。痛みに耐えている男は、息も絶え絶えに嘲笑混じりの言葉を発す。

「……はは、始まったな。言ったろう、お前には止められんと」
「何が始まった!?」
「教えると思うか……だがまあ、俺も、ここまでだ」

 どこか楽になったような、解放されたような清々しい声でそんなことを言う男に、雛樹は悪寒を覚えた。

《粒子砲の射出を確認したわ!》
「撃たれたのか!? 被害は!」
《パレードを直接狙ってのものではなかったの。観客に被害はなかったけど——……。嘘、まずいわ。いますぐそこから離れて!!》
「今すぐ!? ここ8階だぞ」
《粒子砲の砲口がそっちを向いてるの!!》

 通信の言葉に雛樹は納得した。なぜ男がどこか諦めたような態度になったのか。

「ここの座標を指示したのか……!?」
「俺たちはここで終わりだ。捕らえられるわけにはいかん……逃げれられるものなら逃げてみろ、数秒後、ここは消し飛ぶぞ」
「……!!」

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