ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第3節8部—向けられた矛先—

 インカムを通して葉月が何かを叫んでいるが、答えている余裕はない。嘲笑する目の前の男を強烈な肘打ちを顎に見舞って黙らせた後、右手に持っていたハンドガンを小さく投げて左手へ。
 後方に置いてきたライフルに向けてアンカーを放ちつつ、反動を抑制するため右腕にガバメントを構えた左手を押し付けつつ、窓に向かって数発乱射した。

 45口径の弾丸はガラスに穴を開けヒビを入れ、窓は格段に強度を下げていった。

 そのまま、少し下がり助走をつけながら……ライフルを絡め取って戻ってきたアンカーを収納。ライフルを背負い直しながら、ヒビが入りもろくなった窓をためらいなく突き破って外へ。

 この前も、泥棒に入った本土の軍施設から飛び降りたが、高さはその比ではない。突き破って舞い散るガラス片と共に、はるか下の世界を捉えた。

「あれか……!!」

 こちらへ寸分たがわず大口を開けている粒子砲。砲口には目を刺すような青い閃光が渦巻いており、今にも射出されそうだ。
 先ほどまで盛り上がっていた観客は混乱し、皆バラバラに逃げてごった返している。

「届いてくれ!!」

 慣性に従い空を進んでいたが、やがて重力により高度を落としていく。ジャケットの右袖をまくり、アンカー射出装置を露出させてから、射出の際の出力を最大まで上げていく。そして前方、セントラルストリートを挟んで向かい側のビル壁面へと放った。

 アンカーガンの後方から熱を持った蒸気が吹き出したかと思うと、空中にある体がノックバックするほどの威力を持って、アンカーが飛んで行く。

 直後、淡く光を放つ青い空間が雛樹を飲み込んだ。粒子砲が、射出直前に解放する、収束したフォトンノイド粒子の一部。それがまるで射線を示すかのようにここまで伸びてきたのだ。

 青い粒子、これを浴びるたびに気分が悪くなる。ひどいめまいと吐き気、頭痛。しかし……アンカーは壁面を捉えていた。

《クソ。粒子砲第二射解放!! 二射目を撃たれたぞ、早くなんとかしろ!! 破壊でもなんでもいい!!》
《被害状況は!!》
《一射目によりセントラルゲートの一部が崩壊、そしてゲートの防衛に当たっていた防衛部隊の半数が消失!! 近海に展開していたドミネーター群が侵入してくる可能性があります!!》
《二射目はどうなった!?》
《アイゼンロック社、第二オフィスビルの4階部分から上を撃ち抜き消失させました!! 被害は不明! 被害は不明です!!》
《二射目の狙いが不自然過ぎる……。コントロールがうまくいっていないのか。とにかく早く止めるんだ!》

 企業連警備本部すら、混乱の渦へ落とし込まれていた。方舟の中央玄関であるセントラルゲート粒子砲の一撃により破壊され、方舟近くの海に潜んでいたドミネーターの意識が向いているというのだ。

 その侵入を阻むべく展開していた防衛部隊も、巻き込まれて大半が破壊されてしまった。
 このままでは都市部にドミネーターが侵入することになる。

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