ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節—ステイシス、拉致—

「ァァァァァッハァ!!!」

 ドミネーター、その頭上に向かう残火。大剣に内蔵された推進機関が生み出す爆発的な加速を持って落とされたその斬撃は、グレアノイドの体表を物ともせず切り裂いた。

 その刃はその怪物の頭部を割り、巨体の中程まで進んだところで離れ、再び推進力を利用して間合いを取った。
 噴き出たグレアノイド粒子を浴びないように、退避したのだ。

 あまりの衝撃ゆえか、直立したまま割られ血のように赤い粒子をだくだくと洩れ出させるドミネーターは静止していた。

Yeahイェア!! 脳天カチ割ってやったぜ。よォCrazyクレイジー!」
「やってやったぜ、クレイジー仲間」

 お互い健闘を称えあって拳を握り、たくましい腕をぶつけ合う。まるで旧知の仲、かつて共に肩を並べて戦っていたかのようなコンビネーション。
 近接戦闘でドミネーターと対するというお互いの戦闘スタイルがうまく噛み合ったのだろう。
 雛樹も、RBのテンションの高さにつられてしまったのか、清々しい笑顔であった。

「しっかし、金属をグレアノイド鉱に変換したあと、粒子生成から物質化までこなしちまうとは……新しい兵器かよ?」
「いや、これは……あまり気にしないでくれ」
「アホか! お前……こんなもん企業連に知れたらえらいことだぜ。グレアノイド粒子を操るなんて非人道的兵器……いや、テメェ自身が“そう”なのか?」
「……」

 大剣の刃にまとわりつく粒子を、何度か大きく振ることで払い、肩に担いだRBは疑惑の視線を雛樹の赤い右目に向けた。

「まぁ、なんでもいいがその赤黒目はさっさと収めときな。見なかったことにしといてやっからよ、シドー」
「う、ああ……助かる」

 赤い瞳に、黒く染まった本来白目、強膜の部分……。明らかに人のそれではないとわかっていたRBだが、苦笑いしつつそう言って背を向けたのだ。

 空にはまだ侵入してきたドミネーター群が残っている。次々と企業部隊による攻撃が行われているが、まだ沈静化しない。

 それどころか、そこら中で赤い光の矢などの攻撃が飛び、建築物、露店、道路などが破壊されている。ここまで負傷した、あるいは避難している住民の悲鳴が絶えず聞こえてきている状態だ。

 そんな中で、二人同時に通信が入る。この偶然に互いが顔を見合わせ、RBが両肩を上げ、雛樹は頭を振った。

「あ……?」
「え……?」

 その連絡は緊急を要する内容だった。二人はセントラルストリート、その第一区画側に目を向けながらその通信へ返答する。

「ステイシスが奪われただァ!!?」
「ステイシスが奪取された!?」

 RBはオペレーターから、雛樹は葉月からそのことを聞いた。とんでもなく焦った様子で話していた葉月だったが、要約すると……。

 企業連直属の護衛二脚機甲の一機が、他の二機を攻撃、無力化した後でステイシスが入った金属球檻スフィアを奪い、セントラルストリートを突っ切り破壊されたゲートへ向かっているというのだ。

「企業連のクソ共はなにやってんだ!? チィ……!! この騒ぎの目的はこれかよ……真っ直ぐ来てんなら迎え撃ってやるぜ、強盗野郎が!!」

 雛樹に背を向け、すぐにでもその強盗野郎を迎え撃とうと前進したが、雛樹の右手がRBのジャケットを捕え、止めた。

「あんだよ、シドー!?」
「終わってないみたいだ……!!」

 背後を見るように左端へ瞳を動かし、同じく後方を指す雛樹の左手親指。
 トドメを刺したと思っていたドミネーター。その裂け目から漏れ出していた粒子が収束し、割れた体を繋ぎ直していた。

 すでに体は稼働している。収束した粒子が物質化し、その矛先をこちらへ向けていた。
 戦闘体勢も整っているようだ……。

「ああ……最高だぜ」
「やばいぞ……グレアノイドでの攻撃が来る!!」

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