ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節5部—ハッチ開放カウントダウン—


 親指ほどもある弾頭が、展開されたグレアノイド粒子壁へ直撃する。弾頭は雛樹の目の前。壁を展開せずその場にとどまっていたならば、間違いなく頭を吹き飛ばされていたところだ。

 だが、直撃は防げたが衝撃までは殺せなかった。踏ん張るには頼りない足場だ。受けた反動で大きく体勢を崩す……が、踏みとどまっていられた。
 左手で展開した壁を固定し、空いた右手から打ち出したアンカーを足場に固定し、己の体を支えていたのだ。

「ヒビが……。脆いな、やっぱりダメか……」

 弾頭が直撃した部分を中心に、いくつものヒビが広範囲に走り砕けそうになっている。しかし、物質化した壁を一度粒子化、再度物質化することで再構成する。
 しかし……。

「ぐぁ!!」

 腕をぐしゃりとつぶされそうな衝撃が走り、背から抜ける。ワイヤーを持つ右手が軋み、摩擦で皮が剥けた。
 壁を再展開したそばから次弾が直撃したのだ。今度の狙いは正確ではない。頭部への狙撃が防がれたことにより焦っているのか……。

「まだか、夜刀神!! 狙撃間隔が長いとはいえこのままじゃ壁を抜かれる!!」
《あと20秒待って!》
「20……!」

 狙撃の間隔は次弾までおよそ25秒。先ほどの着弾から数秒たっているため、あと一撃は受けなければならない可能性がある。
 撃たれるのが先か、ハッチが開くのが先か……。再度防いでも、今度は衝撃で腕が折れるかもしれない。
 アンカーが外れて落ちる可能性だってある。緊張で高鳴る鼓動を抑え、両足でしっかり踏ん張っておく。

(9秒……8……7……)

葉月の宣言通りならば、このカウントの後にハッチが開くはずだ。次弾がくる気配はない。これならば……。

(3、2……1!)
《開いたわ!!》

 バシュン、と。ハッチへトルクがかかった音がした。その言葉を待っていた雛樹は壁を保持しつつも、すぐさまそこからハッチへ飛び降りたのだが。

 飛び降り、まだ足が宙を蹴る最中、保持していた壁が割られた。向かってきた弾頭が壁を抜き、雛樹の左肩を掠めた。

 衝撃で機体の背面へ叩きつけられ、視界が暗転する。アンカーを打ち込んだままにしていたため、落下はせずに宙吊りになったが……足先を、推進ブースターから出る高熱が掠めた。
 あまりの熱さに朦朧としていた頭が覚醒。暗転していた視界に光が戻った。

《どうしたの、祠堂君!? 早くハッチからコクピットへ!!》
「わ。わかってる……!!」

 ワイヤーを頼りにぶら下がったまま、体を振り子のようにして勢いをつけた。そして、遠心力に身を任せて飛び上がろうとした、直前。

 命綱になっていたワイヤーを狙撃され、断裂。

 意識を朦朧とさせていたせいで、次弾を撃つ時間を与えてしまったのだ。中途半端な勢いで飛び上がった雛樹は、とっさの判断で装甲を蹴って上がり、コクピットの縁に手をかけることに成功した。

「危なかった……! こうしてるうちにも距離が離れてるってのに、とんでもないやつがいるもんだ」

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