ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第5節10部—強制浮上—

 国籍不明の潜水艦に、ステイシスが拉致された。その報告を聞いた企業連上層部会議室は一触即発の状況に陥っていた。
 先ほどまで、都市に侵入したドミネーターに関する問題の対応に追われていたのが嘘のようだ。


「高部、ステイシスの管理は貴方に一任しているはずだが?」
「こちらの失態は認めましょう。しかし、非常事態宣言の発令が遅れたのはあなた方が渋ったからだ」
「此の期に及んで何を言うか! 高部総一郎!!」
「あまり興奮なされるとお体に障りますよ、ご老体」
「若造が……!!」

 輪っか状の机を囲むようにして、席に付いている企業連幹部十数名。そのほとんどが老齢の重鎮達なのだが、中には男女数名若い者も見える。
 彼らはこの方舟における統治者であり、最高責任者でもあり……また、法でもある。
 方舟の進むべき道を決める、約8割の権利を彼らが持っていた。

 常に冷静かつ正確な判断により方舟を動かしてきた彼らが、この惨事の中で冷静さを失っている。普段ならばいさかいをいさめる側にある幹部の一人ですら責任という名の、降りかかってくる火の粉を払おうと口調を荒くしていた。

「しかし、センチュリオンテクノロジーの特殊二脚機甲がその不埒者共を包囲しているというではないか」
「結月機から送られてくる映像をスフィアモニターへ映していただけますか」

 円卓の中央に位置している球状モニターに映し出されたのは、海中の潜水艦、その全貌だった。警告も聞かず、浮上する様子もない潜水艦だったが……。

 直後、その潜水艦後方部分の装甲が赤い光と共に弾け飛んだ。

 ブルーグラディウスから送られてくる映像が激しく揺れる。円卓に座る幹部たちは驚き、口々に何が起こったと疑問の言葉を発するが、数人は落ち着き払った様子で構えていた。

「今現在、艦内部にPMCの兵士が入り込んでいます。彼が起こしたものでしょう」
「先日入国したという本土人のことか。高部、貴様なぜRBを動かさなかった」
「彼で十分だと、判断したからです。RBには都市に侵入した小型ドミネーター殲滅の指揮を取ってもらわなければなりませんでした。パレードには各国の重鎮もお見えになられていましたので、警護に人員を割き、小型ドミネーターへの対処が遅れていましたので」

 淡々と状況に対する見解を述べていく高部を見て、何をのんきに構えているのだと苛立つ者もいれば、比較的若い幹部たちはその姿を見て頼もしさを覚え、感嘆の息を漏らしていた。

「それよりも……厄介なものが飛び出してきた」

 高部総一郎が、映像の端に移る物を見てつぶやいた。先ほどの爆発と共に、艦から押し出されたと見える人型ドミネーター。ひどく損傷しているようだが、消滅には至っていない。
 映像から見るに、再生を行っているようにも見えた。

 その厄介ごとに直面していた結月静流、そしてアインスノックノックは臨戦態勢に。

「ノックノック!! 艦から一体のドミネーターが!」
《確認しとる……。なんやあれ、見たことない人型やのお。ええわい、あれはおいがなんとかしよか。お前は艦の強制浮上の方を頼む。さっきの爆発で艦のケツが浮力を失っとる。このままやと……》
「わかりました。あれはあなたに任せます!」
《行動が早くて助かるわい》

 海中で待機していたアインスノックノックが搭乗するコバルトスケイルは、海中に投げ出されたであろうドミネーターへ接近していく。
 ブルーグラディウスは、潜水艦の下に潜り込み、装備されたムラクモを全て展開した。

「東雲准尉! 想定外の事態が発生しました。これより、目標を強制浮上させます!」
《了解。出力に気をつけて》
「わかりました」

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品