ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第3節2部ー航行開始ー

「なんだよRB。先に仕掛けてきたのはこのガキだぜ」
「伊庭ァ。あんたが祠堂に喧嘩ふっかけっからだろーが。いつまでもガキみてェなことしてんじゃねェぜ」
「……チィ」

 RBは雛樹に悪いなと一言言ったあと、今度はしゃがみ込み、フードとマフラーで顔が見えない少女の目線に合わせてから頭に手を置いてやった。
 その動作に、雛樹は少しばかり動揺したが……。

「悪ィな。悪気だらけだが根はしょうもない奴なんだ。許してやってくんな」
「おいRBテメー!」

 フードとマフラーの間。少しばかり影になっている中を覗き込むと、剣呑な赤い目がこちらを睨みつけてきていた。

(ッへ……高部の旦那、マジで預けたのか)

 RBは小さく口元を歪め、ひどい寒気を背に感じていた。彼は身を隠したこの少女のことを知っていた。全てはこの状況を作った張本人に聞いていたのだ。

「あはぁ……おにーさん、この前はどうもぉ」
「あん? なんのことかわからねェな。Hey,CrazyGuy.相棒か?」
「そうだよ。こんな姿だけど、腕はいい」
「名前は?」
「ガーネ」「がーねっとぉ」

 雛樹が言おうとした名前を、ステイシスが直接自分の口で言葉にした。少しばかり驚いた表情を浮かべた雛樹と、乾いた笑いを見せたRB。

「ガーネットか、覚とくぜ。さて、俺らはもう行くが……ちィとこの任務、匂うところがあっから気をつけろよ」
「ああ、わかった」

 そう言ってRB、伊庭は割り当てられた艦船に乗り込んでいった。残った雛樹とステイシスはというと……。

「RB軍曹を知ってるみたいだったけど」
「あの男、お父様とよく話してたからぁ」
「お父様って……高部局長のことか」
「機嫌悪いアルマを一人で止めれる珍しい男ぉ」
「機嫌……悪い?」

 今のステイシスも十分機嫌が悪そうなのだが……と、思っていた雛樹も察しはある程度ついていた。精神安定剤や鎮静剤などの投薬も頻繁に行われていたという情報もあったところから、ひどく暴れることもあったのだろう。
 人外の力を持つステイシスが暴れればどうなるかは身をもって知っている。
 それを止められるとなると……RBの腕は相当なものなのだろう。

 程なくして、雛樹とステイシスも救難信号元行きの艦船へ乗り込むことになる。
 出港した護衛部隊の艦船は、先に出ていた輸送艦隊を囲むようにして展開。約60ノットという高速航行にて、目的地を目指す。

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