ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第3節3部ー風当たりー

 雛樹の耳に装着している通信機から、コール音が鳴った。通信をつなぐと聞こえてきた夜刀神葉月の声。

《おはよう、祠堂君。調子はどう?》
「少し寝不足気味だな。ブリーフィングが終わったら仮眠室で休息を取らせてもらうつもりだ」
《そんなに時間はないわよ。この高速艦隊なら、150kmの距離なんて2時間もしないうちに走破しちゃうんだから。でも多分、先にドミネーター制圧部隊が上陸して、安全確認が済んでからだから、もっと時間はあるでしょうけれど》

 雛樹は今現在、ブリーフィングが始まる時間まで甲板に上がっていたのだが、どうも高速航行中は風が強すぎて風よけとなる壁がないところでは立っていることもままならない。
 この流線を意識した、軍艦として如何なものかと思われる形は高速航行するにおいて伊達ではなかったようだ。

 しかし速い。見る見るうちに都市がはるか後方へ点となり消えていっている。箱舟の小型艦船の性能に驚かされるばかりだ。

「そっちはどうなんだ? 同じ艦に乗ってるんだろ?」
《ええ、第二デッキのオペレータールームで情報整理中よ……。と、さっきから風切り音がひどいんだけど、もしかして外に出てるの?》
「ああ」
《高速航行中は外に出ちゃだめよ?》
「いや、中は少し居心地が悪くてさ」

 雛樹が乗っている艦には、雛樹やステイシスの他にも多数の兵士が乗艦している。今回の任務従事者だ。先日の騒ぎもあり、本土人であった雛樹に懐疑的な目を向けられたり、本土人が信用できるかなどと陰口を叩く輩もいた。
 これには流石に、見知らぬ不特定多数の人間とコミュニケーションを本土でしてこなかった雛樹にとっては痛いものだった。
 教育施設に通ったこともなく、狭いコミュニティの中でしか生きてこなかった雛樹はどうも、こう言った場は苦手なようだ。
 知らぬ人間から、こちらへ向けられてはいるが反応を求めてはいない、一方通行な言葉への対処方法がわからなかったのだ。

 それに何より、随分とその鬱屈した環境がステイシスの機嫌を傾かせたらしい。先ほどから何も話さず時折、“イラつくぅ”とだけ口にしていた。

《ごめんなさい。祠堂君には嫌な思いをさせてしまうかもしれないわね》
「いや……いいんだ。別に」
《……。でも、地道に依頼をこなしていけばいつかは認められるわ。そんな陰口を叩かれることもなくなる》
「悪い、もう少し潮風に当たっておくことにする」
《……わかったわ。切るわね》

 そうして通信を切り、雛樹は黙り込んでいるステイシスへ視線を落とした。

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