ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4部26部ー救世主エースパイロットー

 走馬灯……など駆け巡らせている場合ではない。この腕の中にいる少女を、巻き込ませて死なせるわけにはいかない。
 雛樹の瞳が赤みを帯び、この状況を打破するためのなにかを、しようとした。

 だが、行動を起こす前に稲妻のような一撃が目の前に落ちてきた。
 そしてそれは金属装甲をも割くブレードを中程から叩き折ったのだ。

 アンタレスに乗る伊庭は戦慄した。その青い光を放つ一撃を受けた時点で時間切れが宣告されたようなものだった。

 この目の前のオンボロを仕留めるのに、時間をかけすぎていたのだ。

「ちっ……結月さん。もうきたのかよ」
《ヤマト民間軍事会社へ登録された機体搭乗者へ警告します。今すぐ全システムを停止させ、投降しなさい》

 伊庭のコクピット内に響く結月静流の声。それは、確かな怒りを含んだ物言いだった。

《大丈夫ですか!? ヒナキっ》
「ああ……問題ない。ちょっと足が折れてて脱水症状の兆候が見られる以外は……」
「あっは、いいタイミングぅ」
《一体何がどうなってるんですか》

 救出活動を終えたであろうブルーグラディウスがそこにいた。おそらく、いつまでたっても戻ってこない雛樹を探しに来たのだろう。
 ブレードをへし折ったブルーグラディウスの兵装、ムラクモを格納しながら暴走したと思われるヤマト民間軍事会社所属機、アンタレスへとカメラを向けた。
 と、同時にアンタレスのスラスターが噴かされる。凄まじい勢いで後退して行ったのだ。

「なっ……!?」

 雛樹に気を向けすぎていた。驚きの声を上げた静流だったが、すぐさまブルーグラディウスで追跡した。
 もちろん、すぐに追いついたのだが、しばらく行った場所で静止したアンタレスのハッチは開け放たれ、コクピットはもぬけの殻。

 搭乗者に逃げられた。
 しかし、その搭乗者を雛樹は知っていると言う。どうしてもそれをすぐに聞きたかったのだが、静流は雛樹の救出を優先したのだった。


……——。

「お、お互い大変だったわね。祠堂君……」
「俺はともかく、よく無事だったな。夜刀神」
「しずるんが来てくれなかったら、今頃ひっくり返った艦ごと海の底よ」

 グレアノイド体の粒子砲、その攻撃から被害を受けた艦に乗っていた夜刀神葉月は傾き沈み始めた艦内から脱出することができなかった。

 しかし、救出に駆けつけたブルーグラディウスが沈みかけた艦を持ち上げ、浜へ運んだため沈没を免れたのだ。

「でも、まさか高部さんが機体を送ってきてくれるなんてね……」
「でも早速ズタボロだ。悪い」
「ええ見たわ。うん……言いたいことは山ほどあるけど……」

 生き残った護衛艦内、医務室のベッドの上で上半身を起こした雛樹の太ももの間。
 その小さなお尻を挟み込み、こじんまりと収まったガーネットが先ほどから頭をずっと雛樹に撫でられていた。

「んひひ、ねーぇ、これほんとすっごくいい。ね、もっと撫でていいのよぉ?」
「さっきからずっと撫でてるだろ……」

 事の発端は、今回の活躍を褒めた雛樹がガーネットの頭を撫でたところからだ。
 頭を撫でられるということ自体が初めてだったガーネットは、やたらとその行為を気に入ってしまい、かれこれ30分は撫でられ続けていた。

「仲がいいのは結構ですが。ヒナキ、事の詳細を教えてくれませんか?」
「あ! しずるんッ」
「葉月、じゃれつくのは後にしてください」

 島中のグレアノイド体をブルーグラディウスと行動可能な二脚機甲とで駆逐し終わったパイロットたちが戻ってきた。
 結月静流はパイロットスーツを脱ぎもせず、その上から軍服の上着を羽織る形で急いで雛樹の元へ駆けつけたようだ。

 疲れからか、少しばかり息を切らし、雛樹に撫でられているガーネットを睨みながら葉月をあしらった。

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