ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節16部ー弱小PMCの機体ー

……——。

 結月静流は戦慄した。凄まじい破壊力を持つグレアノイド粒子砲を形成する、山頂から現れたグレアノイド体はどれだけ破壊してもとんでもない速さで再生する。
 そのたびに、一撃、また一撃と粒子砲を放たれ、なんとかブルーグラディウスの攻撃、防壁で地上にいる部隊に直撃しないよう逸らすことができていたのだが……。

「……フォトンノイド保有率25パーセント……。これ以上は反重力炉の稼働に支障が出ます。もう防げない……!!」

 粒子砲を逸らすための大規模な攻撃、防御を行う度にとんでもない量のフォトンノイド粒子を放出してしまう。そのため、機体の原動力からの供給が間に合わず、これ以上使うと機体が浮力を保てなくなり墜落してしまうのだ。

「この機体を盾にすれば1射くらいはどうにか……」

 いや、身を呈して防げたとして、次はどうする。それだけではみなが撤退する時間すら稼げないかもしれない。
 手詰まりだ。そう思わされようといた時、レーダーに不審なものが映り込んだ。
 反応ははるか頭上。そこから、とんでもない速度で何かが落下してきている。まるで隕石のように。

 ブルーグラディウスは頭を上げて、その落下物に視点を合わせてズームする。それは円筒形のコンテナ……のようなものだった。

「あれは……マスドライバー射出用コンテナ?」

 マスドライバーとは、物資輸送用の設備である。簡単に言えば、ものをとんでもない速度で上空に放り投げ、ミサイルよろしく、届けたい場所に荷物を着地させる。

 だが、それには受け止めるための施設が必要なのだ。あの島にはマスドライバーから射出された荷物を受ける施設などない。
 ブルーグラディウスのシステムは、すぐさまあのコンテナの挙動、速度から予想着地点をたたき出した。

「……あのグレアノイド体、直上ッ?」

 モニターに映し出された、落下コンテナの放物線はあの山頂に向かっていた。
 すでに粒子砲を構えたグレアノイド体の真上に落ちるのだ。
 とんでもない質量を持った、コンテナが。

 直後、コンテナはグレアノイド体の真上から少し角度をつけて落下し、その質量を持ってグレアノイド体を粉砕しながら山の中へ消えていってしまった。

 派手に破壊されたグレアノイド体が島全体に飛び散るほどの衝撃。だが、それでも再生を始めているところを見ると、本格的に余裕がなくなってきた。

 だが、その再生を始めている下では抉り込んだコンテナが、山の中の施設……それも、雛樹のいる区画にたどり着いていた。
 その区画の天井から突き出るかたちで突然現れたそのコンテナに驚いていると、すぐさま通信で高部が呼びかけてきた。


《君の機体を格納したコンテナが今到着した筈だ。確認できるかい?》
「はるか頭上にですが、コンテナらしきものが突き出ているのは」
《やはりその施設の外郭を突破することは叶わなかったか。すまない、今からそのコンテナの底を解放する。安全な場所に移動してくれないか?》
「わかりました」

 言われるがままに、雛樹はコンテナの真下から少し離れた場所に移動した。すると、そのコンテナの底がゆっくりと開き、何かがせり出してきた。何かの脚部を視認したと思うと、その何かが地面めがけて落下してきた。

 それは、静流が乗っているような二脚機甲だったのだが……どこかで見たことがある。
 えらくごてごてとした兵器が右肩部から腕にかけて装備されている以外は、あの時……夜刀神PMCの事務所地下で見た、グレアノイド寝食を受けた機体そのものだ。

 落下の衝撃のせいか、脚部から火花が散っている。

《すまない、その機体は特殊でね、替えのサスペンションの開発が間に合わなかったんだ》
「……いや、替えとかなにより……俺にこれを扱えと?」
《そうだ。不完全ではあるがそれは君の機体だからな》
「一度も乗ったことないです無理です」

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