最強は絶対、弓矢だろ!
黄金の乙女と弓使いの出会い
襲撃の単語を聞き俺は――俺たちは目を伏せた。ここでその単語が出たということは、ハニーとディースもされたのだ。
「魔物か?」
「んー?いや、儂らは人間じゃよ〜?そっちは魔物だったのかえ?…………そういえば、魔物が現れたどうのと騒がしかった気はするんだがのぉ……」
「まあ、そういうこった」
それから情報交換を暫く……ハニーは雇われたと思われる悪漢五人に襲われたらしいが、全員電撃魔法とやらでビリビリにしてやったという。ディースも同じような感じだったらしいが、ディースの方は一人だけだったらしい。
「ふむ……とても扇情的で艶かしい女の暗殺者であったな!」
とのこと。
まあ、不意打ちされてもディースの鋼の肉体にダメージを与えられるような攻撃ができる奴なんて限られている。このメンツの中でも、俺やレシアくらいなものだ。ハニーに関しては、また分からないことも多いから知らないが……。と、俺はそんなことより気になったことがあったためにディースをちょいちょいと手招きし、耳元でヒソヒソと尋ねた。
「可愛かった?」
「…………バインバインであるなぁ」
「マジかよ……それで?」
「…………ポヨンポヨンであるなぁ」
「おいおい……本当か?」
「…………ブリップリッであるなぁ」
「「…………」」
「「っ!」」
俺とディースは半眼でこちらを見ている女性陣の視線に気が付き、サッと離れて口笛を吹いた。まるでゴミを見るような目に耐えかね、俺は話題を逸らそうと咳をした。
「ゲフンゲフン……うしっ!んじゃまあ、襲われた件は一先ずこれでいいだろ」
「…………そうですね」
レシアは俺を変わらず半眼で眺めながらそう言い、続けた。
「お嬢様にこの件を……」
「いや、言わないでいいと思われるな!」
と、思わぬ声に遮られてレシアがその声の主を見た。声の主はディースだった。今まで、あまりこういう話に割って入らなかったディースがだ。大抵は、独特の高笑いで我関せずなディースだというのにだ。
その衝撃が強かったか、あのレシアがしどろもどろになりながら理由も聞かずに頷いた。
「は、はい……?」
「うむ。それがいいぞ……ガッハッハッハッ!」
そうやってディースは、いつもと同じ高笑いをした。俺はそんなディースの脇腹を肘で突くと、簡潔に訊いた。
「……どういう風の吹き回しだよ」
「む?別に……我輩が言わなくとも、ロア殿はそう言ったと思うがね。手間が省けたと思えばいいと思うぞ!ガッハッハッハッ!」
「あ、あぁ……そうか」
と、俺は何となく話を反らされそうになって頭を振って立て直す。いやいや、違うだろ……。
「そういうことを聞きてぇわけじゃあねぇぞ……何の意図があったんだって訊いてんだ」
少し凄むと、さすがよディースもバツが悪そうに唇を尖らせて唸った。
「むぅ……」
だが、最終的にディースは何も答えはしなかった。そして俺もまた……嘆息するだけで、追求もしない。なぜなら、それ以上踏み込むことは俺もディースも避けたかったからだ。
☆☆☆
「お待ちしておりました」
「「「「…………」」」」
そう言ってお城の門の前には一人の老人が立っていた。初老の男で、つい先日会ったばかりの時とは違って服装は黒い執事服となっていた。
アルファス……俺は心の中でそう呟き、口の端を吊り上げて不敵に笑った。
「アルファスじゃあねぇか……出迎えってわけじゃねぇんだろ?」
俺の手が自然と腰の矢筒へと伸ばされたのを、アルファスが視線で止めた。
「いえ、戦いにきたわけではございません……。ロア・キース様、第一王子殿下――ハンニバル様が会いたいと思い仰っています」
☆☆☆
俺はエルフィア達と合流する三人とは別で、アルファスの後を付いて第一王子であるハンニバルのところへ向かっていた。
ハンニバルは王族が住まう王宮で執務を行なっているとのこと。この国を継ぐための勉強と、実際の運営を既にやっているらしい。それに並行して伝説の武器を集め……それも5個収集しているというのだから感嘆の息が漏れる。
「で、まだなのか?」
「もう暫しお待ちを」
俺はテレテレ螺旋階段の如き段差をアルファスの後ろについて歩いているわけだが、しっかし長い。言う通り暫く大人しく歩いてるいると会談が終わり、今度は長い廊下が続いた。さらに廊下をダラダラと歩いてようやくある扉の前で止まった。
コンコン
『入るがいい』
重くのしかかる圧力を混じる声音なのに、どこか透き通った声が扉越しに聴こえるとアルファスは礼をしてドアノブを回した。
それについていくと、部屋中にはエルフィアとは似ても似つかない色の髪をした男がいた。言うなれば、その髪色はエメラルドだった。エメラルドグリーンの単発で、瞳は黒。その黒に光はなく、この世全てを見通しているかのような瞳だと俺は思った。
「失礼します……ハンニバル様。こちらがロア・キース殿です」
「「…………」」
そう紹介され、俺はアルファスよりも前に出る。それに警戒してか、いるかいないか分からないような護衛がハンニバルの後ろから殺気を放ってくる。それを鬱陶しく思った俺が殺気を殺気で返すと、そいつは怯んだ。
「……よせ。貴様では足元も及ばんわ」
「し、しかし殿下……」
「よせ……と、言ったはずだが?」
「はっ……」
ハンニバルが制したことでよくやく俺の自己紹介ができる雰囲気になった。なので、俺は胸を張り、敬意もへったくれもない態度で述べた。
「俺様はロア・キース!世界最強の武器たる弓矢を使ってる。まあ、よろしくさん」
 
試しに握手を求めるように手を出すと、護衛にその手を弾かれそうになった。しかし、護衛の手が俺の手を弾く前にハンニバルは俺と握手した。それで護衛のやつはそれを払うことも出来ず、結局は行方を失った手はダラリと垂れるのだった。
ハンニバルは俺の手を取ると、こう言った。
「ふんっ……なるほどな。十数年間ほど弓を扱い、それほどまでに成長したか……。ふははっ!アルファスに比べれば時間は短いものだが……貴様が研鑽し、磨いてきたものはアルファスを凌駕しているように見える」
ハンニバルは俺の手に触れただけで全て寒波した化のようにツラツラと言い連ねる。俺は面白そうにそれを聞く姿勢をとった。
「ふむ……どうだ?貴様、我が派閥に加わらないか?そこなアルファスは老いぼれだ。何れは老いて隠居する身だ。アルファスの後継として、このオレに仕えよ。ロア・キースよ」
「…………」
ふと、アルファスを見るとどこか物悲しそうだった。アルファスはたしかに老いている。それを差し引いても、彼の弓の腕は超一流だ。この俺が断言する。
だから俺は、首を横に振った。
「まあ、はやくジジィに隠居させてやりてぇのは分かるけどな。だが、断る」
「ほう?エルフィアの方がいいと申すか」
「別に……俺は俺の信念を持って行動してるだけだ。派閥だなんだは関係ねぇよ」
「なるほどな……まあ、よい。気が変わったら声をかけるがいい」
「お?お、おう?」
意外にもアッサリだったため、俺はなんだか拍子抜けしてしまった。当のハンニバルはさして興味も無さそうに、会話をしながら書類を片付けている。
「ふむ……まあ、その時まで待つのも一興よ。一応、我が派閥の精鋭を紹介するとしよう。出でよ」
ハンニバルはそう言ってパンパンッと手を叩いた。すると、ハンニバルの前にサッと五人ほど現れた。それも一瞬でだ……ちなみに、そのうちの二人はアルファスと、さっきのよく分からない護衛だった。
「こやつらが我が精鋭達……知っての通り、この国随一の弓使いたるアルファスだ」
「宜しくお願いします」
「そして先ほどから貴様に噛み付こうと必死な犬の如き我が護衛は、この国で屈指の武闘家であるアンソンだ」
「ガルルルルッ!アンソン・ホーキースだ!ガルルルルッ!」
アンソン・ホーキース……あまり覚えるつもりはないが、この国の屈指の武闘家というのなら覚えておこう。だが、さっきの手合いでアンソンが俺よりも格下なのは十分に分かったために割とどうでもよかった。
アンソンはなるほど、本当に犬のような奴で茶色の髪が犬の耳のように垂れていた。たしかに犬だ。全体的にほっそりとした体躯だが、まるでギュと濃縮された筋肉をしているのが服の上からでも理解できる。見た目じゃ、武闘家と言われても理解できないだろう。
「そしてこやつが、俺の秘書でもあるユーフィミア・ハーミルだ」
「……宜しくお願い致します」
ユーフィミアは男装の麗人だった。おそらく、こいつも見ただけでは男と間違えてしまうほどの美少年といった感じだが、艶やかで短く切り揃えられた黒髪や女性的な腰回りをよく見れば女だと気付く。黒の執事服に身を包む彼女は高価な眼鏡を掛けており、その瞳はキリッとしていた。
「続いて、オレの専属魔法使いにして、我が国の魔法研究の第一人者……ウラヌス・ヴィヴィーだ」
「…………」
ウラヌスは魔法使いのローブに身を包み、フードを目深く被っていたためによく分からなかった。だが、何となく仕草から女っぽいと思った。
「そして最後に……」
と、俺はハンニバルの言葉に続くようにして視線を横へズラす。視線の先には黄金の重鎧に身を包んだ、黄金の長髪を靡かせる――まるで、黄金郷に咲く一輪の薔薇の如き神々しさを持った美しき女性が俺を見て立っていた。
「最後に……我が派閥のエースにして世界屈指の実力を持つ剣士。アイリス・ブレーメン――」
「…………御機嫌よう」
「――ッ」
花が咲き乱れるような声音に、俺は不覚にもたじろいだ。本能的に恐怖を煽るような目を、ハンニバルの深淵のような瞳と違い……黄金のみで塗りたくられたような瞳をしていた。
 
そらは淀みなく、一片の欠片も隙間もなく、澄んでいて、恐ろしい……。
だが……俺も男だ。女に負けては話にならない。なにせ俺は、世界最強の弓使いを目指しているのだから。
 
スッと俺が目を細めると、アイリスとハンニバル……それにアルファス以外の三人が臨戦態勢に入った。が、今度はそれをアルファスが止めた。
「おやめなさい……殿下の御前で恥を晒すのはおよしなさい」
辛辣なアルファスの言葉に、犬のアンソンと秘書のユーフィミア、魔法使いのウラヌスがションボリとするが俺への警戒は怠らない。まあ、俺はそれを気にもとめずに言うだけだが……。
「俺はまあ言うまでもねぇけど一応……ロア・キースだ。世界最強の弓使いだ」
どこまでもニヒル笑みを濃く浮かべて言う。すると、ピクリとアルファス、ハンニバルの肩が震えた。それを見てか、そうでないかは知らないが……黄金郷の薔薇が如きアイリスは何が面白いのか笑った。それも上品な大笑いだった。
ふふ……ふふふ…………。
クスクスと笑う彼女に全員の視線が向くと、その視線に答えるように彼女は美しい唇を開いた。
「ふふ……いえ、ごめんなさいね?ロア・キースさん……ロアさんでいいかしら?」
「別に、普通にロアで構わねぇけど?」
「じゃあ、ロアって呼ばせて貰うわね〜。わたくしのことは、アイリスと」
「おう、アイリス」
アイリスは俺の返答に再びクスクスと笑ってから続けた。
「くす……だって、みなさんロアの剣気――この場合は弓気になるのかしらね。とにかく、そういう気迫に押されて逃げ腰なんですもの。それが可笑しくて……水を差すようでごめんなさいね?」
アイリスが言うと、ハンニバルやアルファスも含めて全員の顔が赤くなった。
それと同時に何となく理解した。いや、初めて見た時から分かっていた。俺の直感が教えてくれていたはずだった。この場において、最も危険な人物は誰よりもこのアイリスという女だということを。
「魔物か?」
「んー?いや、儂らは人間じゃよ〜?そっちは魔物だったのかえ?…………そういえば、魔物が現れたどうのと騒がしかった気はするんだがのぉ……」
「まあ、そういうこった」
それから情報交換を暫く……ハニーは雇われたと思われる悪漢五人に襲われたらしいが、全員電撃魔法とやらでビリビリにしてやったという。ディースも同じような感じだったらしいが、ディースの方は一人だけだったらしい。
「ふむ……とても扇情的で艶かしい女の暗殺者であったな!」
とのこと。
まあ、不意打ちされてもディースの鋼の肉体にダメージを与えられるような攻撃ができる奴なんて限られている。このメンツの中でも、俺やレシアくらいなものだ。ハニーに関しては、また分からないことも多いから知らないが……。と、俺はそんなことより気になったことがあったためにディースをちょいちょいと手招きし、耳元でヒソヒソと尋ねた。
「可愛かった?」
「…………バインバインであるなぁ」
「マジかよ……それで?」
「…………ポヨンポヨンであるなぁ」
「おいおい……本当か?」
「…………ブリップリッであるなぁ」
「「…………」」
「「っ!」」
俺とディースは半眼でこちらを見ている女性陣の視線に気が付き、サッと離れて口笛を吹いた。まるでゴミを見るような目に耐えかね、俺は話題を逸らそうと咳をした。
「ゲフンゲフン……うしっ!んじゃまあ、襲われた件は一先ずこれでいいだろ」
「…………そうですね」
レシアは俺を変わらず半眼で眺めながらそう言い、続けた。
「お嬢様にこの件を……」
「いや、言わないでいいと思われるな!」
と、思わぬ声に遮られてレシアがその声の主を見た。声の主はディースだった。今まで、あまりこういう話に割って入らなかったディースがだ。大抵は、独特の高笑いで我関せずなディースだというのにだ。
その衝撃が強かったか、あのレシアがしどろもどろになりながら理由も聞かずに頷いた。
「は、はい……?」
「うむ。それがいいぞ……ガッハッハッハッ!」
そうやってディースは、いつもと同じ高笑いをした。俺はそんなディースの脇腹を肘で突くと、簡潔に訊いた。
「……どういう風の吹き回しだよ」
「む?別に……我輩が言わなくとも、ロア殿はそう言ったと思うがね。手間が省けたと思えばいいと思うぞ!ガッハッハッハッ!」
「あ、あぁ……そうか」
と、俺は何となく話を反らされそうになって頭を振って立て直す。いやいや、違うだろ……。
「そういうことを聞きてぇわけじゃあねぇぞ……何の意図があったんだって訊いてんだ」
少し凄むと、さすがよディースもバツが悪そうに唇を尖らせて唸った。
「むぅ……」
だが、最終的にディースは何も答えはしなかった。そして俺もまた……嘆息するだけで、追求もしない。なぜなら、それ以上踏み込むことは俺もディースも避けたかったからだ。
☆☆☆
「お待ちしておりました」
「「「「…………」」」」
そう言ってお城の門の前には一人の老人が立っていた。初老の男で、つい先日会ったばかりの時とは違って服装は黒い執事服となっていた。
アルファス……俺は心の中でそう呟き、口の端を吊り上げて不敵に笑った。
「アルファスじゃあねぇか……出迎えってわけじゃねぇんだろ?」
俺の手が自然と腰の矢筒へと伸ばされたのを、アルファスが視線で止めた。
「いえ、戦いにきたわけではございません……。ロア・キース様、第一王子殿下――ハンニバル様が会いたいと思い仰っています」
☆☆☆
俺はエルフィア達と合流する三人とは別で、アルファスの後を付いて第一王子であるハンニバルのところへ向かっていた。
ハンニバルは王族が住まう王宮で執務を行なっているとのこと。この国を継ぐための勉強と、実際の運営を既にやっているらしい。それに並行して伝説の武器を集め……それも5個収集しているというのだから感嘆の息が漏れる。
「で、まだなのか?」
「もう暫しお待ちを」
俺はテレテレ螺旋階段の如き段差をアルファスの後ろについて歩いているわけだが、しっかし長い。言う通り暫く大人しく歩いてるいると会談が終わり、今度は長い廊下が続いた。さらに廊下をダラダラと歩いてようやくある扉の前で止まった。
コンコン
『入るがいい』
重くのしかかる圧力を混じる声音なのに、どこか透き通った声が扉越しに聴こえるとアルファスは礼をしてドアノブを回した。
それについていくと、部屋中にはエルフィアとは似ても似つかない色の髪をした男がいた。言うなれば、その髪色はエメラルドだった。エメラルドグリーンの単発で、瞳は黒。その黒に光はなく、この世全てを見通しているかのような瞳だと俺は思った。
「失礼します……ハンニバル様。こちらがロア・キース殿です」
「「…………」」
そう紹介され、俺はアルファスよりも前に出る。それに警戒してか、いるかいないか分からないような護衛がハンニバルの後ろから殺気を放ってくる。それを鬱陶しく思った俺が殺気を殺気で返すと、そいつは怯んだ。
「……よせ。貴様では足元も及ばんわ」
「し、しかし殿下……」
「よせ……と、言ったはずだが?」
「はっ……」
ハンニバルが制したことでよくやく俺の自己紹介ができる雰囲気になった。なので、俺は胸を張り、敬意もへったくれもない態度で述べた。
「俺様はロア・キース!世界最強の武器たる弓矢を使ってる。まあ、よろしくさん」
 
試しに握手を求めるように手を出すと、護衛にその手を弾かれそうになった。しかし、護衛の手が俺の手を弾く前にハンニバルは俺と握手した。それで護衛のやつはそれを払うことも出来ず、結局は行方を失った手はダラリと垂れるのだった。
ハンニバルは俺の手を取ると、こう言った。
「ふんっ……なるほどな。十数年間ほど弓を扱い、それほどまでに成長したか……。ふははっ!アルファスに比べれば時間は短いものだが……貴様が研鑽し、磨いてきたものはアルファスを凌駕しているように見える」
ハンニバルは俺の手に触れただけで全て寒波した化のようにツラツラと言い連ねる。俺は面白そうにそれを聞く姿勢をとった。
「ふむ……どうだ?貴様、我が派閥に加わらないか?そこなアルファスは老いぼれだ。何れは老いて隠居する身だ。アルファスの後継として、このオレに仕えよ。ロア・キースよ」
「…………」
ふと、アルファスを見るとどこか物悲しそうだった。アルファスはたしかに老いている。それを差し引いても、彼の弓の腕は超一流だ。この俺が断言する。
だから俺は、首を横に振った。
「まあ、はやくジジィに隠居させてやりてぇのは分かるけどな。だが、断る」
「ほう?エルフィアの方がいいと申すか」
「別に……俺は俺の信念を持って行動してるだけだ。派閥だなんだは関係ねぇよ」
「なるほどな……まあ、よい。気が変わったら声をかけるがいい」
「お?お、おう?」
意外にもアッサリだったため、俺はなんだか拍子抜けしてしまった。当のハンニバルはさして興味も無さそうに、会話をしながら書類を片付けている。
「ふむ……まあ、その時まで待つのも一興よ。一応、我が派閥の精鋭を紹介するとしよう。出でよ」
ハンニバルはそう言ってパンパンッと手を叩いた。すると、ハンニバルの前にサッと五人ほど現れた。それも一瞬でだ……ちなみに、そのうちの二人はアルファスと、さっきのよく分からない護衛だった。
「こやつらが我が精鋭達……知っての通り、この国随一の弓使いたるアルファスだ」
「宜しくお願いします」
「そして先ほどから貴様に噛み付こうと必死な犬の如き我が護衛は、この国で屈指の武闘家であるアンソンだ」
「ガルルルルッ!アンソン・ホーキースだ!ガルルルルッ!」
アンソン・ホーキース……あまり覚えるつもりはないが、この国の屈指の武闘家というのなら覚えておこう。だが、さっきの手合いでアンソンが俺よりも格下なのは十分に分かったために割とどうでもよかった。
アンソンはなるほど、本当に犬のような奴で茶色の髪が犬の耳のように垂れていた。たしかに犬だ。全体的にほっそりとした体躯だが、まるでギュと濃縮された筋肉をしているのが服の上からでも理解できる。見た目じゃ、武闘家と言われても理解できないだろう。
「そしてこやつが、俺の秘書でもあるユーフィミア・ハーミルだ」
「……宜しくお願い致します」
ユーフィミアは男装の麗人だった。おそらく、こいつも見ただけでは男と間違えてしまうほどの美少年といった感じだが、艶やかで短く切り揃えられた黒髪や女性的な腰回りをよく見れば女だと気付く。黒の執事服に身を包む彼女は高価な眼鏡を掛けており、その瞳はキリッとしていた。
「続いて、オレの専属魔法使いにして、我が国の魔法研究の第一人者……ウラヌス・ヴィヴィーだ」
「…………」
ウラヌスは魔法使いのローブに身を包み、フードを目深く被っていたためによく分からなかった。だが、何となく仕草から女っぽいと思った。
「そして最後に……」
と、俺はハンニバルの言葉に続くようにして視線を横へズラす。視線の先には黄金の重鎧に身を包んだ、黄金の長髪を靡かせる――まるで、黄金郷に咲く一輪の薔薇の如き神々しさを持った美しき女性が俺を見て立っていた。
「最後に……我が派閥のエースにして世界屈指の実力を持つ剣士。アイリス・ブレーメン――」
「…………御機嫌よう」
「――ッ」
花が咲き乱れるような声音に、俺は不覚にもたじろいだ。本能的に恐怖を煽るような目を、ハンニバルの深淵のような瞳と違い……黄金のみで塗りたくられたような瞳をしていた。
 
そらは淀みなく、一片の欠片も隙間もなく、澄んでいて、恐ろしい……。
だが……俺も男だ。女に負けては話にならない。なにせ俺は、世界最強の弓使いを目指しているのだから。
 
スッと俺が目を細めると、アイリスとハンニバル……それにアルファス以外の三人が臨戦態勢に入った。が、今度はそれをアルファスが止めた。
「おやめなさい……殿下の御前で恥を晒すのはおよしなさい」
辛辣なアルファスの言葉に、犬のアンソンと秘書のユーフィミア、魔法使いのウラヌスがションボリとするが俺への警戒は怠らない。まあ、俺はそれを気にもとめずに言うだけだが……。
「俺はまあ言うまでもねぇけど一応……ロア・キースだ。世界最強の弓使いだ」
どこまでもニヒル笑みを濃く浮かべて言う。すると、ピクリとアルファス、ハンニバルの肩が震えた。それを見てか、そうでないかは知らないが……黄金郷の薔薇が如きアイリスは何が面白いのか笑った。それも上品な大笑いだった。
ふふ……ふふふ…………。
クスクスと笑う彼女に全員の視線が向くと、その視線に答えるように彼女は美しい唇を開いた。
「ふふ……いえ、ごめんなさいね?ロア・キースさん……ロアさんでいいかしら?」
「別に、普通にロアで構わねぇけど?」
「じゃあ、ロアって呼ばせて貰うわね〜。わたくしのことは、アイリスと」
「おう、アイリス」
アイリスは俺の返答に再びクスクスと笑ってから続けた。
「くす……だって、みなさんロアの剣気――この場合は弓気になるのかしらね。とにかく、そういう気迫に押されて逃げ腰なんですもの。それが可笑しくて……水を差すようでごめんなさいね?」
アイリスが言うと、ハンニバルやアルファスも含めて全員の顔が赤くなった。
それと同時に何となく理解した。いや、初めて見た時から分かっていた。俺の直感が教えてくれていたはずだった。この場において、最も危険な人物は誰よりもこのアイリスという女だということを。
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