最強は絶対、弓矢だろ!
まだ森は抜けられず、二人もまた迷走す
☆☆☆
結局その日……誰が巨象を仕留めたのかで揉めに揉めた。そのおかげで一睡もすることなく夜が明けてしまい、俺たちは昼まで眠りこけていた。全く笑えない。
エルフィアとシールは俺たちが揉めている頃に寝ていたため、朝に起きて飯を食い、顔を洗って仲睦まじく二人でイチャイチャしていたようだが。
腰やら首やら、寝違えたようでキシキシと軋む。俺は安定の最後尾にて、我らがエルフィア嬢のパーティーメンバーを眺めていた。
我らが大将エルフィア・メルファー
その御者シール・バキットン
自称天才魔法使いハニー・ハニー・ロンドスタッフ
鋼の武闘家ディース・シュトロンガー
脳筋剣士レシア・ブレーメン
で、この俺様……史上にして、絶対にして、最高にして、唯一無二の世界最強な弓使いロア・キース様。
なるほどなるほど……こうしてパーティーメンバーを見ると、中々の強者揃いだ。脳筋剣士はともかく……うんうん。あの剣士の腕前はたしかだが、所詮は剣士。あの棒切れがなければなにもできないような連中だ。
え?弓だって矢がないと何もできない……だと?
いやいやいや……そこはほら、あれだし。あれだから。あれですわー。
そんな感じに馬鹿な問答を一人で永遠と続けている俺の隣からドロッとした視線を感じた。レシアだ。レシアが半眼で俺を見ていた。俺は鬱陶しい視線に眉根を寄せ、レシアに言った。
「んだよ……」
「いえ、何か失礼なことを私に対して考えていた気配を感じたので」
「エスパーかよ」
「剣士ですが?」
うぜぇ。
思わずうへぇと顔を歪ませる。レシアはそれが不満だったのか、ムスッとして前を向くとこう口を開いた。
「…………お前、最近私への対応が雑ではないですか?」
「は……?最近?」
「訂正しましょう。最初からに」
レシアは、「あーはいはいそうだったー」という投げやりな感じで訂正する。ただ、俺としては別にザツに対応していると思ってはいない。ちょっと過剰に、辛辣に、レシアに対しては評価しているに過ぎない。
いや別に。剣士だからとかそういうの関係ないっす。えぇ、もちろん。
しかし、レシアは暫く前を向いていたかと思うと俯き……少しだけ頬を赤く染めた。まるで何か嬉しいことを思い出し、恥ずかしくなった乙女のような反応だ。
「でも……そうですね。雑というばかりでも……無かったような気はします」
「んあ?急にどうした」
「……なんでも」
レシアにしては本当に珍しく、俺の前で微笑んで内緒話を悪戯っぽく隠す子供のような表情で誤魔化す。大切なこと、大事なことは自分の中にしまい込み……。そんな子供っぽいところは、なるほどどこか愛らしさがある。
「ったく……こういうところがあるから嫌なんだ」
俺は思わずそう小さく呟いてしまった。それが聞こえたのか、レシアはムッとして言った。
「何ですか。私の何が気にくわないと?」
「いや別に、気にくわねぇとかそういう話じゃあねぇ」
そうだ。勘違いしないで欲しい。嫌というより、困るという話。そしてこれはレシアには無関係で、全て俺で完結する話である。態々教えてやる必要もない。俺がそれ以上何も言うことはないと悟ったか、レシアは諦めたように呟く。
「……そうですか。それなら、別にいいのですが」
「おうおう……」
何となくだが、レシアは機嫌が良さげに鼻歌を歌って一番前のシールとエルフィアのところまで先行していく。その様を後ろからぼーっと眺めていた折、真ん中でダラダラ歩いていたハニーと、その隣でハニーの話し相手になっていたディース達が最後尾の俺のところまで下がってきた。
「んだよ……」
眉を顰めて尋ねると、ハニーが含み笑いをしながら言った。
「随分と仲が良いのぉ〜」
「あ?」
「実際、どう思っとるのかえ?レシアのこと」
「うむ。ここは男として正直に、実直に、誠実に、答えるべきであるな!」
「…………」
俺は息を吐いた。どう思ってるのか……か。正直に、実直に述べるならば率直に言って別にというところだ。だが……まあ、少し安直に子供らしく無邪気に、何の意地もプライドもかなぐり捨てて答えるなら……まあそうだな――気になる存在といったところが、俺としてはしっくりくる。
「まあなんつーかな……ライバルとして、負けたくねぇ相手として、気になるって感じだな。あとはまあ……ほれ、あれだよあれ。普通に……女として気になる部分はある……」
俺が思ったことをそのまま包み隠さず臆さず答えてやると、意外なほどに面白くなかったのかハニーは溜息を吐いていた。
「なんじゃい……まだその程度しか進んどらんのかえ?」
「その程度ってなぁ……てめぇは何を期待してやがんだ?」
「そんなもん言うまでもないじゃろうがて〜?二人が幸せに、不幸せに、仲睦まじく、仲違いするような――そんなことを望んでおるのじゃよ」
後半……とても真面目な顔で言われたから間に受けそうになったが……言っている内容は支離滅裂である。何を言いたいのかサッパリ分からなかった。
「何が言いてぇんだ己は……」
「んん〜?分からんのかえ?」
「我輩には分かるがな……まあ、今まで通りの矛盾した関係をハニー殿は望んで期待している……ということであるな!ガッハッハッハッ!!」
「わ、分からん……」
ディースは高笑いしながら、それはもう楽しそうに……頭上にハテナを浮かべる俺へ説くように、諭すように口を開く。
「結局のところ、ロア殿はレシア殿が好きではないのかね?」
「はぁ?藪から棒になんだ?」
「どうなのかね?」
有無を言わせないような、そんな迫力すら醸し出すディースに……俺は溜息を吐いた。
「さっきも言っただろ。ちっとばかし、気になるだけだ。それ以上でも、以下でもねぇやい」
本当にそれ以外に他意はない。それが伝わったらようで、ディースは幾分か不満そうだが……まあ、そういうことならと納得したようだった。
ふと……視線を感じたと思って前を向くとニヤニヤするエルフィアと苦笑いするシール、そして頬を赤らめたレシアが俺を見ていた。
「…………」
まあ、こんだけ近くで話てたらそうなるわな。
☆☆☆
お昼まで寝ていた所為で辺りが暗くなるのが早かった。結局の今日も森を抜けられずに野宿する羽目になった。珍しく夜中の襲撃はなく、俺は時間になるまで見張り番兼火が消えないように枝を燃やす作業と、矢を作る作業に没頭していた。
わけだが……。
「で、何でてめぇは眠らねぇんだよ」
「…………」
俺が尋ねても、レシアは何も答えなかった。足を両手で抱えて地べたに座る様は、どこか芸術めいている。甲冑を外した彼女は、やはり美しいとさえ思ってしまう。
レシアはちょこんと座ったまま俺を暫く眺めると、ポツリと呟く。
「今日……私のことが気になるという話を聞いていたのです。それがどういう意味なのか気になって……眠れなかっただけです」
「気に……?そんなことが気になんのか?てめぇが?」
「はい。他ならぬお前の……いえ、ロアのことですから」
凛とした表情で、声音で俺の名前を呼んだ。いつもの突き合うような巫山戯た風ではない。それこそ、真剣に……剣士らしい彼女の言葉と言える。
俺は何となく木々の隙間から垣間見える月を見上げ、俺も呟いた。
「レシアとこうして夜に話すのも……何度目だったけかな」
「さぁ?ただ、随分と回数を重ねたような気はしますが……」
「そうか?まあ、俺もそんな気はするんだがなぁ……」
言われてみたらというか、普通にそんな気がしていた。つまりは、俺もレシアも同じことを思っていたことになる。使う武器は両極端で、思考も趣味も違うのに……信念だけは似通っているからか。全く不思議でならない。
「で……話は戻すがな、別に言った通りだ。好きだとか、そんなんじゃあねぇからな」
「ええ……そんな勘違いはしていません。していませんとも……。ただ……その、私もロアのことが気になるのです」
「……どんな風にだ?」
「ライバルとして……それに、異性として」
最後は恥ずかしかったから、プイッと俺から視線を外した。が、そんなことはどうでもよかった。はたして、レシアは一体全体俺のどんなところ見て気になるのか。それが気になって仕方がない。
「い、異性って……レシアてめぇ……。いや、つまりなんだ?」
「そのままの……意味です。別に恋愛感情があるわけではありませんが……ロアは強いですし、頭も回る。口は悪いですが、とても男性らしい態度で芯が強い。異性から好まれるようなタイプだと思いますよ?」
「そうか?そんなら、てめぇだって強いし見た目も綺麗だ。言葉遣いも割りかし丁寧だかんな。てめぇこそモテんだろーよ。実際に、ディースに求婚されてやがったしな」
「「…………」」
何を口走っているのか。俺たちにしては珍しく、お互いを褒めあってしまった。それも外面だけでなく、お互いの内面を知った今にだ。気恥ずかしくなり、俺もレシアも顔を背けてしまう。
夜は長いが、俺たちの関係はまだ短い。隣り合うように木の幹に立て掛けられた俺の弓と、レシアの剣はカタッと音を立てるとお互いに倒れないようにして寄りかかったのだった。
結局その日……誰が巨象を仕留めたのかで揉めに揉めた。そのおかげで一睡もすることなく夜が明けてしまい、俺たちは昼まで眠りこけていた。全く笑えない。
エルフィアとシールは俺たちが揉めている頃に寝ていたため、朝に起きて飯を食い、顔を洗って仲睦まじく二人でイチャイチャしていたようだが。
腰やら首やら、寝違えたようでキシキシと軋む。俺は安定の最後尾にて、我らがエルフィア嬢のパーティーメンバーを眺めていた。
我らが大将エルフィア・メルファー
その御者シール・バキットン
自称天才魔法使いハニー・ハニー・ロンドスタッフ
鋼の武闘家ディース・シュトロンガー
脳筋剣士レシア・ブレーメン
で、この俺様……史上にして、絶対にして、最高にして、唯一無二の世界最強な弓使いロア・キース様。
なるほどなるほど……こうしてパーティーメンバーを見ると、中々の強者揃いだ。脳筋剣士はともかく……うんうん。あの剣士の腕前はたしかだが、所詮は剣士。あの棒切れがなければなにもできないような連中だ。
え?弓だって矢がないと何もできない……だと?
いやいやいや……そこはほら、あれだし。あれだから。あれですわー。
そんな感じに馬鹿な問答を一人で永遠と続けている俺の隣からドロッとした視線を感じた。レシアだ。レシアが半眼で俺を見ていた。俺は鬱陶しい視線に眉根を寄せ、レシアに言った。
「んだよ……」
「いえ、何か失礼なことを私に対して考えていた気配を感じたので」
「エスパーかよ」
「剣士ですが?」
うぜぇ。
思わずうへぇと顔を歪ませる。レシアはそれが不満だったのか、ムスッとして前を向くとこう口を開いた。
「…………お前、最近私への対応が雑ではないですか?」
「は……?最近?」
「訂正しましょう。最初からに」
レシアは、「あーはいはいそうだったー」という投げやりな感じで訂正する。ただ、俺としては別にザツに対応していると思ってはいない。ちょっと過剰に、辛辣に、レシアに対しては評価しているに過ぎない。
いや別に。剣士だからとかそういうの関係ないっす。えぇ、もちろん。
しかし、レシアは暫く前を向いていたかと思うと俯き……少しだけ頬を赤く染めた。まるで何か嬉しいことを思い出し、恥ずかしくなった乙女のような反応だ。
「でも……そうですね。雑というばかりでも……無かったような気はします」
「んあ?急にどうした」
「……なんでも」
レシアにしては本当に珍しく、俺の前で微笑んで内緒話を悪戯っぽく隠す子供のような表情で誤魔化す。大切なこと、大事なことは自分の中にしまい込み……。そんな子供っぽいところは、なるほどどこか愛らしさがある。
「ったく……こういうところがあるから嫌なんだ」
俺は思わずそう小さく呟いてしまった。それが聞こえたのか、レシアはムッとして言った。
「何ですか。私の何が気にくわないと?」
「いや別に、気にくわねぇとかそういう話じゃあねぇ」
そうだ。勘違いしないで欲しい。嫌というより、困るという話。そしてこれはレシアには無関係で、全て俺で完結する話である。態々教えてやる必要もない。俺がそれ以上何も言うことはないと悟ったか、レシアは諦めたように呟く。
「……そうですか。それなら、別にいいのですが」
「おうおう……」
何となくだが、レシアは機嫌が良さげに鼻歌を歌って一番前のシールとエルフィアのところまで先行していく。その様を後ろからぼーっと眺めていた折、真ん中でダラダラ歩いていたハニーと、その隣でハニーの話し相手になっていたディース達が最後尾の俺のところまで下がってきた。
「んだよ……」
眉を顰めて尋ねると、ハニーが含み笑いをしながら言った。
「随分と仲が良いのぉ〜」
「あ?」
「実際、どう思っとるのかえ?レシアのこと」
「うむ。ここは男として正直に、実直に、誠実に、答えるべきであるな!」
「…………」
俺は息を吐いた。どう思ってるのか……か。正直に、実直に述べるならば率直に言って別にというところだ。だが……まあ、少し安直に子供らしく無邪気に、何の意地もプライドもかなぐり捨てて答えるなら……まあそうだな――気になる存在といったところが、俺としてはしっくりくる。
「まあなんつーかな……ライバルとして、負けたくねぇ相手として、気になるって感じだな。あとはまあ……ほれ、あれだよあれ。普通に……女として気になる部分はある……」
俺が思ったことをそのまま包み隠さず臆さず答えてやると、意外なほどに面白くなかったのかハニーは溜息を吐いていた。
「なんじゃい……まだその程度しか進んどらんのかえ?」
「その程度ってなぁ……てめぇは何を期待してやがんだ?」
「そんなもん言うまでもないじゃろうがて〜?二人が幸せに、不幸せに、仲睦まじく、仲違いするような――そんなことを望んでおるのじゃよ」
後半……とても真面目な顔で言われたから間に受けそうになったが……言っている内容は支離滅裂である。何を言いたいのかサッパリ分からなかった。
「何が言いてぇんだ己は……」
「んん〜?分からんのかえ?」
「我輩には分かるがな……まあ、今まで通りの矛盾した関係をハニー殿は望んで期待している……ということであるな!ガッハッハッハッ!!」
「わ、分からん……」
ディースは高笑いしながら、それはもう楽しそうに……頭上にハテナを浮かべる俺へ説くように、諭すように口を開く。
「結局のところ、ロア殿はレシア殿が好きではないのかね?」
「はぁ?藪から棒になんだ?」
「どうなのかね?」
有無を言わせないような、そんな迫力すら醸し出すディースに……俺は溜息を吐いた。
「さっきも言っただろ。ちっとばかし、気になるだけだ。それ以上でも、以下でもねぇやい」
本当にそれ以外に他意はない。それが伝わったらようで、ディースは幾分か不満そうだが……まあ、そういうことならと納得したようだった。
ふと……視線を感じたと思って前を向くとニヤニヤするエルフィアと苦笑いするシール、そして頬を赤らめたレシアが俺を見ていた。
「…………」
まあ、こんだけ近くで話てたらそうなるわな。
☆☆☆
お昼まで寝ていた所為で辺りが暗くなるのが早かった。結局の今日も森を抜けられずに野宿する羽目になった。珍しく夜中の襲撃はなく、俺は時間になるまで見張り番兼火が消えないように枝を燃やす作業と、矢を作る作業に没頭していた。
わけだが……。
「で、何でてめぇは眠らねぇんだよ」
「…………」
俺が尋ねても、レシアは何も答えなかった。足を両手で抱えて地べたに座る様は、どこか芸術めいている。甲冑を外した彼女は、やはり美しいとさえ思ってしまう。
レシアはちょこんと座ったまま俺を暫く眺めると、ポツリと呟く。
「今日……私のことが気になるという話を聞いていたのです。それがどういう意味なのか気になって……眠れなかっただけです」
「気に……?そんなことが気になんのか?てめぇが?」
「はい。他ならぬお前の……いえ、ロアのことですから」
凛とした表情で、声音で俺の名前を呼んだ。いつもの突き合うような巫山戯た風ではない。それこそ、真剣に……剣士らしい彼女の言葉と言える。
俺は何となく木々の隙間から垣間見える月を見上げ、俺も呟いた。
「レシアとこうして夜に話すのも……何度目だったけかな」
「さぁ?ただ、随分と回数を重ねたような気はしますが……」
「そうか?まあ、俺もそんな気はするんだがなぁ……」
言われてみたらというか、普通にそんな気がしていた。つまりは、俺もレシアも同じことを思っていたことになる。使う武器は両極端で、思考も趣味も違うのに……信念だけは似通っているからか。全く不思議でならない。
「で……話は戻すがな、別に言った通りだ。好きだとか、そんなんじゃあねぇからな」
「ええ……そんな勘違いはしていません。していませんとも……。ただ……その、私もロアのことが気になるのです」
「……どんな風にだ?」
「ライバルとして……それに、異性として」
最後は恥ずかしかったから、プイッと俺から視線を外した。が、そんなことはどうでもよかった。はたして、レシアは一体全体俺のどんなところ見て気になるのか。それが気になって仕方がない。
「い、異性って……レシアてめぇ……。いや、つまりなんだ?」
「そのままの……意味です。別に恋愛感情があるわけではありませんが……ロアは強いですし、頭も回る。口は悪いですが、とても男性らしい態度で芯が強い。異性から好まれるようなタイプだと思いますよ?」
「そうか?そんなら、てめぇだって強いし見た目も綺麗だ。言葉遣いも割りかし丁寧だかんな。てめぇこそモテんだろーよ。実際に、ディースに求婚されてやがったしな」
「「…………」」
何を口走っているのか。俺たちにしては珍しく、お互いを褒めあってしまった。それも外面だけでなく、お互いの内面を知った今にだ。気恥ずかしくなり、俺もレシアも顔を背けてしまう。
夜は長いが、俺たちの関係はまだ短い。隣り合うように木の幹に立て掛けられた俺の弓と、レシアの剣はカタッと音を立てるとお互いに倒れないようにして寄りかかったのだった。
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