最強は絶対、弓矢だろ!

矢追 参

あ?ボスか?

 ☆☆☆


 フィジン大森林を真っ二つにしたエルフィアの事件から暫く……テレテレと森を歩いていた俺達は相変わらずシールの後ろを付いて歩いていたのだが、スーパー箱入り娘なエルフィアはもちろんだが、この森の複雑で歩き難い道にハニーが根を上げた。

「つ、疲れたのじゃ〜もう無理じゃよ〜。儂のキューティクルな足が完全に棒になっとるのじゃ!」
「先生!足裏のマメが潰れました!痛いですぅ……」
「えぇ!?大丈夫ですか!?見せてくださいお嬢様っ!」
「きゃあ!?ちょっとシール、急にそんな……ッ」
「ガッハッハッハッ!鍛錬が足りんぞ?筋肉をもっとつけねばな!」

 カオスだ。

 俺は最後尾を、やはり相変わらずレシアと並んで歩きながらそんな光景を眺めて思った。レシアも同じように思ったのか、いつもの澄まし顔が崩れて苦笑気味だ。
  なんつーか……ハニーが加わって良い意味でも悪い意味でも騒がしくなった感じだった。戦力的にもパワーアップしたものの、基本的には非力な魔法使いだ。聖剣を手にしたとはいえ同じく非力なお嬢様のエルフィアと、非力な魔法使いたるハニーが合わさった相乗効果により進行が遅れていた。

 アホか。

「ったく……呑気なもんだぜ」
「……否定できませんね」

 ほう?

 と、俺は珍しく肯定したレシアに意外そうな視線を送る。レシアも頷くしかないのが悔しいようだったが、こればかりは言い訳のしようがないと思ったのだろう。諦めて目を伏せている。

「ハニー・ハニー・ロンドスタッフ……彼女が加わってくれたことはとても心強いのですが、あまりにも……」
「貧弱」
「…………はい」

 どこか気まずげで、加えて後ろめたい感じのレシアは肩を落として言う。別にレシアの責任ではないので、敵同士とはいえ同情する。

「てめぇも、存外大変だなぁ……」
「お前に心配される謂れはありません……が、素直に感謝します」
「お、おう」

 素直になられると戸惑うものがある。しかし、レシアの気持ちは本当に分かる。ハニーのお陰で活気付いているのは本当だし、何よりもエルフィアが元気なのも有難いところ。なのだが……誤算なのは、元気すぎる点だ。

 ハニーがあれやこれやとすると、エルフィアもそれを真似しようとするのだ。

「むむぅ〜?おやおや、あのキノコ……とても美味そうじゃのう!」
「どれですか!?」
「お嬢様止めてくださいお願いします毒があったらどうするのですか」

 という具合に、ハニーの後ろにピッタリとくっ付いたエルフィアの奇行を止めるためにレシアはすっかり疲弊してしまっていた。

 俺としても、旗印であるエルフィアの身に何かしらのことがあると問題だ。レシアがエルフィアに注意している内に、俺はハニーをちょいちょいと手招きした。

「なんじゃ〜?」
「なんじゃ〜じゃねぇ……。あんまし、うちの大将に変なこと吹き込むなよ?箱入りなんだから、大抵のことは信じるぞ。お嬢様は」

 俺は必死に毒キノコについて熱弁するレシアと、その話を左から右へ流すエルフィアを見ながらハニーへと言った。何やってんだ、レシアの奴。

「レシアは昔、毒キノコと色々あってのぉ」

 と、レシアの様子を見てハニーはそう語った。おい、なんだ色々って。今後の揺すりネタに使えるかもしれないからkwsk。

 …………。

 おっと、話が逸れた。
 ハニーは肩を竦めると、口を開いた。

「まあ、今は儂と再会したばかりじゃからな。少しエルのテンションが高まっておるだけじゃよ……味方の少ない王宮で暮らしてきたからこそ、エルにとって儂……いや、ここにいる全員は等しく大好きなのじゃよ。だからの……今は少しだけ舞い上がっておるだけじゃ。暫しの休息と思って、今は見守って欲しい……と儂は思うわけじゃが」

 思いの外マトモな返答が返ってきた。たしかに、エルフィアのテンションは異様に高いように思えた。無理をしている風ではなく、舞い上がっている……というのが合っている。

 まあ……前に比べればずっと賑やかになったからな。

 俺は何となく我らがパーティの面々をそれぞれ見渡し、ふっと笑ってしまった。世界で一番の弓の名手を目指す俺の旅に、王位継承争いというオプションが付き、たびの共はこのように沢山増えた。

 思えば、俺の旅も賑やかになったものである。

「何を笑っているのですか?正直に気持ち悪いです」
「張っ倒すぞ」

 兎にも角にも、やはりレシア……この女だけは気に食わないと俺は心の底から思った。


 ☆☆☆


 さらにそこから休み休み……俺達は歩き続けて少し開けた場所に出た。木々はなく、背の低い草や花が生えているだけの場所であまり夕暮れ時の陽の光が差さない暗い場所だ。

「疲れたのじゃー!今日はここでもう終いにせんかえ〜?」
「……そうですね。みんなは、どう?」
「私に異論はありません」
「僕も大丈夫です」
「ガッハッハッハッ!」
「俺は……」
「「じゃあ、そういうことで」」
「おい」

 レシアやエルフィア、シールまでも加わって俺の意見は完全に無視。いや、なんならディースの意見も無視だ。果たして笑いの声が意見なのかはさておき……。

 野宿の準備はテキパキと終了した。さすがに何度も野宿となれば慣れたもので、俺が大した指示をしなくてもエルフィア達はスパッと用意して見せた。

 ちなみにハニーは何もやっていない。

 それから夕食……皆が火を囲んでワイワイしている中で俺はその輪から離れた木の根元で一人……矢を作っていた。さすがに、矢の本数が心許なかったからだ。

 それにしても……、

「立派になったもんで……」

 俺がそう言うと……ふと、誰かが俺の方へ歩いてくる気配を感じため振り返ると……そこにはレシアが片手に焼き魚を持ってそこにいた。

「お嬢様も元からご立派な方です」
「へいへい……」

 レシアは澄まし顔で、淡々とそう述べる。どうせ焼き魚を俺に届けにきたのだろうと思い、俺はレシアの持つそれを引っ手繰ってバクバクと食い散らかす。

 そんな俺を、レシアは呆れた眼差しで見ていた。

「もっと上品に食べられないですか……お前は」
「っるせぇ……美味もんは自由に食べるもんだぜ」

 少しドヤ顔で言ってみるも、レシアはふっと鼻で笑ってそれを一蹴する。

「綺麗に食べれば、もっと美味しいのですよ。そういうものは……」
「ったく……これだからお堅い騎士様は」

 なんなら、腹筋も硬そうだなぁと……内心でそんなことを考えているとギロリとレシアに睨まれた。この女、ナチュラルに人の思考を読む能力でもあるのだろうか。

 俺が本気そんなことを考え始めた頃だった。この場にいる全員以外の気配を感じ、はて?と首傾げた。レシアもその気配に気付いたようで辺りを警戒している。さすがにハニーやディースも警戒する。

 一瞬にして静寂が訪れる。 
 聞こえるのは薪の音、風で流れる葉音……。

「……なんだぁ?ありゃあ……」
「……あれは」

 ドスン、ドスンと足音を立て森を闊歩し、そいつは現れる。暗闇に包まれた森の奥……その木々の間から巨大な体躯を持つ怪物……否、魔物が現れた。



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