最強は絶対、弓矢だろ!
まあ、最強は譲れねぇ
☆☆☆
取り敢えず、巻き込んだ……いや、首を突っ込んできたディースに色々と説明した後にこれからの行動予定を立てる。
「おそらく王都へ行く門は、抑えられているでしょうね」
「つっても、そこからじゃねぇと王都にいけねぇんだろ?」
「その通りです」
住人を全員退かすほどまでしたのだ。俺たちの退路を塞ぐことぐらいはするに決まっている。俺たちが王都へ向かっているのは敵も気付いているはずだから、そっちの方が抑えられているのは当然だと考えるべきだ。
「ふむ……強行突破しかないのだな?」
「そう……なると思いますね……。レシアはどう思う?」
エルフィアはレシアに同意を求めるように目を向ける。レシアも同意見のようで頷き、それに続いてシールが言った。
「でも、敵の数は相当……だよね」
「そうであろうな。まあ、我輩やレシア殿、ロア殿がいれば大丈夫である!ガッハッハッハッ!」
「おぉ!ディース……良いこと言うじゃねぇか!だが、一つ訂正すると俺だけでも十分だけどな!」
「お嬢様とシールは、私が必ず守りますから」
「うん。ありがとうね。レシア」
「ごめん。僕も戦えたらよかったんだけど……」
少しは反応しろよ……。俺は頬を引攣らせながら、通りの方を確認しつつ、言った。
「行くんなら、さっさとすんぞ」
「そうですね。では、二人ともしっかり付いてきてください」
「うん」
「ありがとう」
エルフィアとシールは、レシアにそう言った。ディースはその二人の後ろを守るように立つ。
俺はそれを確認して通りへ出ようとすると、レシアが呼び止めるように小声で言った。
「ロア」
「……んだよ」
呼ばれて振り返ると、すぐ目の前にレシアの顔があった。一瞬、目が合った。そのまま、何となく気恥ずかしくてそっと距離を空ける。レシアも目のやり場に困るように、視線を彷徨わせつつ言った。
「あ、の……んんっ。ロア。もしかすると、伝説の武器を持った者がいるかもしれません」
「あぁ?」
「私たちは伝説の武器を二つ持っているのです。それを取り返すとしたら……」
「伝説の武器でってことかよ……」
俺の答えにレシアが頷いた。たしかに、焦った相手が考えるとしたらそういうことになるかもしれない。
「まあ、俺なら伝説の武器が相手でも余裕だっつーの」
「私は油断をするなと言いたいのです。大体、伝説の武器はお前が考えているとほど甘いものではありません」
「へいへい」
俺が面倒そうに適当に返事をすると、レシアは少し怒ったように口を尖らせた。
「私はしっ……もういいです」
何か言いかけて、レシアは押し黙ってしまった。まさかとは思うが……今、レシアは心配とかなんとか言おうとしたのではないだろうか。
だが、そんな思考を俺は頭を振って頭の片隅へ追いやった。
毎回顔を合わせては言い争いの俺たちの間で心配?そんなことレシアにでも言ってみろ……鼻で笑われるに決まっている。
俺は最後に逸らしたままの視線をレシアへ向けてみる。すると、少し濡れた瞳を俺へ向けていたレシアと再び目が合った。そこにどんな気持ちが込められていたのかは知らないが、俺はそれに答えることはしなかった。
そうだ。レシアが俺の心配をする訳がない。甚だ、俺らしくもない考えだ。
俺はニッと口の端を吊り上げ、不敵に笑ってレシアに言った。
「おら、行くぞ?」
そう言うと、レシアは少し呆然と俺を見つめた後にクスリと小さく笑い、そしてレシアも不敵に笑ってこう返してきた。
「えぇ、行きましょう」
それを最後に俺たちの間に会話はなくなった。
☆☆☆
通りに衛兵が四人……俺たちを探しているようで槍を構えて辺りを巡回している。
通りにある物陰に隠れつつ、様子を伺う。向かい側の民家の陰に隠れているレシアに目を向けると、レシアは俺と目を合わせて直ぐに頷いて背中にある両手剣の柄を握った。
俺も矢筒から矢を取り出し、弓を準備しておく。準備を整えてから、もう一度レシアへ目を向けるとレシアは目だけ俺に向けた後にバッと物陰から飛び出して、衛兵に向かって走り出す。
「むっ……き、貴様は!?」
「はぁっ!!」
レシアは衛兵をそのまま斬り倒す。その騒ぎを聞きつけて、残りが近寄ってくる。それを俺は物陰から二人は射る。最後の一人を、俺が二人を射ている間にレシアが斬った。
「ふっ……」
「うし……」
レシアは両手剣を仕舞って俺へ目を向ける。俺はそれに続くようにして後ろに隠れていたディース達を目配せで付いてくるように指示を出す。
すると、ディースが関心したようにウンウン頷きながら言った。
「ふむぅ。レシア殿と、ロア殿……とってもいいコンビであるなぁ……。我輩が入り込む余地はないわけだ」
「はぁ?バカ言ってねぇで、しっかり付いてこいよな」
「合点である!」
うるせぇ……。
そうやって、ちょくちょく現れる衛兵達を無力化しながら王都方面の出口を目指す俺たちが目的の場所は着いたのは日が天辺から傾き出す頃合いだった。
走る俺たちの視線の先に数十人ほどの衛兵達が槍を構えて門の前に陣取り、さらにその前に随分と高級な服を着た如何にもな男が立っていた。
「っ!ザオス……公」
俺たちは走る足を止める。そして、レシアの言葉に後ろに控えていたエルフィアとシールが表情を強張らせた。そんな状況で、ディースと俺はザオスなんて奴を知らなかったためお互いに首を傾げて顔を見合わせた。
最初に口を開いたのはディースだ。
「ふむ……あの男と因縁があると見えるな。エルフィア殿とレシア殿とシール殿は」
ディースの見解に反応したのはシールだ。顔を伏せ、歯噛みして答えた。
「うん……ザオス・デトルトン公爵様。僕たちを目の敵にしてくるんだ……」
「私たちが伝説の武器の収集で旅をしてる時に、色々と嫌がらせを……されたの」
「はーん……」
俺はシールとエルフィアからそれを聞いて生返事をした。嫌がらせって……いい大人が随分と狡いことをする。
俺がザオスへと目を向けると、ザオスとやらは高級そうなマントを翻して言った。
「お久しぶりでございます。エルフィア王女殿下……並びに、レシア殿、シール殿。再びお会い出来て私は感激です」
「どの口がそのようなことを……」
「おや、レシア殿いけませんね。仮にも王女殿下付きの護衛騎士の貴女が、そのような言葉遣いを……やはり辺境の出の田舎貴族の娘は礼儀がなっていないようですね」
「っ!お前っ!!」
レシアが激しい怒りを表した。お嬢様以外でこんなに怒り狂うレシアを見たのは、俺は初めてで少し動揺した。だが、今にも背中のものを抜いて斬りかかりそうなレシアを見て、俺は手をレシアの前に伸ばした。
「邪魔をするつもりか!」
「落ち着けボケ」
俺は三人の一番前に出て、ザオスと対面する。ザオスとの距離は五十メートルもないほど……この距離なら外すことは絶対にない。
俺が矢を番えたあたりで、ザオスがやれやれと首を振った。
「全く……エルフィア王女殿下のお供は礼儀のなっていない田舎者ばかりですな。まずは名を名乗るのが先でしょう?」
「悪りぃな。てめぇと仲良くしてるやるつもりはねぇんだ。要するに名乗る必要がねぇってわけだな」
「残念……君の弓の腕なら直ぐにでも私の側近としてあげたのですが」
「必要ねぇよ!」
俺は叫んで答え、矢を放つ。
ズンッと、大気を裂いて突き進む矢はザオスの額を完全に貫くコースでいった。終わる……そう思ったところで矢がザオスの手前で何かに弾かれるように吹き飛んだ。
「っ……てめぇ。何しやがった」
俺が言うと、ザオスはクツクツと楽しそうに笑う。これについて教えてくれたのはレシアだ。
「今のはザオスの持つ伝説の武器……その鞘は所持者に害なす全てから身を守り、剣は所持者の背負うものの大きさによって鋭さや重さを増す王の剣。聖剣『エクスカリバー』……」
と、落ち着きを取り戻したレシアがいつもの口調でそう言った。
所持者に害なす全てから身を守る……なんだそりゃあ?強すぎんだろ……。
「くっくっ……君が弓の名手だとしても私を射ることはできないのですよ。さて、それではエルフィア王女殿下……大人しく捕まっていただきますよ?くっくっ」
その言葉を皮切りに衛兵達が動き出す。俺とレシアが身構えると、その間を割って入るようにディースが前に出てくる。
「ディース?」
俺が呼びかけるが、ディースはただ何と無く楽しそうに唇の端を吊り上げて笑っている。そして、これまた楽しそうに口を開いた。
「ガッハッハッハッ!!伝説の武器!面白いではないか」
ディースの目が光を帯び、どこか化け物じみた狂気を感じさせるほどにディースが大きく見えた。
ディースは己の拳を合わせると、不敵に笑って言った。
「我輩はディース・シュトロンガーである。いざ、尋常に」
「ほう?私とやると?くっくっ……まあ、私に辿り着ければお相手して差し上げましょうとも」
「む?」
ザオスの言葉に続くようにして衛兵達がディースとザオスの間に割って入り込む。それを見たディースが顔をしかめた。
「男の勝負から逃げるのかね?」
「これだから田舎者は……貴族の勝負を華麗にお見せしましょう」
ザオスのその言葉を皮切りにして、衛兵達が槍をディースに向けて走った。
ディースはそれらを一瞥すると、詰まらなそうな溜息を一つ零した。
「足りんな。それではっ!」
向かってきた数人の衛兵の持つ槍を全て手刀で根元から叩き折り、衛兵達を鎧の上から全員殴り飛ばした。
「ぬんっ!」
「ぐあ!?」
「へぼあ!?」
ディースの一撃で大気が震え、人が一人二人と宙を舞う様は……それだけで敵の戦意を剥ぐには十分だ。その迫力に暫し呆然として、俺とレシアがディースを後ろから眺めているとディースが聞き捨てならない言葉を発して我に帰った。
「我が精神は鋼の如く、その肉体もまた鋼の如し。そんなものでは我輩に傷など付けられんぞ?最強の武器とは正に、己の肉体のことである!」
ババンッ
と、仁王立ちしてザオスと対峙するディースの背後にそんな文字が浮かんだ。俺はそんなディースの隣に並び、ザオスなんて無視してディースに向かって一言。
「おいおい?何言っちゃってんの、てめぇ。最強の武器は、弓矢だろ!」
俺がそう言うのに合わせて、呆れたような表情をしたレシアがディースの隣……俺の向かい側に並ぶと言った。
「いいえ、剣です。それより……」
「おーいおいおい?なにサラッと流そうとしちゃってんだ?」
「うむ。二人とも、我輩はとても聞き捨てならぬことを聞いた気がするな!」
「事実を言ったまでですが?」
レシアはさも当然のように、俺たちを訝しげな目で見てくる。俺は思わずカッチーンとなった。
「ザオスとかいうのに挑発されて頭ん中沸騰して脳味噌が鼻から出てんじゃねぇか?それとも脳味噌にお花畑できちゃったか?」
「お前の方こそ脳味噌が溶けているのでは?そもそもあるのですか?」
「んだとてめぇ!」
「何ですか?」
俺とレシアが額がぶつかるかというくらいの距離で睨み合っていると、その間にディースが割って入る。
「落ち着くのだ、二人とも……。全く、最強は我が肉体に決まっているというのに……」
「あ!?」
「……」
俺は矢筒に手をかけ、レシアは背中の両手剣に手をかける。それを見て、ディースも拳を握る。
「ふむ……古来より互いの信念がぶつかり合った時は」
「自分の信念を貫くために」
「戦うのがルールだよなぁ?」
ディースとレシアと俺は互いに互いを睨み合って闘志を燃やす。完全に置いてけぼりのシールとエルフィアは外野の方で苦笑していた。
「そ、そんな場合じゃ……ないんですけどぉ」
「お嬢様……今の三人には近づかない方が……」
そんな感じで俺たちがそろそろ最強武器決定戦を勃発させようとしたところで、門前で置いてけぼりを食らっていたザオスが怒りの形相で叫んだ。
「こ、この私を無視ですと?この、この高貴な私を!田舎者風情が!」
俺はキーキーとうるさい声がしたため、視線をそちらへ持っていく。
「っるせぇなぁ……じゃあ、高貴な誰かさんはさっさとお家帰って柔らかいベッドにでも入ってろタコ」
「た、タコ!?私は誰かさんでもタコでもない!私は……」
と、ザオスが言いかけたところでそれを遮るようにディースが口を開く。
「キーキーと喚くな。鬱陶しい……ちょっと我輩、今大事な話をしている故に貴殿の相手はできん。また今度、改めて相手しよう」
「なっ……この私に向かって上から目線で……この」
そして再びザオスが何か言う前に、レシアが割って入るように口を利かせる。
「ザオス公。公爵ともなる貴方様が、少々叫びすぎです。田舎者と揶揄するのは勝手ですが、まずはご自分が猿だと勘違いされぬようにすべきかと」
「……っ!?い、田舎貴族の分際でぇ……」
ザオスはとうとうキレたのか、マントを翻して腰に帯びた『エクスカリバー』を鞘から引き抜いた。
「もう!手加減はしませんよ!」
俺たちはザオスを見てから目を見合わせ、この勝負を一旦お預けとしてザオスへ向き直った。
取り敢えず、巻き込んだ……いや、首を突っ込んできたディースに色々と説明した後にこれからの行動予定を立てる。
「おそらく王都へ行く門は、抑えられているでしょうね」
「つっても、そこからじゃねぇと王都にいけねぇんだろ?」
「その通りです」
住人を全員退かすほどまでしたのだ。俺たちの退路を塞ぐことぐらいはするに決まっている。俺たちが王都へ向かっているのは敵も気付いているはずだから、そっちの方が抑えられているのは当然だと考えるべきだ。
「ふむ……強行突破しかないのだな?」
「そう……なると思いますね……。レシアはどう思う?」
エルフィアはレシアに同意を求めるように目を向ける。レシアも同意見のようで頷き、それに続いてシールが言った。
「でも、敵の数は相当……だよね」
「そうであろうな。まあ、我輩やレシア殿、ロア殿がいれば大丈夫である!ガッハッハッハッ!」
「おぉ!ディース……良いこと言うじゃねぇか!だが、一つ訂正すると俺だけでも十分だけどな!」
「お嬢様とシールは、私が必ず守りますから」
「うん。ありがとうね。レシア」
「ごめん。僕も戦えたらよかったんだけど……」
少しは反応しろよ……。俺は頬を引攣らせながら、通りの方を確認しつつ、言った。
「行くんなら、さっさとすんぞ」
「そうですね。では、二人ともしっかり付いてきてください」
「うん」
「ありがとう」
エルフィアとシールは、レシアにそう言った。ディースはその二人の後ろを守るように立つ。
俺はそれを確認して通りへ出ようとすると、レシアが呼び止めるように小声で言った。
「ロア」
「……んだよ」
呼ばれて振り返ると、すぐ目の前にレシアの顔があった。一瞬、目が合った。そのまま、何となく気恥ずかしくてそっと距離を空ける。レシアも目のやり場に困るように、視線を彷徨わせつつ言った。
「あ、の……んんっ。ロア。もしかすると、伝説の武器を持った者がいるかもしれません」
「あぁ?」
「私たちは伝説の武器を二つ持っているのです。それを取り返すとしたら……」
「伝説の武器でってことかよ……」
俺の答えにレシアが頷いた。たしかに、焦った相手が考えるとしたらそういうことになるかもしれない。
「まあ、俺なら伝説の武器が相手でも余裕だっつーの」
「私は油断をするなと言いたいのです。大体、伝説の武器はお前が考えているとほど甘いものではありません」
「へいへい」
俺が面倒そうに適当に返事をすると、レシアは少し怒ったように口を尖らせた。
「私はしっ……もういいです」
何か言いかけて、レシアは押し黙ってしまった。まさかとは思うが……今、レシアは心配とかなんとか言おうとしたのではないだろうか。
だが、そんな思考を俺は頭を振って頭の片隅へ追いやった。
毎回顔を合わせては言い争いの俺たちの間で心配?そんなことレシアにでも言ってみろ……鼻で笑われるに決まっている。
俺は最後に逸らしたままの視線をレシアへ向けてみる。すると、少し濡れた瞳を俺へ向けていたレシアと再び目が合った。そこにどんな気持ちが込められていたのかは知らないが、俺はそれに答えることはしなかった。
そうだ。レシアが俺の心配をする訳がない。甚だ、俺らしくもない考えだ。
俺はニッと口の端を吊り上げ、不敵に笑ってレシアに言った。
「おら、行くぞ?」
そう言うと、レシアは少し呆然と俺を見つめた後にクスリと小さく笑い、そしてレシアも不敵に笑ってこう返してきた。
「えぇ、行きましょう」
それを最後に俺たちの間に会話はなくなった。
☆☆☆
通りに衛兵が四人……俺たちを探しているようで槍を構えて辺りを巡回している。
通りにある物陰に隠れつつ、様子を伺う。向かい側の民家の陰に隠れているレシアに目を向けると、レシアは俺と目を合わせて直ぐに頷いて背中にある両手剣の柄を握った。
俺も矢筒から矢を取り出し、弓を準備しておく。準備を整えてから、もう一度レシアへ目を向けるとレシアは目だけ俺に向けた後にバッと物陰から飛び出して、衛兵に向かって走り出す。
「むっ……き、貴様は!?」
「はぁっ!!」
レシアは衛兵をそのまま斬り倒す。その騒ぎを聞きつけて、残りが近寄ってくる。それを俺は物陰から二人は射る。最後の一人を、俺が二人を射ている間にレシアが斬った。
「ふっ……」
「うし……」
レシアは両手剣を仕舞って俺へ目を向ける。俺はそれに続くようにして後ろに隠れていたディース達を目配せで付いてくるように指示を出す。
すると、ディースが関心したようにウンウン頷きながら言った。
「ふむぅ。レシア殿と、ロア殿……とってもいいコンビであるなぁ……。我輩が入り込む余地はないわけだ」
「はぁ?バカ言ってねぇで、しっかり付いてこいよな」
「合点である!」
うるせぇ……。
そうやって、ちょくちょく現れる衛兵達を無力化しながら王都方面の出口を目指す俺たちが目的の場所は着いたのは日が天辺から傾き出す頃合いだった。
走る俺たちの視線の先に数十人ほどの衛兵達が槍を構えて門の前に陣取り、さらにその前に随分と高級な服を着た如何にもな男が立っていた。
「っ!ザオス……公」
俺たちは走る足を止める。そして、レシアの言葉に後ろに控えていたエルフィアとシールが表情を強張らせた。そんな状況で、ディースと俺はザオスなんて奴を知らなかったためお互いに首を傾げて顔を見合わせた。
最初に口を開いたのはディースだ。
「ふむ……あの男と因縁があると見えるな。エルフィア殿とレシア殿とシール殿は」
ディースの見解に反応したのはシールだ。顔を伏せ、歯噛みして答えた。
「うん……ザオス・デトルトン公爵様。僕たちを目の敵にしてくるんだ……」
「私たちが伝説の武器の収集で旅をしてる時に、色々と嫌がらせを……されたの」
「はーん……」
俺はシールとエルフィアからそれを聞いて生返事をした。嫌がらせって……いい大人が随分と狡いことをする。
俺がザオスへと目を向けると、ザオスとやらは高級そうなマントを翻して言った。
「お久しぶりでございます。エルフィア王女殿下……並びに、レシア殿、シール殿。再びお会い出来て私は感激です」
「どの口がそのようなことを……」
「おや、レシア殿いけませんね。仮にも王女殿下付きの護衛騎士の貴女が、そのような言葉遣いを……やはり辺境の出の田舎貴族の娘は礼儀がなっていないようですね」
「っ!お前っ!!」
レシアが激しい怒りを表した。お嬢様以外でこんなに怒り狂うレシアを見たのは、俺は初めてで少し動揺した。だが、今にも背中のものを抜いて斬りかかりそうなレシアを見て、俺は手をレシアの前に伸ばした。
「邪魔をするつもりか!」
「落ち着けボケ」
俺は三人の一番前に出て、ザオスと対面する。ザオスとの距離は五十メートルもないほど……この距離なら外すことは絶対にない。
俺が矢を番えたあたりで、ザオスがやれやれと首を振った。
「全く……エルフィア王女殿下のお供は礼儀のなっていない田舎者ばかりですな。まずは名を名乗るのが先でしょう?」
「悪りぃな。てめぇと仲良くしてるやるつもりはねぇんだ。要するに名乗る必要がねぇってわけだな」
「残念……君の弓の腕なら直ぐにでも私の側近としてあげたのですが」
「必要ねぇよ!」
俺は叫んで答え、矢を放つ。
ズンッと、大気を裂いて突き進む矢はザオスの額を完全に貫くコースでいった。終わる……そう思ったところで矢がザオスの手前で何かに弾かれるように吹き飛んだ。
「っ……てめぇ。何しやがった」
俺が言うと、ザオスはクツクツと楽しそうに笑う。これについて教えてくれたのはレシアだ。
「今のはザオスの持つ伝説の武器……その鞘は所持者に害なす全てから身を守り、剣は所持者の背負うものの大きさによって鋭さや重さを増す王の剣。聖剣『エクスカリバー』……」
と、落ち着きを取り戻したレシアがいつもの口調でそう言った。
所持者に害なす全てから身を守る……なんだそりゃあ?強すぎんだろ……。
「くっくっ……君が弓の名手だとしても私を射ることはできないのですよ。さて、それではエルフィア王女殿下……大人しく捕まっていただきますよ?くっくっ」
その言葉を皮切りに衛兵達が動き出す。俺とレシアが身構えると、その間を割って入るようにディースが前に出てくる。
「ディース?」
俺が呼びかけるが、ディースはただ何と無く楽しそうに唇の端を吊り上げて笑っている。そして、これまた楽しそうに口を開いた。
「ガッハッハッハッ!!伝説の武器!面白いではないか」
ディースの目が光を帯び、どこか化け物じみた狂気を感じさせるほどにディースが大きく見えた。
ディースは己の拳を合わせると、不敵に笑って言った。
「我輩はディース・シュトロンガーである。いざ、尋常に」
「ほう?私とやると?くっくっ……まあ、私に辿り着ければお相手して差し上げましょうとも」
「む?」
ザオスの言葉に続くようにして衛兵達がディースとザオスの間に割って入り込む。それを見たディースが顔をしかめた。
「男の勝負から逃げるのかね?」
「これだから田舎者は……貴族の勝負を華麗にお見せしましょう」
ザオスのその言葉を皮切りにして、衛兵達が槍をディースに向けて走った。
ディースはそれらを一瞥すると、詰まらなそうな溜息を一つ零した。
「足りんな。それではっ!」
向かってきた数人の衛兵の持つ槍を全て手刀で根元から叩き折り、衛兵達を鎧の上から全員殴り飛ばした。
「ぬんっ!」
「ぐあ!?」
「へぼあ!?」
ディースの一撃で大気が震え、人が一人二人と宙を舞う様は……それだけで敵の戦意を剥ぐには十分だ。その迫力に暫し呆然として、俺とレシアがディースを後ろから眺めているとディースが聞き捨てならない言葉を発して我に帰った。
「我が精神は鋼の如く、その肉体もまた鋼の如し。そんなものでは我輩に傷など付けられんぞ?最強の武器とは正に、己の肉体のことである!」
ババンッ
と、仁王立ちしてザオスと対峙するディースの背後にそんな文字が浮かんだ。俺はそんなディースの隣に並び、ザオスなんて無視してディースに向かって一言。
「おいおい?何言っちゃってんの、てめぇ。最強の武器は、弓矢だろ!」
俺がそう言うのに合わせて、呆れたような表情をしたレシアがディースの隣……俺の向かい側に並ぶと言った。
「いいえ、剣です。それより……」
「おーいおいおい?なにサラッと流そうとしちゃってんだ?」
「うむ。二人とも、我輩はとても聞き捨てならぬことを聞いた気がするな!」
「事実を言ったまでですが?」
レシアはさも当然のように、俺たちを訝しげな目で見てくる。俺は思わずカッチーンとなった。
「ザオスとかいうのに挑発されて頭ん中沸騰して脳味噌が鼻から出てんじゃねぇか?それとも脳味噌にお花畑できちゃったか?」
「お前の方こそ脳味噌が溶けているのでは?そもそもあるのですか?」
「んだとてめぇ!」
「何ですか?」
俺とレシアが額がぶつかるかというくらいの距離で睨み合っていると、その間にディースが割って入る。
「落ち着くのだ、二人とも……。全く、最強は我が肉体に決まっているというのに……」
「あ!?」
「……」
俺は矢筒に手をかけ、レシアは背中の両手剣に手をかける。それを見て、ディースも拳を握る。
「ふむ……古来より互いの信念がぶつかり合った時は」
「自分の信念を貫くために」
「戦うのがルールだよなぁ?」
ディースとレシアと俺は互いに互いを睨み合って闘志を燃やす。完全に置いてけぼりのシールとエルフィアは外野の方で苦笑していた。
「そ、そんな場合じゃ……ないんですけどぉ」
「お嬢様……今の三人には近づかない方が……」
そんな感じで俺たちがそろそろ最強武器決定戦を勃発させようとしたところで、門前で置いてけぼりを食らっていたザオスが怒りの形相で叫んだ。
「こ、この私を無視ですと?この、この高貴な私を!田舎者風情が!」
俺はキーキーとうるさい声がしたため、視線をそちらへ持っていく。
「っるせぇなぁ……じゃあ、高貴な誰かさんはさっさとお家帰って柔らかいベッドにでも入ってろタコ」
「た、タコ!?私は誰かさんでもタコでもない!私は……」
と、ザオスが言いかけたところでそれを遮るようにディースが口を開く。
「キーキーと喚くな。鬱陶しい……ちょっと我輩、今大事な話をしている故に貴殿の相手はできん。また今度、改めて相手しよう」
「なっ……この私に向かって上から目線で……この」
そして再びザオスが何か言う前に、レシアが割って入るように口を利かせる。
「ザオス公。公爵ともなる貴方様が、少々叫びすぎです。田舎者と揶揄するのは勝手ですが、まずはご自分が猿だと勘違いされぬようにすべきかと」
「……っ!?い、田舎貴族の分際でぇ……」
ザオスはとうとうキレたのか、マントを翻して腰に帯びた『エクスカリバー』を鞘から引き抜いた。
「もう!手加減はしませんよ!」
俺たちはザオスを見てから目を見合わせ、この勝負を一旦お預けとしてザオスへ向き直った。
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