最強は絶対、弓矢だろ!

矢追 参

まあ、考えなくもない

 ☆☆☆


 そのまま俺とレシアは朝まで起きて、エルフィアとシールが起きる時間に合わせて飯を食うために一階へ降りる。
 四人揃って朝食を摂っている折、エルフィアが珍しく大欠伸をしたのを見て、俺は察した。
 エルフィアを見るシールの目がいつもより熱を増しているように思う。
 なるほどなるほど……二人っきりの部屋で何かあったな?

「ふぁぁ……」
「お嬢様……お疲れでしょうか?」
「え?うーん……ごめん。ちょっと、はしたなかったよね。大丈夫だよ、レシア。レシアに比べたら、私なんて何にもしてないし」

 エルフィアがあははーと笑って言うと、レシアは首を振った。四人席で隣り合って座る二人……レシアはどうするか躊躇ってから、遠慮がちにエルフィアの手を取って両手で優しく包んだ。

「レシア……?」

 主従の関係で、特にそれを意識しているレシアがこのような行動をするとは思わなかったのだろう。だが、俺はさして意外にも会わなかったので、無視して柔かな小麦パンを口に放る。
 シールは驚いたように二人を見て、それから俺に目を向けた。しかし、俺が無反応だったからかどうするべきか迷っているようだった。だから、俺は目の前でユリユリしている女二人を無視し、シールに小さな声で話しかけた。

「なんか……エルフィアとあったか?」
「え?ど、どうして?」

 残念……一瞬でも動揺を見せたらダメなんだぜ?

「はーん?別に、訊いただけだよ……。何もなかったんつーなら、それでいい。俺としては、なんかあってくれて方が面白いんだがな」
「な、なんにもないよ……」

 俺と同じように小さな声で返したシールは、目を泳がせている。
 こいつ……少しは動揺を隠せないのだろうか。

「ふぅん……」

 俺はシールの反応を見て、本当に何かあったんだろうと思ったが追及はしなかった。色々と掘り返したりするのは、無粋というものである。
 しっかし、一体何があったのか。シールが自分の気持ちを意識し出したか、はたまたその一歩手前くらいに迫っているのは何があったからか。
 エルフィアの様子を見れば、夜遅くまで二人で何かしたいたのだろうということが予想できる。この奥手な男と、そういうことに疎そうな女の組み合わせでピンク色の何某な展開は期待できないし……普通に二人で楽しく会話でもしていそうだ。その中で、何が引き金になった……のだろう。多分。知らんけど。

「はぁ……」

 いい感じで何よりだか、なんかもう一押し欲しいなぁ……。と、そんなことを俺が考えている時のことである。
 宿屋の扉が派手に開けられ、自然と俺の目がそちらへ向けられる。
 宿屋に入ってきたのは、ものすごい身体をした……俺が昨日会った熱い男、ディース・シュトロンガーたった。
 ディースは宿屋を見回し、そして俺を見つけるとこちらに手を挙げてやって来た。ディースがこっちに来るのに気がついた三人で、ディースとは会っていない二人は首を傾げて俺を見るが、レシアだけは困ったように俺を見た。

 こっち見んな。

「おぉ!ロア殿!そして、レシア殿……いやぁ、昨日ぶりであるな!本当にお美しいことこの上ない!がっはっはっ!」

 ディースの大きな笑い声が店内に響く。
 レシアは硬い笑顔を浮かべ、椅子から立ち上がってディースに対して腰を曲げてお辞儀した。

「おはようございます。何か御用が?」

 レシアは手っ取り早くディースに用件を尋ねた。ディースが別の宿に泊まっていることは、ここへ朝に尋ねてきたことで分かる。そして、ここへ尋ねに来た理由が俺かレシアにあるであろうことも分かる。
 というか、多分レシアだろうな……。
 ディースは満面の笑みで頷くと、レシアの手を取った。

「っ!」

 やはり、一度は反射的に避けようとしたレシアだがディースに手を取られてしまっている。旅の武芸者というのも、伊達じゃなさそうだ。

「昨夜も言った通り、レシア殿とは正式にお付き合いしていただきたく……」
「その件でしたら……はっきりとお断りさせていただきます」
「まあ、そう言うだろうと思っていた!がっはっはっはっ!しかし、我輩今回は諦められん。聞くところによれば、レシア殿はそちらの女性の付き人であるとか」

 ディースはレシアの手を握りながら、その背後にいるエルフィアに笑いかけて言う。
 それを聞いたレシアが、俺に鋭い視線を向けてきたので俺は目を背けた。良い勘してる。そう、犯人は俺。

「旅の理由は知らんが、我輩……腕は確かだと思っている。そこで、我輩考えたのである。我輩も、貴殿らの旅に同行させてはもらえんか!?」
「え?」

 レシアはもちろんだが、エルフィアとシールも驚いている。俺は、なんだか予想できた展開に目を逸らしたくなった。
 ディースの性格は昨日の会話を経てある程度理解できていた。なんか、こういう提案をしてくる気はしていた。
 レシアは困惑しつつも口を開こうとする。

「いえ……しかし」
「うむ。我輩の実力が問題ならば、それは無問題である。我輩、こう見えてかなり強い!」

 見れば分かる。

「そういうことでは……」
「むぅ……どうしてもダメであるか?せめて、レシア殿にアタックさせてもらえるチャンスが欲しいのだ!」

 ディースの熱烈なアピールに、さしもの自称お嬢様の剣であるレシアも対応に困ってしまっているようだ。告白されるのなんて慣れていそうだが。まあ、劣等生とかなんとか言ってたし……その上、あの性格である。なるほど、男が寄り付かないはずである。
 と、俺が一人納得しているとレシアがまるで俺の心を見透かしたようにキッと視線を向けてきた。
 読唇術は反則だと思うわけだが……。
 レシアがそうこう困っているうちに、エルフィアが首を傾げてレシアに提案した。

「うーん……さすがに私達の旅に連れて行くのはダメかなぁ」
「どうしてもか!?」
「ど、どうしてもですっ」

 レシアに言ったのに、なぜかディースが食いついてきてエルフィアが小さくなった。見た目怖いから、迫られると怖いだろうなぁ……。うちの大将は、肝っ玉が据わっているように見えて、実はそうでもなかったりするからよく分からん。
 エルフィアはそれから続けた。

「でも、好きな人にバッタリ振られちゃうっていうのも……うん。だから、今日一日……今日一日だけレシアと二人っきりにさせてあげます。それで、振られちゃったら諦めてください」
「え?お嬢様……?」

 レシアは見捨てられた猫のような目でエルフィアに目を向けるが……エルフィアは無情にもニッコリと微笑んだ。
 ディースはエルフィアの案を聞いて、一瞬だけ思考を巡らせると直ぐに頷いた。

「うむ……それでよい!さぁ!では、早速行くとしよう!今日は我輩とデートである!がっはっはっはっ!」
「え?わ、私はお嬢様の護衛がっ」
「心配すんなよ。そいつは俺とシールでやっとくからよ。ちゃんと、きっぱり振ってやれ」
「え?あれ?」
「頑張って〜」

 納得できないでいるレシアに、シールが応援の言葉をかける。レシアはそれを聞いて、やや心配そうにエルフィアを見てから……ディースのもとへとトボトボと向かった。

「では、行って参る!」

 ディースはそう行って、レシアを連れて店を出た。
 割とレシアがあっさりお嬢様から離れたのは、一応昨夜に奇襲があったから昼間には来ないだろうという考えからだ。今まで、夜襲はされても昼間には来なかった。
 とはいえ、それで警戒を解いていい理由にはならない。ここはもう王都手前の街……狙われていることは変わらない。俺がいれば問題ないけどな!がっはっはっはっ!

 …………。

「じゃあ、私達は何をしようかしら?」
「そうですねー……なにかお買い物でもしましょうか?」
「お買い物……うーん。でも必要品はもう買ったよね?」
「はい。なので、今日は休日を楽しむような……例えばアクセサリーなど」

 シールの提案にエルフィアは一瞬驚いてから、苦笑した。

「無駄遣いはダメ」
「この街の雑貨店でも、安いところで……それにお金は僕が自費で買いますよ」
「え?買ってくれるの?それは……シールに悪いよ」
「いえ。僕が買いたいのです」

 ……あれ?なんか、こっちもピンク色の何某な香りがする!なんだこれ。

 俺はため息を吐いた。

 こいつら、絶対両想いなのになんで発展しないのだろう。そう考えて、ふと一つ思い出したことがある。
 そういえば、これでもうちの大将は王族だった。身分の差というのが、二人を邪魔してるということなのだろうか……。
 なんか……昔、村に来た吟遊詩人が歌ってたような物語だ。
 家のための結婚だとか、なんだとか……。王族に生まれ、衣食住が恵まれている分自由はなく、結婚まで決められてしまうなんて……俺、王族に生まれなくてよかったわ。
 俺はキャッキャウフフしている二人を見ながら、どうしたものかと考える。

 エルフィアが王様になったら……いよいよこの二人って結ばれないんじゃないなかろうか。

 そこまで考えた俺の思考を飛ばすように、エルフィアとシールは二人で仲良く笑い合っていた。


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