最強は絶対、弓矢だろ!

矢追 参

まあ、同類な気がしなくもない

 ☆☆☆


 夕食を終えて部屋へ戻る。
 いつも通りの二人一部屋の一室で、俺は二つあるベッドの片側に座る。そして、向かい側にレシアが……。

「毎回思うんだけどよぉ……なんで、てめぇが同じ部屋なの?なに?やっぱ俺のこと好きなの?」

 俺が言うと、レシアは少し俺を可哀想なものを見るような目で見てきた。なんだろう……すごくムカつく。

「お前も、毎回同じことを言っています。本当はお前の方が、私のことを好きなのではありませんか?」

 ははは。この女でも冗談言うんだなぁ。笑えない冗談だが……。

 俺は鼻で笑ってやりながら切り返した。

「うわぁ……どっからその自信が出てくるんだ?顔はいいけど、性格最悪じゃねぇか」
「そっくりそのまま返してやりましょうか?」

 ビリビリ……俺とレシアの間に火花が散る。こんな会話も、出会ってからずっとであるが、未だに尽きない。不毛に過ぎる……。

 レシアは鎧を脱ぎながら、ため息混じりに言った。

「お嬢様の命令なのです……どうしてか、お嬢様もシールも私とお前を一緒にしたいようで」

 レシアは困惑しながらも毎度のことながらそれを受諾しているらしい。まあ、一部屋程度の距離なら俺やレシアにとって壁ですらないから……エルフィアに危害が及ぼされる前に対処はできる。

 しかし、と俺は妙な考察が頭を過ぎったためにポロっと口に出した。

「お嬢様とシールがか?それって……あいつらが一緒にいてぇだけなんじゃねぇか?」

 俺が何気なく言ったことに対し、一瞬だがレシアは……「あ、それありそう」みたいな顔をしたのだが直ぐに頭を振って否定する。

「二人とも自覚していないので、それはないと思いますが……」
「わっかんねぇぞ?俺たちがこうしている間、二人も一つの部屋に二人っきりだ……男と女、どうなるかはわかんだろ?」

 俺がベッドに大の字になって寝ると、レシアは鎧を脱ぎ終わったのか、鎧下に着ている薄手のインナー姿でベッドに腰掛け、桶のお湯に浸しておいた布 タオルで身体を拭う。

「どうなるか……?全く、なにを想像しているのですか?変態、いえ間違えました。ロア」
「悪意の塊みてぇな間違えかただな?おー?」

 なんなら、この女の脳内ではロア=変態などといったものが成立しているのではなかろうか。

 とはいえ、俺がなにを考えているのか考えた時点でこの女も同罪である。

「ガキじゃあるめぇし……んなくっだらねぇことで変態呼ばわりは納得いかねぇんだが?」

 ゴロンっと手で支柱を作ってそこに頭を乗せ、となりのベッドに腰掛けるレシアの方に寝転がりながら身体ごと向ける。

 レシアはふっと嘲笑を含んだ笑みを浮かべ、言った。

「では、変質者と」
「間違えたって言ってただろーが……」

 なんで認めた上に改名してんだよ。

 レシアは愉快そうにクスッと笑う。俺はムスッとしたけどな!

「ふふ……とはいえ、どういった意図があるかは全く分かりません。お嬢様のことですから、悪いことでもないでしょう」

 レシアがそう言いながら、視線でどっか行けと訴えてきたのでベッドから起き上がりながら答える。

「まあ、うちの大将は心優しいかんなぁ……」
「そうです……それより、早くしてください。身体を拭きたいのです」
「へいへい」

 これ以上いると、レシアに殴られるので俺はそそくさと部屋を出ていき、再び一階の酒場へと降りる。
 すると、何やら妙な盛り上がりを見せていた。

「なんだなんだ?」

 俺は楽しそうな店内に動揺しつつも、人集りの出来ているところまでいってみて……この騒々しさに納得した。

 酒場に集まっている人々は、あるテーブルの上で行われている戦いに盛り上がっているのだ。その戦いというのは、男達による仁義なき戦い……腕相撲だった。

「俺はブラーノに賭けるぜ!」
「俺はディースだ!」
「俺も俺も!」

 賭け事もされているようで、もの凄い盛り上がりだ。
 だが、それよりも俺が目を引かれたのは腕相撲をしている奴……二人いるうちの一人の方だ。

「がっはっはっはっ!次は貴殿がご相手かな?」
「おう!ぜってぇ勝つ!」

 おそらく、ブラーノとディースというのだろう。どっちがどっちか知らないが。

 とにかく、今笑った方……身体つきが尋常じゃない。服の上からでも分かるほど隆起した胸板に、何倍も肥大化した肩から腕の筋肉。まるで造形品を思い浮かべるかのような引き締まった腹を見れば、それがバッキバキに割れているのは当然だろう。

 短めな黒髪で、片目が閉じている……隻眼だった。
 身長も高く、言ってしまえば大男だ。とにかく、規格外な男であった。

「す、すんげぇ筋肉……」

 ふと、俺が溢した言葉が聞こえたのか大男が俺にチラッと目を向けてニッと笑った。
 それと同時に、腕相撲の開始の合図が掛けられた……だが、大男はなんの抵抗もなくグイッと対戦相手の腕を曲げ、テーブルに叩きつけた。

「いっ!?」
「がっはっはっはっ!鍛え方が甘いぞ?それでは、まだ我輩には勝てないな!がっはっはっはっ!」

 男の笑い声が店内に響く。賭け事で負けた奴は舌打ちを、勝った奴らは大喜びで大男の名前を叫ぶ。

「おぉ!さすがディースだぜ!ガッポガッポ!」

 なるほど、ディースというのか……俺は頷いて人集りの前へと躍り出る。

「さぁ、次の相手は……む?」

 ディースとやらは、俺が出てきたことで一瞬顔をしかめたが、直ぐに面白うに笑みをこぼした。

「がっはっはっはっ!今度は、貴殿かな?」
「おうよ!次は俺とやろうぜ?」

 俺は袖を捲り、腕を見せる。すると、周りの野次馬どもがどよめいた。

「お、おい…。服の上からじゃよく分からないが……」
「すげぇ、腕してるぞ……」

 ふっ……俺の自慢な弓を使うために鍛えたからな。腕力にはそこそこ自信があるのだ。

 だが、これをディースは驚かない。面白そうに笑うだけだ。

「がっはっはっはっ!いいじゃないか……やろう!」

 ディースの掛け声とともに、俺はテーブルの上に肘を乗っけた。

 周りでは賭け事が始まっている。勝ったら、俺も貰おう。こういう祭り事は面白いから好きだ。

「おっしゃ!いくぞオラァ!」
「ぬんっ!」

 合図とともに二人で腕に力を込めると、テーブルが軋み出した。

 ギシギシと音を立てているが、周りの喧騒で俺たちには聞こえない。

 というか、こいつ強い!?

 確かに凄い筋肉だが、腕力だけの奴ならば俺が負けるとは思えなかった。矢を自在にコントロールするために、俺は身体を鍛えてきたわけだが……何が言いたいかっていうと、要は身体の使い方。力を効率よく伝えるのが、肝であるわけだ。

 今俺は、腕力だけでなく全身の力を腕に伝えている。だが、ビクともしない。

「こんのぉ!!」
「むぅ……」

 歯を食いしばってググっと少しだけ押していく。

「やる……なっ!」
「てめぇ……こそっ!」

 ディースは再び押し返し、膠着状態が続く。このディースという男……ストリートファイターかと思ったが違う。腕力だけじゃなく、俺と同じで身体全身の力を腕に伝えている。 

 こんなにゴツいのに、弓使いなのかなぁ……んなんけねぇか。

「ぬんっ!」
「ぎゃっ!」

 ダンッと腕をテーブルに叩きつけられ、俺は無様な声を上げてしまった。周りは盛り上がりを見せている。

 全く、楽しそうで何よりだが……こっちは楽しくねぇ。俺はディースとやらを睨みつけながら、手をナデナデする。

「ちくしょう……てめぇ強いな」

 男は負けたら素直に負けを認めるもんだ……そして俺は相手への賞賛も忘れない。それが男というものだからだ。

 え?レシアとの戦いは……だと?あれはノーカン。女だし。

 ディースとやらとても愉快げに笑い、敗者の俺に賞賛の言葉を投げかけてくる。

「がっはっはっはっ!貴殿も中々……武道の心得があるのかね?」
「いんや、全然全くねぇよ。俺は弓使いだ」

 肩を竦めながら……しかし、俺は得意満面で答えるとディースは驚いたような声を上げる。

「ほう!弓使い……弓使いというと、魔法使いのように軟弱なイメージがあるものだが……貴殿は真逆であるな!」

 なんという偏見だ。

「たしかに、ナヨナヨしてる奴もいるがな……俺は違うぜ?俺は強いからな!」
「なるほど!強いからか!分かりやすくて何より!がっはっはっはっ!」
「がっはっはっはっ!」

 なんか俺も楽しくて笑ってしまった。気分がいい。同類の匂いがする。

 俺は一頻り笑った後に、ディースに言った。

「どうだ?これから少し飲まねぇか?なんか、てめぇとは気が合いそうな気がするわ」

 俺が親指で、空いている席を指して誘う。すると、ディースという大男は大きく頷いて言った。

「貴殿とは美味い酒が飲みかわせそうだ!」
「だな……あぁ、そうだ。名乗っとくか」

 俺は思い出して、名乗った。

「俺はロア・キース。弓使い」
「ロア殿か……良い名であるな」

 そう言って、奴は頷き……自信満々に名乗った。

「我輩は訳あって旅をしている武芸者、ディース・シュトロンガーである。よろしく頼むぞ!ロア殿」



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