最強は絶対、弓矢だろ!
いや、本気じゃねぇから
☆☆☆
ハンガーを縛り上げて暴力剣士が情報を引き出している間に俺は、シールとエルフィアに事情を訊きにいった。
エルフィアは、今の戦いの光景を見て気分が悪いのか道の真ん中で蹲っており、それをシールがどうするべきかオロオロしながら見ているだけだった。
ボケェ……。
俺はシールの尻を蹴り上げた。
「おいおい、そこは抱きしめてやるのが男だろーが」
「え?で、でも……お嬢様に勝手にお触れするなんて……」
などとシールは男にしてはあまりにもナヨナヨしたこと言う。男が女を気遣ってやるのに、そんなクソみたいな理由は必要ない。
「つべこべ言うなボケェ。ほれ、いけよ。お嬢様は女なんだぜ?怖かっただろーし……知った顔が近くにいた方が安心すんだろ」
俺が背中を押してやると、今度こそシールはお嬢様のところにいって……そして、数瞬躊躇ったので睨み付けると慌ててお嬢様の肩を抱いた。
「シール……ごめんなさい。私……」
「だ、大丈夫です……僕や……それにレシアが付いています」
そこは俺が付いてるから、だけでよかったろーが……なかなか締まらないが、まあ男らしくはある。いや、シールらしい……か。まだ会って間もないが、シールが優しい人間だってのは理解できている。
そんなシールだからこそ、口から出る言葉だったのだろう。
「んで、事情っての……訊いてもいいか?」
ある程度エルフィアが落ち着いた頃を見計らって、俺はシールとエルフィアに訊ねた。エルフィアはまだ気分が悪そうだが、先ほどよりも血色は良い。顔を上げ、へたり込みながらもエルフィアは俺に言った。
「……本当にいいの?ロアさんは、まだ今からでも間に合うんだよ?」
俺の質問に対して帰ってきたのは、そんな他人を気遣う言葉……。どいつもこいつも、他人のことばかり。優しさも度を越せば、お節介で――イライラする。
「いいっつってんだろ。あくしろよ」
「わ、分かった……まずは何から説明すれば……」
 
眉根を顰めてドスを利かせた声で催促すると、息を詰まらせたエルフィアがようやく事情を話そうとするが……何を話すべきかとお嬢様は迷っているみたいだ。そこに、シールが口を挟む。
「まずは、お嬢様のご身分から」
「そうね……うん」
「身分?貴族だろ?」
「うん……でも、ただの貴族じゃないの、私」
その言葉に、俺は首を傾げた。そして、俺の疑問に答えるようにエルフィアが口を開く。
「私は……エーテルバレー王国の第一王女なの」
「へぇー」
エーテルバレー王国……俺の村もそこの領地だ。ここらはエーテルバレー王国の真ん中辺りだったろうか……教養はないので、全部聞いた話だ。割と、どうでもいい。
「で?」
「でって……少しくらいは驚いて欲しかったような…」
「俺からしたら、王族とかずっと遠くの存在だかんな。実感わかねぇ」
「たしかに……僕みたいに城下に住んでいたらともかく……ロアからしたらそんなものなのかも」
シールが苦笑したので、エルフィアは困惑しながらも続けた。
「……エーテルバレー王国は、次期国王を決める時期でね?私にも王位継承権があるの……他には私のお兄様が二人いらっしゃって、私とお兄様達で次期国王の座を争っているの」
「ふぅん?なんか意外だな。エルフィアなら、んなもん自分から辞退しそうだが」
争いごと、好かなそうだし。実際そうなのだろう。だが、エルフィアは何か確固たる意志の篭った瞳で俺を見た。
「お兄様達が国王になってしまっては……大変なことになる……きっと。私はこの国が好きだから……壊させたくない。だから、私は王位継承争いに参加しているの」
「……へぇ」
今度のは生返事ではなく、どちらかといえば感嘆の息が漏れただけだった。ただのお嬢様ってわけじゃねぇのか……すげぇな。感心した。年の割に芯が、茎の部分がしっかりとしている。下地になった土壌が良いのか……咲いた花は思いの外綺麗だ。
俺がエルフィアの人格に対して素直に感心している間もエルフィアは続けて口を開く。
「それで、話を続けるけど……その王位継承争いの中、お父様が次期国王に就くことにある条件を……というより、目標かな?を、作ったの。これが達成できた者に王位を継承する……ってね」
俯き加減にエルフィアは述べたので、どんな表情かは知らないが……あまり良い顔はしていないだろう。争い事を好まなそうな……そんな姫様だから。……飽くまでも俺の第一印象での考察だけれども。
俺は肩を竦めつつ、率直に思ったことを口にした。
「ふぅん?あんまり、平和的じゃなそうだな」
「うん……まあ、そうだね……」
「その目標ってのは?」
俺が尋ねると、お嬢様は少しだけ間を空けてから答えた。
「伝説の武器の収集……」
「伝説の武器だぁ?なんだってそんなこと?」
俺は眉を顰め、なに絵空事を抜かしてるんだ?という意味を込めて訊ねる。エルフィアは答えにとても迷ったようにしてから口を利かせた。
「……お父様の真意は、私には分からない。でも、私は王になると決めたの。それで、伝説の武器の収集してるところで……」
迷った挙句に出てきたのは、少し言い訳じみたような……そんな内容の言葉だ。が、エルフィアを責めても何の意味もない。ただ……エルフィアという女は、自らの意思はしっかりと持っていても、自らの道を切り拓くことができない――その術を知らない人間なのだと、俺は改めてエルフィアについて考えてみた。
きっと……今まで誰かに用意されたレールの上で生きてきたのだろう。だからエルフィアは、現国王の意味不明な指示に従い、伝説の武器の収集を王子共も一緒になってやってるわけだ。
…………。
「ほぉー……まぁ、あとは大体話読めてきたわー。さっきのは、エルフィアと敵対してるお兄様方って奴の手下か?」
俺は頭の後ろをガシガシ掻きながら訊いた。
「うん……ハンガーは下のお兄様……第二王子の臣下の一人なの」
「第二王子に命令されて、エルフィア達を襲ってるっていうか……伝説の武器の収集をしてる感じだろな」
「う、うん。よくわかったね」
エルフィアは驚いたような顔をしていたが、そんな意外でもねぇだろ。
「ちっとばかし考えればわかんだろ。第二王子とやらは、手下にやらせてんのにお嬢様は自分で武器の収集をしてんだろ?見るからに……完全に人手不足じゃなぇか。むしろ、エルフィアのことなんて無視してもいいくらいだ。だが、奴らはエルフィア達を狙って襲ってきたんだろ?……てことは、てめぇらは武器をなんか手に入れたってわけだ」
簡単な考察……頭を巡らせれば辿り着く答えだ。それなのにエルフィアは再び驚いた顔をした。シールも同じ顔だ。
どんだけ驚いてんだ。
「う、うん……それがハンガーにバレて……」
「それで僕たち、王都に戻るところで襲われたんだ……。前の街でレシアがハンガー達を撒いたから、安心してたんだけど……」
等々……王都に戻ることがバレていれば、その道筋は必然的に絞られる。回り道されるくらいは容易に想像できるし、俺がハンガーなら同じ手を打った。
追うよりも待った方が獲物を捕らえ易いのは、狩と一緒だ。俺は全くやれやれと両手を上げて首を振り、二人に注意する。
「そりゃあ、油断しすぎたなぁ。…………まあ、大方の事情は分かったわ。今はこんなもんでいい……」
チラッと暴力剣士の方を見ると、背中に剣を戻してこっちにきていた。近くに、ハンガーの姿はない。
「終わったのかよ」
「えぇ、終わりました。それより……お前は本当に首を突っ込む気なのですか?」
俺の方が身長が高いからか、少し下から見上げられる。俺は、逆に暴力剣士を見下ろす形となっている。
「おうよ。もう、事情も大体把握したしな!王位継承争いがどうのこうのなんだろ?」
「それ、本当に理解できているのですか……」
怪訝な目を暴力剣士に向けられるが、問題ない。これでも理解力、頭の回転にはそこそこな自信がある。俺は胸を張って、自信満々に頷く。
「問題はねぇよ」
「本当に、お前が思っているほど甘いものではないのですよ?」
「わかってるっての……」
暴力剣士はしつこいくらいに注意を促してくる。俺はそれにイラッとしながらも、我慢して頷く。
「聞いたからには後戻りもできません。私が逃がしません」
「わあってる。だから、拳握るんじゃねぇよ!お前のマジで痛いんだっての!」
俺が本気で叫ぶと、暴力剣士はふっと笑ってから拳を引いた。それを見て、シールやエルフィアも表情を明るくさせた。
「えっと……これで、ロアさんも仲間ってことでいい……のかな?」
「おうよ!」
「信じてはいけませんよ、お嬢様。他の派閥の間者やもしれません」
「おーう?喧嘩売ってんのかこんにゃろう」
「ふっ……冗談ですよ。お前が間者だとしたら、もっと信用させようと動いていたでしょうから」
あぁ、シールとエルフィアの話か。もしかして、それで暴力剣士の警戒が薄れたのか?
「よろしくね。ロアさん……ロアさんがいてくれるの、とっても心強いよ」
「そうだね。さっき、見てたけどすごかったよ!ロアは、弓の名手かなにかなの?」
エルフィアとシールが俺の凄さに気が付いた。もっと褒めろよ。
いい気分だ。
「はっはっは!もっと褒めろよ」
「調子に乗らないでください。確かに、弓の腕は大したものでしょう……私は剣を得意としているので詳しくはありませんが、素人目に見ても」
「だろー?」
俺が鼻の穴を広げて調子こいて言ってやると、呆れたような目を暴力剣士に向けられた。
「とはいえ、私はお前よりももっと凄腕の弓使いを知っています。だから、世界を目指すにしても調子に乗らずに謙虚になって研鑽を重ねることです」
「あぁ!?俺よりもだと……バカ言うんじゃねぇ。おいおい?もしかして、あれが俺様の本気だとか思ってんじゃねぇたろうな!?」
俺は興奮しすぎて、思わず暴力剣士の肩を掴んで額をぶつける勢いで叫んだ。気づいたら、とんでもなく顔が近かった。
いや、そんなことはどうでもいい。顔が可愛いぐらいしか取り柄のなさそうな暴力剣士の顔が近いだけで、特に問題はないのだ。今は優先すべき問題がある。
「近い」
ごすっ
そんな鈍い音が俺の腹部から聞こえた。
「だから……てめぇ、手加減しろやボケェ……」
殴られた。
俺はそれで膝から崩れ落ちてノックダウン……腹を抱えた俺を見下ろす暴力剣士は、肩を竦めて面倒臭そうに答える。
「本気ではなかったとすれば、まあ……正直分かりませんね。しかし、その弓使い……かなりの腕ですよ」
「そ、そうか……どこのどいつだそいつは?」
「第一王子の側近です……だから、武器の収集をしていればいずれは会うでしょう」
「はぁん……」
あれだ。やっぱ、こいつらに付いていくという判断した俺は間違いではなかった。
俺が世界を目指す足掛かりとして、十分すぎる。
王位継承争い?いいじゃねぇか。丁度、退屈していたところだ。
ふっふっふっ……こりゃあ暫くは楽しめそうだなと、俺がほくそ笑んでいるとエルフィアが、俺と暴力剣士のやり取りに苦笑しながらも口を開いて訊ねてきた。
「ねえ?私達こと教えたんだし……今度はロアさんのこと教えて欲しいな?」
「そうだね」
「……」
エルフィアの言葉にシールが頷き、暴力剣士は無言だったが三人の視線が集まる。
なるほど、そんなに俺の武勇伝が聞きたいらしい。俺はふふーんと胸を張り、我ながら尊大な態度で口を開く。
「おうおう……聞かせてやるよ。まあ、とりあえず歩こうぜ?今日はさすがに街に着きたい」
うん……まあ、俺の武勇伝を聞かせるにしても街に着いてからでいいだろう。野宿は身体痛いし。寒いし、見張り面倒だし。
俺の提案に三人とも首を縦に振り、口々に言った。
「そうだね!」
「うん、それがいいね」
「……そうですね。というか、どうしてお前が仕切っているのですか?ここの指揮権はお嬢様にあります。それと、私達と行動を共にするのならばお嬢様に敬意を払いなさい」
暴力剣士が頷くついでに俺にそんなことを言ってきた。面倒くせぇよーこいつ……。
「へいへい、んじゃ行こうぜお嬢様ー」
「話、聞いていましたか?」
なんかしつこい暴力剣士は無視した。
ごちゃごちゃとうるさいもんだ。
俺達は、それからお互いのことを話した。三人のこと、そして俺のこと……そうしているうちに、日が傾き始めた頃には街へ到着した。
あれだ。誰かと旅するのも、もしかしたら悪くないかもしれない。
そう思った。
ハンガーを縛り上げて暴力剣士が情報を引き出している間に俺は、シールとエルフィアに事情を訊きにいった。
エルフィアは、今の戦いの光景を見て気分が悪いのか道の真ん中で蹲っており、それをシールがどうするべきかオロオロしながら見ているだけだった。
ボケェ……。
俺はシールの尻を蹴り上げた。
「おいおい、そこは抱きしめてやるのが男だろーが」
「え?で、でも……お嬢様に勝手にお触れするなんて……」
などとシールは男にしてはあまりにもナヨナヨしたこと言う。男が女を気遣ってやるのに、そんなクソみたいな理由は必要ない。
「つべこべ言うなボケェ。ほれ、いけよ。お嬢様は女なんだぜ?怖かっただろーし……知った顔が近くにいた方が安心すんだろ」
俺が背中を押してやると、今度こそシールはお嬢様のところにいって……そして、数瞬躊躇ったので睨み付けると慌ててお嬢様の肩を抱いた。
「シール……ごめんなさい。私……」
「だ、大丈夫です……僕や……それにレシアが付いています」
そこは俺が付いてるから、だけでよかったろーが……なかなか締まらないが、まあ男らしくはある。いや、シールらしい……か。まだ会って間もないが、シールが優しい人間だってのは理解できている。
そんなシールだからこそ、口から出る言葉だったのだろう。
「んで、事情っての……訊いてもいいか?」
ある程度エルフィアが落ち着いた頃を見計らって、俺はシールとエルフィアに訊ねた。エルフィアはまだ気分が悪そうだが、先ほどよりも血色は良い。顔を上げ、へたり込みながらもエルフィアは俺に言った。
「……本当にいいの?ロアさんは、まだ今からでも間に合うんだよ?」
俺の質問に対して帰ってきたのは、そんな他人を気遣う言葉……。どいつもこいつも、他人のことばかり。優しさも度を越せば、お節介で――イライラする。
「いいっつってんだろ。あくしろよ」
「わ、分かった……まずは何から説明すれば……」
 
眉根を顰めてドスを利かせた声で催促すると、息を詰まらせたエルフィアがようやく事情を話そうとするが……何を話すべきかとお嬢様は迷っているみたいだ。そこに、シールが口を挟む。
「まずは、お嬢様のご身分から」
「そうね……うん」
「身分?貴族だろ?」
「うん……でも、ただの貴族じゃないの、私」
その言葉に、俺は首を傾げた。そして、俺の疑問に答えるようにエルフィアが口を開く。
「私は……エーテルバレー王国の第一王女なの」
「へぇー」
エーテルバレー王国……俺の村もそこの領地だ。ここらはエーテルバレー王国の真ん中辺りだったろうか……教養はないので、全部聞いた話だ。割と、どうでもいい。
「で?」
「でって……少しくらいは驚いて欲しかったような…」
「俺からしたら、王族とかずっと遠くの存在だかんな。実感わかねぇ」
「たしかに……僕みたいに城下に住んでいたらともかく……ロアからしたらそんなものなのかも」
シールが苦笑したので、エルフィアは困惑しながらも続けた。
「……エーテルバレー王国は、次期国王を決める時期でね?私にも王位継承権があるの……他には私のお兄様が二人いらっしゃって、私とお兄様達で次期国王の座を争っているの」
「ふぅん?なんか意外だな。エルフィアなら、んなもん自分から辞退しそうだが」
争いごと、好かなそうだし。実際そうなのだろう。だが、エルフィアは何か確固たる意志の篭った瞳で俺を見た。
「お兄様達が国王になってしまっては……大変なことになる……きっと。私はこの国が好きだから……壊させたくない。だから、私は王位継承争いに参加しているの」
「……へぇ」
今度のは生返事ではなく、どちらかといえば感嘆の息が漏れただけだった。ただのお嬢様ってわけじゃねぇのか……すげぇな。感心した。年の割に芯が、茎の部分がしっかりとしている。下地になった土壌が良いのか……咲いた花は思いの外綺麗だ。
俺がエルフィアの人格に対して素直に感心している間もエルフィアは続けて口を開く。
「それで、話を続けるけど……その王位継承争いの中、お父様が次期国王に就くことにある条件を……というより、目標かな?を、作ったの。これが達成できた者に王位を継承する……ってね」
俯き加減にエルフィアは述べたので、どんな表情かは知らないが……あまり良い顔はしていないだろう。争い事を好まなそうな……そんな姫様だから。……飽くまでも俺の第一印象での考察だけれども。
俺は肩を竦めつつ、率直に思ったことを口にした。
「ふぅん?あんまり、平和的じゃなそうだな」
「うん……まあ、そうだね……」
「その目標ってのは?」
俺が尋ねると、お嬢様は少しだけ間を空けてから答えた。
「伝説の武器の収集……」
「伝説の武器だぁ?なんだってそんなこと?」
俺は眉を顰め、なに絵空事を抜かしてるんだ?という意味を込めて訊ねる。エルフィアは答えにとても迷ったようにしてから口を利かせた。
「……お父様の真意は、私には分からない。でも、私は王になると決めたの。それで、伝説の武器の収集してるところで……」
迷った挙句に出てきたのは、少し言い訳じみたような……そんな内容の言葉だ。が、エルフィアを責めても何の意味もない。ただ……エルフィアという女は、自らの意思はしっかりと持っていても、自らの道を切り拓くことができない――その術を知らない人間なのだと、俺は改めてエルフィアについて考えてみた。
きっと……今まで誰かに用意されたレールの上で生きてきたのだろう。だからエルフィアは、現国王の意味不明な指示に従い、伝説の武器の収集を王子共も一緒になってやってるわけだ。
…………。
「ほぉー……まぁ、あとは大体話読めてきたわー。さっきのは、エルフィアと敵対してるお兄様方って奴の手下か?」
俺は頭の後ろをガシガシ掻きながら訊いた。
「うん……ハンガーは下のお兄様……第二王子の臣下の一人なの」
「第二王子に命令されて、エルフィア達を襲ってるっていうか……伝説の武器の収集をしてる感じだろな」
「う、うん。よくわかったね」
エルフィアは驚いたような顔をしていたが、そんな意外でもねぇだろ。
「ちっとばかし考えればわかんだろ。第二王子とやらは、手下にやらせてんのにお嬢様は自分で武器の収集をしてんだろ?見るからに……完全に人手不足じゃなぇか。むしろ、エルフィアのことなんて無視してもいいくらいだ。だが、奴らはエルフィア達を狙って襲ってきたんだろ?……てことは、てめぇらは武器をなんか手に入れたってわけだ」
簡単な考察……頭を巡らせれば辿り着く答えだ。それなのにエルフィアは再び驚いた顔をした。シールも同じ顔だ。
どんだけ驚いてんだ。
「う、うん……それがハンガーにバレて……」
「それで僕たち、王都に戻るところで襲われたんだ……。前の街でレシアがハンガー達を撒いたから、安心してたんだけど……」
等々……王都に戻ることがバレていれば、その道筋は必然的に絞られる。回り道されるくらいは容易に想像できるし、俺がハンガーなら同じ手を打った。
追うよりも待った方が獲物を捕らえ易いのは、狩と一緒だ。俺は全くやれやれと両手を上げて首を振り、二人に注意する。
「そりゃあ、油断しすぎたなぁ。…………まあ、大方の事情は分かったわ。今はこんなもんでいい……」
チラッと暴力剣士の方を見ると、背中に剣を戻してこっちにきていた。近くに、ハンガーの姿はない。
「終わったのかよ」
「えぇ、終わりました。それより……お前は本当に首を突っ込む気なのですか?」
俺の方が身長が高いからか、少し下から見上げられる。俺は、逆に暴力剣士を見下ろす形となっている。
「おうよ。もう、事情も大体把握したしな!王位継承争いがどうのこうのなんだろ?」
「それ、本当に理解できているのですか……」
怪訝な目を暴力剣士に向けられるが、問題ない。これでも理解力、頭の回転にはそこそこな自信がある。俺は胸を張って、自信満々に頷く。
「問題はねぇよ」
「本当に、お前が思っているほど甘いものではないのですよ?」
「わかってるっての……」
暴力剣士はしつこいくらいに注意を促してくる。俺はそれにイラッとしながらも、我慢して頷く。
「聞いたからには後戻りもできません。私が逃がしません」
「わあってる。だから、拳握るんじゃねぇよ!お前のマジで痛いんだっての!」
俺が本気で叫ぶと、暴力剣士はふっと笑ってから拳を引いた。それを見て、シールやエルフィアも表情を明るくさせた。
「えっと……これで、ロアさんも仲間ってことでいい……のかな?」
「おうよ!」
「信じてはいけませんよ、お嬢様。他の派閥の間者やもしれません」
「おーう?喧嘩売ってんのかこんにゃろう」
「ふっ……冗談ですよ。お前が間者だとしたら、もっと信用させようと動いていたでしょうから」
あぁ、シールとエルフィアの話か。もしかして、それで暴力剣士の警戒が薄れたのか?
「よろしくね。ロアさん……ロアさんがいてくれるの、とっても心強いよ」
「そうだね。さっき、見てたけどすごかったよ!ロアは、弓の名手かなにかなの?」
エルフィアとシールが俺の凄さに気が付いた。もっと褒めろよ。
いい気分だ。
「はっはっは!もっと褒めろよ」
「調子に乗らないでください。確かに、弓の腕は大したものでしょう……私は剣を得意としているので詳しくはありませんが、素人目に見ても」
「だろー?」
俺が鼻の穴を広げて調子こいて言ってやると、呆れたような目を暴力剣士に向けられた。
「とはいえ、私はお前よりももっと凄腕の弓使いを知っています。だから、世界を目指すにしても調子に乗らずに謙虚になって研鑽を重ねることです」
「あぁ!?俺よりもだと……バカ言うんじゃねぇ。おいおい?もしかして、あれが俺様の本気だとか思ってんじゃねぇたろうな!?」
俺は興奮しすぎて、思わず暴力剣士の肩を掴んで額をぶつける勢いで叫んだ。気づいたら、とんでもなく顔が近かった。
いや、そんなことはどうでもいい。顔が可愛いぐらいしか取り柄のなさそうな暴力剣士の顔が近いだけで、特に問題はないのだ。今は優先すべき問題がある。
「近い」
ごすっ
そんな鈍い音が俺の腹部から聞こえた。
「だから……てめぇ、手加減しろやボケェ……」
殴られた。
俺はそれで膝から崩れ落ちてノックダウン……腹を抱えた俺を見下ろす暴力剣士は、肩を竦めて面倒臭そうに答える。
「本気ではなかったとすれば、まあ……正直分かりませんね。しかし、その弓使い……かなりの腕ですよ」
「そ、そうか……どこのどいつだそいつは?」
「第一王子の側近です……だから、武器の収集をしていればいずれは会うでしょう」
「はぁん……」
あれだ。やっぱ、こいつらに付いていくという判断した俺は間違いではなかった。
俺が世界を目指す足掛かりとして、十分すぎる。
王位継承争い?いいじゃねぇか。丁度、退屈していたところだ。
ふっふっふっ……こりゃあ暫くは楽しめそうだなと、俺がほくそ笑んでいるとエルフィアが、俺と暴力剣士のやり取りに苦笑しながらも口を開いて訊ねてきた。
「ねえ?私達こと教えたんだし……今度はロアさんのこと教えて欲しいな?」
「そうだね」
「……」
エルフィアの言葉にシールが頷き、暴力剣士は無言だったが三人の視線が集まる。
なるほど、そんなに俺の武勇伝が聞きたいらしい。俺はふふーんと胸を張り、我ながら尊大な態度で口を開く。
「おうおう……聞かせてやるよ。まあ、とりあえず歩こうぜ?今日はさすがに街に着きたい」
うん……まあ、俺の武勇伝を聞かせるにしても街に着いてからでいいだろう。野宿は身体痛いし。寒いし、見張り面倒だし。
俺の提案に三人とも首を縦に振り、口々に言った。
「そうだね!」
「うん、それがいいね」
「……そうですね。というか、どうしてお前が仕切っているのですか?ここの指揮権はお嬢様にあります。それと、私達と行動を共にするのならばお嬢様に敬意を払いなさい」
暴力剣士が頷くついでに俺にそんなことを言ってきた。面倒くせぇよーこいつ……。
「へいへい、んじゃ行こうぜお嬢様ー」
「話、聞いていましたか?」
なんかしつこい暴力剣士は無視した。
ごちゃごちゃとうるさいもんだ。
俺達は、それからお互いのことを話した。三人のこと、そして俺のこと……そうしているうちに、日が傾き始めた頃には街へ到着した。
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