最強は絶対、弓矢だろ!

矢追 参

いや、息ピッタリじゃねぇから

 ☆☆☆


 さらに俺たちは歩いた、とりあえず日が暮れる前には街に着きそうだった。もうすぐ尽きそうとはいえ……結局まだ歩かなければならないという事実は変わらないわけで、俺は疲れてようにボヤいた。

「はぁ……まだかねぇ」
「ちょっと、足裏が気持ちよくなって……」
「近寄るなよ?」
「じょ、冗談だって……ロア」
「うふふ。ロアさんとシール、すっかり仲良くなったね」

 まあ、昨日とかみたいな余所余所しい感じではなくなった。やはり、男同士だと色々と話も弾む。さらにいえば、シールは元々一般庶民で、貴族ではないのだ。俺も接していて気楽だ。

「暴言弓使いの口車に乗ってはいけませんよ」
「あ?」

暴力剣士がなんな突っかかってきたので、俺は喧嘩腰で暴力剣士を睨みつける。すると、何を勘違いしたのかエルフィアがクスクス笑いながら微笑ましいものを見る目で言った。

「二人もすっかり仲良しになって……」
「なってねぇよ」
「なってないです」
「ほら、息ピッタリ!」

 エルフィアは嬉しそうに言っている。なんだってんだよ……。まあ、確かにさっき会話してから少し態度が軟化した気がするが……この女の凶暴さに変化はない。

 マジで顔だけだな。

 いや、もしかしたら鎧の下は凄い身体つきをしているかもしれない。それはもう、ボンッキュッボンみたいな……あーでも、鍛えてるんだったか。なんか、筋肉で角ばってそう……ねぇわ。
 あ……?なんか、弓以外のことでこんなに考えたことってあったっけか……?

「はやく、街に着くといいね」
「そうですね」
「ですね」

 三人はそう言って、並んで歩く。俺は一歩二歩遅れて後を歩く。俺は部外者……たまたま居合わせてしまった赤の他人だ。だから、これは旅によくある出会いと別れの一節でしかないんだろう。

 とくに、寂しいとか悲しいとかはないけれど……暴力剣士に言った通り、何となく残念な気持ちになる。

 それからテレテレ歩いて、暫く……前方に多数の気配を感じた。

「あ?」
「……どうかしました?」
「前」
「……」

 俺が短く答えてやると、暴力剣士は前方に集中する。そして、ハッと顔を上げた。

「道の先に、何か……」
「何か?」

 シールが首をかしげると、道の先から多人数の足音が聞こえてきた。そして、そいつらが目視できる距離になってシールとエルフィア、それに暴力剣士も息を呑んだ。

「お前……ハンガー!」
「そんなっ」
「う、そ……」

 暴力剣士が言って、二人が愕然としている。
 前を見ると、武装した男どもか数十人……そしてその先頭に、リーダー格と思われる奴が一人。暴力剣士はこいつのことを見て、ハンガーと言っていた。

「おやおや、お嬢様方。ご機嫌麗しゅう……」
「っ……確かに撒いたはずですが?」
「レシア……わざとさ。撒いたと思わせたのだよ。こうやって回り込んで、捕まえるためにね」
「っ……」

 レシアが反射的に背中に手を回す。だが、ハンガーという男は鼻でそれを笑った。

「いくら、君でも武装した兵士をこれだけ相手にしてお嬢様を守れまい?」
「っ!」

 レシアの反応を見ると、厳しいらしい。そしてこの状況で、俺は思った。

 あ、巻き込まれたこれ。

「見ない顔もいるようだが?」

 と、ハンガーの興味がなんか知らんが俺に移った。

「全然全く関係ない赤の他人ですがなにか?」
「赤の他人?ふぅん?それで?」
「逃せ」
「「「……」」」

 敵味方問わず、半眼で見られた。なんやねん。俺は事実関係無いし、余計なことに首を突っ込むつもりはない。エルフィアとシールような面白いことには首を率先して突っ込むけど!

「清々しく最低ですね。暴言弓使い……しかも、逃せって」
「んだよ。実際、マジで俺無関係だぞ」
「そうです!ハンガー!この方は無関係だから……」

エルフィアは懇願するようにハンガーとか言う男に向かって叫んだ。そうだそうだ!もっと言ってやれ!と、俺も心中でエルフィアを応援した。

が、そんな応援も虚しくエルフィアの懇願はハンガーによって一蹴された。

「お嬢様、無理ですよ。あなた方に関わったせいで、ここで死ぬのです」
「そんなっ!?」
「あ?死ぬの?マジかよ。お前ら……殺されるくらいこのハンガーとかいうおっさんに恨み買ってんの?なにやったの?独身貴族とか言っちゃった?本当のことでもそれはアカンって……」

 俺はハンガーの顔を見る。中年だ。見た感じ中年で、なんか下衆っぽい。いかにも三下顔で、これは女なんてよりつかねぇわ……と思った。なによりも……と、俺はハンガーの頭を見て言ってやった。

「うん。女にモテなさそうな顔してるよな、おっさん……可哀想に。禿げだし」
「は、禿げっ!?」

 ハンガーは頬をひくつかせた。
 周りの奴らも愕然としていた。

「お、お前……」

 隣で暴力剣士が呆然と俺を見ている。なんだよ……ったく。

「ここまで来たら、無関係ってわけにもいかねぇだろ?こいつら片付けたら、色々と教えろや」
「え?お前……」
「ほれ、さっさとしろよ暴力剣士。あのおっさん、頭に血ぃ上ってやがる」

 ハンガーを見て、暴力剣士に言った。俺が言った通り、ハンガーは怒りを露わにしていた。もう、マジギレって感じだった。

「た、ただでは済まさんぞ?ガキィ」
「あ?ガキだとボケェ。もう成人しとるわ、禿げ」
「ぐっ!?一度ならず二度までも!お前たち!お嬢様以外は殺していい!いけっ!!」

 ハンガーの号令に、周りにいた奴らも動き出す。武器を構えて、クツクツと始まる蹂躙の時間に笑いながらにじり寄ってくる。

「ほれ、暴力剣士。お前は前衛だ。背中は任せろ。シールはお嬢様を守れよ」
「え?は、はい」
「ロア……さん?」

 シールもエルフィアも呆然としている。俺の行動が意外か?

 そうだ、俺の行動はおかしい。俺は無関係なのだ。ここで逃げ出しても、誰もなにも言わない。ハンガーも、本気で俺もろとも殺そうとは考えていなかったかもしれない。
 俺がこいつらを囮に逃げれば、俺は助かったはずなんだ。だが、俺は敢えてハンガーとかいう禿げを挑発した。
 まあ、特別な理由はない。格好つけたいとか、そんなんじゃない。
 村は出たはいいが、やることはなく、ただ漠然と世界で一番の弓の名手を目指すという目標だけがあった。だが、なにをすればいいのか分からなかった。これじゃあ、村にいるのと同じだと……。
 そこにちょうどよく面白そうな厄介ごとを持った奴らに会った。しかも、そこそこ良い奴らなのだ。そう……どうして残念に思っていたのか理解した。

こうやって出会った縁、いっそこいつらが面白い厄介事でも持っていればいいのにと……俺は無意識に願っていたのだ。

 これに関わらない手はない。

「くっくっくっ……てめぇらがなにやったのか知らねぇし、なんで狙われてんのか知らんけど。てめぇらを、俺が世界一だって証明する足掛かりにさせてもらうぜ」

 俺が言うと、意味が分からなかったのかシールとエルフィアは首をかしげて困惑していたが、暴力剣士だけは理解できたようで、呆れていた。

「お前……そんな下らない理由で……。お前が首を突っ込んだことは、そんな甘いものじゃないんですよ!?」
「うるせぇなぁ、怒鳴るんじゃねぇボケェ。お前らがデケェことやろうとするだけ、俺の目指すところにも近くなるだろ?」
「本当に……お前はなんと言うか……馬鹿ですよ」
「おうよ!もっと褒めていいぜ?」
「馬鹿言ってないで……来ますよ」
「言ってんのはてめぇだけどな」

 そんな軽口を叩きながら、暴力剣士が背中から両手剣を引き抜いて振り下ろした。

  ズンッ

 衝撃が走り、武装した男が一人……真っ二つに別れた。

「ひっ……」

 敵がそれで怯んだ。暴力剣士がそれを見逃すわけがなく、次へ次へと斬り伏せる。だが、少々数が多い……数十人全員が武装している状態では暴力剣士でも厳しいらしい。

「せあっ!!」

 スパンッと、首をはねる。そこで、暴力剣士が振り終わったところで、そこを狙われた。敵が、暴力剣士に向かって剣を振り下ろす。防御しようとしているが、間に合わない。

「そいっ」

 そこに俺がフォローを入れる。
 矢を放ち、剣を振り下ろそうとしていた奴の首を飛ばした。続いて、暴力剣士の周りにいる奴らの首も矢で飛ばす。

「っ……やりますね」
「てめぇもな」

 俺たちはそう言って、目を合わせる。不思議と、息が合う。

「くっ……お前たち!何をやってるんだ!」

 と、ハンガーの怒声が聞こえた。あぁ、そうだ。あいつも黙らせるか。

「そーい」

 ヒュンッと風を切って飛んだ矢が、ハンガーの鎧の継ぎ目……肩に刺さる。

「ぐおっ……!?」
「はいはいはいっと〜」

 さらに太腿、腕、胴と射抜く。

「ちょっと待ってろ、禿げ。おい、殺さねぇ方がいいんだろ?」
「はい。よくやりました」

 暴力剣士はザッと踏み込み、敵を数人いっぺんに切り倒す。その姿は、深層の姫とかじゃない。戦乙女といったところで、儚さはない。凛々しさと、美しさを感じた。
 それからは、蹂躙のお時間だった。
 暴力剣士が斬って、俺が射抜く。ただそれだけの作業だった。いつしか、敵は全ていなくなり、残ったのは痛みで呻いていたハンガーだけだった。

「さて、終わりですね」
「おうよ!いや〜久々にいい修練になったぁ!!」
「人を殺すのに慣れているのですか?随分とあっさりしていますが……」
「初めてじゃねぇなぁ。盗賊がたまにくるから、そいつらは基本ぶっ殺しだ」
「なるほど……」

 暴力剣士は納得したらしく、ハンガーに目を向けた。俺も見下ろしてから、暴力剣士に訊いた。

「で、どうすんの?これ」
「情報を吐き出させたら、逃します」

 そういった暴力剣士の顔を見て、嘘だなと確信した。ぶっ殺すな、絶対。随分と、このハンガーってやつに因縁があるみたいだし、容赦とか情は掛けないんだろうな。

「さて、ハンガー。色々と聞かせていただきますよ?」
「ぐぅ……」

 悔しそうなハンガーを見て、俺は……「禿げ」ともう一度言ってやった。


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