最強は絶対、弓矢だろ!
いや、顔だけだから
☆☆☆
翌朝、俺たちは道に沿って街を目指している。
「どうして付いてくるのですか?」
「それはこっちのセリフだボケェ」
どんな縁なのか知らないが……運が悪いことに、俺にしろ、こいつらにしろ目的地が同じだった。そのせいか、こうやって行動を共にすることになってしまった。誠に遺憾だ。
日はまだ浅いところであり、朝特有の肌寒さだ。俺は羽織っているマントを少し深く着込んでから不意に気が付いた。
「あ?そういえば、エルフィア……お前」
「え?なに?」
エルフィアの格好は、とても歩くのに適さない。靴もヒールだし、これは宜しくない。
まあ、もともと馬車の旅を予定していたのだから仕方のないことだろう。
俺はため息を吐いた。
「おい、シール」
「はい?」
ちょいちょいとシールを呼ぶ。
前を二人で、俺とシールが歩いており、後ろに女二人が並んで付いてきている。そのため、俺はシールの耳に寄って、小声で言った。
「おい、シール。てめぇ、気づいてるか?みろよ、エルフィアの格好」
「え?お嬢様の?」
シールはチラリと振り返って、そしてハッとしたように気付いたか。
「あ」
「気付いたか?なら、さっさとお嬢様と履いてるもん変えろや」
「は、はい!」
別に俺がやってもよかったが、見ず知らずの奴に靴なんて貸したなかなったし、裸足で歩くなんて嫌だ。当然である。俺様はスーパーこの上なく善人でお人好しだが、他人のために裸足で道を歩くような苦行を積んでやるほどではない。
「お嬢様!お気づきしなくて申し訳ありません!僕の靴をお使いください」
「え?でも、私は大丈夫だよ?」
「ダメですよ、お嬢様。ヒールだと暫く歩いたら絶対靴擦れしてしまいます。僕のは、嫌ですか?」
「そんな……それじゃあ、ありがたく使わせてもらうね?」
エルフィアは靴に履き替え、シールは靴下だけになった。
「なんだか、小石が気持ちいい……」
「そういう趣味か?近づくなよ?」
「違いますよ!」
そんな会話をしていると、暴力剣士から変な視線を感じた。まるで、驚いているような、感心しているような。まあ、気にしないことにした。
そんなやり取りをしながら、俺たちは歩いていく。とはいえ、エルフィアはマジのお嬢様だったようで結構休憩を挟まされた。いや、エルフィアだけじゃない。シールもだった。
しまいには休憩時間に寝やがる始末で、俺は仲良く並んでムニャムニャ寝てる二人に、さてどんな悪戯してやろうか思案した。
「なにしようとしてるんですか……」
「あぁ?悪戯」
「させるとでも?」
「んだよ、かってぇなぁ」
少し傾斜のあるところで、下が芝生になっている木陰で二人とも寝っ転がっている。随分と安心しきった顔をしているのは、この暴力剣士のおかげなのだろう。
「信頼されてんのな」
と言ったのだが、なにも返されなかった。
つくづく、愛想の悪い女だ。俺は頭をガシガシ掻きながら、間が持たせるために話題を振る。
「あーそういえば、聞きそびれたんだけどよ。お前ら、なんで急いでたんだ?」
あの時、あの馬車の速度は尋常じゃなかった。大体、想像のつくもんだが……。
俺が尋ねると、暴力剣士は今まで興味なさげに草原を眺めていたが……チラッと俺に目を向けた。
風に靡いた白銀の髪を抑える仕草は、どこか深層の姫を思わせる儚さがあった。
「そうしてると、口の悪さは気にならねぇな」
「それ、お前が言いますか?それと口を開いてなくては、生きていけないのですか?」
「おー?知る権利はあると思うんだが?」
「……なるほど」
俺の言うことに一理あったのか、暴力剣士は頷いた。
俺と暴力剣士は寝ている二人を挟んで、対称的に座っている。だが、そんなに離れてもいない。
そのせいか、妙に甘い匂いがする。暴力剣士でも、女は女ってことらしい。悔しいことに。
「聞かない方がいいと思います。巻き込まれますよ」
「訳ありか」
「そういうことです」
「暴力剣士の割に、心配とか気遣いはあんだな?」
「お前は……またそういうことを。お前、口は悪いですがそこまで悪い人間ではないようなので一応」
「は?なに、急に」
思わず、俺は聞いてしまった。完全に情けない質問ではあったが、暴力剣士は若干面白いように笑うだけで、それ以外に反応はしなかった。
「お嬢様のことに気づいていました」
「まあな。逆にお前らなんで気付かなかったの?主人だろ?」
「慣れていないのです……言い訳ですが」
「ホントそれ。言い訳、乙」
「……」
おっと、さすがにイラっとしたようです。
だが怒りを鎮めるように、ほっと一息ついてから口を開く。
「さっき、お前がお嬢様に靴を貸していればよかったのでは?信用させられたかもしれませんよ」
「あ?いるか、んなもん。大体、なんで俺が見ず知らずの人間に靴貸して直で歩かなきゃならねぇんだよ」
「その通りですね……。しかし、お嬢様は貴族です。お前は媚を売っておいて損はなかったのです。お前は頭が回らないわけでもないでしょう?それに気付かないなんてことはなかったはずです……本当に言葉遣いに似合わない男です。お前は」
暴力剣士はそう言って、薄く笑った。なんか、態度が軟化したような気がする。しかも、笑った顔が存外可愛かった。そんなことを考えてしまった。
なんだこいつ。
そうだ。顔は可愛いのだ。だから、騙されるな。これの本質は暴力剣士なのは変わりようもない。
「シールに任せたのも、シールのためでしょう?お前は察しがいいですね」
「あ?まあ、それは……」
シールに任せたのは、確かにあいつに花を持たせるためだったのは言うまでもない。シールとエルフィアの関係は、ただの御者とお嬢様というものじゃない。
「見れば、すぐ分かったわ。シールって、お嬢様のこと好きなんだろ?」
「そうです……会って間もないお前でも分かるくらいなのに、実は本人もお嬢様も自覚がないのです」
「マジか」
バカか。
「だって、シールのやつお嬢様のことばっか見てんだぜ?よくそんな……っかー」
「ふふっ……っ!」
思わずだったのか、暴力剣士は笑った。そしてすぐに思い出したように咳払いしたが、少し顔が赤い。思わず笑ってしまったのだろうが……残念ながら隠しても遅い。
「お前は……不思議な奴ですね」
「あ?」
「お嬢様も、シールも……昨日一日でだいぶお前のことを信用していました。だから、せめて私だけでも警戒していようと思っていたのに……」
「おぉー?なになに?心開いちゃうの?なに?ツンデレ?」
「殴りますよ?」
「ぶっ!?」
聞いておいて、この暴力剣士は殴ってきやがった。いや、殴ってから言わなかっただけ良心的かもしれない。
「ってーな!手加減って言葉しらねぇのか……」
「お前がふざけたことを言うからです……」
「へいへい……それより、シールとエルフィアのこと……このままでいいのか?」
「このまま?……それは、会ったばかりのお前に口出しされることではありません。二人には、二人のペースがあるのです」
「んなこといって、先送りにしてたらシールは無自覚なままだし、お嬢様も気付かないままだぜ?時には、周りの奴が背中押してやらねぇといけねぇんだよ。部外者の俺なら、やりやすいしな」
「お節介」
「うるせぇ」
いや、たしかにそうかもしれない。ただ、人の恋路というのは全くの他人のものでも胸が熱くなる。見ていて焦ったく思うこともあるし、面白いこともある。
それに、これは経験則もある……このままの関係を続けるのはよくないと思う。
「ま、いまはなんもいわねぇよ。つっても、街に着いたらお別れなんかね。そう思うと、なんだか残念だぜ」
「寂しいではなく?」
「あ?会ったばっかで何言ってんだ?」
「それもそうですね」
「だろ?」
同意するように暴力剣士は頷いた。その時、ガチャリと鎧が鳴ったので俺は何気なく尋ねた。
「その鎧、着てて重くねぇの?」
「問題ありません。鍛えているので」
「あっそ……脳筋みてぇだな」
「乙女に対して、失礼にも程があります」
「乙女?暴力剣士なのに?」
今度は何も言わずに殴られた!
翌朝、俺たちは道に沿って街を目指している。
「どうして付いてくるのですか?」
「それはこっちのセリフだボケェ」
どんな縁なのか知らないが……運が悪いことに、俺にしろ、こいつらにしろ目的地が同じだった。そのせいか、こうやって行動を共にすることになってしまった。誠に遺憾だ。
日はまだ浅いところであり、朝特有の肌寒さだ。俺は羽織っているマントを少し深く着込んでから不意に気が付いた。
「あ?そういえば、エルフィア……お前」
「え?なに?」
エルフィアの格好は、とても歩くのに適さない。靴もヒールだし、これは宜しくない。
まあ、もともと馬車の旅を予定していたのだから仕方のないことだろう。
俺はため息を吐いた。
「おい、シール」
「はい?」
ちょいちょいとシールを呼ぶ。
前を二人で、俺とシールが歩いており、後ろに女二人が並んで付いてきている。そのため、俺はシールの耳に寄って、小声で言った。
「おい、シール。てめぇ、気づいてるか?みろよ、エルフィアの格好」
「え?お嬢様の?」
シールはチラリと振り返って、そしてハッとしたように気付いたか。
「あ」
「気付いたか?なら、さっさとお嬢様と履いてるもん変えろや」
「は、はい!」
別に俺がやってもよかったが、見ず知らずの奴に靴なんて貸したなかなったし、裸足で歩くなんて嫌だ。当然である。俺様はスーパーこの上なく善人でお人好しだが、他人のために裸足で道を歩くような苦行を積んでやるほどではない。
「お嬢様!お気づきしなくて申し訳ありません!僕の靴をお使いください」
「え?でも、私は大丈夫だよ?」
「ダメですよ、お嬢様。ヒールだと暫く歩いたら絶対靴擦れしてしまいます。僕のは、嫌ですか?」
「そんな……それじゃあ、ありがたく使わせてもらうね?」
エルフィアは靴に履き替え、シールは靴下だけになった。
「なんだか、小石が気持ちいい……」
「そういう趣味か?近づくなよ?」
「違いますよ!」
そんな会話をしていると、暴力剣士から変な視線を感じた。まるで、驚いているような、感心しているような。まあ、気にしないことにした。
そんなやり取りをしながら、俺たちは歩いていく。とはいえ、エルフィアはマジのお嬢様だったようで結構休憩を挟まされた。いや、エルフィアだけじゃない。シールもだった。
しまいには休憩時間に寝やがる始末で、俺は仲良く並んでムニャムニャ寝てる二人に、さてどんな悪戯してやろうか思案した。
「なにしようとしてるんですか……」
「あぁ?悪戯」
「させるとでも?」
「んだよ、かってぇなぁ」
少し傾斜のあるところで、下が芝生になっている木陰で二人とも寝っ転がっている。随分と安心しきった顔をしているのは、この暴力剣士のおかげなのだろう。
「信頼されてんのな」
と言ったのだが、なにも返されなかった。
つくづく、愛想の悪い女だ。俺は頭をガシガシ掻きながら、間が持たせるために話題を振る。
「あーそういえば、聞きそびれたんだけどよ。お前ら、なんで急いでたんだ?」
あの時、あの馬車の速度は尋常じゃなかった。大体、想像のつくもんだが……。
俺が尋ねると、暴力剣士は今まで興味なさげに草原を眺めていたが……チラッと俺に目を向けた。
風に靡いた白銀の髪を抑える仕草は、どこか深層の姫を思わせる儚さがあった。
「そうしてると、口の悪さは気にならねぇな」
「それ、お前が言いますか?それと口を開いてなくては、生きていけないのですか?」
「おー?知る権利はあると思うんだが?」
「……なるほど」
俺の言うことに一理あったのか、暴力剣士は頷いた。
俺と暴力剣士は寝ている二人を挟んで、対称的に座っている。だが、そんなに離れてもいない。
そのせいか、妙に甘い匂いがする。暴力剣士でも、女は女ってことらしい。悔しいことに。
「聞かない方がいいと思います。巻き込まれますよ」
「訳ありか」
「そういうことです」
「暴力剣士の割に、心配とか気遣いはあんだな?」
「お前は……またそういうことを。お前、口は悪いですがそこまで悪い人間ではないようなので一応」
「は?なに、急に」
思わず、俺は聞いてしまった。完全に情けない質問ではあったが、暴力剣士は若干面白いように笑うだけで、それ以外に反応はしなかった。
「お嬢様のことに気づいていました」
「まあな。逆にお前らなんで気付かなかったの?主人だろ?」
「慣れていないのです……言い訳ですが」
「ホントそれ。言い訳、乙」
「……」
おっと、さすがにイラっとしたようです。
だが怒りを鎮めるように、ほっと一息ついてから口を開く。
「さっき、お前がお嬢様に靴を貸していればよかったのでは?信用させられたかもしれませんよ」
「あ?いるか、んなもん。大体、なんで俺が見ず知らずの人間に靴貸して直で歩かなきゃならねぇんだよ」
「その通りですね……。しかし、お嬢様は貴族です。お前は媚を売っておいて損はなかったのです。お前は頭が回らないわけでもないでしょう?それに気付かないなんてことはなかったはずです……本当に言葉遣いに似合わない男です。お前は」
暴力剣士はそう言って、薄く笑った。なんか、態度が軟化したような気がする。しかも、笑った顔が存外可愛かった。そんなことを考えてしまった。
なんだこいつ。
そうだ。顔は可愛いのだ。だから、騙されるな。これの本質は暴力剣士なのは変わりようもない。
「シールに任せたのも、シールのためでしょう?お前は察しがいいですね」
「あ?まあ、それは……」
シールに任せたのは、確かにあいつに花を持たせるためだったのは言うまでもない。シールとエルフィアの関係は、ただの御者とお嬢様というものじゃない。
「見れば、すぐ分かったわ。シールって、お嬢様のこと好きなんだろ?」
「そうです……会って間もないお前でも分かるくらいなのに、実は本人もお嬢様も自覚がないのです」
「マジか」
バカか。
「だって、シールのやつお嬢様のことばっか見てんだぜ?よくそんな……っかー」
「ふふっ……っ!」
思わずだったのか、暴力剣士は笑った。そしてすぐに思い出したように咳払いしたが、少し顔が赤い。思わず笑ってしまったのだろうが……残念ながら隠しても遅い。
「お前は……不思議な奴ですね」
「あ?」
「お嬢様も、シールも……昨日一日でだいぶお前のことを信用していました。だから、せめて私だけでも警戒していようと思っていたのに……」
「おぉー?なになに?心開いちゃうの?なに?ツンデレ?」
「殴りますよ?」
「ぶっ!?」
聞いておいて、この暴力剣士は殴ってきやがった。いや、殴ってから言わなかっただけ良心的かもしれない。
「ってーな!手加減って言葉しらねぇのか……」
「お前がふざけたことを言うからです……」
「へいへい……それより、シールとエルフィアのこと……このままでいいのか?」
「このまま?……それは、会ったばかりのお前に口出しされることではありません。二人には、二人のペースがあるのです」
「んなこといって、先送りにしてたらシールは無自覚なままだし、お嬢様も気付かないままだぜ?時には、周りの奴が背中押してやらねぇといけねぇんだよ。部外者の俺なら、やりやすいしな」
「お節介」
「うるせぇ」
いや、たしかにそうかもしれない。ただ、人の恋路というのは全くの他人のものでも胸が熱くなる。見ていて焦ったく思うこともあるし、面白いこともある。
それに、これは経験則もある……このままの関係を続けるのはよくないと思う。
「ま、いまはなんもいわねぇよ。つっても、街に着いたらお別れなんかね。そう思うと、なんだか残念だぜ」
「寂しいではなく?」
「あ?会ったばっかで何言ってんだ?」
「それもそうですね」
「だろ?」
同意するように暴力剣士は頷いた。その時、ガチャリと鎧が鳴ったので俺は何気なく尋ねた。
「その鎧、着てて重くねぇの?」
「問題ありません。鍛えているので」
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