苦しみを隠すのはマスクと帽子と眼鏡
苦しみを隠すのはマスクと帽子と眼鏡
私は元々懸賞運には恵まれている。
と言うよりも、当たるように努力する。
葉書を丁寧に書き、必ずメッセージを一言添える。
凝りすぎてもいけないものの、シールを貼ったり、特にここをこうしてほしいと記載するときには、ペンで線を引く。
そうして、送ると当たる。
それでいいじゃないかと思うかもしれない。
しかし、当選したもののほとんどは、母が兄一家にあげてしまい、せっかく手に入れた、可愛いキャラクターの土鍋も、LAWSONのお皿も全部持っていかれる。
その上、貧乏神に気に入られていて財布がすっからかん。
それなのに、懸賞で当てて、仕舞い込んでいたものはいつの間にか消えていて、気に入っていた次のシーズンに着るぞ!!と思っていたシャツは弟の仕事着となり、ぬいぐるみは兄の子供たちが持って帰っている。
又か……と、諦める。
まだ価値のある、シュタイフ社のテディベアを持って帰られるよりもまし。
でもお気に入りだった亀の抱きクッションは、いつの間にか姪の元に。他にもいくつも解らないほどあげているが、兄の家にいくと、
「あぁ、あれ?もうボロボロだったから捨てたんよ。私、玻璃ちゃんほど器用じゃないし。破れとってね?綿が出てたから」
兄嫁のその言葉に、本当に悔やむ。
私の気に入っていたぬいぐるみだった。
それなのに、絶対に大事にするから欲しいと言い張り持って帰ったものだった。
何で、どうして一言、
「ぬいぐるみの綿が出てしもたんよ?お気に入りだったから良かったら繕ってくれない?」
と、言ってくれるだけでも、実家にでもいい、置いて帰ってくれるだけでもしてくれたら、繕うのに……。
それに最近のぬいぐるみは、洗濯機で洗濯もできる。
ネットに入れて、柔軟剤入りの、おしゃれ着洗いの洗剤で優しく洗うを選択するだけで本当にきれいになる。
洗濯機不可の場合の、何かを持っているようなぬいぐるみは少し手間はかかるが、ぬいぐるみ専用の洗剤ではなくてもいい、普通の洗剤を泡立て、泡を清潔にした古い歯ブラシですくい、汚れた部分を泡で軽く擦り、とんとんときれいなタオルで叩き…を繰り返すと、ほとんどの汚れがとれる。
その後、気になるようなら、固く絞ったタオルで全体を丁寧に拭いてあげて、日陰の風のとおる所で置いておくと、なおいい。
ごしごしと乱暴にしなければ、ぬいぐるみは見違えるようにきれいになるし、繕うだけでもそれで喜ぶのだ。
それなのに…心はうずく。
今度兄の家に行くことになっている。
飲み会に行こうと誘われたのだ。
それと、甥と姪と約束したぬいぐるみ作りが待っている。
まだ小学生の低学年と保育園児には縫うのは難しい。
なので、キットを縫っておいて、あと綿つめと全部終わったあとに、リボンを結ぶ予定である。
そのキットは私が購入し、綿なども私が準備する。兄たちが準備するわけがない。
私は、元々そんなに余裕のない生活をしている。
それなのに、
「ねえ!!玻璃ちゃん。今度飲み会いかん?前に行ったところ」
「う、う~ん、今度ね」
「うちに泊まれば良いし、楽しく話そうやぁ」
と先日兄嫁から電話があり、曖昧に流し電話を切った。
すると即、兄から電話が入る。
「何月何日。何時に市駅を出る電車で、家の近くの駅で降りて待っとれ。迎えに行ってやるけん」
と言っても、その駅から兄の家はそんなに遠くない。私の家から最寄り駅よりも近い位だ。
「良いよ。歩いていくし」
恩を売るような言葉がうざったくなり、反抗するが、兄はいつものように、
「言うこと聞け!!来いよ」
と電話は切れる。
はなっから私の話を聞こうとしない。こういう人だ、兄は。
ため息をつき、財布を探る…薄い財布のなかに、一応隠しておいた一万円を出して、
「半分、電車代に入れると、駄目だなぁ……でも、高いんだよなぁ……。迎えに来てくれないし……それに、飲み会代は割勘で、甥姪の分も一部払うからこれだけ……。他に、兄貴の家へのお土産と……下に住んでいる、兄嫁さんのご両親にお土産……お父さんは甘いものが駄目で、お酒でしょ?そうするとお母さんにはお菓子が良いよね……」
はぁぁ……俯き、項垂れる。
「実家の方が最近ようやく、お中元やお歳暮出すようになったけど……何で、毎回こんな風に考えてるのに、迎えに来てくれないんだろう。まぁ……遠いんだろうけど、水を汲むんだって近くまで来てるのに……迎えに来てくれたって良いじゃない……交通費が1500円だよ……あり得ないし」
いいながら、財布のなかに残っている小銭とかを確認して大丈夫だとホッとする。
しかし、気持ちは重い。
何で、兄嫁が来てねと言ってくれただけで、大丈夫なのに、わざわざ兄貴が念を押してくるんだろう。
自分を一体なんだと思っているんだろう?
いくらストレスが溜まっていても、兄貴の言い方が重く感じる。
恩を押し売りされているような気がする。
兄には悪気はないのは、私が生まれた年の数でわかる。
でも、解るのと、納得するのは違うのだ。
当日、準備した荷物を抱え、電車に乗る。そして駅で待っていると、
「なんぞ?  それ」
兄の声に、
「あぁ、にーちゃんきたの?ありがとう。ん?荷物だよ」
「荷物はわかっとらい。それよりも、何でそんなにあるんぞ?  」
「お土産。後ろ開けて、乗せるから」
開けてもらい、乗せて、自分は甥姪が座っていない席につく。
「あぁ、重かった」
「なにもってきたんぞ」
「ん?お父さんはお酒に、お母さんたちのお菓子。兄ちゃん家には日用品。で、二人には後でね」
そう告げ、到着して、お土産を渡したあと兄の家に入る。
階段を登り、一息つくと、二人にお土産を渡す。
わぁぁ!!と袋の中身を広げる二人に、兄貴が、
「いつもありがとうな」
「良いよ良いよ」
「本当に助かるわ」
と、持ってきたティッシュペーパー等が消えていく。
あれだけ重い思いをしたものが、消えて清々するよりも空しくなる。
私は、買ったばかりの目覚まし時計を点検して、使えるかどうか格闘していた。
機械音痴であり、破壊魔ではないが、一日で炊飯器を壊した母のこともある慎重に……小さい時計だから……と、していると、兄嫁が戻ってきた。
「わぁぁ……久しぶり~!!玻璃ちゃん」
「お邪魔してます~元気そうでよかった」
とテーブルの向かいに座り、話し始める。
甥っ子のこと、今度小学生になること、姪のおてんばぶり、そして…、
「ちょっと、トイレ行ってくる」
動き出したのを確認した時計を置いて、行って戻ると、時計が、箱ごとなくなっていた。
一瞬呆然とし、見回すと、棚に今まであったもののように置かれ、箱は兄が処分していた。
「……」
目をそらす……何も考えてはいけない。怒っても解ってくれない。置いておいた私が悪いんだ。
心の中で言い聞かせ、口を開く。
「仕事どうだった?」
「うん、まぁまぁよ」
「そうなん?大変やねぇ。無理せられんよ?」
言いながら、心の中で、自分の持ってきたものの存在を消す……違う、紙に×印を着けるように、心のナイフで切り裂くのだ。
痛くない……心の中を切り裂いても、血も出ないし、もう、幾つも器用な裁縫の腕で繕ったつぎはぎの心だ、何度でも修復できる。
出来なければ、もう、破壊すればいい。心の中に自爆装置を仕掛けてある。ある台詞を聞くと、スイッチが入る。そしてそのまま、壊れればいいだけだ。
怖くなどない。逆に怖いのは無視、狭い空間で追い詰められて、遠いところまで車でつれられていく間に、いつまでどこまで話が続けられるのか解らないほど吐かれる侮蔑と屈辱の言葉の数々。そして、性的虐待に比べたらまだましだ……。
作り笑いを隠すためにマスクをして、帽子を深くかぶり、人に触れられるのが怖いため一年中長袖で通す。
化粧なんか……もう怖くてできない。
自分の顔の美醜、服の趣味あれこれ言われたくないから買うときは長袖。しかもボロボロくたくたになっても着ているので、友人たちが、引っ越しの時に譲ってくれたり、兄嫁もくれた。
それと、大伯母が亡くなったとき遺品整理で貰ってきたコートを着る。
自分が醜いこと、馬鹿なこと、資格を持っていないこと、何にも出来ないくせに、言うことを聞け、ここで服を脱げと命令する言葉は、『言の葉』ではなく『言の刃』である……次から次にけなすその口を、私を追い詰め、萎縮する姿を満足げに見ていた男の事を思い出すと頭がうずき、めまいに吐き気がする。
「で、どうするの?」
「何が?」
一瞬、言われた言葉に首をかしげる。
「結婚せんの?あの頃は忙しかったから別れたんやろうけど、もう10年だよ?いい人見つけないの?ほら、あの……」
「はぁ?先輩は、彼女さんいるよ?それに私の友人は、結婚とは関係ないし、そういう風に見てないから。お互い」
「えぇぇぇ!?そうなん?うちの子達、従姉妹が欲しいって言ってるよ~?」
「諦めて。と言うか、結婚相手いないから。子供も生むつもりないし」
性的虐待を強いるような人間に、傷つけられた部分はうずく。
「それにね?もう、うちの体は薬で生きてるようなもの。薬やめたら心が壊れる。薬飲みながら妊娠って、子供にどうするの……考えてない訳じゃなくて、そこまで考えたんだよ。解ってくれない?」
「う~ん……残念だなぁ……。やっぱりあの……」
「それよりも、あの、二人の従姉妹の子は元気?お土産持ってきてるんだけど」
話をそらす。
「あぁ。うんうん。元気元気。お土産って?」
「クリスマスには早いけど、プレゼントって、渡してあげてね?これくらいしかできんけど……」
いや、心の中ではこれくらいしている……けれど、
「わかった。渡しとこうわい」
お礼がないこと、自覚している。
そして、向こうからもないことも知っている。
それでも送り続けるその自分の偽善者ぶりに、腹黒の仮面を隠して目を伏せる。
この心の中で思っていることをぶちまけてしまえたらどんなにいいだろう……。
『大嫌いだ!!大嫌いだ!!私を金を出す銀行のATMだとでも思っているのか!?このバカ兄貴!!』
『それに、さらっと、人の持ち物を持って帰ったり、聞かずに取り上げるな!!それに勝手に、持って帰った私の子供のように可愛がっていたぬいぐるみを、捨てるな!!』
『ゲームセンターにいきたい~!!ゲームセンター!!はりなが連れていってくれるって、パパが言ったよ!!連れてって!!って、いい加減なことをいうな!!何で小学生が、叔母にたかるんだ!!』
『あれ!あれほしい!!あーれー!!亀さん。ちょうだい!!大事にするから!!嘘をつけ!!ボロボロにして、捨ててしまうくせに!!私の、大事なぬいぐるみだったのに!!』
次々にこだまする声、ねだるというよりも、もう、もらう気満々である。
何で?私は何のために生きているんだろう……何のために、この生活をしているのだろう……。
疲れた……疲れた……。
眠りたい。心の悲鳴は聞いたら苦しみが増す。
私は、愛も、気持ちも、心も、もらえる側ではないから……全て与えるだけ、奪われる側だから……一生、こういう生活が続くのだろう。
もう疲れた。眠りたい……。
永遠の夢の中で……。
目を閉じて、耳を塞いで、口を閉ざし……私は子供たちと、ゆりかごの中で眠るつもりだ……。
と言うよりも、当たるように努力する。
葉書を丁寧に書き、必ずメッセージを一言添える。
凝りすぎてもいけないものの、シールを貼ったり、特にここをこうしてほしいと記載するときには、ペンで線を引く。
そうして、送ると当たる。
それでいいじゃないかと思うかもしれない。
しかし、当選したもののほとんどは、母が兄一家にあげてしまい、せっかく手に入れた、可愛いキャラクターの土鍋も、LAWSONのお皿も全部持っていかれる。
その上、貧乏神に気に入られていて財布がすっからかん。
それなのに、懸賞で当てて、仕舞い込んでいたものはいつの間にか消えていて、気に入っていた次のシーズンに着るぞ!!と思っていたシャツは弟の仕事着となり、ぬいぐるみは兄の子供たちが持って帰っている。
又か……と、諦める。
まだ価値のある、シュタイフ社のテディベアを持って帰られるよりもまし。
でもお気に入りだった亀の抱きクッションは、いつの間にか姪の元に。他にもいくつも解らないほどあげているが、兄の家にいくと、
「あぁ、あれ?もうボロボロだったから捨てたんよ。私、玻璃ちゃんほど器用じゃないし。破れとってね?綿が出てたから」
兄嫁のその言葉に、本当に悔やむ。
私の気に入っていたぬいぐるみだった。
それなのに、絶対に大事にするから欲しいと言い張り持って帰ったものだった。
何で、どうして一言、
「ぬいぐるみの綿が出てしもたんよ?お気に入りだったから良かったら繕ってくれない?」
と、言ってくれるだけでも、実家にでもいい、置いて帰ってくれるだけでもしてくれたら、繕うのに……。
それに最近のぬいぐるみは、洗濯機で洗濯もできる。
ネットに入れて、柔軟剤入りの、おしゃれ着洗いの洗剤で優しく洗うを選択するだけで本当にきれいになる。
洗濯機不可の場合の、何かを持っているようなぬいぐるみは少し手間はかかるが、ぬいぐるみ専用の洗剤ではなくてもいい、普通の洗剤を泡立て、泡を清潔にした古い歯ブラシですくい、汚れた部分を泡で軽く擦り、とんとんときれいなタオルで叩き…を繰り返すと、ほとんどの汚れがとれる。
その後、気になるようなら、固く絞ったタオルで全体を丁寧に拭いてあげて、日陰の風のとおる所で置いておくと、なおいい。
ごしごしと乱暴にしなければ、ぬいぐるみは見違えるようにきれいになるし、繕うだけでもそれで喜ぶのだ。
それなのに…心はうずく。
今度兄の家に行くことになっている。
飲み会に行こうと誘われたのだ。
それと、甥と姪と約束したぬいぐるみ作りが待っている。
まだ小学生の低学年と保育園児には縫うのは難しい。
なので、キットを縫っておいて、あと綿つめと全部終わったあとに、リボンを結ぶ予定である。
そのキットは私が購入し、綿なども私が準備する。兄たちが準備するわけがない。
私は、元々そんなに余裕のない生活をしている。
それなのに、
「ねえ!!玻璃ちゃん。今度飲み会いかん?前に行ったところ」
「う、う~ん、今度ね」
「うちに泊まれば良いし、楽しく話そうやぁ」
と先日兄嫁から電話があり、曖昧に流し電話を切った。
すると即、兄から電話が入る。
「何月何日。何時に市駅を出る電車で、家の近くの駅で降りて待っとれ。迎えに行ってやるけん」
と言っても、その駅から兄の家はそんなに遠くない。私の家から最寄り駅よりも近い位だ。
「良いよ。歩いていくし」
恩を売るような言葉がうざったくなり、反抗するが、兄はいつものように、
「言うこと聞け!!来いよ」
と電話は切れる。
はなっから私の話を聞こうとしない。こういう人だ、兄は。
ため息をつき、財布を探る…薄い財布のなかに、一応隠しておいた一万円を出して、
「半分、電車代に入れると、駄目だなぁ……でも、高いんだよなぁ……。迎えに来てくれないし……それに、飲み会代は割勘で、甥姪の分も一部払うからこれだけ……。他に、兄貴の家へのお土産と……下に住んでいる、兄嫁さんのご両親にお土産……お父さんは甘いものが駄目で、お酒でしょ?そうするとお母さんにはお菓子が良いよね……」
はぁぁ……俯き、項垂れる。
「実家の方が最近ようやく、お中元やお歳暮出すようになったけど……何で、毎回こんな風に考えてるのに、迎えに来てくれないんだろう。まぁ……遠いんだろうけど、水を汲むんだって近くまで来てるのに……迎えに来てくれたって良いじゃない……交通費が1500円だよ……あり得ないし」
いいながら、財布のなかに残っている小銭とかを確認して大丈夫だとホッとする。
しかし、気持ちは重い。
何で、兄嫁が来てねと言ってくれただけで、大丈夫なのに、わざわざ兄貴が念を押してくるんだろう。
自分を一体なんだと思っているんだろう?
いくらストレスが溜まっていても、兄貴の言い方が重く感じる。
恩を押し売りされているような気がする。
兄には悪気はないのは、私が生まれた年の数でわかる。
でも、解るのと、納得するのは違うのだ。
当日、準備した荷物を抱え、電車に乗る。そして駅で待っていると、
「なんぞ?  それ」
兄の声に、
「あぁ、にーちゃんきたの?ありがとう。ん?荷物だよ」
「荷物はわかっとらい。それよりも、何でそんなにあるんぞ?  」
「お土産。後ろ開けて、乗せるから」
開けてもらい、乗せて、自分は甥姪が座っていない席につく。
「あぁ、重かった」
「なにもってきたんぞ」
「ん?お父さんはお酒に、お母さんたちのお菓子。兄ちゃん家には日用品。で、二人には後でね」
そう告げ、到着して、お土産を渡したあと兄の家に入る。
階段を登り、一息つくと、二人にお土産を渡す。
わぁぁ!!と袋の中身を広げる二人に、兄貴が、
「いつもありがとうな」
「良いよ良いよ」
「本当に助かるわ」
と、持ってきたティッシュペーパー等が消えていく。
あれだけ重い思いをしたものが、消えて清々するよりも空しくなる。
私は、買ったばかりの目覚まし時計を点検して、使えるかどうか格闘していた。
機械音痴であり、破壊魔ではないが、一日で炊飯器を壊した母のこともある慎重に……小さい時計だから……と、していると、兄嫁が戻ってきた。
「わぁぁ……久しぶり~!!玻璃ちゃん」
「お邪魔してます~元気そうでよかった」
とテーブルの向かいに座り、話し始める。
甥っ子のこと、今度小学生になること、姪のおてんばぶり、そして…、
「ちょっと、トイレ行ってくる」
動き出したのを確認した時計を置いて、行って戻ると、時計が、箱ごとなくなっていた。
一瞬呆然とし、見回すと、棚に今まであったもののように置かれ、箱は兄が処分していた。
「……」
目をそらす……何も考えてはいけない。怒っても解ってくれない。置いておいた私が悪いんだ。
心の中で言い聞かせ、口を開く。
「仕事どうだった?」
「うん、まぁまぁよ」
「そうなん?大変やねぇ。無理せられんよ?」
言いながら、心の中で、自分の持ってきたものの存在を消す……違う、紙に×印を着けるように、心のナイフで切り裂くのだ。
痛くない……心の中を切り裂いても、血も出ないし、もう、幾つも器用な裁縫の腕で繕ったつぎはぎの心だ、何度でも修復できる。
出来なければ、もう、破壊すればいい。心の中に自爆装置を仕掛けてある。ある台詞を聞くと、スイッチが入る。そしてそのまま、壊れればいいだけだ。
怖くなどない。逆に怖いのは無視、狭い空間で追い詰められて、遠いところまで車でつれられていく間に、いつまでどこまで話が続けられるのか解らないほど吐かれる侮蔑と屈辱の言葉の数々。そして、性的虐待に比べたらまだましだ……。
作り笑いを隠すためにマスクをして、帽子を深くかぶり、人に触れられるのが怖いため一年中長袖で通す。
化粧なんか……もう怖くてできない。
自分の顔の美醜、服の趣味あれこれ言われたくないから買うときは長袖。しかもボロボロくたくたになっても着ているので、友人たちが、引っ越しの時に譲ってくれたり、兄嫁もくれた。
それと、大伯母が亡くなったとき遺品整理で貰ってきたコートを着る。
自分が醜いこと、馬鹿なこと、資格を持っていないこと、何にも出来ないくせに、言うことを聞け、ここで服を脱げと命令する言葉は、『言の葉』ではなく『言の刃』である……次から次にけなすその口を、私を追い詰め、萎縮する姿を満足げに見ていた男の事を思い出すと頭がうずき、めまいに吐き気がする。
「で、どうするの?」
「何が?」
一瞬、言われた言葉に首をかしげる。
「結婚せんの?あの頃は忙しかったから別れたんやろうけど、もう10年だよ?いい人見つけないの?ほら、あの……」
「はぁ?先輩は、彼女さんいるよ?それに私の友人は、結婚とは関係ないし、そういう風に見てないから。お互い」
「えぇぇぇ!?そうなん?うちの子達、従姉妹が欲しいって言ってるよ~?」
「諦めて。と言うか、結婚相手いないから。子供も生むつもりないし」
性的虐待を強いるような人間に、傷つけられた部分はうずく。
「それにね?もう、うちの体は薬で生きてるようなもの。薬やめたら心が壊れる。薬飲みながら妊娠って、子供にどうするの……考えてない訳じゃなくて、そこまで考えたんだよ。解ってくれない?」
「う~ん……残念だなぁ……。やっぱりあの……」
「それよりも、あの、二人の従姉妹の子は元気?お土産持ってきてるんだけど」
話をそらす。
「あぁ。うんうん。元気元気。お土産って?」
「クリスマスには早いけど、プレゼントって、渡してあげてね?これくらいしかできんけど……」
いや、心の中ではこれくらいしている……けれど、
「わかった。渡しとこうわい」
お礼がないこと、自覚している。
そして、向こうからもないことも知っている。
それでも送り続けるその自分の偽善者ぶりに、腹黒の仮面を隠して目を伏せる。
この心の中で思っていることをぶちまけてしまえたらどんなにいいだろう……。
『大嫌いだ!!大嫌いだ!!私を金を出す銀行のATMだとでも思っているのか!?このバカ兄貴!!』
『それに、さらっと、人の持ち物を持って帰ったり、聞かずに取り上げるな!!それに勝手に、持って帰った私の子供のように可愛がっていたぬいぐるみを、捨てるな!!』
『ゲームセンターにいきたい~!!ゲームセンター!!はりなが連れていってくれるって、パパが言ったよ!!連れてって!!って、いい加減なことをいうな!!何で小学生が、叔母にたかるんだ!!』
『あれ!あれほしい!!あーれー!!亀さん。ちょうだい!!大事にするから!!嘘をつけ!!ボロボロにして、捨ててしまうくせに!!私の、大事なぬいぐるみだったのに!!』
次々にこだまする声、ねだるというよりも、もう、もらう気満々である。
何で?私は何のために生きているんだろう……何のために、この生活をしているのだろう……。
疲れた……疲れた……。
眠りたい。心の悲鳴は聞いたら苦しみが増す。
私は、愛も、気持ちも、心も、もらえる側ではないから……全て与えるだけ、奪われる側だから……一生、こういう生活が続くのだろう。
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