演劇脚本 「卒業から」

とびらの

演劇脚本 「卒業から」

 シックな雰囲気の喫茶店。
 やかましく鳴っている、古いアニメの音楽(ヤマトやルパン、超有名モノ。これは音響ではなく、舞台のCDプレイヤーから流すのが望ましい)
 ウェイトレス(千春)がリズムに乗りながら、掃除をしている。サビの部分でくるりとタップ、踊る。
 ドアの鐘を鳴らして、スズメが登場。

スズメ 「ち・は・る・ちゃん」
千春  「スズメ」
スズメ 「久しぶり。うわ、なにこの音楽」
千春  「あ、悪い悪い」

 CDプレーヤーのスイッチを止める。

千春  「いやあ、掃除は好きなんだけどさ。ひとり静かにやってると、退屈でな」
スズメ 「(笑う)かわってないね、千春ちゃん」
千春  「三年やそこらで、このあたしが変わってたまるか。そういうスズメも・・・(スズメの周り一周)全然変わってねぇなあ」
スズメ 「カップが一つあがりました。さわる?」(むねを突き出す)
千春  「あーもうほんとに変わってない・・・」
スズメ 「ちょっとは大人っぽくなったって言ってよ」
千春  「はいはい、大人でちゅねえ、アダルトでちゅねえ。よかったよかった」
スズメ 「もう、いじわるなとこもあいかわらずっ。ベーッだ。
ところで・・・(ぐるっと見渡して)みんなは、まだ?」
千春  「あんたが早いの」
スズメ 「いま何時?」
千春  「まだ十一時半」
スズメ 「いいじゃない。一時間くらい」
千春  「よくない。稼ぎ時のランチタイム、貸切にしてやってんだ。もうちょっと早かったらまだお客さんはいってたよ」
スズメ 「そしたらスズメもお店手伝う!(テーブルにあった食器を持つ)」
千春  「(慌てて食器を奪う)冗談!あんたみたいな天然自動破壊魔、店のものなんか任せられやしないよ!もういいから座ってな。紅茶でもどう?」
スズメ 「飲むー!」

    千春、茶を入れにカウンターへ。待っている間、上着を取ったり、見回したりしている。

千春  「はい」
スズメ 「さんきゅ!(飲む)んーおいしい」
千春  「一応この年でサ店のマスターだからね。紅茶とコーヒーならまかしといてよ」
スズメ 「女の人でもマスターっていうの」
千春  「・・・そういや、なんていうんだろうね」
スズメ 「ん~・・・ママ!」
千春  「それは違う!いや間違ってはないけど!」
スズメ 「そう?」
千春  「さてと(モップをしまいながら)・・・ごめんね、まだ片付け済んでなくって」
スズメ 「そうだ。千春ちゃん、掃除はもういいからさ、これ」
千春  「なに」
スズメ 「(かばんからリースを取り出す)じゃぁーんっパーティーセット!ひらひら~」
千春  「お、準備いいね」
スズメ 「まっかせなさーい。ぶい、ぶいぶい!」
千春  「ところで、スズメ、テープは?」
スズメ 「・・・・。(ピースサインのまま固まる)」
千春  「・・・・店のヤツがあるから、それ使おうね」
スズメ 「うわーん、千春ちゃん大好きだーっ」(抱きつく)
千春  「ハイハイありがとさん」

     二人、リースをつけ始める。

スズメ 「えへへ・・・」
千春  「どうした?」
スズメ 「なんかさ、楽しいね」
千春  「・・・そーね。学校卒業したら、仲間集まってなんか作るって、まあ、なかなかないもんな」
スズメ 「千春ちゃん、せっかくの喫茶店なんだからさ、クリスマスとかハロウィンとか、イベントで飾り付けしてもいいんじゃないの?」
千春  「うーん。ヤッパリ時間取られるからな。業者に頼んで、ちょこっとだけよ」
スズメ 「ふぅーん、そっかぁ・・・もったいないなあ」
千春  「スズメはやったりしないの?」
スズメ 「うちの会社はさっぱり!なーんにもなしなの」
千春  「え、スズメ、会社員なの!?」
スズメ 「あれ、言ってなかったっけ」
千春  「初耳!そっかあ。なあ、どうよ?花のオーエルって」
スズメ 「別に普通だよ。つまんないし。お給料やすいし」
千春  「・・・でも。いっしょにお弁当食べる同僚とか、いるんでしょ?楽しそうじゃん」
スズメ 「まあ、ね」
千春  「そっか・・・いいなあ」

     スズメ、CDプレイヤーのあたりに飾り付けにいく。

スズメ 「(クスクス)ね、千春ちゃん。いつもお客さんいるときも、あの音楽、流してるの?」
千春  「え?馬鹿。そんなわけないだろ。あれは自分へのエール」
スズメ 「何を応援するの」
千春  「本日の、霞高校仲良しグループ同窓会で、上手いこと切り抜けていられるかどうかって言う、自分への応援」
スズメ 「・・・あの・・・。やっぱり千春ちゃんも?」
千春  「・・・まあね.正直いって、ずっと笑ってられるか・・・っていうか、落ち着いてられる自信、あんまりない」
スズメ 「・・・実はスズメもなの。ほら、スズメってばさ、好きな人にはゴーゴーなんだけど・・・」
千春  「意外に人見知り激しいもんね」
スズメ 「・・・あの子、くるんだよね」
千春  「たぶんな」
スズメ 「どうしよう・・・千春ちゃん.あたし、あの子に会ったらどんな話すればいいの?」
千春  「ど、どんなって・・・そりゃあ」

     ドアの鐘が鳴る。令子登場。

令子  「こんにちは」
千・ス 「あっ」
令子  「(見回して)まだ準備中?出直したほうがいいかしら」
スズメ 「いやいや、どうぞ!(ちょっと慌てて)」
千春  「いらっしゃい風祭。久しぶり」
令子  「おひさしぶり花村さん。ウェイター服、すごくお似合いね」
千春  「ありがと。それより、なんで花村さん?」
令子  「さっきあなたもわたしを名字で呼んだから」
千春  「久しぶりだからさ、何となくだよ」
スズメ 「レイちゃん、おひさ。覚えてる?」
令子  「覚えてるわよ、鳥井スズメ。たった何年かで忘れるほどわたしが馬鹿に見える?」

     千春とスズメ、キレイにあわせて首を横に振る。

令子  「だったら無意味な質問はしないことね」
千春  「風祭・・・令子なら、アルツハイマーかかっても円周率10桁いけそうだ」
令子  「ウェルニッケ脳症にかかっても20桁はいけるわ。覚えても意味なんてないけど」
千春  「令子何か作ろうか」
令子  「つめたい物もらえるかしら(手の平で仰ぎながら、上着を脱ぐ)」
スズメ 「うぇるにっけ?」
令子  「辞書ひいてらっしゃい」
スズメ 「何語~?」
令子  「何があるの」
千春  「レイコだけに、アイスコーヒーなんてどうよ」
令子  「何の関係があるわけ」
千春  「大阪いってきいてき~(関西弁口調で)」
スズメ 「ヘルネックって大阪弁?」
千春  「それを言うなら関西弁」
令子  「ウェルニッケ」
千春  「そして話題のついていき方間違えてる」
スズメ 「ううう。これってイジメ?」
千春  「否定は出来ないな」

   3人、笑う。千春、アイスコーヒーを令子に出す。

令子  「ありがと。・・・おいし。これブレンドは?」
千春  「知らね。某コーヒーメーカー社オリジナルブレンド」
令子  「・・・喫茶店なのに」
千春  「最近のサテンなんてどこもそうよ」
令子  「これも不景気の余波かしら」
スズメ 「おいしかったらいいじゃん」
令子  「それはそうだけど・・・」
千春  「あんたも相変わらず、難しげなこと言ってるね。変わってないんだ」
令子  「・・・心外だわ。成長してるつもりなんだけど」
スズメ 「スズメも成長したよ!カップが」
千春  「(遮り)ああもういいから」
令子  「・・・この間課題で、人間の生活環境と幼少期の教育による成長過程と結果、そしてその遺伝についてというレポートがあったわ」
スズメ 「長い題材名」
令子  「それでわたしは脳細胞の最大分裂量は遺伝によると書いて提出したんだけど・・・シナプスの量も、DNAに組み込まれるものかしらね?」
スズメ 「・・・もしかして今、スズメのこと馬鹿にした?」
令子  「いえ別に」
千春  「それであんたは先祖代々超一流の脳みそを受け継いでるってわけね。うらやましい限りだわ」
令子  「・・・・そんなことはないわよ。一族全員、エリート様です・・・なんて、奢ってる親戚もいたけど、はっきりいってただの偶然だわ。今時、東大や慶応でたからって人生のレールに乗れるわけでなし。みんな趣味よ、趣味」
スズメ 「趣味で医者とか弁護士?理解不能~」
令子  「勉強なんて適当なものよ。好きな教科の本を理解できるまで読んで、あとはノートのまとめ方とか工夫したり、小説感覚で英文や古文を日常読んでれば、勝手にテストの点数がついてくるの。現にわたし、高校のときテスト勉強なんてしたことないもの」
スズメ 「え、それでずーっと学年トップ?すごすぎ!」
令子  「だからすごくなんてないってば。大体うちの高校はレベルが低すぎたのよ。わたしなんか、友達や親戚に頭上がらないもの」
スズメ 「でもでも、偉いなー」
令子  「それを言うなら、千春のほうが偉いと思うけど?ねえ?」
千春  「何が」
令子  「ご両親から受け継いだこの喫茶店、立派に経営してるでしょ」
千春  「・・・子供のころから手伝ってたから」
令子  「なおさらすごいわ。わたしは人に頭さげてニコニコするなんて絶対出来ないもの・・・」

  SE 時計の時報が鳴る。正午。
     千春、黙ってカウンターへ(むっとしている)

令子  「高校のときから学校終わったらすぐに帰って手伝っていたっけ。テスト前とか、お店の手伝いで勉強する時間がないって、よくわたしのノート、コピーしたものね」
千春  「そんなことも、あったな」(作業しながら。話に入りたくない)
令子  「そうよ。わたし、それってすごいとおもうわ。大学で仕事と勉強の両立ができずにやめてった人、結構な数いるわよ。せっかく香住裏大入れたのに、結局高卒どまり」
スズメ 「えーっもったいない」
令子  「入学する時点で計画立ててればよかったのに」
千春  「(固く)まあ、高校だって中退する人も、いるしね」
スズメ 「・・・・千春ちゃん」
令子  「・・・そうね」
千春  「その人も事情があったんだかはっきり分かったもんじゃない。一流大学卒、って名目以上に、捨てたらもったいないものがあったのかもしれない」
令子  「・・・誰かさんみたいにね」
スズメ 「れ、レイちゃん・・・」
千春  「何か言いたいことあるわけ?」
令子  「別に、何も、意味なんてないわ」
千春  「じゃあ黙ってれば」
スズメ 「い、いいじゃん。やめようよ」
千春  「耳に障んのよね。あんたのこえって」
スズメ 「千春ちゃん!」
令子  「あらそう。コーラス部のスズメや、十代で客商売のプロフェッショナルな花村さんと比べれば、だみ声でしょうね」
千春  「あ・・・あたしだって別に、好きでやってるわけじゃねえよ!」
令子  「それが・・・(何か言いかける)」
スズメ 「イヤーっだめーっきゃーキャーキャーきゃああああ!(絶叫)」
令子  「わ、チョ、スズメ?」
千春  「ああああ、うっさい!黙れ、黙れってばスズメうるさい!」
スズメ 「(首をしめられて)ストップ、ストップだよ二人ともすとーっぷうぅぅ!(えんえんと叫ぶ)」
千春  「お前がストップしろ!あああ、分かったから・・・」
令子  「ああもう、耳がおかしくなるわ!お願い止めて!」
スズメ 「けんかしない?」
千・令 「しない!」
スズメ 「はぁー・・・よかったぁ」

     千春、令子、テーブルにへなへなと崩れる。

千春  「頭がいっちまうかと思ったぜ」
令子  「あ、わたしまだ耳の奥がわんわんいってる」
スズメ 「大丈夫?」
千・令 「あんたのせいでしょーがっ」
スズメ 「あはは、仲よしさんだ」
令子  「もう、どうにでもしてって感じ」
千春  「ぐ、耳の奥がいてえ・・・あー、スズメ、なんか音楽再生してくれる?」
スズメ 「×××(←最初にかかっていた曲名)?」
令子  「×××?」
千春  「え、あ、いやいやなんか別の」
スズメ 「了解~。(コンポの周りを調べて)えーと・・・谷村シンジ「チャンピオン」北島三郎「海」・・・」
令子  「何?」
スズメ 「おにゃんこ倶楽部「セーラー服を脱がさないで」」
令子  「千春・・・喫茶店らしいもの流しなさいよ・・・」
スズメ 「井上陽水「氷の世界」中島みゆき「一人上手」・・・ああなんでこんなのばっかりなの・・・あ、これ」

     スズメ、あれこれいじったあとにCDを再生する。
 M やや低め 
※一例として長渕剛の「乾杯」。特別に意味はないので曲目は要相談。

令子  「・・・これって」
千春  「まだあったんだこれ」
スズメ 「懐かしい~」
令子  「スズメ、音量あげてくれない?」

     スズメが音量を上げ、しばしみんなで聞きほれる。
     さびのあたりでスズメが歌いだす。

スズメ 「かんぱーい、今~君は人生のーっ」
千春  「わあ!」
令子  「気分ぶちこわしっ」
スズメ 「えっへへ、つい歌いたくなっちゃって(音量下げる。そのままF・OUT)。これさ、文化祭で歌ったんだよねー」
令子  「そうそう、一年のとき・・・みんなチャイナ服着て」
千春  「この歌バックにコサックダンス、楽しかったよな」
スズメ 「高坂くんの空中ワイヤーショー、最高だった!」
令子  「スズメのソロも良かったわよ」
千春「いやあ、見所はやっぱしあいつのストリップステージだろ!」
スズメ 「ちょっとだけよーん。あっはは」
令子  「あいつって、あの人?」
千春  「そうあの人」
スズメ 「吹奏楽部、大活躍だったもんね。ストリップしながらトランペット吹いてた小林先輩とか」
千春  「村田さんなんかチェンバロだよ・・・」
令子  「改めて考えるとへんな文化祭・・・」
スズメ 「でも超楽しかったよ!」
千春  「スズメ、短歌俳句クラブで表彰もらってたな」
令子  「短歌?コーラス部じゃなかったの」
スズメ 「文科系倶楽部はいくつでも掛け持ちOKなの」
千春  「短歌俳句、コーラス、文芸、琴」
スズメ 「創作ダンス、イングリッシュトーキング、ボーリング、慢研」
令子  「何でもアリねェ」
スズメ 「本当は吹奏楽部も入りたかったんだけど、吹奏楽ってなんだか厳しくって、掛け持ちダメだっていうから諦めたの」
千春  「吹奏楽か。何かときびしいなあの部は。部長が真面目なんかね」
令子  「そんな部で、よくあのちゃらんぽらんは続いたわよね」
千春  「最終的には部長になったしな。あいつは授業にもろくすっぽでやしなかったが部活だけはすげー真面目にやってた」
スズメ 「二年生のとき席隣りだったんだけど、授業中に楽譜かいてて取り上げられてたよ」
令子  「あの子らしいわね」

     3人、くすくすと笑う・・・
     そのとき、勢いよく入り口の鐘がなり、扉から明晶(セーラー服や猫耳メイド等、マニアックな衣装)で登場。

明晶  「ウオイーっす!メリィークリスマス!(妙に流暢くさい発音。クラッカーを鳴らす)」
令子  「きゃあ!」
千春  「あ、あきら!」
スズメ 「おいっス明晶ちゃん。でも今、春だよ」
明晶  「わかっとーわい、ギャグやギャグ。鳥井っち、おひさっ。をを?ちょっと乳でっかくなったんとちがう?どこの殿方におっきくしてもらっちゃったんやー?(とびかかり、抱きつく)」
スズメ 「やーんセクハラー」
令子  「久々に会ったそうそう、なにやってるのよあんたは!」
明晶  「かざぴょんやーん。やはー元気?なんや雰囲気かわったなー」
令子  「人のはなしを聞け」
千春  「明晶、久しぶり」
明晶  「おー、花ちゃ~ん!なになに、ウェイター服カッコええやーん。ちょぉかしてよ」(脱がそうとする)
千春  「ていうか・・・なんだぁお前のそのかっこうはぁ?」
明晶  「花村、そんな関西のおばはんっぽい言い方やめてーな」
千春  「そりゃあお前だっ」
明晶  「バイト帰りやから、衣装そのまんまきてもーてん。(時計を見て)あやや、遅れてごメンなあ。めちゃめちゃ渋滞でな、タクシーの運ちゃん近道する言うて迷いよってん。いてもうたろかホンマ」
千春  「相変わらずだな明晶。今、あんたのこと話してたんだよ」
明晶  「そーなん?月代明晶ちゃんはべっぴんで品がよくってめっちゃええ女や!言うてたんやろ?イヤー、照れるやん」
令子  「ちょっと、鏡磨いたほうがいいんじゃないの?」
明晶  「む、なんや、自分のほうこそあいも変わらずとんがりコーンみたいな目つきしおってからに、たまにはキュートに微笑んだらどないや。そんなあなたに、はいこれお土産!」
令子  「(包みを受け取って、放り出す)きゃ、わ、なにこれ!」
明晶  「風祭ほうりださんでもええやろーにー(拾いに行く)」
令子  「だって、これ、だってなんだかぬるっとしたわ!」(泣き声に近い)
明晶  「大丈夫やって本物とちゃうから」
令子  「明晶―っ!」
明晶  「あっはは、冗談冗談。も~そんなメイルカ立てて怒ってたら老けるでー」
令子  「目くじらでしょ、それをいうなら!」
明晶  「うまいっ、座布団一枚!」
千春  「くっだらねえ」(椅子へ戻る)
スズメ 「明晶ちゃん可愛い!衣装って、何のバイトしてんの?」
令子  「聞かなくていいわよ!」
明晶  「ふふふん、コスパブってやつや」
スズメ 「こすぱぶ・・・」
千春  「コスチューム・パブ・・・って、明晶あんたっ」
明晶  「あーなんか文句あんのかコラァァ(冗談でスゴむ)」
千春  「文句っていうか」
明晶  「えーやん、パブのホステス。上等、上等。売春でもないし、二十歳過ぎて水商売に偏見持っとったんじゃ人生楽しく生きてかれへんで」
令子  「あんたの人生は楽しすぎるのよ!」
明晶  「これまたうまいこというやん!風祭さんに3000点!」
千春  「いいかげんに落ち着け・・・」
明晶  「堅いこといわんといてよ。(椅子に座り、千春に)ヘイウエイトレス!冷コ一つ!がつーんと冷えたやつ入れてたってか!はーあ。でもほんまみんなひっさしぶりやんねー。せやけど全然変わったゆー感じがせえへん」
スズメ 「明晶ちゃんとはなしてると、ほんと高校のとき戻ったみたいな気持ちになる」
明晶  「そう?」
スズメ 「なつかしきかな関西弁。明晶ちゃんも全然変わってまへんなぁ~」
明晶  「そ・・・かな。ありがと」
令子  「いいことなのか、悪いことなのか微妙だけれど」
明晶  「ま、ね。・・・なあ、みんな今どないしてんの?うちはこのとおりフリーターやけど、みんなは進学とかしたんか?」
スズメ 「スズメは会社員だよっ」
明晶  「おースズメ就職したんかー偉い偉い(なでなで)」
令子  「わたしは、きかなくたって分かるでしょ」
明晶  「せやった、香住裏大やんな。やっぱ風祭はごっつ頭ええなーアソコ偏差値なんぼくらいやねん。赤点クイーンの月代ちゃんには遠い世界やわ」
令子  「大したことないわよ」
明晶  「言うてくれるわ~。んで?花村はどうなん」
千春  「あたしは・・・このとおり、店あるからさ」
明晶  「えーそうなん?何でぇな、バイトでも雇ったら大学行くことも、まーちょっと忙しいかも知れへんけど、できんこともないやろ?」
千春  「ん、まあ」
明晶  「せっかく花村も頭悪くないねんから、もったいないで。うちも高校でて、こうして働いとったらほんましみじみ思うんや。あー学生の頃はよかったなあ、あのうっとーしかったテストも体育の授業もなんやもっとちゃんとやっとけばよかったなーて」
スズメ 「うん、スズメもそう思ってるよ。なんだかんだいっても・・・楽しかったもの、高校って」
千春  「うん、それは・・・あたしも思うけど」
明晶  「せやろ?じゃあ今からでもおそないやん、パンフ取り寄せて」
千春  「でも」
明晶  「うん?」
千春  「でも無理なんだよ!」
明晶  「な。なんやねん、急に」
千春  「・・・ご、ごめん。なんか、意味なく怒鳴ったよね」
明晶  「・・・いや、こっちこそ悪かった。意味ないことないやろ。花村は花村なりに、なんか思うとこあってんろ。・・・謝らんでええよ」
千春  「・・・・あたしさ・・・本当は進学もしてみたかったんだ・・・でもさ、父親いないし、母さん病気こじらせたじゃん。それからは高校もろくに学生できないで・・・ちょっと最近、この店、重荷っぽいんだ・・・」
スズメ 「千春ちゃん・・・・よしよし(なでる)」
千春  「バーカ、やめろよ、いくつだよ(笑う)」
スズメ 「だってスズメ千春ちゃん大好きだもん。ちはっちゃーん」
千春  「わけわかんねーよ」
令子  「いいコンビね、あなたたちって」
明晶  「カップルでないのがおしいやんな」
令子  「そう?案外カップルだったりもするのかもよ」
スズメ 「スズメ、千春ちゃんだったら毎日お味噌汁作ってもいいー」
千春  「はあ!?」
令子  「調理実習でお米洗剤で洗った人がなに言ってるんだか」
スズメ 「今はもうやらないよ!」
明晶  「当たり前や!」

     一同、大笑い。和やかな雰囲気に。

スズメ 「あは、なんかさー、楽しいねぇ!」
明晶  「あったり前やん、久々の同窓会やもん!」
千春  「・・・でもさ、あたし達ってやっぱ、メンバー集ってこその仲良しグループなんだなって思うわ」
スズメ 「なァに?どういうこと?」
令子  「何となく分かるわ・・・。わたしたち、けっこう長いこと、友達やってきたじゃない。中学一年で顔合わせてから同じクラス、卒業するまで腐れ縁で」
明晶  「二年のときにうちが神戸から越してきたけどな。震災で」
令子  「それ以来、クラスが変わったり、忙しくて会えなくなったりしても、なんだかんだと一緒にいる」
千春  「ほんと腐れ縁だなー」
令子  「でもさ、不思議なことに個人としてはあんまり仲良くはしてないと思わない?昔から、集って騒ぐのも映画見るのも必ずメンバー全員で」
スズメ 「そうよね・・・あたし、千春ちゃんと二人でどこか行くこと、一度もなかった」
千春  「そういや・・・」
明晶  「メンバーの誰か抜けてしもたら、企画ごとおじゃんにしてたもんな」
スズメ 「卒業して以来だもんね。みんなの顔見るの」
明晶  「三年ぶりかあ・・・」
令子  「あら・・・五年ぶりの人もいるんじゃない」
一同  「・・・・・」
明晶  「風祭、あんたひとこと多いで」
令子  「・・・そうね。ごめんなさい」

   令子、コーヒーを飲む。皆沈んだまま。

令子  「水をさしてしまったわね。どうぞ、続けてちょうだい?」
スズメ 「どうぞっていわれてもぉ・・・」

   困惑して黙りこくる一同。

スズメ 「えーと・・・なんか話す?(周り無言)
     えーと・・・隣のうちに垣根が立ったんだってねぇ、へー!」

   がしゃん、と、千春がグラスを鳴らす。

千春  「なにそれ?」
スズメ 「あ、つまんなかった?ごめんなさ・・・(びくびく)」
千春  「(スズメを無視して)さっきからなんなのあんた。どういうつもり」
令子  「(見回し)・・・わたしにいっているのかしら」
明晶  「風祭」
千春  「どういうつもりなんだよっ。なんか文句あんのか」
令子  「過度の興奮は身体に悪いわよ花村さん」
千春  「もううんざりだ!この同窓会がいやならとっととでてけよっ。こっちだってな、最初からお前の顔なんかみたくないんだ」
スズメ 「千春ちゃん」
令子  「・・・・あらそう」
千春  「アラソウ?何なんだよその言い方。あたしのいう事なんか、レベル低すぎて聞く耳もたね―ってか?」
スズメ 「(抱き着いてとめる)千春ちゃん!」
令子  「・・・ええそうよ。理路整然という言葉を知りもしないひとのおはなしなんか、まともな神経で聞けるわけがないもの!」
明晶  「風祭、あかん!やめるんや」
令子  「明晶、ほっといて!保護者面してるんじゃないわよ!」
明晶  「保護者面?」
スズメ 「令ちゃん、明晶ちゃんは止めようとして」
令子  「それが余計だって言うの!ばかは黙ってなさいよ!」
スズメ 「す、スズメ、バカじゃないよ、バカじゃないよ」
千春  「しょうがないんだよ、明晶。あたしたち高校のときから犬猿の仲だったもの。ね?風祭さん」
令子  「犬猿?だったらあなたがサルね、花村さん。キーキーヒステリーやかましくってたまったもんじゃない!」
千春  「なんだと?」
令子  「むかしっからそうだったわね。しっかりもので、姉御肌で、リーダーシップ。努力家で面倒見がいい。自分で自分のことそうやって繕ってきたんでしょ。みんなからそうやって褒められて、いい気になってきたんでしょ」
千春  「てめえっ・・・(つかみかかる)」
令子  「(振りほどいて舞台真中へ)呑んだくれの暴力オヤジが、借金作って蒸発。・・・知らないとでも思ってた?」
明晶  「・・・風祭」
令子  「ご近所中、みんな知ってるわ。ああ、花村さんのお嬢さんよ。まあ、あんなに派手な色の靴を履いてるわ。さすが、あの人の娘さんよね・・・」
千春  「やめろ・・・」
令子  「頭のいいあなたはそれに気付いてた。だから、周りにいい子ちゃんでいたんでしょ。父親のせい、母親のせい、借金のせい・・・そういわれたくなくて、一生懸命。かわいいじゃない」
千春  「やめろって…(テーブルを叩く)」
令子  「でも知ってた?・・・まあ、なんていい子かしら。やっぱりあんな環境にいると、人間たくましくなるものね・・・。」
千春  「風祭・・・!」
令子  「どの道逃げることなんてできないのよ。無駄な努力、ご苦労様」
千春  「やめろって言ってるだろ!(殴りかかる)」
スズメ 「千春ちゃん、やだーっ!(抱きしめてとめる)」
千春  「はなせ!」
スズメ 「やだやだ。仲良くしなくちゃ、ダメじゃない。みんなで一緒に笑えなきゃやだよ。どうして仲良くできないの。なんでケンカなんかしなきゃいけないの!」
令子  「・・・できるものならね」
スズメ 「どうしてよ!できないわけないよ。みんなが嫌がることはやらないで、嫌いなことはいわないで、楽しいことだけやってればうまくいくはずだよ?二人ともこんなんじゃダメだよ。思ったまましたり、言ったりするんじゃなくて、相手のこと考えて、みんなが楽しく、明るく、痛い思いなんてしないように生きて行けば・・・ずっと笑ってられるはずだよ!ねえ?そうでしょ!?」
千春  「スズメ・・・」
スズメ 「いやだよ・・・悲しいのも苦しいのも、淋しいのも・・・いやだ」
千春  「スズメ、ダメだ。それじゃダメなんだ」
明晶  「スズメ。お前はええ子やなァ」
スズメ 「明晶ちゃん」
明晶  「せやけど・・・ちょっと夢物語見過ぎなんちゃうか」
スズメ 「・・・・な・・・なに?」
明晶  「みんな仲良く。明るく楽しく、毎日笑顔だけで・・・。
     そんな楽園みたいなんも、夢見たこと、確かにあったなあ」
令子  「そんなふうにできたら、どれだけいいでしょうね」
スズメ 「そ・・・そうでしょ。だったら」
明晶  「でもあかんねん。無理なもんは無理や。そんなうまくいかへん」
スズメ 「あ、明晶ちゃん」
明晶  「うちらまだ二十一や、人生見てきたとは言われへん。せやけど、保育所から高校卒業するまでいろんなクラスメイトたちと一緒になってきて、うまくいかんかったことなんか当たり前やったやんか。
いろんな人間がおるし、いろんな事情があるし、それですれ違いとか起こるのって、生きとったらしゃあないんちゃうの?」
スズメ 「・・・それは、明晶ちゃんが悪いんだよ」
千春  「スズメ?」
スズメ 「そうだよ。みんながそう思って、明晶ちゃんみたいに自分勝手なことばっかりやるから、バラバラになるの!協調性って言うものがないのよ!
明晶ちゃんだけじゃないよ。令ちゃんも千春ちゃんも、わがままなのよ。令ちゃんは人の嫌がること、構わず言うし、千春ちゃん、自分ばっかり苦労して、がんばってるみたいな顔して、スズメの悩みなんてちっちゃく見えるからって馬鹿にしてるんでしょ」
千春  「ち、違う。あたしは」
スズメ 「違わないよ!好きな男の子のこととか、お姉ちゃんと比べられることとか、ばかみたいかもしんないけど、スズメには大きな悩みだったんだもん。真剣に悩んで泣くこともあるもん。でも、千春ちゃん、「お前はいいよな、そんなことで悩めて」って・・・」
千春  「あ・・・あたし、そんなこといった?」
スズメ 「いったよ・・・いって、それから笑った・・・」
千春  「・・・ごめん・・・」
スズメ 「覚えてないのに謝ってもらったってしょうがないよ。千春ちゃんにとって、あたしのことなんてちっぽけで、いちいち覚えてらんないんだ・・・」
千春  「ごめん・・・ごめん・・・」

    泣き続けるスズメをなだめるように抱く千春。

明晶  「・・・そんな事気にかかっとったんやったら、そんとき言うたら良かったのに」
スズメ 「だ、だから、そしたらみんな傷つくんでしょ!全然わかってないよ明晶ちゃん」
明晶  「わかってへんのはお前や!誰も傷つかへん?じゃあ今のお前が泣いとんのは何や?何年前の話か知らんけど、確かに傷ついたから今怒鳴り散らしたあげくボロボロ泣いとんのと違うんか?
     んで、鳥井、あんたが今吐き出したことで、花村も傷ついたんと違うんか?」
スズメ 「そ、それは…スズメだってできたらずっと千春ちゃんのこと好きでいるつもりだった…傷つけたくなんてなかったけど…なんか今日はたまたま出ちゃっただけで、これまでは一度だって…これからも…」
千春  「スズメ・・・それは違うよ。あたしが今悲しいのは、辛いことを言われたからじゃなくて・・・あたしの大事なアンタが、すっと昔に傷ついてたってことが悲しいんだよ・・・」
スズメ 「え・・・」
明晶  「隠してりゃええってもんやない。腹たったり、ぐさっときたりしたことは、事実なんやから。その事実がかなしいいうてるんやから。その治療法は、ヤッパリちょくちょく言いたいわがままぶつけることやないの?
     がまんしたり、気を配ったり、いつも人の意見尊重していくってことは、いい人でも、大人でもない。大人ぶって、傷つくことの多い子供っていう立場逃げだした、ただの臆病もんや」
千春  「ごめん・・・スズメ。ごめん」

    スズメ、千春を抱き返して泣く。

令子  「まあ、あなたはちょっと奔放すぎると思うけどね」
明晶  「・・・そうや。うちは、やりたいことをやる。好きなことを貫く。いいたいことをいう。それの何が悪いねん」
令子  「何がって・・・」
明晶  「人に迷惑かけるんは悪いことや。うちだってヒト蹴っ倒しててまで我が道貫きたいわけやないで。まあ場合によるけどな。これやったら、人に迷惑かかるなってわかってることは最低限してへんつもりや」
令子  「それは・・・あなたがそう思っているだけかもしれないわよ?」
明晶  「まあな。迷惑やどうやいうのは人の主観や。いうてくれへんとわからんことが多いやん。特におせっかい関係はな。・・・うち、良かれ思って世話焼いたことを迷惑がられるのって結構多いねん。せやけど、結構ですってひとこといってくれれば、こっちかてアアソウカ、て引くやん。
     うちは、好きなもんは好き、嫌いなもんは嫌いや。好きなもんはヒトにも好きになって欲しいから、お勧めする。気に入らんかったらいうてくれたらええねん。黙ってる方が悪いんと違うか?」
令子  「・・・それを、いえないヒトが世の中にはとてもとても多いのよ。みんなあなたのように、自分に自信があるわけではないのだから」
明晶  「・・・なんや?」
千春  「・・・珍しいセリフだな。あんたからそんな言葉が聞けるとは思えなかったよ」

     令子、チラッと千春を見る。反論に身構える千春。しかし令子は視線を外し、テーブルから少しはなれた位置へ。以下、一人ごちる。

令子  「・・・といっても・・・それは臆病なのとはちょっと違う・・・。明晶に嫌われるのが怖いからとも、ちょっと違う。わかるかしら・・・」
明晶  「…わからん。なに言うてんねや…?」
令子  「嬉しいからよ」
一同  「・・・・(だまって顔を伏せる)」
令子  「親切にしてもらったことが嬉しいからよ・・・嬉しそうに、自分の好きなもののことを語るあなたがいとおしいからよ。たとえそれが自分にとって不快な話題でも。ヒトとかかわりをもてたことが、ひどく嬉しいからよ・・・」
千春  「それ・・・自分のこと?」
令子  「そうよ・・・」

     M~

令子  「・・・人の欲しいものなんて、判らないわ。何を話せば喜んでくれるかなんて。だから、自分が喋って楽しいことを話にするしかないじゃない。もしかしたら、自分と同じかもしれない。自分が楽しいことを話せば、この人は、喜んでくれるかもしれない・・・・もし、嫌だったら、嫌って言ってくれるはずだって。信じてた。信じてたの・・・十何年も、ずっと」
スズメ 「それで・・・上手くいった?」

 ゆっくり首を振る令子。

令子  「・・・みんな、何もいわなのね。嫌だとも、楽しいとも、何にもいわないで。そして去っていくのね。こっちはどうして放っていかれるかなんて判らないのに、自分の胸に手を当てろだなんて、あてたって・・・(胸に手をあて)判らないわよ。いってくれないんだもの
     そんな時ね・・・そんなわたしの、後ろ頭ひっぱたいて、いったでしょう。調子にのんな、って。ねえ、(明晶へ)なんだったかしら?」
明晶  「…調子にのんな、お嬢様。そんな目つき悪いのにみんなびびってよう言える訳あらへんわ…(棒読み)」
令子  「(笑う)そうそう。それを言ったのは、あなたよ。明晶」
スズメ 「あたしと、千春ちゃんと、令ちゃん・・・ちょっと仲悪かったときに、明晶ちゃんが真ん中に入ったんだよね」
千春  「あ、そうだ。あたしそんとき、令子とつるむなんて、大阪の人はかわってるなって思った」
明晶  「うち神戸や」
千春  「そういう話じゃないよ」
令子  「変な感じだったわ。明晶。あなたみたいな、やかましくって、劣等生…ごめんなさい」
明晶  「ええよ」
令子  「とにかく、明晶みたいな子とは絶対一生、友達になることなんてないと思ってた。だってタイプがちがうんだもの」
スズメ 「不思議な組み合わせだよね」
令子  「でもわたし…このくらい奔放な子じゃなきゃ、友達になってもらえなかった…誰も…」

  M、ぶつっと終了。

令子  「まあ今は、わたしの息子がいつだって味方だけど」
千春  「・・・令子…(かなり聞きにくそう)あんたたちさ、何で別れたの?」
令子  「何でかしらね。…ありがちだけど…お互い、若すぎたのよ、きっと」
スズメ 「あの、さ。結婚式もなしだったけど、それってやっぱりその…。ごメン、なんでもない」
令子  「ん…(首と手を振って「気にしないで」のサイン)」
千春  「なあ、大学ってさ、離婚してから行こうと思ったの?それとも、だから、別れた…」
令子  「そうね。そう言えば、その辺のこと、あなたたちに何にも話してなかったんだわ」
明晶  「うちがちょくちょく、事実だけは流しとったけどね。かめへんかったやろ?旦那さん、いや、あの人のことはうちもちょっと知っとるけど・・・しゃあないわなー・・・好きになってもうたんやもん。ほんで、嫌いになってもうてんもん。しゃあないわぁ」
令子  「そうね。今となっては何であんなぱっとしない人、惚れたのかわからないけどね・・・。それでも、高校くらいは卒業してからならもっとうまくいったと思うわ」
千春  「勿体無かったよな・・・令子、あんなに成績よかったのに…」
スズメ 「令ちゃん、ほんと突然やめちゃったじゃん。寂しかったよ」
令子  「ウソぉ」
スズメ 「嘘じゃないよ」
千春  「うん…あたしも…」
令子  「(千春を無言で見る。そして視線を戻してから)そっか…ゴメンね。
     別れたあとね。息子も、保育園に預けられる年だったし、ふと、無性に何かがやりたくなってね。そして思いついたのはやっぱり勉強だった。通信教育で高卒の資格とって、すぐ大学受験したわ。こんなにガリベンやったのってはじめてよ(笑う)」
明晶  「すっげえよなー、ほんと」
令子  「ねえ?この年で一年生なんて恥かしいかしらと思ったけど、意外に多いのよ。三十近い人もいるんだから。子持ちだって、クラスに一人いたの」
千春  「…尊敬しちゃうな・・・・あたし、令子のそういうとこ、ほんとすごいって思う」
令子  「千春。・・・さっきも言ったけど、あなたのほうがすごいわ」
千春  「あたしは…何にも捨てられないだけよ」
明晶  「いやいや、守ってんねや。大したもんやで!なあ、自分の道をあるくんも勇気やけど、元からあるモノ、自分の道にしていくってのも相当なパワーやと思うわ」
スズメ 「明晶ちゃんが言うと説得力あるぅ!」
千春  「そっかな…じ、実はさ。この辺、世帯が多いだろ。だから増築して、食べ物のメニューに力いれてやろうかな~なんて…」
令子  「あらぁ?結構、人生乗り気なんじゃないの」
千春  「ソ、そーかな。うん…定食屋なら、×××(最初にかかっていた曲)かけても、そんなに変じゃないし…」
スズメ 「…流したかったのね…」
明晶  「せや!おう、みんな聞いてんか。うちには夢がある!」
3人  「何??」
明晶  「ごっつ働いて、ガーンと金貯めるやろ。そいで、オーストラリアいって、海のそばに土地買うて、関西の親戚や行きたい言う知り合いみんな呼んで、でっかい平屋にみんなで住むねん!」
3人  「え~っ(みな一様に、驚きのコメント)すごい・・・」
明晶  「どや、あっはっは」
令子  「は、初めて聞いたわその話」
明晶  「ジンクスや、あんまりしょっぱなから言うたら倒れる気がしてナ」
スズメ 「明晶ちゃんって…意外…」
千春  「意外って言ったら、絶対スズメだよ!高校のとき、あんなにあたしたちにべったりで、アマアマだったくせにさ!会社員だよ?キャリアウーマンだよ?」
スズメ 「ふふーん。来年から給料上がっちゃうよん」
令子  「絶対結婚はスズメが一番最初って感じだったのにねえ」
スズメ 「一番遠そうな令ちゃんが最初だったね」
千春  「なんだよ、みんな意外、じゃねえか」
令子  「いかに私たちが上っ面だけで付き合ってたかってかんじね」
千春  「まァたそぅいう・・・」
スズメ 「うん・・・でも。あたしも・・・ちょっとそう思う・・・」
千春  「・・・スズメ。あのさ。ゴメンな」
スズメ 「・・・あたしも」
明晶  「お。仲直りしたな・・・あーあ、ええなあ。うちも彼氏ほしいなー」
千春  「今の話に関係無いだろ!?」
令子  「あら、私も千春のこと好きよ。知らなかったみたいだけど」
明晶  「難儀やわあ」
千春  「勘弁しろよ」
令子  「あのね。上っ面の付き合いって・・・寂しい響きだけど。多分、ただ性格が違うだけの四人が、お互いに気を遣いあって、自分なりのやり方で仲良くしようとしてたって言う、だけのことなのね」
明晶  「うちは気なんかつこてへんで・・・そー言う付き合い嫌いやから」
令子  「ほら。それが、明晶流の仲良く仕方。そういうこと」
明晶  「・・・・お前・・・頭ええなあ」
スズメ 「いまさらー」
千春  「なんだ、なんか、照れてきたな。いやだ」

    千春、逃げるようにカウンターへ行き、水を入れて飲む。

スズメ 「千春ちゃんかわいー」
令子  「意外な一面ね」
千春  「うるせえ・・・(下を向いたまま)あたしも嫌いじゃないよ。あんたのこと」
令子  「今の・・・私に言ったの?」

    千春無言で顔に手を当て、恥かしがっている様子。 
    一同、笑う。

明晶  「…みんな、何かとあるもんやなあ」
スズメ 「生きてるんだもんっ。色々よっ」
令子  「色々あったわ…ほんと」
千春  「母親になったもんな」
明晶  「でもまだまだ、色々あるんやろーなー。きっと」
スズメ 「二十一歳だもんねえ…」
令子  「ねえ、あっという間だった?ながかった?」
スズメ 「長かった!」
明晶  「うーん」
スズメ 「いや、すぐだった・・・カナ?」
千春  「あたしは、高校卒業してからはすぐだったな」
令子  「二十歳過ぎると、すぐだって言うけど」
明晶  「あー、うちはあっという間やったわー」
スズメ 「あれ~、長かった気もする…(延々と頭をひねりつづける)ウーン、ウーン…」
明晶  「そういう風祭は?」
令子  「わたし?…そうね。どっちにしろ、この店にはいってからは、あっという間に時間がたっちゃったわ…」

  SE・ (時計の時報音)

千春  「うわ。もうこんな時間!」
令子  「あらほんと。(腕時計を見て)…そろそろ幼稚園迎えに行かなきゃ」
明晶  「うちも眠いな~…ほとんど徹夜で来たさかい(あくびしながらのび)ふあ~ア・・・」
スズメ 「え~っ、みんな帰っちゃうのぉ?」
千春  「明日の朝の材料注文しとかなきゃ…(立ち上がリ、電話機へ。かけて、卵をいくつ…など話し始める)」
令子  「今日はあたたかいわね。上着はいらないか」
明晶  「かざぴょ~ん…よかったら、そのカーディガン、貸してくれへん?さすがに夕方の大通りはちょっと…(自分の服をつまむ)」
スズメ 「やーん、スズメひまだよーっ。日曜日のオーエルなんて、ヒマだよおおお」
明晶  「あー。でもナア」
令子  「ねえ。今すぐは無理だけど…いったん解散してから、夜、改めてのみに行かない?息子もお母さんに預けられるから」
二人  「オーっ(歓声)」
千春  「(電話を切って)あんたらうるさいよ!話し辛かったじゃないの!」
令子  「千春も来るわよね」
千春  「え?何の話」
スズメ 「飲み会!」
千春  「うっそ。あたし飲めないよ」
令子  「何いってんのよ、もう二十一でしょ!」
明晶  「そうそう、高校生とはちゃうんやで!」
スズメ 「わ~いっ、飲み会、飲み会!」
千春  「ちょ、ちょっとぉ…うー、ま、いいか」
明晶  「よーしキマリやっ。四時間後、香住裏駅前集合な!うちは睡眠不足でいくさかい、テンションごついで~覚悟しいや!」

    一同、笑う。帰り支度を終え去ろうとする。

    M、(F・IN)

千春以外「じゃあね~…またあとでねー」
千春  「あ、ちょっとちょっと、待って!」

    千春、幕から飛び出し、客席に向かってパントマイム。カメラのセッティングをしている様子。

スズメ 「あ、カメラだ~」
千春  「写真とろうよ!記念にさ」
令子  「写真って嫌いなんだけど(と言いつつ、化粧をなおす)」
明晶  「よーし。指名ナンバーワンの明晶ちゃんの、写真写りのよさを見せたんで~!ほとんどサギって評判やねんから(あれこれ、セクシーポーズを試行)」
千春  「(ダッシュで戻りながら)並んで並んで!急いで!」

   四人、大慌てでポーズ。結果、四人が仲良くからんだ体勢になる。客席に向かってとびっきりの笑顔。
   その姿勢のまま、幕が降りはじめる。

M、だんだん大きくなる
以下のセリフは、幕の音や音響で聞き取り辛くても構わない。  

千春  「…あれ?」(ポーズのまま)
令子  「もしかして、操作間違ってない…?」(同じく)
スズメ 「く、苦しい…」(ポーズが崩れてくる)
明晶  「は、な、む、ら、お前~っ」
    明晶が動いたことで、一同崩れる。悲鳴をあげながら、完全閉幕…

    幕が閉じたあとで、大きくシャッターの音。

 THE・END。

  

コメント

  • ノベルバユーザー602527

    あの不器用な所がいい。
    だけどやっぱり女の子を守ってあげれる男ってのはイケメン。

    0
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