異世界レストランガイド
特別メニュー:チゲ鍋
吹雪いている町並みを歩いていた。
こんな日ははっきり言って冒険者稼業なんぞやってられないのが現状だ。だから寒い身体を温めたい。そう思うのが人間の性というものだと思う。
温かいものといえば何だろうか……。饂飩に蕎麦、スープだって考えられる。チーズフォンデュみたくつけて食べるタイプもありだな。
そんなことを考えていたら、ぐうと腹の音が鳴った。俺の体にあるラッパは今日も正常だ。だが、これが鳴ると少々心苦しい。早く食べ物を胃に入れたいと思ってしまうからだ。人間というのは、案外単純だが、悲しい生き物でもあるかもしれない。
「しかし今から食事を作るというのも忍びない。さてどうしたものか……」
俺はふとウインドウショッピングをする女性のように、外から食堂の光景を眺めた。どこも食堂は混んでいる。当然だ、もう夕方近いこともあるし、寒い日に自分で食事を作るわけにもいかないのだろう。批判は出来ない。俺だってそうしようとしているのだから。
そして、俺はある看板を見つけた。
「特別メニュー……チゲ鍋、か」
チゲ鍋。
豆腐、キムチ、肉、魚介類などを入れた鍋のことだ。異世界のとある国で鍋料理を意味する単語であるチゲからその名前が来ているらしい。となると、チゲ鍋というのは『鍋鍋』となり、意味の重複となってしまうのだが、それは、まあ、仕方無いことなのだろう。
「鍋か。温まるし、それもいいか」
独り身だから住んでいる人間のことを考える必要も無い。独り身最大のメリットとも言えるだろう。
ともあれ、俺はそのお店に入った。
店の名前はシャングリラ。どこかの言葉で理想郷を意味する単語だった。
店に入るとすぐに暖かい空気が俺を出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。空いている席にお座りください」
カウンターに立っている若い女性がそう言った。彼女は割烹着を着ていたが、コックの一員なのだろうか。
ともかく俺は空いている席に座る。席はそこそこ埋まっていたが、なんとか空いている席を確保することができた。
周りを見ると皆鍋を食べている。暖かいからしょうがないな。しかし……何だあれは?
コンロに付随しているのは、小さな白い塊。それが発火している源のようにも思える。
「ご注文はチゲ鍋ですか?」
気がつけば俺の目の前に女性が立っていた。ウエイトレスということか。
「……はい?」
「いえ、こういうのが通例でして」
通例、ねえ。
俺はそんなことどうでもよかったが、まあ通例ならば仕方無い。
「通例、ですか。……まあ、いいや。とりあえずチゲ鍋一つ」
「かしこまりました」
頭を下げて去っていく女性。
いや、しかし。
さっきのやつは何か意味があったのだろうか……。聞いてみてもよかったかもしれないな。まあ、別にいいのだけれど。
店内を見渡すと、みんなチゲ鍋を食べている。赤いスープなのは、唐辛子とかキムチとかを入れているからなのだろう。まあ、辛いものを食べると身体が温まるし、それもいい。
「と、いうか」
よく見ると店内の客の大半が男女ペアになっている。みんなカップルということか。
「お熱いことで」
そう呟いて、俺はやってきたお茶を一口呷った。
ぐつぐつと煮えたぎった赤いスープ。それに浮かぶ島嶼部を演じる具材。中でも際立つのは豆腐だ。赤いスープに映える白さは、もはや芸術の域。
俺は豆腐を掬って、取り皿に乗せる。ついでに少しだけ赤い海も。
その赤い海に浸かった白い島嶼部を一口。外側は辛いが、中は豆腐の円やかな甘みが口の中に広がる。この豆腐、なかなかいけるぞ。
豆腐以外も忘れてはいけない。もちろん、鍋にはそれ以外のものだって入っている。
たとえば、煮込んで柔らかくなった白菜。
たとえば、スープを吸っていい味になった肉。
そのどれもが、いい味を出していた。何ともいえないこの味。ああ、冬で良かった。そう思える瞬間というのは、きっと今じゃないか――そう思える程だ。
食べ終わり、会計を済ませ、外に出る。
外はやはりというか、まだ寒かった。風が冷たかった。
だが、身体の中は温かい。辛いものと熱いもののコンボが、腹の中で体を温めるのに貢献しているらしい。
チゲ鍋に感謝しつつ、俺は帰路に就いた。
こんな日ははっきり言って冒険者稼業なんぞやってられないのが現状だ。だから寒い身体を温めたい。そう思うのが人間の性というものだと思う。
温かいものといえば何だろうか……。饂飩に蕎麦、スープだって考えられる。チーズフォンデュみたくつけて食べるタイプもありだな。
そんなことを考えていたら、ぐうと腹の音が鳴った。俺の体にあるラッパは今日も正常だ。だが、これが鳴ると少々心苦しい。早く食べ物を胃に入れたいと思ってしまうからだ。人間というのは、案外単純だが、悲しい生き物でもあるかもしれない。
「しかし今から食事を作るというのも忍びない。さてどうしたものか……」
俺はふとウインドウショッピングをする女性のように、外から食堂の光景を眺めた。どこも食堂は混んでいる。当然だ、もう夕方近いこともあるし、寒い日に自分で食事を作るわけにもいかないのだろう。批判は出来ない。俺だってそうしようとしているのだから。
そして、俺はある看板を見つけた。
「特別メニュー……チゲ鍋、か」
チゲ鍋。
豆腐、キムチ、肉、魚介類などを入れた鍋のことだ。異世界のとある国で鍋料理を意味する単語であるチゲからその名前が来ているらしい。となると、チゲ鍋というのは『鍋鍋』となり、意味の重複となってしまうのだが、それは、まあ、仕方無いことなのだろう。
「鍋か。温まるし、それもいいか」
独り身だから住んでいる人間のことを考える必要も無い。独り身最大のメリットとも言えるだろう。
ともあれ、俺はそのお店に入った。
店の名前はシャングリラ。どこかの言葉で理想郷を意味する単語だった。
店に入るとすぐに暖かい空気が俺を出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。空いている席にお座りください」
カウンターに立っている若い女性がそう言った。彼女は割烹着を着ていたが、コックの一員なのだろうか。
ともかく俺は空いている席に座る。席はそこそこ埋まっていたが、なんとか空いている席を確保することができた。
周りを見ると皆鍋を食べている。暖かいからしょうがないな。しかし……何だあれは?
コンロに付随しているのは、小さな白い塊。それが発火している源のようにも思える。
「ご注文はチゲ鍋ですか?」
気がつけば俺の目の前に女性が立っていた。ウエイトレスということか。
「……はい?」
「いえ、こういうのが通例でして」
通例、ねえ。
俺はそんなことどうでもよかったが、まあ通例ならば仕方無い。
「通例、ですか。……まあ、いいや。とりあえずチゲ鍋一つ」
「かしこまりました」
頭を下げて去っていく女性。
いや、しかし。
さっきのやつは何か意味があったのだろうか……。聞いてみてもよかったかもしれないな。まあ、別にいいのだけれど。
店内を見渡すと、みんなチゲ鍋を食べている。赤いスープなのは、唐辛子とかキムチとかを入れているからなのだろう。まあ、辛いものを食べると身体が温まるし、それもいい。
「と、いうか」
よく見ると店内の客の大半が男女ペアになっている。みんなカップルということか。
「お熱いことで」
そう呟いて、俺はやってきたお茶を一口呷った。
ぐつぐつと煮えたぎった赤いスープ。それに浮かぶ島嶼部を演じる具材。中でも際立つのは豆腐だ。赤いスープに映える白さは、もはや芸術の域。
俺は豆腐を掬って、取り皿に乗せる。ついでに少しだけ赤い海も。
その赤い海に浸かった白い島嶼部を一口。外側は辛いが、中は豆腐の円やかな甘みが口の中に広がる。この豆腐、なかなかいけるぞ。
豆腐以外も忘れてはいけない。もちろん、鍋にはそれ以外のものだって入っている。
たとえば、煮込んで柔らかくなった白菜。
たとえば、スープを吸っていい味になった肉。
そのどれもが、いい味を出していた。何ともいえないこの味。ああ、冬で良かった。そう思える瞬間というのは、きっと今じゃないか――そう思える程だ。
食べ終わり、会計を済ませ、外に出る。
外はやはりというか、まだ寒かった。風が冷たかった。
だが、身体の中は温かい。辛いものと熱いもののコンボが、腹の中で体を温めるのに貢献しているらしい。
チゲ鍋に感謝しつつ、俺は帰路に就いた。
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