アケボノシナリー

じんむ

アケボノステージ


「お前なんか友達だと言ったことも思ったこともねぇよ! 
うんざりだ。もう俺の前から消えろ」

「安国寺、安国寺!」
「は、はい」
 誰かの呼ぶ声で俺は仮想世界からひきはがされ、現実世界へと帰還する。名前を呼ばれるとつい反応してしまうのが人間だ。しかしそれが急だと脳は反応しきれず、行動を神経にゆだねてしまうというものだ。神経は脳ほど賢くない。よって、ちゃんと条件に応じてもっとも適切に対処できない。つまり、決して俺がコミュ障だから声が上ずったというわけではないのである。
 だんだん脳が機能してきたようだ。今が昼休みが終わってからの五時間目だったと思い出す。たしか現代文だったな。
「何を黙っている。三段落目の八行目から読みなさい」
 おお、もうそんなところまでいってたのか。大観衆を前にして声を出すというのはかなりレベルの高い作業だ。最悪、ずっと下を向き続けるという持久戦という手もあるが、そんなことすれば何が起こるか想像に難くない。
 俺は仕方がないので音読を始める。
 ……しかし胸糞悪い夢だったな。

 その後、俺は寝ることなくちゃんと授業を聞き、放課後を迎えた。

 俺は安国寺春太郎。高校一年生。ただ俺は普通の高校生ではない。一般より暗いし、卑屈だし、友達いないし。
てかなにこの自己紹介、やってて悲しくなるんだけど?
俺は普通の高校生ではないというのには先ほど挙げた事だけが理由ではない。簡潔に言うと超能力を持っている。まぁ、地味な能力で、能力発動時に「俺」が「俺」だということを他のやつらに認識されなくできるという能力だ。ただ、この能力は全ての人間に効果があるわけではないらしい。つい最近この能力が効かなかった人間が一人現れた。先ほどの昼休みに検証してみて、再度確認済みなのでそれはもう確定だろう。そいつの名前は潮田飛鳥。正直なんでそいつだけ俺の能力が効かないのかまったくわからん。

 それはさておき、潮田飛鳥という人間は能力が効かない以外でも特異なやつで、何故か俺と親しげなのだ。俺みたいな人間の底辺……というよりかはコミュニティ底辺の俺に話しかけるような奴はまずいない。さらにあいつは風貌からしてリア充だ。余計おかしな話だ。そしてあいつ、俺とちょっとだけ話したあとなんて言ったと思う?
「あ、今日放課後時間ある? あるんなら下駄箱の前で落ち合わね? 紹介したいところがあるんだー」
 まさかのお誘い。でもたぶんこれね、紹介したいところ、それはあいつらがたまり場としている路地裏だよ。きっと俺はそこで金を貸してくれよと言われて、拒否したらボコるぞみたいな雰囲気の中そいつらの言うことに首を縦に振る事しかできなくなり……。怖いわ! 怖すぎだよぅ……。俺の高校生活赤信号! まぁもともと赤信号のようなものだけどね(苦笑)
 とか思いながら律儀に下駄箱で待っちゃってるような自分大好き。

 帰宅部の連中はこの檻から次々と脱出していく。羨ましいなぁ……。にしてもあいつまだこねぇのか。もう帰宅部も少なくなってきたぞ。と、そこで潮田は爽やかに手を振りながらさっそうとこちらへとかけてきた。
「悪い! 今日掃除当番なこと忘れててさ。ちょっと遅れちったわ」
「さほど待ってないから大丈夫だ」
 機嫌を損ねさせないよう、相手にとって都合がいいであろう返事をする。
「ごめんな! じゃあこっち!」
 おお……とうとう死の宣告が近づいてきたか。 今ならまだ逃げれるか? いや、きっとすぐに追いつかれる。ならばもうここまできたら素直に頷くしかない。下手に抵抗すると後が怖い。

 しかし潮田は俺の想像と違うところへと歩き出した。路地裏とかなら外に出るはずだが、こいつは校内を移動し始めた。
 ぬ、よくわかんな。ちょっと勇気を出して聞いてみよう。どこへいくか。まずいところならはぐらかすだろう。その途端、猛ダッシュだ、やっぱり怖いんだもん。
「な、なぁ。どこいくの?」
 少し声がつまってしまった。これじゃあさも俺がこいつに怯えてるみたいじゃねえか。いや実際そうなんですけどね?
「部室」
 え、部室? ……そうか喫煙部か! やっぱり逃げよう……ってあれ? 足が言うことを聞かないよ? 人間って弱い生き物だな!
 放課後は生徒はほとんど来ない東館四階に来たのでより一層俺に不安をかき立たせる。
「ここ!」
 ガラリとドアが開け放たれる。どうやらついたようだ。俺は丁度、潮田の背後にいるので中は見えないが、きっと金髪のやつらが死んだ目でこっちをみているぞ。ガクブル。

「あ、はろはろー!」
「潮田君今日は遅かったね」
「やーわりぃな、掃除当番だったんだ」
 ぬ? 最近の不良って声帯イカれてるの? なんか女みたい。女の不良? にしてはなんか邪気がない。
 どんな奴らなのか気になったので俺は潮田の背後から顔をのぞかせてみる。
 そこにはスッキリとした快活そうな女の子と、清楚でおしとやかそうな女の子が座っていた。え、何これ。どっちも美少女だし。俺の想像してたのとは真逆……。
「ん? そこの少年は誰かな!」
 快活そうな女の子がこちらに気づいたようで、ぱたぱたとこちらへと駆けてくる。
「新入部員候補だ!」
 は? 
「おぉ! 我が部活にニューフェイスだね!」
 なんだそれは。新入部員だと? 聞いてないぞ。
「春美ちゃん、あくまで候補、だよ~」
 微笑みながらおしとやかな子が言う。この活発な子はどうやら春美というらしい。
 しかし状況が飲み込めない。なんの話をしてるんだ?
「あの、新入部員? そもそもここ何?」
「あー、詳しく説明してなかったよな! ここが俺が昼休み言った紹介したいところ、言語研究部! 通称ことけん!」
 はい? なんですかそれ。
「え、どういうことだよつまり」
 たまらず問う。
「いやぁ、実はさ、今部員が不足しててこのままじゃ活動できないって先生にいわれてさ、もし活動を続けたいならせめてもう一人部員を集めてこいって言われて」

 なるほど、全て納得だ。
「……それだけのために俺をここに連れてきた、というわけだな」
 まぁどうせそんなことだよな。あくまで俺に声をかけたり親しくしていたのは全て勧誘のため。人間ってのは嫌な生き物だね。ああ、なんでイラっとしてるんだろうな俺。どうせどっかで期待してたんだろう。我ながら馬鹿だったね。反省反省。
「んー。まぁそれもあるけど、やっぱ一番の理由はお前いい奴っぽいし、何となく一緒にいたらなんか楽しそうだから、って方が大きいかな。たぶん何もなくても誘ってたぞ?」
 ……フッ、どうせこれも、勧誘のための口実なんだろう。俺は騙されない。
「そうか、じゃあ今日はもう帰る」
「え、帰っちゃうの? じゃ、また明日な!」
 速歩きで去る俺に潮田は手を振る。また明日? くそったれが。


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