月ふる夜と光とぶ朝のあいだで

些稚絃羽

4.3匹のオオカミ

レオンの思った通り、出てきたのはオオカミでした。レオンの半分くらいの大きさのオオカミが、3匹。
右から、親分のウォール、子分のかみつきジャッキーとおしゃべりシギーです。
どれも白色ですが、月の光で銀色に光っているようにも見えます。
ラビーはこわく思いながらもどんなオオカミか、たてがみのすきまから見てみましたが、そのこわい顔を見るとすぐたてがみの中にかくれました。

「よお、レオンじゃないか。こんなとこで何してんだ?」
シギーがレオンに話しかけます。レオンはそれをむしします。
「おい、聞いてんのか?この時間はいつもねんねだろう?」
「シギー、あいかわらずのおしゃべりだな。少しはだまったらどうだ。口がくさいぞ。」
レオンはシギーがきらいです。高い声で耳がいたくなるからです。
しゅんとするシギーのとなりで、ジャッキーはわらっています。口がくさいと言われたのがおもしろかったようです。

「レオン。さっきねぐらに行くのを見たが、また出かけるのか?」
ウォールの声はレオンのたてがみをさわさわとゆらします。そのたび、雪にぬれたたてがみがラビーの顔をつつきます。
声が大きいのではありません。地面からひびくようなとても低い声だからです。
ゆれるたてがみの中でラビーは、レオンよりも低い声にカタカタとふるえていました。

「ウォールこそ、ねぐらに帰ったらどうだ。子どもの相手は大変だろう?」
レオンがそう言うと、ジャッキーが体を低くしてうなります。そしてかみつくような仕草をしています。
大きなきばを見せつけていますが、レオンはこわくありません。自分の方が強いことを知っているからです。
でもラビーは体がふるえるのを止められません。レオンにもそれは伝わって、ラビーがかわいそうになりました。

「ジャッキー、下がっていろ。」
ウォールの低い声がまたひびきます。
「さっきからこの辺りでうさぎのにおいがしている。どこにかくした?」

ラビーはドキドキしています。こわい方のドキドキです。レオンは何と答えるでしょう。
「悪いな。食っちまったよ。」
レオンはそっぽを向きながらそう言いました。ウォールは目をつり上げます。
「何だと?」
「本当に食ったのか?」
シギーが聞いてきます。
「あぁ。まだ生まれてすぐみたいな小さいやつだった。おやつにもならんくらいのな。」
レオンはつまらなそうに答えます。もっと大きいのが良かった、とでも言うように。
でもウォールはまだうたがっています。

「おまえ、小さいやつは食べないんじゃなかったのか?」
「仕方ないだろう。最近ろくに食ってねえんだ。」
レオンはそう言いながら、ゆっくりとオオカミの方に一歩、一歩と進んでいきます。
ラビーはレオンがなぜオオカミに近付いているのか分からず、体を小さく丸めていました。
「それとも、その子どもらをくれるか?その大きさならおれもまんぞくできる。」
レオンはわざとゆっくり近付いて、その大きな口から舌を出し、口のまわりをペロリとなめて見せました。

ジャッキーとシギーはレオンの大きな口を見て、食べられると思いました。
そしてこわくなって、真っ黒な木の方へかくれるようににげて行ってしまいました。
子分の2匹がにげてしまったので、ウォールもいつまでもここにいるわけにはいきません。
「うさぎ、レオンに礼を言っておくんだな。」
そう言って、ウォールは2匹の後を追って行きました。

ウォールにはレオンがうさぎをかくしていると分かっていましたが、今回だけにがしてやることにしました。レオンがうそまでついてうさぎを守ろうとしているからです。
それに小さなうさぎなら3匹で食べるには足りなさすぎるとも思ったので、あきらめて大きな動物を探しに行くのでした。

「もうだいじょうぶだ。」
レオンの声に、ラビーはそっとたてがみの中から顔を出しました。
そこにはもう、オオカミのすがたはありませんでした。
「レオン、ありがとう。」
まだ少しふるえる声でウォールの言ったことを守るラビーを、レオンはいい子だと思いました。
そしてラビーを守れたことを、少しほこらしく思いました。
レオンはまた、暗い道を歩いて行きます。雪はまだふりつづいています。

 

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