零番目の童話

海沼偲

第四話 地獄の沙汰も嫁しだいー2

 獅子の神物は周囲にいる動物を従えさせることが出来る。が、それが主な能力ではない。動物は神物に勝つことはできないからだ。じゃああ、本来の能力は何なのかと言うと、自身の使役する神物の身体能力の向上である。もし、優れた王が支配者の国だったら、その国の兵士もどんなに弱かろうと通常以上の力を出すことが出来る。それを神物に当てはめた場合優れた王の位置にいるのがこの神物。
 だが、この神物の欠点は、自身の身体能力の向上等にかんする能力というものが皆無であるということ。それにより、科学文明の人間とたいした筋力差がないのである。それを補うように筋トレをしているであろう筋肉のつき方をしているが、それでも、神物学の人間には劣る。だからこそ、今は精人学の女がこうして前に出ることにより、身体能力的に劣る男を守っているというわけだ。
「そこをどけ」
「どきません!」
 やっと喋ったらと思ったら、これだよ。この世界ではヒロインだからな。やってられないな……。しかも、精人化も大体七〇%ぐらいといったところか。
「おい、そこの男。諦めて負けを認めれば女を助けてやることもないぞ」
 まあ、腹の中に子供がいる場合は腹の中の子供を殺すか、親ごと殺すか、あともう一つの選択肢かのどれかだな。こちらとしても、そんなことはしたくないわけで。
 と、突然ビリッなどという効果音が聞こえる。見なくてもわかる。玄武が破った。言っただろ、神物の能力は男のせいで強化されているんだよ。網程度で簡単に捕獲できるとは思っていない。
 ……さて、今持っている銃じゃ玄武の甲羅はもちろん生身の部分すら壊すこともできないだろうな。じゃあ、どうするか。簡単だ。威力が高いものに変える。えーっと、なに社製の何が強かったかな? 俺は、とりあえず脳内にあるありったけの拳銃のデータを探す。……あ、これとかいいんじゃないかね?
 俺が取り出したる拳銃は外見はまあ普通。それをこちらに迫ってくる玄武の口の中にねじ込む。これ、火薬で弾を発射させるタイプじゃないんだぜ。倫理的に抵触してしまうようなヤバいものを爆発させて秒速何キロだか忘れたけど、マグナム弾の威力をさらに上げたようなちょっとおかしい実弾を発射する。
「Good Bye Caroline.」
 大砲でも発射したのかといわんばかりの爆音が辺りに響き玄武は吹き飛んだ。硬さが仇になったことだろう。銃弾は玄武の体内を跳弾しまくってぐちゃぐちゃにしていることだろうからな。やっぱ、撃たれたらさっさと貫通してほしいものだな。
「さて、これでもうお前たち二人を守る盾はいなくなった。諦めて降伏しろ」
 俺は温情だからな。やさしさに満ち溢れた顔で交渉を持ちかける。
「そんなこと言ったって無駄よ! どうせ、彼を殺すに決まってる! わたしが、そんなことさせない!」
 だんだんと周りの温度が高まってくる。きたよ、水の魔法使いの熱湯。水の魔法使いは感情によって水の温度が変わる。つまり、冷静であればあるほど冷たく、感情的になっていればなるほど熱くなる。彼女の目からは涙がこぼれ落ちており、それが近くのお湯と混ざり合っている。
「いいのかい、旦那さんよ。目の前で奥さんが死んでも」
「黙れ! 科学の人間が魔学に勝てると思うな!」
 水の刃が俺の首筋をかすめる。俺は少し上体を逸らしただけでそれを回避する。
 はあ……ちゃんと歴史を習った方がいいぞ。歴史を直視してもらいたいもんだ。今までのどの戦争において、どの文明も決着がついたことなんて一度もないって言うのに。今までやってきた全ての世界大戦はなんか有耶無耶の状態で、ベルゼブブ家の仲介のもとなんとかして治めるということがほとんどだからな。
「さてさて、そんなに怒ってちゃせっかくの美人も台無しだ。奥さんの暴走を止めるのが旦那の役目じゃないのかね?」
 俺が取り出すは当然いつもの拳銃。科学の基本は銃火器だしな。諦めてこれを使おう。もうセットされている弾を外さないように丁寧に狙って撃ちだす。うん、ちゃんと水の壁が俺の弾丸を食い止める。
「あんたの銃弾なんかが貫通するわけないだろ」
 そうだな、玄武をめちゃくちゃにしていようが本気を出した魔学の防御の前では何の役にもたたない。だが、俺はしっかりと見せてもらったよ。今までは遠目でしか確認できなかったからここまで至近距離で確認する必要があったしな。彼女は水の壁で攻撃を受け止める時自分の手を常に触れさせているな。思った通りだ。これで触れていないと困るからな、最大威力でぶっ放した。
 魔法使い……特に水を扱うやつは必ず弾を水壁で止める。彼女も例外ではない。ちょっと前の大量の矢を使用した検証でも、彼女は壁を張っていた。実は魔法使いは銃弾を見えていない。俺の知り合いの魔法使いに聞いたからな。だから、水の壁を張って避けるのではなく受けるのだそうだ。
 俺はフッと鼻で笑った。それは彼女の琴線に触れるため激昂し俺を殺す気で水の刃が襲ってくる。
 初撃目は直線的に進むだけだった。それを避けるのは造作もない。二撃目は一直線に進んでいた初撃目が急遽急カーブをしてきて俺の死角から攻めてくる。これも避ける。よくある手法だから経験と直感を信じればまあ何とかなる。最後に上から降ってくるとは思わなかったけどな。俺は避けきれずに頭を水に殺される。はずだったが、奇跡的に回避することに成功した。やったぜ。
「くそっ!」
 彼女はだんだんと俺を殺せないことにイラついてきているようだ。拳を爪が食い込むほどに握りしめ唇を思いっきり噛みきったかのように出血している。
「……当たれば殺せる。安心して。大丈夫。あの男は授かった力だけで何とか首の皮一枚繋げているだけ。相手の貯蔵分を全て削り取ればこちらが勝つ」
「…………」
 さて、もう少し派手な攻撃が来る頃合いか。いつも以上に用心しないと。彼女がぶつぶつと何かを呟いていてくれたから助かったけど、そうじゃなかったら矛盾なしで戦わなくちゃならなかった。さすがに、科学の人間の身体能力で太刀打ちはできないからな。だけど、今の空いた矛盾量を少し消費して先ほどのまでとは少し変わった銃を呼び出す。ただし、これが見えないように細心の注意を払う。相手の不意を狙わないといけない。
 と、その時カンッなどという自然界には存在しないであろう異音が俺たちの右側からなる。何の音かわからずに俺たち二人はついうっかり相手から目を逸らしてしまう。
 俺はすぐさま拳銃を取り出し照準を合わせずに無理やり発砲する。手首のちょっとした角度の違いで明後日の方に飛んで行ってしまうが、大体向こうに近くを通るだけでも十分である。
 どうやら、向こうも俺が発砲したことに気付いたようですぐさま水の壁を作りだす。壁を作りだす速度までも求められるために手を水に触れてより多くの魔力を操る。これも、俺の予想した通りだ。
 もし、魔学の人間と戦争になった場合、魔法使いたちのそういった癖を科学の変態設定厨どもが利用しないわけないよな。俺だったら利用する。だからこそ、効く。
 俺の撃ちだした弾は当然水壁に遮られてしまい威力が抑えられ、外に飛び出ることもなく止まってしまう。で、その壁には彼女の手が触れている。その方が水の硬度が上がるらしい。例え、水で弾丸の勢いが弱まるといっても薄い壁は突き抜けるからな。薄い壁で突き抜けないようにするためには魔力をより多く練り込むに決まっている。で、そうなると、俺の弾丸から発せられた電気は水を伝って彼女に流れるわけだ。
 どうやったか聞きたい? どうやって弾丸に電気を溜めたか知りたい? いやなこったい。他の文明に知られたらまずい技術だからな。だけど、一つだけ言うなら、球自体が発電したということかな。
「さて、これで終わりか?」
「ま……まだ……終わらない……!」
 やっぱり、魔学の人間は強いな。俺たち科学の人間なら意識を失っている。魔学の人間は軒並み精神力が科学文明の期待値を超えている。SAN値を平気で一〇〇超えてくる化物しかいないってことさ。
「だが、お前はもう動けないはずだ。どうやって男を守るつもりだ?」
「殺してみなさい。そうしたら、あなたたちを殺すわよ」
「ADSを殺せると思っているのか?」
「できるわ」
 彼女は即答した。そこにははったりではなく本当に殺す自信があるからこその意志が込められている。
「あなたたちの弱点は知っているの。教えられたのではなく知っている。なんでだと思う? それは、神がわたしたちを生み出す前にその知識をくれたの」
「そうか。で、弱点を知ってもそう簡単に倒せる組織じゃないことは知っているよな? それは教わっていないのか? その大前提の前ではどの弱点も無意味だ。俺たちはたとえ何があろうと負けることはない」
「あら? そんな事を吠えていいのかしら? あなたたちの弱点は人数。それも、数が多くなればなるほど不利になるという弱点。で、今この世界には何人のADSがいるのかしら? 全員は殺せないにしても数人は殺せるわ」
「なかなか肝の座った女性だ。脅しには屈しないだろうな。じゃあ、お前に質問するが俺たち……いや、俺が所有している考えは四つある。どれか選べ」
 俺は男の方へそう言った。
「…………」
 男は無言である。しかし、それなら理解して納得したと俺は受け取るとしよう。
「まず一つ。お前を殺すことにより世界を安定させる案だ。その後もちゃんと彼女のお前に関する記憶を消去して変な復讐心や神物学のことについての記憶も一つ残らず消す。素晴らしい案だろう?」
「ふ、ふざけるなっ! そんな事許すわけないだろっ!」
 女が激昂する。まあ、理解していたことだ。だから、気絶させておきたかったんだけどな。どうやって、こいつを黙らせたものか。
「お前には聞いていない。あいつが、これが最も幸せだと思ったらそうするだけだ。お前も受け入れろ。それに、まだ三つある」
「…………」
 一応は黙ってやろうという考えに落ち着いたみたいだな。これでまともな交渉が出来れば儲けものだがどうなるか。
「二つ目は、両方殺す。片方が地獄へ行ったら悲しいだろうからな。両方地獄へ行くことによって地獄で幸せに暮らせる。地獄に幸せはないがお前らの愛の力で頑張ってくれ。俺はそれ以上は責任を持てないからな」
「なに言っているの!」
 やっぱり口開いてきやがった。
「お前はいちいち口を挟まないと死ぬのか? そうじゃないならもう少し俺に喋らせろ!」
「うっ……」
 ようやく静かになった。
「では、三つ目だ。これはお前を神物学の適当な世界に強制送還させる。ついでに記憶を消してな。また会いたくなったら困るからな。そうすれば、彼女を愛する心はなくしてしまうが、彼女もお前も生きていられる。どうだ?」
「……四つ目は?」
 やっと久々に口を開いたと思ったら少し聞き取りづらかった。内容は理解できたが、とりあえず聞いてみるか。
「なんだ?」
「四つ目の案はなんだ?」
「四つ目か? 四つ目は……永久にADSの監視下に置かれるという条件付きで結婚生活を認める」
「おい、一生! なに言っているんだ! そんな事をするなら殺した方がましだ!」
「彼を殺したら、あんたたちを殺してやる!」
 当然と言っちゃ当然の反応だな。だが、非常に厄介だな。
「お前らは短絡的に物事を考え過ぎだ! 少しは黙ってこの案の詳細を聞こうとしろ!」
 俺のわがままだ。全てはな。俺のわがままで無理やり全ADSを納得させようとしている。はあ……いやだなあ。俺だってできることなら殺して終わらせたいけどさ、なんだか、こいつらに罪はないって思うと殺しずれえなあ。俺が新人だからこんな考えかもしれないな。それに、あいつらは俺と同じようなことを考えて、それでも無理矢理自分の感情を殺してきたのかもしれない。それなら、俺は最低のクズ野郎だな。だけど、俺は勝手にやることにするよ。ADSは書き換える組織。今までの歴史を書き換える出来事を起こしてもいいだろう?
「……聞かせてくれないか?」
 その中で唯一男だけが冷静に物事を判断しているように見えた。こういう奴は敵でも好感が持てるから好きだな。女だったらどんな手を使ってでも口説き落としている所だ。
「まず、結婚生活をするうえで守らなくてはならないルールを作る。それは全てこちらで決めてもらうぞ」
「例えば、どんな内容だ?」
「まず、お前は軍人になってはならない。ベースは魔学のくせに神物学を修めた人間がいるからな。お前は俺らが指定した職業以外に就職することを禁じる。で、その次。自分の奥さんと性交したくなった場合ADSに書類を届けること。二つの文明を使用する人間というものは存在がパワーバランスの崩壊を産む可能性がある。だから、可能な限り子供ができる可能性を排除する。簡単に言うと、勝手にセックスしたら殺す。まあ、許可さえ下りればしていいからそれぐらいがまんしろ。こちらもお前たちの状況を確認しておきたいからな。その次。何かの手違いで子供が出来てしまった場合成人を迎えたらADSで預かる。そういうハイブリットな人間はうちらとしても欲しい人材だからな。どの文明にも所属していない独立した組織だからこそこれが可能だ。ちなみに、これはほんの一例だ。これだけ聞いて守れないと思ったら他の案を考えるんだな」
「……彼女と」
「なんだ?」
「彼女と話をさせてくれないか?」
「一時間だけだぞ」
 俺は二人だけを残してこの場を離れる。一応二人が見える様にその場を明るく照らした後にだけどな。
「どうする気だ? おそらくあいつらは四番を飲むぞ」
 槙之助はそう言った。俺も同じ考えだ。
「だと俺も思うよ。はあ……始末書書く準備しとかなきゃな」
「それに、どうやって説明するつもりだ? 上としては今まで殺してきた事件だぞ」
「まあ、歴史を変えるってことで許してくれない?」
「これが成功すればな」
 そう、これが成功すれば。
「おい……あの狸女を思い浮かべてその案を思い浮かんだのか?」
 レイトンがそう聞いてきた。
「まあ、それも一つあるな。唯一、二つの文明を所有している例が存在するんだしな。これもあっていいかと思ったのは事実だな」
「だが、あれはもう子供が生まれていたからこそ子供には罪がないとしてADSで預かった事例だぞ。それが今回も通用するとは限らないからな」
「可能性に賭けてもいいと思っただけだよ。ADSのギャンブルは成功しやすいだろ?」
 レイトンは呆れたように頭をかき始める。
「勝手にしろ。俺は庇わないからな」
「ありがとな」
 と、俺たちの前に二人が歩いてきた。二人とも元の姿に戻っている。先ほどの姿と違うところから見て想像しているだけだから、女の方はまだ精人化している可能性もある。俺は一応その可能性も考慮に入れて拳銃を右手に持ったままにしておく。
「答えは出たのか?」
 男は静かにうなずいた。女の方は耐えきれなくなったのかどうかはわからないが、目から涙を流し始めた。俺はそれを見た瞬間に彼らが、俺が提案した四番目の案を放棄して別の案を採用したのかもしれないという考えを思い浮かんでしまった。確かに、全てを監視されている生活は幸せではないのだろう。俺だって嫌だ。だが、こいつら二人が決めたことだ。今度はこっちが向こうの決断に納得しなければならない。もう覚悟はできている。できる限り素早く一緒に送り出してやる覚悟は。
 俺はそれを証明するように拳銃の引き金に指をかける。そして肩の力を抜いた。可能な限り素早く銃口をあいつら二人に向けて、引き金を引くために。何故だか知らないが、俺の目元から一筋の涙が流れた。こいつらのことあんまり知らないのに、なんで泣くのかはわからなかったが、俺はまだまだ未熟な男だということなのだろう。
 男はその疑問に答えを出すように口を開く。
「四番目の案でお願いします」
「…………。……ん? ……ああ、わかった」
 俺は拍子抜けした。そのせいで反応が遅れたといっても過言ではないだろう。
 それは、俺が予想している以上にこの世界というものは案外簡単にできているかもしれないということの証明だと感じた。

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