零番目の童話

海沼偲

第三話 悪魔はただひたすらに黒しー3

 俺たちが到着したところは、木が多く生えていないちょっとした広場だった。
「遅いぞてめえら! どれだけ待ったと思っているんだよ!」
 と、開口一番に突っかかってきたのは我らがエリザベス。久しぶり過ぎて、泣けてきた。数時間しかたってないけどな。
「すまないな、待たせて」
「待ったわこんちくしょう!」
 エリザベスは俺の頭をぐりぐりとしてくる。もう片方の拳はマールの頭にしている。
「……なんで、私まで?」
「先輩の愛情だ」
 しかし、マールはそこで先輩への尊敬の眼差しとかそういったたぐいのものは少しも見せずというか、真逆の呆れたような表情を浮かべている。
「……同期のはず」
「お、お前ら同期だったのか……!」
「だれが、ADSの先輩といったんだ? あたしは、人生の先輩という意味で言ったんだ。勘違いしないでよねっ!」
「おっ、そうだな」
 俺は適当に流す。ああいったボケは突っ込んでやる方が優しいというのだが、俺はあえて無視をすることにより、エリザベスの羞恥心を煽る。ほら、顔が赤くなってきた。だって、ツンデレの真似事みたいなことして、俺に無視されたからな。
くくくくくくく……、ブハハハハハハハハハ! 俺にした仕打ちを顧みればこの程度のことなんて序の口なんだよ! これからどんどんランクを上げていくからな! 最後担い手許しを請いても意味がねえんだよ!
「おはよう、永原一生」
 地面に顔面叩きつけられた後髪の毛引っ張られて起こされました。エリザベスの目線と同じ高さまで。俺の顔が土埃まみれなのはそのせいだ。
「おはようエリザベス。ひどい悪夢を見たよ。お前がツンデレ口調になるっていう夢だ。気持ち悪すぎて嘔吐するかと思ったぜ……うっ!」
 俺は口元を両手で押さえる。
「就寝入りまーす」
 地面に頭を打ちつけられる。あ、地面赤いじゃん。茶色く塗りなおしておこう。
「目、覚めたか?」
 エリザベスは掴んでいた髪を放す。俺は今解放された。
「寝るんじゃないのか?」
 それを言った直後、頭をさすりながら起き上がる。手のひらを見てみると、真っ赤に染まっていた。あー、傷塞がねえと死ぬな。
「おい、ダン。見つかったか?」
 と、この場についさっき戻ってきたダンに聞いてみる。
「なんだよ一生、来てたのか!」
「ああ、で、どうだ?」
「さあな。今書き換えたら世界が吹き飛ぶから、使えない。誰かが見つけるだろ」
「やっぱりか……妙に息苦しいわけだ」
『たしかに、ぎりぎり第一次ラインを超えていないという感じですね』
「あとどれくらいで減ると思う?」
『何とも言えません。もうしばらくはこのままが続くと思います』
「つらいなあ。そうおもうだろ、アリシア?」
 俺は、近くによちよち歩いてきたアリシアの頭に手を乗せる。そして優しく撫でる。
「えへへ……お兄ちゃん、くすぐったいよ」
「レミリアはどうした?」
「うーんとね……探してる!」
「そうか……。なんで探しているんだろうな?」
 書き換えてもらうまで見つかるわけがないと知っているのにも関わらずな。まあ、その場でじっとしていられないんだろうけどな。だけど、アリシアまで捜索に参加させるのは気が引けたからここに残してきたといった感じか。
「お兄ちゃん! わたしとたのしいことしよっ!」
「何をするんだ? 時間がかかることじゃなければいいぞ」
「うーんとねー、今かんがえる!」
「そうか」
 俺はその場にあおむけで寝転がると、ぼーっと空を見上げている。魔学の空は粒子がキラキラと飛んでいて綺麗だから好きだ。科学は空が曇っていてあまり好きじゃない。自分の文明だけどな。
「……何しているの?」
 と、マールが上から覗き込んできた。
「綺麗なものを見ているんだよ」
「……そう」
「どっちも綺麗だ」
「……恥ずかしいと思ったことはないの?」
 マールはいたって冷静だった。とても空しくなってくる。俺、泣いてもいいかな?
「は、恥ずかしいわけないだろ」
 俺の声は少しうわずっていた。
 そこでマールはふっと口元を一瞬だけ緩ませると、俺の右隣に座る。体育座りでだ。そして、俺と同じように空を見上げる。
「お前は、そんなことを堂々と言って恥ずかしくないのか?」
 と、ダンがこちらに歩いてきた。魔学文明のくせにコーラなんか飲んでいる。別に飲むなとは言わんが、なんで今飲むんだ。骨が弱くなるぞ。
「なあ、ダン。俺はこっちに来たばかりだからわからないけど、何人ぐらいで捜索しているんだ?」
「さあな。でも、森がめちゃくちゃ広いしそのほとんどが手を付けられていないから探すのに一苦労だ。今は、木の魔法使いを主導になんとか捜索しているって感じだな」
「じゃあ、何人ぐらい本部に残っているんだ?」
「半数以上は残っているぞ。ここにいるのは千人かそこらだ。こっちが解決するまで他の世界で犯罪が起きないと限らないしな。だが、こちらに来ている人員が多いこともまた事実だな」
 やっぱりそうだよな。俺こっち来ないで、本部で待機しておけばよかったな。こっちより楽そうな仕事だしな。
 と、遠くの方で何かが倒れるような音がする。今のはおそらく木だな。それも沢山。もう見つけて一戦している所かな?
「来たよ、お兄ちゃん」
 アリシアが立ち上がり音のした方へとじっと目を凝らしている。
「そうみたいだな。アリシア、準備はできているかい?」
「だいじょうぶだよ、お兄ちゃん。でも、少しくせんしているみたいだね」
「だろうな。ADSのくせに片が付けられないなんて失格だな」
「……でも、あれだけの大人数で本来の力が発揮できないのもある」
 ほんと、数が多くなればなるほど不利だからな。ADSって。だからこそ、二人一組が一番強いとされているんだ。
 俺は立ち上がると音のした方をじっと目を凝らして見つめる。うん、火花が散っているところを見るとあそこらしいな。
「距離はいくつかわかるか? エリザベス!」
 と、突然エリザベスに向かって何かが飛んでくる。高速で。しかし、エリザベスは何も気にしていないようだった。
「八キロだ! 飛べるか?」
 そう言いながら、握っていた拳を開く。そこから鉄くずがぽろぽろとこぼれ落ちている。やっぱり止めていたか。射線上にいるのにどうやって当たらなかったんだろうって思っていたからな。
「飛ぶ!」
 しかし、飛べない。もう一度。無理。……あれ?
「今、矛盾量空いているか、っていう意味で質問したのがわからなかったのか? なんで、『飛ぶ!』なんて意思表示をしているんですか? アホだからですか?」
 エリザベスが、馬鹿にした様にそう言う。こればっかりは言い訳できない。
「……仕方ない」
 と、マールがうしろで呟く。振り向いてみると準備運動をするかのように手首足首、膝関節などをほぐしている。
「よし、一生! 八キロ全力疾走するぞ!」
「ばかやろう! 俺は科学文明なんだよ! てめえら、化物文明と一緒にするな!」
 マラソンなら余裕だ。しかし、全力疾走ができるわけがない。魔学と気学の人間ならできる。だって、人間を辞めている文明だから。パンチ一つで人間を殺せるから。科学は、急所に当てれば殺せるが、向こうはかすれば殺せる。それほどまでの違いがある。だからこそ、俺は全力疾走することが出来ない。
「お兄ちゃんいかないの?」
 アリシアは箒にまたがる。それもせこいよ……。……あ、そうだ。
 俺はポーチから、あるものを取り出し、それを背負う。
「……せこい」
「せこくねえよ! 科学の結晶だ」
 俺が背負ったものはいわゆるジェットパックである。さらに、最近の科学力というものは素晴らしく人一人を空中に浮遊させるための装置ですら縮小させ、俺が背負っているとはいっても、リュックサックより一回り小さく周りの邪魔にもならない優れものである。とはいえ、これを背負っているのは少しダサイ、が、とりあえず、起動する。すると、足が地面から少し離れる。出力を下げているからまあ、この程度だろう。
「ワイヤーアクションしないのか?」
「あんな低次元立体軌道は間抜けのやることだよ。本物は、高さなんて必要ない」
「はいはい、道具に頼った考えは止めような。ダサいから」
「俺、科学文明の人間だって知っている?」
「よし、あたしも準備できた。マール、これ持っていってくれ」
 エリザベスが手渡したのは自分の血液が入った真空パック。
「……わかった」
「わかっているな? 破るのは」
「……銃声が聞こえた時」
「よし、当たりだ」
「じゃあ、もう行くぞ」
 俺は、飛んだ。直球な意味でだ。

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