零番目の童話

海沼偲

第二話 科学と魔学と神物学と錬成学―3

 この世界に降り立つと俺たちは辺りを確認した。どうやら、ここは魔学文明の中の王国らしい。
 まず、魔学文明の人々はめったに王国というものを築きあげることはない。基本的に小さな集落を作ってそこで生活を営む。だから、魔学文明でここまで立派な王国を築きあげている世界は珍しい。
「……なるほど。……これなら隠れるのにうってつけ。……しかも、王国の性質上わたしの力は発揮されないとみておくべき」
「関係ない。俺と最も連携が取れるからな、マールは。エリザベスも考えたが、あいつは相当ノリに乗ってないと噛み合わないしな」
「……仕方ない」
 そう言うとマールは、ゆっくりと深呼吸をして足元に向けて拳を思いっきりぶつける。一応言っておくと、マールは気学出身の人間だ。そのため、俺たちの足元の様に石煉瓦造りの状態だと、マール本来の力が半減されるのだ。だから、気学文明の建物は、科学文明に位置付けられてはいるが、無機物で出来た物質で構成されていることは少ない。
 石煉瓦を割ると、その下の土に手を当てる。目をつむりしばらくじっとしていると突然すっと立ち上がる。
「……敵は隠れるのが非常にうまい。……広範囲を調べたけど、どれも外れみたい」
「じゃあ、視界が開けた場所にでも行って、そこから辺りを探すか」
 マールはこくりと頷く。
 それを確認すると俺はポーチからフック付きワイヤーを取り出し、適当な建物の屋上部分に突きさし、ワイヤーを巻き上げる力で上まで上る。マールは、地面を蹴り上げてそのまま屋上まで到達する。……やっぱり、生物としての身体能力が高いと技術が発展しないんだよな。
 屋上に来るや否や、マールは小鳥を呼び寄せる。ただ口笛を吹いて呼び寄せるだけだが、気学の人間は気を小鳥と似たような性質に変えてそれを混ぜながら口笛を吹くため、仲間だと思って近づくらしい。
 まず、音には波があり俺たちはそれを音波と呼ぶ。で、気にも生物ごとに違った波があり、それを気波と呼ぶ。気学の人間はそれを違う生物の波へと変えることができるというわけだ。
 その通り、ちゃんと小鳥が何羽か寄ってきた。そして、しばらくマールが小鳥たちの眼をじっと見ていると小鳥たちは散り散りに飛び立ってしまう。
「どうだ? なにかわかったか?」
「……この辺りに小説家はいないらしい。……彼らが見た限りではという前提があってからの結論だけど」
 ……これ、かなり難しくないか? 俺たちのいつもの仕事は、世界を壊そうとする人間の確保。そいつらは決まって周囲に矛盾をばらまいているため、矛盾を感知できる俺たちは簡単に発見することができる。だが、今回の敵は矛盾を発していない。ということは、いつものようにすぐに発見することができない。
 一応、俺は今回の元凶の居場所がわかっていると書き換えてみたが、まるで反応がない。
「どういうことだ?」
『今、矛盾限界ギリギリなので、もう少しお待ちください』
 って、全員試していたのか。気付かなかったな。そっちにも注意を向けていないと。それなら誰かがわかるが、そうじゃないのか?
『なにかが私たちを妨害しているとみて間違いないでしょう』
 だが、矛盾はない、と。
「どうする? 今は矛盾の空きも満足にないから探すのに一苦労するぞ」
 俺はマールにそう告げる。マールもそれに半分納得しているようで、少し頭を悩ませているようだ。
「どうだ? 見つけられたか?」
 と、先ほどの棍棒持った女性が近づいてきた。
「今思ったが、中華系か?」
「いや、純粋な日系。一生と同じ日本人だ」
 ……え? 日本人? いたの? てっきり、俺だけかと思っていたわ。
「……で、パートナーは?」
「もうすぐ着くと思うぞ」
 と、言っていると上空から一人の女性が、俺たちの方へ向かって急降下してくる。俺たちはそれに備えて構えると、彼女は俺たちにぶつかる直前に急停止した。そして、ゆっくりと降りてくる。
「ふう、やっぱりここにいましたの。三人集まっている地点があり、おかしいとは思いましたが……」
 そこで俺をちらっと一瞥した。
「で、何故ここに?」
 と、俺はここで思い出したが、彼女は先ほど俺と一緒に居た一人だ。扇子を持っていた女性。
「情報交換だよ。今回の敵はいつもと違うからな」
「あなたの感知が一番範囲が広いはずでしてよ」
「確かにそうだがな。それは少し待ってくれ。恐らく全員来る」
 その通りになった。しばらく経つと先ほどの六人全員がこの場に集合していた。今この場にいるのは九人だがな。俺の知らない顔が一人いる。おそらく、誰かのパートナーで呼ばれたのだろう。
「さて、全員そろったな」
「やっぱり、蘭なしで調子こいて探すことはできないからな」
「癪に障るが仕方ないな。全員そのつもりでプライド捨ててきているしな」
「蘭さん。お願いします」
 ただ、蘭はうんうんと頷いていた。
「健一と、槙之助に教えるのはむかついたなあ。こいつらがいないところに行こうぜ」
「「ほんとすまんかった!」」
 綺麗に四五度に折れ曲がった謝罪をした。いやあ、すげえ綺麗だわ。絶対に真似したくないけど。
「って、俺は関係ないだろ! 別にお前を乏しめていねえ!」
「健一はなんか見ていてムカつくんだよな。彼女いるし」
「か、関係ないだろ……」
 健一はその場にガクッと崩れ落ちる。
「さあ、そんな冗談を言っている暇はなくてよ?」
「わかってるよ」
 ふっと、真剣な顔つきになると、背負っている棍棒を持ち上げ、屋上に突き刺す。そして、柄を持ち、しばらく目をつむってじっとしている。でも、これが迷惑になったりしないのか?
 そして、カッと目を開けると同時に蘭を周辺としたあたり数キロにわたって、突風が吹き荒れる。遠くに風にあおられて立っていられない人が見えている。俺たちは、なんとかギリギリ堪えている。いや、俺だけだった。他は、羽織っているものや髪が風にあおられているだけで、本人たちは何の苦とも思っていないようだった。
「…………」
 蘭は、非常に残念そうな顔を見せる。自分の不出来を呪っているかのように。そして、辺りにふぶいていた風が止んだ。
「ダメか……」
 おそらく、槙之助の方、が確認をとるようにそう言った。蘭は、こくりと頷く。
「蘭さんの感知でもダメだとなると……もう他に手がないとおもいますが……」
 と、そう呟いた女性の下に数名の人間が集まる。そして、彼らは何かを報告すると、すぐさまその場から離れる。
「人海戦術もダメですかね。あはは……どうしましょう?」
「……しかたないな」
 と、唐突に先ほどまで目をつむって何か考え事をしていた女性が立ちあがる。そして準備運動をするかのように手首足首をほぐす。それに全く意味はなさそうに感じるが、彼女には何をする気なのだろうか?
「どうした、美和子?」
 と、蘭のその発言を無視して辺り一面に魔法陣を展開する。こいつ、魔陣学出身か。しかも、どれだけの量の魔力を管理しているんだよ。
「やっぱ、これだけの魔法陣は肩に来るな。誰か、あとで肩でも揉んでくれないか?」
「仕方ねえな」
「あ、やっぱいいわ」
 槙之助は少しいじけてしまった。彼はつまらなさそうに石を蹴飛ばす。
 魔陣学は、魔法陣等といったものごとに魔法が管理されている。つまり、一つ一つ違う魔法陣が存在するということだ。それを全て自分の頭一つで管理する。要するに、今やっていることは、同時に数千もの演算処理を自分の頭で処理していることになる。
「……いないな。最近どこかへ旅行に行った人間は。じゃあ、図書館に缶詰めしてた奴? いや違うな。じゃあなんだ? どれだと引っかかる?」
 それに合わせて俺たちも頭を悩ませる。恐らく、この国の住民たちのデータを管理する魔法を使用しているのだろう。それで検索をかけて引っかかった奴をしらみつぶしていく考えらしい。
「…………!」
 俺はふとあることを思いついた。そしてそれを口に出した。
「なあ、この国に何店舗書店があるんだ?」
 それを聞いたものは全員目の色を変えた。あまりに非効率的だが、ほぼ確実に目標を狙い打てる提案だからだ。
「軽く千店舗は超える。それでもやるのか?」
「一人百店舗を担当するだけだろ? 簡単だぜ。面倒なことを考える必要がないしな。俺的には非常に簡単だ」
 と、健一が賛同する。
「じゃあ、私の部下にも捜させるように伝えておきます。それだとより少なくて済みますからね。……できました」
 と、このメンバー唯一の金髪がそう言った。他はほとんど全員黒髪でマールだけが茶髪である。
「じゃあ、こんなところで無駄話をしている暇はねえな。解散っ!」
 それを合図に俺たちは屋上から姿を消す。

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