零番目の童話

海沼偲

第一話 小説は事実なり―4

 それからしばらく経ち、二回ほど警報が鳴り響くことはあったが、それ以外は特に変わったことはなく……。あ、そうそう、警報が鳴り響くっていうことは、今この世界のシステムを利用して世界を破壊しようとしている悪質なテロリストが出現していることを教えてくれるわけね。でも、誰かがすぐさま駆けつけるから、別に動く必要はないと思った。それに、すぐ解決するし。五時間以上かからなければ問題ないしな。
 で、話を戻すと……今は夕方になった。もうそろそろ集合場所へ移動していく頃合いだろう。
 さて、ここでADSの敷地を教えていこうと思う。まず、ADSの本拠地が九九次元にある。そして、神が生み出した唯一の世界に存在する星に建っている。というか、地面の上に小さな役場みたいな建物がちょこんと飛び出していて、それ以外は全て地下に埋まっている。可能な限り神が生み出した世界の雰囲気を壊さないためにだ。
 ただし、ADSの敷地は地下全てではない。この他にもこの星の周りをまわっている衛星いくつかとさらに外側を回っている惑星いくつかがADSの敷地になる。
 で、俺たちがこれから行くのは、ADSの人間が全員入ることのできる大きな会議場が建っている惑星に飛ぶ。
 じゃあ、どうやって飛ぶかって? 俺たちには『書き換える力』がある。それで、『惑星NO,6に最初からいた』と書き換えれば、ほら飛べた。さっきマールを追っていた時に使ったのと同じ力だ。
 その証拠に今まで大図書館にいたのだが、先ほどまでも辺り一面本の光景から、辺り一面座席の光景へと変わった。どうやら、俺の他にも何人か先に着いて席に座っている人もいるらしい。
 俺も大人しく席に座る。まず、席に座った時の景色だが、目の前に小さなモニターが取り付けられており、そこから会議の様子が見えるらしい。その他にも顔を上げれば、さらに大きなモニターが設置されており、そこからも会議の様子が見れるようになっている。ただし、今は誰も映像の中には映っていない。ただ会議場の様子が映っている。
 今、映像でしか会議の様子は見ることはできないのか、と思ったがそうでもない。俺が座っている席からちょっと進んだ先に一面窓ガラスが張られた壁があるのだが、そこからどうも、会議の様子が見えるらしい。……今気づいたのだが、ここって最上階なんだな。普通の視力なら、会議の様子を肉眼で見れねえぞ。
「なんでここに飛んだんだ?」
『ここが一番空いていましたので』
「あっそ……じゃあ仕方ないな」
 下の階層がどれほど混んでいるのかがわからないけど、下手したらギュウギュウ詰めなのかもしれないし、確認しないでおこう。
「お。一生じゃん。おめでとう、生きて帰ってこれたんだな」
 と、唐突に後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえたため、振り返る。そこには白衣を着た……男?
「今どっち?」
「……アッシュだ」
 どうやら男らしい。
「いや、すまんすまん。お前の姉さんと顔がそっくりだからさ。慣れるまではしばらくかかると思う」
「慣れてるから別に傷ついてはいないんだけどな……ただ、僕の顔がそんなに女っぽいかな、って思うだけだから」
 やっぱり傷ついているらしかった、肩を落としていかにもドヨーンという表現が似合う雰囲気を纏っていた。
「すまんな」
 俺は心から謝った。こいつもたぶん苦しんでいるからな。常人とは違うところで。
 今の目の前にいる男はアッシュ・ラグレシアン。で、こいつには姉がいて彼女の名前はルーミア・ラグレシアン。
 で、だ。彼等姉弟は、一つの体を共有している。どういうことかというと、今目の前にいる体にアッシュとルーミアの二人の魂が入っているということだ。そのため、毎日交代で体を入れ替えている。そのため、日が開くと今はどっちだかわからなくなる。今日は、アッシュだから明日はルーミアが体を操るな。
「じゃあ、もうそろそろ始まるし隣に座ったらどうだ?」
 俺は、今座っている席の左隣を勧める。アッシュはその言葉に甘えるようにして俺の左隣に座る。
 そしてしばらく待っていると、モニターの中に一人の女性が入ってきた。その女性は、会議室に広がる大きな丸型テーブルにマイクを取り付けていく。
『えー、マイクテス、マイクテス。みんな聞こえている?』
 外見からみて二〇~三〇半ばの間に位置するであろう容貌の麗しき女性。彼女の口から発せられる声には皆の心を惑わせる魔法とでもいうべき力が込められている。このような女性の発言に男どもが反応しないわけがない。
「「「ああ、聞こえているぞくそババア!」」」
 まあ、誰も歓声を上げるとは言っていないんですけどね。
「おい、もしかして下の階層に陣取っている奴等って……」
『そうですね、野次が届きやすいようにあえて下の階層を選んでいる人が大半ですね。まあ、ADSにしか野次は飛ばしませんけど』
 やっぱりそうかよ。その後も口々に野次が飛ぶ。例を挙げるとすれば「おい、さっさと引退しろババア!」「若作りしてんじゃねえぞババア!」「さっさと若い奴らに席を譲れババア!」などである。ADSの好意の表れなのかね? 実際上の人間がいると俺たちに役職が来ないからなあ。
 確かに、今モニターに映っている女性は容姿は二〇代かそこらの年齢に相当するだろうが、実年齢は一〇〇〇年超えているらしい。四〇年に一度若返っているらしいからな。そりゃ永遠に若いわ。
『おい貴様ら! いま大声張り上げた奴全員男だってわかっているからな! あとでてめえら全員首はたき落としてやるから覚悟しろよ!』
 負けじとマイクに向かって大声を張り上げるババア。無理すんなババア。ちなみに、はたき落とすというのはそのまんまの意味である。ビンタで首をもいじゃうらしい。
「「「ババアにそんな体力ねえだろ! 無理すんな!」」」
 と、何人かの男がまたもや大声を張り上げる。それを聞いたババアは……失礼だな。イリヤ・ストーンは、こちらモニターを凝視していた。そしてその後、イリヤの後ろに三体の鬼が金棒を持って鼻息荒くしながら立っていた。
『マイケル! ダン! オックス! あと他何人か! 誰が言ったかわかっているからな! 楽しみに待ってろよ!』
 ああ、死んだな。しかもダンまでいるし。ご愁傷様。
『ハハハ……大変ですね、イリヤさん』
 と、今度は若々しい青年が入ってきた。姿格好から見てADSの人間ではない。ということは、四文明の誰かということになるが、科学文明の最高権力者には会っている。なら、考えられるのは、残り三択なのだが……。
「あれは、錬成学の長だよ。イリヤのババアと一緒で若作りしている」
 隣にいたアッシュから、答えを教えてもらった。まあ、錬成学なら若作りができる唯一の文明だしな。
『あら、もう来たんですか? まだもう少し時間はありますよ』
『ハハハ……僕は一応あのメンツの中だと一番年下ですからね。先輩より先に来るのは当然ですから』
 そう言い終わると、自分の席についてメガネを生み出すとそれをかけて本を読み始める。もしかして、老眼なのか? それは安直か。
『す、すみません! 遅れました!』
 その直後、またもや会議室に入ってくる若い女性。とんがり帽子に黒マントといかにも安直な発想といわれるような姿格好をしていた。……彼女は魔学文明なのだろう。しかし、魔学文明に若返りができるような技術はないはず。
『いや、遅れてないので安心してください』
 イリヤは息切れしながら入ってきた女性を落ち着けようとする。だが、入ってきた女性は辺りを見回してまだ自分以外の全員がそろっていないことを確認するとほっと胸をなでおろす。
『…………? 君は誰だい?』
 どうやら、彼も知らないらしい。あまり会う機会がないのだろうか? いや、一年に一度は会うことが決まっているのに、知らないはないか。じゃあ、彼の反応は?
『あ、す、すみません! 自己紹介がまだでした! わたし、魔学文明第六五八七代目文皇、ミラノ・イーリーです!』
 彼女は緊張したようなかちこちの声で、そう自分を紹介した。
『あらら、あのばーさん死んじゃったのかい?』
『は、はい……。それで私に文皇の座が渡ってきました』
 緊張しすぎて、石のように堅そうな魔学文明の長と、完全にリラックスしている錬成学文明の長の様子は対照的であった。
『じゃあ、僕も自己紹介しないとね。僕は錬成学文明第六五七七代目文皇ジェシー・ワイトだ。これからよろしく』
 と、言って手を差し出すジェシー。
『は、はい! よろしくお願いします!』
 それをぎこちなく握り返すミラノ。
『おー、二人とももう来ておった……おい、トム』
『なんじゃ、ジョン』
『あの若い女は誰だ?』
『…………誰じゃろな?』
 と、最後に二人の老人が入ってきた。片方は科学文明の長だから、もう片方のトムと呼ばれた方の老人は神物学文明の長なのだろう。それを証明するかのように、足元にはオオカミのような神物がうろついている。これで全文明の長が出てきたな。
 ……さて、今まで四つの文明が出てきた。それがこの世界に存在する世界を大まかに分けたときの分類区分だ。全ての人間はこの四つの文明のどれかに所属している。例外として、九九次元の人間はどの文明にも当てはまることはないが。俺は先ほど言った通り科学文明に所属している。そのため、科学文明の力を扱うことができる。まあ要するにドンパチしている奴らだな。ドンパチ以外もするが……例えばこの建物は科学文明の技術を集結して建てられている。科学文明の人間は人間そのものの能力にそれほど特別な力がないため、その周りの道具に力を付与してきた文明だな。それと似たような文明として錬成学文明がある。
 錬成学文明は近世程度の科学文明技術を所有している。ただ、それだけでは劣化化学文明で終わるが、錬成学文明の特徴はそこではない。
 錬成学は、無から有を生み出す文明だ。生み出せるものに限界はない、自分の腕が消し飛んだから、腕を生やしなおすとかを平気で行ってくる文明だ。そのため、一番敵に回した時に殺しにくい文明でもある。ただし、どの程度まで生み出せるかは個人の技量にかかっているわけだから、俺たち科学文明より人的資源の価値が大きい。ただし、価値がある人間ほど死なない。
 他の文明も順々に紹介していこうと思う。
 まずは魔学文明。
 これは簡単だろう、魔法を操る文明だ。一方では悪魔学、契約学とも呼ばれる。何故そう言われるのかというと……作者が晩年悪魔信仰にのめりこんでしまったというのが一番の理由だったりする。
 最も、契約という概念を重んじる文明で、魔法を扱うためには四体の精霊の誰かと契約をしないとならず。その後もその精霊を信仰していないと魔法が発動しないとなっている。それ以外の生き物とも対等な契約を結びお互いに助け合うことで有名な文明だったりする。恐らく、人間と対等な関係を他の生き物とでもむすぶ文明は魔学だけだろう。ただし、一般的な動物、彼らから見れば獣は生き物とすら見ておらず、動物愛護団体が発狂するような仕打ちをしている国もある。
 次は、神物学文明。
 先ほどの魔学とは違い、神物と呼ばれる生き物を従属させ使役する文明である。生まれた時に、自分の血を使い神物を従属させ、生涯を共にするパートナーを作る。神物は、それぞれ固有の能力を所持しており、従属させた人間もその力を扱うことができる。レイトンは先ほど見せてもらったように鳥というかフクロウの能力をもらっている。
 まあ、とりあえず適当に文明の説明を終わらせた頃には、もう準備ができているらしかった。
『さあ、諸君! 待たせてしまったようじゃな!』
 マイクを持って、俺たちに話しかけてくるのは、ADSの最高指導者兼スカウトマンである。俺も彼に連れられてこの世界に入ってきた。
 そして、彼が話しはじめると同時に、いたるところから野次が飛んでくる。野次というか声援か? 爺さんに声援を送るつもりはないが、ADSの実質的トップは他の奴らからの慕われ方が違う。いつもはくそじじいって言っているくせにな。
『お主ら、もう準備はできているか? 準備ができ次第、すぐさまに開始するからの!』
 そう言うや否や、爺さんはサングラスを取り出し、それをかける。俺の周りの奴らも同じようにかける。俺は辺りを見回して、全員かけていることを確認すると、同じようにサングラスをかける。
 しばらく様子を見ていた爺さんは、にっと笑って会議の開会を宣言した。

「零番目の童話」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く