零番目の童話

海沼偲

第一話 小説は事実なり―3

 俺は、その後適当に食事をとり、建物の外に出る。日が傾き始めたらしく空が赤みがかっていた。今いる世界は先ほど言った通り神が生み出した唯一の世界だ。ここから、西へ少し歩くと四つの文明を生み出した四人の偉大な小説家の銅像が飾られているはずだ。今は行かないけどな。とりあえず外の空気を吸いたかっただけだし。
 俺はとりあえず近くのベンチへ座る。そこからは、この世界に住んでいる人々の生活している姿が見える。俺が今いる場所は建物の入り口の真ん前に置かれている噴水広場のベンチである。この広場から丁字に道が続いており俺から見て左が先ほど言った小説家の銅像が飾られている場所。右には民家が立ち並んでおり前に行くと商店街よろしく小売りが立ち並んでいる。先ほど言った様に夕飯の準備でもしに来たのだろう奥様方や売り子の談笑が聞こえてくる。
「おい、なにしているんだお前は」
 と、俺に向かって何かを言ったのはレイトン・ハーベルトだ。肩にはいつものフクロウも乗っている。
「外にいちゃ悪いか?」
「いや、悪くない。だが、部屋の中で機械いじりしているような文明出身のお前がいるのは珍しいと思っただけだ。なあ、そう思うだろ? マール」
「……そうだね」
 と、そこにはマールもいた。
「マールも外の空気を吸いに来たのか?」
「……気学は風に当たっていないと調子が狂うから」
 そう言って、俺の隣に座るマール。そして、すっと目を閉じる。まるで石のように微動だにしない。
「ところで、レイトンは何しに外にいるんだ?」
「こいつに運動させていただけだ」
 と、フクロウを指さす。フクロウは、何も言わずにじっと俺を見つめる。何か吸い込まれそうな気がした。そんなことはありえないのだがな。と、フクロウが飛び立った。何かを見つけたのだろうか?
「そこに害獣がいるんだよ」
 レイトンは、針治療に使う程度の大きさの針を取り出し、少し遠い場所へ投げる。そこには、ネズミがいた。そして、寸分の狂いもなくネズミの尻尾を針が貫く。これを合図ととったフクロウは、ネズミに飛びかかり捕まえ、また空へと舞いあがる。針はネズミの尻尾を二つに割いて地面に刺さっている。
「お前が手助けする必要あったのか?」
 俺は聞いてみる。今の行動に意味があったのかどうかを。
「いいや。頭の中が綿でできている間抜けどもにもわかるように自慢しただけだ、俺の目がいいことをな。説明の手間が省けるだろ?」
 確かに、俺たちとネズミまでには相当な距離がある。まず、俺が書き換えなくては姿も捉えることが出来ない距離とでもいうか。ただし、レイトンは書き換えをしていなくても、その距離を望遠鏡で見ているかのごとくはっきり見える。
「さて、俺はこいつの食事を邪魔されない場所へ行くから。じゃあな……」
 そう言って、レイトンはこの場を去っていった。すると、入れ違いにマールが目を開けた。そして、体を軽く動かし筋肉をほぐしている。それがあらかた終わるとゆっくり深呼吸をして俺の方へ視線を向ける。
「……おはよう」
「ああ、おはよう。もうすぐ夜になるけどな」
「……知ってる」
 少しの間、静かな空気に包まれる。
「……寄りたい場所があるのだけど、来てくれる?」
 その沈黙を破ったのは、マールだった。
「まあ、暇だしな。いいよ」
「……ありがとう」
 そう言ってマールはこの場から消える。すぐに座標を確認する。どうやら、あの世界にいるらしい。俺もすぐに飛ぶ。
「待ったか?」
 飛んだ場所には、ある建物があり、マールはそこに入らず待っていてくれた。
「……待ってない」
「ならよかった」
 俺は、まだ飛ぶのに慣れていないから次元を超えるのに時間がかかったりするんだよな。たまに座標もずれるし。
「じゃあ、入るか」
「……うん」
 その建物は、とある文明を作った作者が奉られた神社である。なんで神社かって? その作者が、日本人だからだよ。
 俺たちは神社で普通にお参りをして出てきた。何故初詣ではなく、今日のこの時間に来たかというと、これから、年度をあけた一大イベントをやるからだ。その成功を祈ってマールはお参りに来たのだろう。俺は今年が最初だけどな。
「……これで大丈夫。……今までお参りをして事件が起きたことはなかった」
「じゃあ、これで安心だな。こんな可愛い女の子のお願いを聞かない神様はいないからな」
「……そう?」
 俺は、にっと笑うことでその質問に答えた。
「ん? なんだ、もう先客が来ていたのか」
 と、後方から声が聞こえる、俺たちは後ろを振り返ると背中に棍棒を背負った短髪の女性がそこに立っていた。
「……蘭、あなたも来たの?」
「アタシが来ちゃ悪かったか?」
「……そうじゃない」
「ま、そうだろうけどな。…………じいちゃん、今年も一年よろしくな」
 と、参拝を終えた女性は顔をこちらに向けるとウインクする。
「じゃ、この後よろしくな。永原一生」
 そう言って彼女はその場から消えた。
「なあ、マール」
「……なに?」
「あの人、マールより胸大き――」
 俺はマールの掌底をあばら骨に直接喰らったためにその場に胸を抑えて倒れ込む。こいつ、手加減しなかったのかよ。
 俺が回復するまで待っていたマール、俺が立ち上がった後少し睨みつけながら忠告する。その後、先ほどまでいた場所に戻ると、それぞれ他にやることがあったため、その場でわかれることにした。

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