零番目の童話

海沼偲

第一話 小説は事実なり―1

 四月一日。
 ここで俺たち三人の人生が確定するといっても過言ではないだろう。というか、この月にイベントを詰め込み過ぎではないかと思う。四月ってなんかイベント多いよね。六月とかにもイベントを分けてやれよ。
 で、今俺たちがいるのはちょっとした大広間のような場所である。ちなみにこのような場所には今日初めて入った。重要な式典がある時のみここに立ち入ることが許されるらしい。俺たち三人の目の前には、一組の男女が凄まじいオーラとともにそこにいた。この世界を仕切る王族の人間は、俺たちとはやはり一線を画しているらしい。特に現当主とその婦人は特にな。目の前に立たれるだけで空気がぴんと張りつめているということを感じる。俺たち三人と目の前の御二方以外には人影が見られない。ADSの幹部なども参列するのかと思ったりしたが、そういうことは一切ないらしい。ベルゼブブ王家とADS新入りのプライベートな式に近いらしい。
「チャック・ロイズ、ルーシー・マルセリス、永原一生。貴殿ら三人のADSは、我が大御爺様の遺志を受け継ぎ、全世界の平和と安寧のために自分の全生涯を捧げることを誓うか?」
「「「誓います」」」
 俺たち三人の声は綺麗にそろった。いつもケンカばっかりしてたけどやる時はやるんだな。別にそろわなくてもたいしたこと無いだろうけど。
「……よろしい、ここに、新たに三人のADSが生まれた。これから貴殿らは、今まで以上につらく苦しい窮地に立たされることがあるだろうが、決して弱音を吐かずに自らが定めた信念に基づいて行動をしてほしい」
「「「かしこまりました」」」
「さあ、新しい戦力を歓迎して、私から贈り物をしたいと思います。これは、代々ADSに正式に採用された者が取り扱うことを許された者です」
 と、隣に佇んでいた婦人がそういうと、指をピンと上に伸ばした。
 俺たちの目の前に突如、あるものが出現しぷかぷかと浮いていた。俺たちはそれを手に取り、じっくりと確認する。どうやら、サングラスに似たようなものであることだけは理解できる。
「これには、自分が到着した世界についての説明が表示されます。ですので、いまだに行ったことのない世界に行くときにつけることをお薦めします。やはり、こういう機械系の力は科学が一番使いやすいですね」
 そんな力があるのはわかったが……俺と一緒に仕事をした人は皆これを口に出すことすらしなかったぞ……。自分が知っている世界だけを回っていただけかもしれないけどさ。
「ありがとうございます。活用させていただきます」
「そう言っていただけると嬉しいわ」
 嬉しそうに微笑む婦人。
 俺たちは式が終わり次第ホールから出る。そして、俺とルーシーの二人は扉が閉まったことを確認すると大きく深呼吸をする。
「は、ははは……ルーシー。お前汗ばんでいるぞ。背中流してやろうか?」
「あ、あんたこそ顔中汗まみれよ? シャワーでも浴びてきたらどう?」
 俺たち二人は神格クラスの人間とあの距離で話したことはなかったからあの最中ずっと心臓が高鳴り続けていた。プレッシャーがどうのとかそういう次元ではない。外見的要素から規格外なことは言うまでもないが、内面的要因でも俺たちは畏怖の念を抱いてしまうだろう。
「貴様らみたいな文明は生きづらそうだな。二人とも汗臭いからさっさと風呂にでも入ってこい」
「そ、そうさせてもらうよ。ほれ、ルーシー掴まれ」
 俺は腰が引けて上手く立てないルーシーに肩を貸してやると、二人して大浴場へと足を運んだ。

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