キャンバス

些稚絃羽

キャンバス

真っ新なキャンバスを汚すのは申し訳なくて
最初の一筆を入れるのに躊躇している

お気に入りのホリゾンブルー
彼女が好きだと言っていた 優しい空の色

パレットの上に広げられた一色が
ゆっくり小さくヒビを作り出す

パレットを汚す事には何の躊躇いもないのに
取り返しがつかないからかな
踏み込んだら終わりな気がして
キャンバスに触れる事すら怖くなる

同じ色を
急かされるように押し出した白も
比べてみれば同じには見えなくて
目の前の純真さを思い知る

全てを受け止めてくれる寛大さと
何も染み入れさせない意志の固さと
付け加えずも完成品のようで
それはまるで彼女のようで
不良品の自分を塗り潰してしまいたくなる

見つめ合うだけで
そこに鈍色を足してしまいそうで
逃げるように窓の外を見上げた

はらはらと雪が舞う
白に黒を混ぜたみたいな雲から
ただの白が一つ、二つ

描けなかった
そう言ったらどんな顔をするだろうか
雪が降っていたから
それで分かってくれるだろうか
君みたいで触れられなかった
―そんな事、言えないな

 

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