俺の嫁はデレない異世界のお姫様

りょう

第4話封鎖された部屋

 翌日から俺の地獄の日々が幕開けした。昨晩はまともに眠れていないせいで、朝はすごく寝起きが悪く、半分眠ってしまった状態で俺は朝食を食べた。

「朝から情けないわねこの王子は」

「誰のせいだと思ってんだよ」

「さあ誰のせいかしら?」

「な、何でもありません」

 眠れなかった原因の大半がこいつのせいなのだが、あまり言い過ぎると機嫌を損ねかねない。ていうかいつも不機嫌そうに見えるのは俺だけだろうか?

「本当はあんたなんかにご飯なんか与えたくないんだけど」

「そんな事されたら飢え死にするわ!」

「すれば?」

「なんでそんな事言えるんだよ、お前は」

 ただでさえ寝起きがよくないのに、ココネにこの言われよう。こんなにも最悪な朝は、今までにあっただろうか?

 そんな俺達を見てセレスが落ち着いて一言。

「朝からお二人共仲がよろしいいですね」

『どこが!』

「そういうところがですよ」

 ■□■□■□
 やたらと騒がしかった朝を乗り越えた後は、昨日渡された本を使って勉強。城内にあるいわゆる図書室みたいなところを借りて、辞書と適当に物書きができそうな紙を借りて俺は格闘し始めた。

「改めてみるとすごい量だなこれ」

 辞書一冊分の厚さの本が計五冊。昨日ざっくりと全部読まされたけどそれでもほとんどが理解できていない。その五冊の内容はというと、二冊がこの国の法律に関しての本。一冊がこの世界に関して詳しく載っている本、残りの二冊はこの国の料理などといった雑学に近いものだ。
 俺はこの中で特に難しいと思っているのが、当然ながら法律などといった類のものだ。そんなに大きな面積とは思えないこの小さな国に(本で読んでみたところ、単純計算で東京ドーム二、三個分くらいの大きさらしい)、何でそこまで詳細な法律が必要なのか解せない。法律なんて本当に頭がいい人しか暗記しようとするもので、俺には程遠い話だ。

(でもやらなきゃいけないんだよな……)

 サボるとあいつに怒られる上に、元の世界に戻ることすらできない。本当に色々面倒臭いよこの国は。

「これくらいちゃんと勉強しなさいよ、ダメ男」

「そうだよな~って、おわっ」

 木製でできた普通の椅子の背もたれに寄りかかってどうしようかって悩んでいると、突然目の前にあいつが現れた。その勢いで俺は後ろに椅子ごと倒れてしまう。

「イテテ、いつからいたんだよお前」

 腰を結構強めに打ってしまったのか、なかなか立ち上がれない。仕方なく姫の手を借りて立ち上がる。

「あなたが間抜けなことばかり考えている時からよ」

「こっちはマジで考えていたんだよ。邪魔だけはするなよな」

「人が困っている姿を眺めるのが趣味だから、許してね?」

「そんな可愛く言っても許さないからな? てかお前どSだろ?」

「そうかしら? 私はこれが趣味だから特に問題ないと思うんだけど」

 その趣味がドSだという事をに本人は気づいていないのだろうか? 人をいじめて楽しむとかどれだけ趣味が悪いんだよこの姫は。

「その趣味絶対に間違っているからな?」

 いじめダメ、絶対

 ■□■□■□
 とりあえずこいつの相手するのも面倒くさくなったので、勉強に集中する。やっぱりこの量を覚えるなんて難しいよな……。

「ねえ、け、ケイイチ」

「何だよ? てか今さりげなく俺を名前で呼んだか?」

「べ、別に呼んでいないわよ。それよりまた一つ聞きたいことがあるのよ」

「こっちは勉強してんだからさっさとしてくれよな? ココネ姫」

「あんたも人のこと名前で呼ぶんじゃないわよ!」

「はいはい、悪かったですよ」

 仕返しに少しからかったらマジで怒られてしまったので、今度からは時々名前を呼ぶようにしようかな。ていうかお前も呼んだのに、その事は棚に上げるんだな。

「それで聞きたいことってなんだよ」

「昨日あなたは私にこう言ったわよね? 国よりも先に私自身を変えるべきだと」

「ああ言ったよ」

「私ってそんなに変えるべきとこってそんなにあるの?」

「何だよ急に。まさか改心したのか?」

 昨日のあの態度とは一変して今日の彼女は案外素直だったので、またもや、からかってみる。

「そうじゃないわよ! ただ、国を変えるためにはやっぱり必要なのかなって」

「はいはい、ツンデレお疲れ様です」

 すごく典型的なツンデレをかますココネを軽く受け流すと、彼女は何故か顔を真っ赤にして本当に怒り始めた。

「ツ、ツンデレって何よ!」

「お前みたいな性格の人間のことだよ」

 ツンの比率がかなり多いけどなこいつの場合。

「ふざけないでよ。私はあんたみたいな人間に、その、デレることなんて一生ないわよ」

「俺もお前に優しく接する気は全くないからな」

(こいつの場合は、ツンデレ改めツンツン姫だけどな)

 そもそもこいつの場合はデレる事なんてないと考えるのが妥当。ギャップってものがあったりするが、それをこいつに求めても恐らく意味はない。だったら俺もこいつに優しく接する理由がどこにある。彼女が俺を拒絶するというなら、俺もとことん拒絶してやろうではないか。

「お前が少しでも変わろうとしているのはよく分かった。それでどうしたいんだよお前は?」

 それでも一応変わろうという意志を持ったので、手伝ってあげることにする。その為にはまず、彼女自身がどうありたいか聞いておく必要がある。

「よかったらだけど、協力してほしいのよ。 私が変わるためにもあなたの助けが必要なのかなって思ったの」

「まったく素直でよろしい事」

 丸々俺が昨日言ったことと代わり映えしないが、理解してくれたのなら、それだけでも充分。

「で、具体的な案はあるのか?」

「え? そんなのあなたが決めるんじゃないの?」

「最初から他人任せかよ!」

 発案者は俺だけど、流石に全部人任せにするのはどうなのだろうか? 何かこれだと彼女自身が変える、というよりは俺が彼女の頭から足先まで変えてあげるみたいなことになっている。

「だって直せって言われても、具体的にどこを直せばいいか分からないもの」

「まあ、それはそうだな」

 珍しくココネが正しいことを言う。人の癖や性格ってそう簡単に直せるものじゃない。それは誰にだって共通して言えることで、俺も同じだ。なので折角だから何か一つくらいアドバイスをあげてもいいのではないかと思い、俺自身が思ったことを口にしてみる。

「じゃあそうだな、まずは何事にも人の話を聞くことから始めてみればいいんじゃないか?」

「人の話を聞く?」

「ああそうだ。お前の場合は何でもかんでも一人でやろうとするタイプだから、まずは落ち着いて周りの意見に耳を傾けてみろ。そうすれば今まで見えてこなかったものが見えてくる」

「会って一日しか経ってない人にこんな事言われると、かえって気持ち悪い」

「それほど分かりやすいタイプだって事だよお前は」

 とりあえず今彼女にアドバイスできるのはこれくらいだ。俺も勉強を再開しなきゃいけないし、そろそろ帰ってもらわなければ。

「じゃあ俺は勉強再開するから、後は自分で考えてみろよ」

 それだけ言うと、俺は再び大量の本との、格闘を再開した。

 十分後。

「あのさ、ずっとそこに立っていられると迷惑なんだけど」

 まだココネは部屋に戻っていなかった。ずっと俺の背中に立っていて、なかなか集中できないので、勉強を一旦止めて話しかけた。

「な、何よこっちは考え事してるのに」

 こっちはあんたが強要してきた勉強をさせられているのですが、それに関してのツッコミは必要でしょうか。

「あのなあ、考えるなら自分の部屋でやってほしいんだけど」

「それが出来ないから困ってるのよ」

「は? お前は自分の部屋に行くこともできない程の馬鹿なのか?」

 長年この城に暮らしているはずなのに、自分の部屋への帰り方が分からないと聞いたら、大笑いもんだ。

「そういう事を言っているんじゃないの!」

「じゃあ何だよ」

「えっと、だから……私の部屋は今封鎖しているの」

「封鎖?」

 何か悪いことでもあったのだろうか?

 もしかして、何かの事件でも起きたとか。

「じゃあ案内してくれよ。お前の部屋にむ

「ど、どうしてあんたなんかに案内しなきゃいけないのよ」

「どうして封鎖されてるのか、気になるかに決まっているだろ」

「い、嫌よ!」

「とにかく行くぞ!」

「あ、ちょっと待ちなさいよ馬鹿!」

 ■□■□■□
 封鎖とはどういう意味なのか気になった俺は、一旦勉強をやめ姫の部屋がある場所へ。

「一見普通そうに見えるんだけど、これのどこが封鎖なんだ?」

 たどり着くと、そこにあったのは普通の扉。特に封鎖されているわけでもなさそうな雰囲気だが、何か問題でもあるのだろうか?

「ちょっと、勝手に人の部屋を覗かないで!」

「でも開けないと、分からないだろ?」

「わ、私が開けるから。あんたは少し下がってなさい」

「下がってろってどうして?」

 ココネが扉を開く様子をしばらく眺めている。そして、その扉が完全に開かれた瞬間、

「うわっ!」

 突然俺の視界が何かに覆われた。これは本?

「って、なんじゃこりゃあ!」

   本をどかして改めて部屋を見ると、そこに広がっていたのはありとあらゆる数のゴミ、ゴミ、ゴミ。前人未到とも言えるゴミ屋敷だった。

「だから言ったじゃない、封鎖中って」

「よくこんなので生活してきたなお前」

  これが一国の姫の部屋と聞いたら絶対に笑われるぞ。

「これは絶対にアウトだな」

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