俺の嫁はデレない異世界のお姫様
閑話3 その感情の名は
あいつが二週間元の世界に戻っている間私は、急に退屈になったので散々言われていた農作業をしていた。
(何で私がこんな事をしなきゃいけないのよ)
あまり暑くないからか、汗も出てこずジメジメする空気の中での一人で農作業。いつもならそこそこやる気が出ていたのに、今はどうしてもやる気がイマイチ出てこない。何が原因なんだろうか。
(あの幼馴染のユナとかいう子のせいなのかな)
突然彼女が現れ、あいつと仲良く接していた姿を見て、私は決していい気分ではなかった。理由は分からないんだけど、どうしてもイラつく。
「もしかしてそれは『恋』じゃないでしょうか姫様」
そんな私の感情を勝手に読み取ったのか、この城のメイド長を務めるマンナが私をからかってきた。
「いきなりなによマンナ。仕事はどうしたのよ」
「今は他の者に任せています。それよりも姫様、滅多に働かない姫様が農作業を自らしていらっしゃるなんて、珍しいですね」
「失礼よマンナ。私だってやる時はちゃんとやるのよ」
「これは失礼しました」
マンナは昔からこの城に仕えるメイドで、一年ほど前にメイド長に任命された。見た目は結構若く感じるのだけど、実際はかなり歳はいっているらしい。本人には怖くて聞けないのだけど、私が小さい頃からお世話になってるから、結構な年かと……。
「何か失礼なことを考えているような気がしますが、そこはあえてスルーさせてもらいます。それよりも、まさか姫様あの方に恋をなされているのですか?」
「恋? ふざけないでよ。誰があんあ馬鹿のことを好きになるのよ!」
「そういうムキになっている所が怪しいんですよ」
更にからかわれたので、本気で怒ろうとしたが、それはすぐ治まってしまった。何故だか知らないけど、マンナの言葉をきっぱり否定できない自分がそこにいたからだ。
「ほらやっぱり否定なさらないということは、姫様はいつの間にか好きになっていられたんですよ。ケイイチ様のことを。だから新しくきたユナ様が、彼とあんなに親しく接していることに嫉妬なされたのですよきっと」
「嫉妬?」
そんな言葉一度も聞いたことがない。これでも勉強はかなりしてきたのに、どうしてそういう言葉にはウブなのだろうか私は。
「もしかして嫉妬という言葉を知りませんか? では私がお教えしますよ」
「いや別にそこまでしてもらわなくても構わないんだけど」
「いいですか、嫉妬というのはですね……」
そこから十分ほど私はマンナから謎の講義を受けることになってしまった。おかげで私は、知りたくもない言葉を知ってしまうことになってしまった。
「つまりマンナは、私はあいつが好きすぎて、あいつと接する他の女の子のことが許せない状態であるってことなの?」
「はい。それが嫉妬という言葉の意味です」
私があいつを好きになんて……絶対にありえないから、『嫉妬』なんて言葉は学ぶ必要なんてなかったんだけどな……。
■□■□■□
マンナから嫉妬という言葉と恋という言葉を教えてもらってからの私は、ずっと部屋にこもりっきりだった。別に外に出ることが嫌になったとかそういうのではなくて、この自分の謎の感情をどうすればいいか迷い続けていた。
(私があいつの事を……)
普通に考えてありえない話なのだけど、どうしてもきっぱり否定できない自分がいる。胸に感じている謎のもやもやも、もしかしたら何かしらの関連があるのかもしれない。マンナが言っていた嫉妬という言葉に当てはまってしまうのだろうか? 何が正しくてなにが間違いなのかさっぱり分からない。どの感情が本当の私なのだろうか?
(好きなわけないし、だからといって嫌いでは……ないのかもしれない。私の感情はどうなっているの?)
答えの返ってこない疑問を自分自身にぶつける。このやり場のない気持ちはどうすればいいのか分からない。答えは多分彼と会えばきっと分かる。
(早く帰ってこないかな……)
私はそんな事を考えながら、あいつが戻ってくるまでの二週間を過ごしたのであった。
■□■□■□
そして約束の二週間後、私は半年前と同じ場所に座り、その扉が開かれるまで待ち続けていた。
「ねえセレス、あいつはちゃんと戻ってくるわよね」
「それは心配ないですよココネ様。ケイイチ様はちゃんと約束は守る方ですから、そのまま逃げ出すことはないですよ」
「そうだといいんだけど」
ただ一つだけ心配なのが、例の幼馴染の存在である。彼女は恐らく元の世界に残るという選択をし、あいつを引き止めると思う。それにまんまと乗せられて、戻ってこないという可能性だって否定できない。だから心配なのかもしれない。
「ほらココネ様、噂をすれば何とやらですよ」
「え?」
セレスに言われて慌てて扉の方を見る。するとその扉からは光が漏れ始め、少しずつ開かれ始めていた。どうやら誰かが……いや、あいつが扉を開けているらしい。どうやら約束はちゃんと守ってくれたらしい。
「ようやく始まりですねココネ様」
「ええ」
そう、この扉が開かれた瞬間から全てが始まる。半年前とは全く違う始まりが……。
そして扉が完全に開かれ、その先に彼の姿があった。
『ようこそナルカディア城へ! 新国王様』
メイド達が一斉に挨拶をする。そして私も、彼に言葉をかけた。
「本当に帰ってきてくれたのね、ケイイチ」
「ああ。ただいまココネ」
これから私と彼のくだらない毎日が、再び始まる。
(何で私がこんな事をしなきゃいけないのよ)
あまり暑くないからか、汗も出てこずジメジメする空気の中での一人で農作業。いつもならそこそこやる気が出ていたのに、今はどうしてもやる気がイマイチ出てこない。何が原因なんだろうか。
(あの幼馴染のユナとかいう子のせいなのかな)
突然彼女が現れ、あいつと仲良く接していた姿を見て、私は決していい気分ではなかった。理由は分からないんだけど、どうしてもイラつく。
「もしかしてそれは『恋』じゃないでしょうか姫様」
そんな私の感情を勝手に読み取ったのか、この城のメイド長を務めるマンナが私をからかってきた。
「いきなりなによマンナ。仕事はどうしたのよ」
「今は他の者に任せています。それよりも姫様、滅多に働かない姫様が農作業を自らしていらっしゃるなんて、珍しいですね」
「失礼よマンナ。私だってやる時はちゃんとやるのよ」
「これは失礼しました」
マンナは昔からこの城に仕えるメイドで、一年ほど前にメイド長に任命された。見た目は結構若く感じるのだけど、実際はかなり歳はいっているらしい。本人には怖くて聞けないのだけど、私が小さい頃からお世話になってるから、結構な年かと……。
「何か失礼なことを考えているような気がしますが、そこはあえてスルーさせてもらいます。それよりも、まさか姫様あの方に恋をなされているのですか?」
「恋? ふざけないでよ。誰があんあ馬鹿のことを好きになるのよ!」
「そういうムキになっている所が怪しいんですよ」
更にからかわれたので、本気で怒ろうとしたが、それはすぐ治まってしまった。何故だか知らないけど、マンナの言葉をきっぱり否定できない自分がそこにいたからだ。
「ほらやっぱり否定なさらないということは、姫様はいつの間にか好きになっていられたんですよ。ケイイチ様のことを。だから新しくきたユナ様が、彼とあんなに親しく接していることに嫉妬なされたのですよきっと」
「嫉妬?」
そんな言葉一度も聞いたことがない。これでも勉強はかなりしてきたのに、どうしてそういう言葉にはウブなのだろうか私は。
「もしかして嫉妬という言葉を知りませんか? では私がお教えしますよ」
「いや別にそこまでしてもらわなくても構わないんだけど」
「いいですか、嫉妬というのはですね……」
そこから十分ほど私はマンナから謎の講義を受けることになってしまった。おかげで私は、知りたくもない言葉を知ってしまうことになってしまった。
「つまりマンナは、私はあいつが好きすぎて、あいつと接する他の女の子のことが許せない状態であるってことなの?」
「はい。それが嫉妬という言葉の意味です」
私があいつを好きになんて……絶対にありえないから、『嫉妬』なんて言葉は学ぶ必要なんてなかったんだけどな……。
■□■□■□
マンナから嫉妬という言葉と恋という言葉を教えてもらってからの私は、ずっと部屋にこもりっきりだった。別に外に出ることが嫌になったとかそういうのではなくて、この自分の謎の感情をどうすればいいか迷い続けていた。
(私があいつの事を……)
普通に考えてありえない話なのだけど、どうしてもきっぱり否定できない自分がいる。胸に感じている謎のもやもやも、もしかしたら何かしらの関連があるのかもしれない。マンナが言っていた嫉妬という言葉に当てはまってしまうのだろうか? 何が正しくてなにが間違いなのかさっぱり分からない。どの感情が本当の私なのだろうか?
(好きなわけないし、だからといって嫌いでは……ないのかもしれない。私の感情はどうなっているの?)
答えの返ってこない疑問を自分自身にぶつける。このやり場のない気持ちはどうすればいいのか分からない。答えは多分彼と会えばきっと分かる。
(早く帰ってこないかな……)
私はそんな事を考えながら、あいつが戻ってくるまでの二週間を過ごしたのであった。
■□■□■□
そして約束の二週間後、私は半年前と同じ場所に座り、その扉が開かれるまで待ち続けていた。
「ねえセレス、あいつはちゃんと戻ってくるわよね」
「それは心配ないですよココネ様。ケイイチ様はちゃんと約束は守る方ですから、そのまま逃げ出すことはないですよ」
「そうだといいんだけど」
ただ一つだけ心配なのが、例の幼馴染の存在である。彼女は恐らく元の世界に残るという選択をし、あいつを引き止めると思う。それにまんまと乗せられて、戻ってこないという可能性だって否定できない。だから心配なのかもしれない。
「ほらココネ様、噂をすれば何とやらですよ」
「え?」
セレスに言われて慌てて扉の方を見る。するとその扉からは光が漏れ始め、少しずつ開かれ始めていた。どうやら誰かが……いや、あいつが扉を開けているらしい。どうやら約束はちゃんと守ってくれたらしい。
「ようやく始まりですねココネ様」
「ええ」
そう、この扉が開かれた瞬間から全てが始まる。半年前とは全く違う始まりが……。
そして扉が完全に開かれ、その先に彼の姿があった。
『ようこそナルカディア城へ! 新国王様』
メイド達が一斉に挨拶をする。そして私も、彼に言葉をかけた。
「本当に帰ってきてくれたのね、ケイイチ」
「ああ。ただいまココネ」
これから私と彼のくだらない毎日が、再び始まる。
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