俺の嫁はデレない異世界のお姫様

りょう

第56話裏切りと悲しみの牢獄

「どうやら何も答えられないんですね」

 カグヤの質問に対して何にも答えられずにいた私を見て、彼女はそう言い放った。

「これでハッキリしました。あなたは彼を好きではありませんね。私の予想通りです」

「何なのその分かったような口の利き方は」

「それでいいんですよ。あなたはこの世界に来て、彼がどんどん遠くの存在になっていくのを不安に感じ、そしていつしか自分の気持ちの在りかすら分からなくなってしまった。それで間違っていませんよね?」

「そ、そんな事ない。わ、私は……ただ……」

「これであなたの気持ちはハッキリしました。確かに彼の言う通り、あなたは最高の素材になります」

「私はあなたの力になんかならない! あなたが何者なのか私は知っているから」

「そうですか。でもあなたの意思がなくても、こちらにはそれを操ることができますから」

「何を言って……」

 反論しようとしたところで、急に意識が朦朧とし始める。

「あれ……急に……」

「だから言ったじゃないですか。操れるって」

(助けて圭一君)

 薄れゆく意識の中、私は圭一君の名前を呼んだ。きっと彼なら私を助けてくれる。そう信じていた。

「やめろぉぉぉ!」

 完全に意識を失う直前、誰かの声が聞こえた気がした。

■□■□■□
「はぁ……はぁ……」

 由奈を助け出したい一心だった俺は、とにかく急いで城の地下へと向かった。由奈が閉じ込められているとしたら、一番最初に彼女が不運にも閉じ込められてしまったあの牢屋だ。間違っている可能性だってあるかもしれないが、今は有り得るところから探してくしかない。

「ねえケイイチ、教えてよ。何か分かったんでしょ」

「ああ。はっきり分かったよ。今回の事件の大半が。でもそれを知るのは、二人を見つけてからだな」

「とりあえず急げって事ね」

「ああ」

 どうやら今日はやけに物分りがいいらしい。それほどココネ自身も焦っているってことだろ。というか彼女ももしかしたら気づいているのかもしれない。今まで起きたことが全て仕組まれていたこと、そしてそれにある人物が深く関わっていることを。その現実を彼女は果たして受け止められるのだろうか? まあとにかく、今は急ぐしかない。

 そして走り続けて五分後、目的地へと到着。

 中から声が聞こえるが、由奈とカグヤが会話をしているようだ。だが、扉越しなのでうまく聞き取れない。でも由奈の悲鳴じみた声が聞こえていることから、決していい話はしていない事が分かる。

「ココネ、準備はできているか?」

「バッチシ!」

「じゃあ行くぞ」

 俺は扉を無理やり開けて中へと突入する。

「やめろぉぉ!」

 突然の乱入者に、カグヤは慌ててこっちを振り向いた。彼女の先にある牢屋に、横倒れになっている由奈の姿が見えた。

「由奈!」

 慌てて彼女の元に行こうとするが、当然のごとくカグヤに止められる。

「ここから通すわけにはいかないのは、勿論分かっていますよね? タカヤマケイイチ君」

「お前何で俺の苗字を……」

「それは私が教えたからですよケイイチ様」

 俺の疑問に答えたのは、背後から現れた聞きなれた声の人物。

「やはりあんたか」

「どうして……どうしてよセレス……」

 その人物とは、ココネにずっと仕えていた人物、セレスそのものだった。

「お久しぶりですね。ココネ様、体調はいかがでしょうか?」

「あんたのせいで最悪よ! この馬鹿!」

 怒りに任せて、セレスを思わず殴ろうとするココネを俺は引き止める。

「ココネ、落ち着け。今何をしたってどうしようもない」

「離してよケイイチ。私は……私は……」

 あまりにショックだったのか、ココネはその場で泣き崩れてしまう。

「本当最低な執事だなあんたは」

「私は特に何もしてませんよ。ただ彼女を手助けしただけですから

「それが間違っているんだよ! お前はココネに仕えているどこにでもいる執事で良かったんだよ・なのに、どうして……」

「彼は元から普通の執事ではありませんよ。ケイイチ君」

「普通じゃない? それはどういう意味だよ」

「まあ簡単に言いますと、人間と少しかけ離れた人種と言いますでしょうか。そしてその血は、彼女にも流れています」

 ココネを見ながら言うカグヤ。人とかけ離れた人種? 一体どういう事だろうか?

「二人には大変申し訳ないことをしました。でもこれは全て、世界を変えるためなんです。どうかお許しを」

「誰がお前なんかを許すかよ! 由奈は返してもらう」

 強引にカグヤをすり抜けて、由奈がいる牢屋へと入る。由奈は意識は失っているものの、どうやら命に別状はなさそうだ。

「どうやら引っかかりましたねケイイチ君」

「何っ!」

ガシャン

 牢屋の扉が閉められる音がする。しまった、牢屋に閉じ込められて……。

「私達の目的は、初めからこちらにあったんですよ」

 そう言ってカグヤはココネへと近づく。もしかして、ここまで全てシナリオ通りだったのか? じゃあ由奈はあくまで囮で、本来の目的はココネにあって……。

「おいやめろ! ココネに手を出すな!」

 何とかして牢屋を開けようとするが、鍵をがっちり閉められてしまっているのか、ビクともしない。

「ではまたお会いしましょう」

 泣き崩れたままのココネを容易に捕らえたカグヤとセレスは、そのまま彼女を引き連れて牢屋を出て行ってしまった。

「ココネェェェ!」

 俺の叫びは、誰もいなくなった牢屋に虚しく響き渡るのであった。

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