柊木さんと魑魅魍魎の謎
第三話
クルーザーに乗って三十分。
沓掛島に足を踏み入れた僕たちを、待ち受ける人間は誰一人としていなかった。
当然といえば当然かもしれないけれど、どこか不思議な雰囲気を漂わせているようにも見える。
「じゃあ、三日後の夕方にまたここにやってくるから。何かあったら、電話をしてくれ」
そう言って、クルーザーは再び本州へ向かって動いていった。
「電話……とは言ったが、」
夏乃さんはスマートフォンを取り出す。
スマートフォンの画面は圏外を示していた。
「……絶海の孤島、ってやつか……。おそらく固定電話も繋がっていないだろうし……」
「どうして事前に確認していなかったんですか」
僕は夏乃さんに質問する。
「……それについては申し訳ない。だが、電話が出来ない可能性を考えて、今回あいつには三日間という期限つきでお願いした。それによって、何かあっても何とかなる、という話だ。救援は呼べないが永遠に呼べないわけではない」
それにしても、このご時世、携帯が使えない場所があるというのか。携帯のカバー率は九十九パーセント以上ということを聞いたことがある。あれは間違いだったのか――いや、今思えばあれはあくまでも通信に対して、であって通話に対してはカバーしていないのかもしれない。VoLTE? ああ、そういえばそういうのもあるけれど、僕の携帯はそれに対応していない、ちょっと古めの携帯だ。
それはそれとして。
「夏乃さん、今から僕たちはどこへ向かうんですか? まさか、いきなり村人に直接『竜宮城』について質問するわけではありませんよね?」
「そんなことがあるわけないだろう。……しかし、この島に知り合いも何も居ないのも事実だ。観光客が来ることなんて想定していないだろうから、宿なんて無いだろうし。……最悪、野宿の可能性もあるだろうなあ」
野宿、ですか。
準備一切していないんですけれど、それについては夏乃さんが全負担という形でいいんですよね?
「ああ、安心してくれ。寝袋だけは少年の分も持ってきているぞ。だから安心して野宿をすることができる」
「そういう問題じゃないのでは……?」
そんなことを言った――ちょうどその時だった。
「おやおや、この島に観光客とは珍しいことだ」
そう言ったのは、腰を曲げたおばあさんだった。おばあさんは僕たちを見て違和感を抱くことはせず、ただここに来た珍しい観光客だということしか言わなかった。
「……いえいえ、すいません。別に騒がしくするつもりはありませんから」
「しかしまあ、何のためにこの島に来たのかね。京都ならもっといい観光地もあるだろうに。例えば……その、天橋立とか」
「まあ、その……」
歯切れの悪そうな発言をする夏乃さん。
流石の夏乃さんも、毎回しっちゃかめっちゃかになることは避けておきたいようだ。
けれど、それでは前に進まない。
そう思って――僕から話を切り出した。
「『竜宮城』について、調べに来たんです」
それを聞いたおばあさんは眉をぴくりと震わせる。
「ほう、竜宮城と、な。確かにこの島には竜宮城の伝説が広く知れ渡っている。けれども、そう若いうちからこの島にやってくるのはあんたたちが初めてのことだ。いやあ、物珍しいや。ほんとうに。あ、一応言っておくけれども、別にあんたたちを馬鹿にしているわけでは無いのよ」
「……そう言われても、仕方が無いかもしれませんね」
ここでようやく夏乃さんが反応をする。
仕方ないことかもしれないけれど、ここまでしないと話が進まない。夏乃さんにはあとで謝っておくことにしよう。
「竜宮城の伝説は、村でも知っている人は数少なくてねえ……。何故かは解らない。しかしながら、今の村長がそれを知っているはずだよ。村長は、浦島太郎を看取った人間の子孫が代々その職を受け継ぐ、と言われているからねえ」
「浦島太郎を……看取った?」
こくり、と頷くおばあさん。
やはり何かこの村には――怪しい影が潜んでいる。
僕はそう確信するのだった。
「それじゃ、村長に話を聞いてみることとしましょう。おばあさん、村長さんの家はどちらですか?」
「この坂を上った先にあるよ。『高坂』と書かれているから、それを目印にして探すといいだろうよ」
そうして僕たちはおばあさんの言葉を聞いて、村長さんの家へと向かうことにした。
沓掛島に足を踏み入れた僕たちを、待ち受ける人間は誰一人としていなかった。
当然といえば当然かもしれないけれど、どこか不思議な雰囲気を漂わせているようにも見える。
「じゃあ、三日後の夕方にまたここにやってくるから。何かあったら、電話をしてくれ」
そう言って、クルーザーは再び本州へ向かって動いていった。
「電話……とは言ったが、」
夏乃さんはスマートフォンを取り出す。
スマートフォンの画面は圏外を示していた。
「……絶海の孤島、ってやつか……。おそらく固定電話も繋がっていないだろうし……」
「どうして事前に確認していなかったんですか」
僕は夏乃さんに質問する。
「……それについては申し訳ない。だが、電話が出来ない可能性を考えて、今回あいつには三日間という期限つきでお願いした。それによって、何かあっても何とかなる、という話だ。救援は呼べないが永遠に呼べないわけではない」
それにしても、このご時世、携帯が使えない場所があるというのか。携帯のカバー率は九十九パーセント以上ということを聞いたことがある。あれは間違いだったのか――いや、今思えばあれはあくまでも通信に対して、であって通話に対してはカバーしていないのかもしれない。VoLTE? ああ、そういえばそういうのもあるけれど、僕の携帯はそれに対応していない、ちょっと古めの携帯だ。
それはそれとして。
「夏乃さん、今から僕たちはどこへ向かうんですか? まさか、いきなり村人に直接『竜宮城』について質問するわけではありませんよね?」
「そんなことがあるわけないだろう。……しかし、この島に知り合いも何も居ないのも事実だ。観光客が来ることなんて想定していないだろうから、宿なんて無いだろうし。……最悪、野宿の可能性もあるだろうなあ」
野宿、ですか。
準備一切していないんですけれど、それについては夏乃さんが全負担という形でいいんですよね?
「ああ、安心してくれ。寝袋だけは少年の分も持ってきているぞ。だから安心して野宿をすることができる」
「そういう問題じゃないのでは……?」
そんなことを言った――ちょうどその時だった。
「おやおや、この島に観光客とは珍しいことだ」
そう言ったのは、腰を曲げたおばあさんだった。おばあさんは僕たちを見て違和感を抱くことはせず、ただここに来た珍しい観光客だということしか言わなかった。
「……いえいえ、すいません。別に騒がしくするつもりはありませんから」
「しかしまあ、何のためにこの島に来たのかね。京都ならもっといい観光地もあるだろうに。例えば……その、天橋立とか」
「まあ、その……」
歯切れの悪そうな発言をする夏乃さん。
流石の夏乃さんも、毎回しっちゃかめっちゃかになることは避けておきたいようだ。
けれど、それでは前に進まない。
そう思って――僕から話を切り出した。
「『竜宮城』について、調べに来たんです」
それを聞いたおばあさんは眉をぴくりと震わせる。
「ほう、竜宮城と、な。確かにこの島には竜宮城の伝説が広く知れ渡っている。けれども、そう若いうちからこの島にやってくるのはあんたたちが初めてのことだ。いやあ、物珍しいや。ほんとうに。あ、一応言っておくけれども、別にあんたたちを馬鹿にしているわけでは無いのよ」
「……そう言われても、仕方が無いかもしれませんね」
ここでようやく夏乃さんが反応をする。
仕方ないことかもしれないけれど、ここまでしないと話が進まない。夏乃さんにはあとで謝っておくことにしよう。
「竜宮城の伝説は、村でも知っている人は数少なくてねえ……。何故かは解らない。しかしながら、今の村長がそれを知っているはずだよ。村長は、浦島太郎を看取った人間の子孫が代々その職を受け継ぐ、と言われているからねえ」
「浦島太郎を……看取った?」
こくり、と頷くおばあさん。
やはり何かこの村には――怪しい影が潜んでいる。
僕はそう確信するのだった。
「それじゃ、村長に話を聞いてみることとしましょう。おばあさん、村長さんの家はどちらですか?」
「この坂を上った先にあるよ。『高坂』と書かれているから、それを目印にして探すといいだろうよ」
そうして僕たちはおばあさんの言葉を聞いて、村長さんの家へと向かうことにした。
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