光輝の一等星
騒ぎ
地上で県ごとに独特な色を持っていたように、各バーンにはそれぞれ特色がある。
しかし、地上での特色は、その地域の気候や森林、海の有無など自然的な要素があって確立されるものであるが、この地下空間では自然自体が人工的に作られたものであるため、何もしなければバーンごとに差など生まれるはずもない。
つまり、バーンの色と言うのはその地域を統治しているルードによって、そこに住んでいる人々は認識していないものの、彼らの指示によって染まっていく。
例えば今はかなり改善されてきたのだが、第5バーンは昴萌詠の前のアルデバランは自身に利益になる人間に対してバーン全体で優遇をしたため、貧富の差が激しくなり、街の富豪は中心に、逆に貧民は町の郊外でスラム街を形成するという事態になってしまっていた。
そして、この第11バーンの特色は古き日本文化を好むルードであるアンタレスが仕切っているため、この中心都市は城下町になっている。ちなみに、バーン全体を見ても『けばけばしさ』はなく、100前の日本で言うと京都のような落ち着いた華やかさがあり、その中心にそびえ立つ立派な『昇竜城』は彼女の権力の象徴ともいえる。
お祭りなどがあるとき以外、他のバーンではあまり見ない洋服と和服が入り混じった光景の中、それでも一際美しき着物を身に纏っている小さな女の子は目立つのか、それとも、彼女の持つ長い刀のせいか、賭刻黎愛が歩いているとかなり視線を感じる。
これでも目立たないように、弓具の袋で刀は隠していたし、着物の色もあまり派手過ぎないようなものを選んだつもりであったのだが、と黎愛が自分に向けられる注目の理由を考えていると、隣を歩いている詠が、前方にそびえ立つ巨大な城を見ながら、
「ねえ、あそこにリョウちゃんはいるんだよね?」
「そのはずじゃ……が、今日はいかぬぞ?」
今すぐに殴り込みに行こうとしている気の早すぎる詠にそう告げると彼女は「なんで?」と訊いてくる。かなり不満なようだ。
「今日は皆、疲れておるし詠どのは傷のことだってある。第一、『昇竜城』を落とすには作戦が必要じゃろう」
「正面突破じゃダメなの?」
「妾たちは4人、それに対し城の中には万の兵がいるじゃろう。涼の元へ行く前に倒れても良いなら妾は止めないが?」
ちぇ、と言った詠は、何かを思うように天守閣の方を見上げていた。
地下世界の中でたった一つの城である『昇竜城』は、普段、解放されており、地下世界の人間は入場券だけ買えば中を見ることができるため、観光名所としても名高い。
アルデバランの主な住処である天守閣までは無理であるが、城の構造はこのバーンにいる者なら子供でも知っているだろう。
しかし、だからといって『昇竜城』を落とすのが簡単かと聞かれれば答えはもちろんノーであり、ルードの中で数だけで言えばダントツの数の配下を持つアルデバランは、そのほとんどをこの城に収容しており、その気になれば隣接するバーンを一夜で滅ぼせるほどの力があると言われている。
案の定と言ったところか、先週から城の門は閉じられており、このバーンにいる人間たちも城の中へは入れなくなっていた。そのため、やはり、侵入一つにしても、何か策を練らなければならなくなったわけだ。
「この後、宿へ行って策を練ろうと考えておるのじゃが、水仙、言っておいた予約は取ってあるかのう? ――って、水仙はどこへ行った?」
城を見ながら考え事をしていたためか、いつの間にか獅子神信一、馬場水仙、昴萌詠、三人とも黎愛の近くにはいなくなっていることに気付く。
目を細めて遠くを見ると昴萌詠が、真っ直ぐに城へ向かおうと歩いているのが見え、そして、黎愛の遥か後ろでは馬場水仙が茶屋でお汁粉を頼んでいるではないか。
一瞬どっちの元へ先に行こうかと考えたが、とりやえず、詠の元へと駆けていく。話を聞いていなかったのか、軽く腕まくりをした彼女の目には恐ろしいことに昇竜城しか見えていないようだった。
「なにをやっておるのじゃ!」
「? だって、リョウちゃん助けに行くんでしょ?」
「だから、それは作戦を――」
と、黎愛がイノシシのごとく前に進もうとしかしない詠を説得しようとしていたとき、キャーなんて悲鳴が聞こえたので、振り向くと、近くの建物(煙突や暖簾から推測するに銭湯だろうか)から、短い赤髪の少年が桶や石鹸と共に出てきたではないか。
大体は予想ついたが、呆れた様子で黎愛は一応聞いてみることにする。
「……いったい、何をしておるのじゃ?」
「いやさ、旅の疲れをいやそうと一風呂入ろうとしたわけよ、そしたらなんと女湯でよ、こうなっちまったってわけよ――言っとくけど故意じゃねえぞ?」
「予約した宿は温泉じゃろう、そっちで入ればよかったではないか」
「チェックインまであと二時間あるだろ、それにでかい風呂に入りたかったんだよ!」
「なんの――」
こだわりじゃ、と黎愛の言葉が終わらぬうちに、後ろから「ちょっと誰か来てほしいっすー」との声がかかる。
今度はなんじゃ、と振り返ると、さっきまで一皿しか食べていなかったはずの水仙の隣には山のような皿が積み重なっており、彼女が手を振っているではないか。
「水仙のお小遣いでは足りなくなったっす、だからお会計お願いするっす!」
「…………」
純粋無垢な邪気のない笑顔で無慈悲なことを言う水仙に黎愛はすぐに返事をできなかった。
黎愛は小学生である、ゆえに所得税で経費がどうこうとか考えなくても良いのだが、その代わり、あまり持っている金額も多くはないわけで。鬼神隊で貯めた軍資金といえるような金があることはあり、それは団子数百個とお茶数十杯ごときで揺らぐものではないのだが、後々、武虎光一郎に嫌な顔される可能性があるため、やはり、ここは自費しかないか……。
震えながらも、ポケットから小さな財布を取り出した黎愛が、それでも足りるかと中身を探っていると、さっきまで傍にいた詠の姿が消えていることに気付いて、「だから、待てと言うておる」と、彼女の袖をつかんで、引き寄せる。
面倒なことが続くと思っていると、獅子神信一が先ほどの騒動で通報されていたのか、いつの間にか来ていた警察に職務質問されているし。
「……誰か、助けてくれなのじゃ」
手に負えない『混沌とした(カオスな)』状況に思わず黎愛の口から言葉が漏れる。
これが今話題となっている、保育士の重労働というやつか。これももしかすると、国のせいなのだろうか。プレフュードが管理しているはずの国会でも、未だ解消されていない問題のせいか。
どうして小学生の身である自分がこんな苦労しなければならないのか、と愚痴りたくもなるが、この中で鬼神隊を仕切れるはやはり自分しかいないと思い直して事態を収束させるべく、この後ももう少し、気力と体力と経済力を消費することになったのであった。
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