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光輝の一等星

ノベルバユーザー172952

 
 負傷した詠と、無傷で事を得た黎愛たち鬼神隊は四方を木々で囲まれた森にいた。あのトンネルの中や線路沿いでは、またすぐに新手が来ると考えたからである。
 新幹線に乗っていた乗客のことは飛行手段のある武虎光一郎にすべて任せてしまったので、これから先に彼は来られなくなった。

「詠どの、お主もここでリタイアせよ。先に帰っているのじゃ」

 包帯をやや強引に詠の頭へと巻いた黎愛が言うと、詠は「いやだ」と即答してきた。
 彼女は体中の至る所を負傷しており、無理な武器の使用により、内部からの損傷も激しい。これ以上戦えば命の危険があるという判断のもとで言った言葉なのだが、どうにも彼女にはお気に召さないらしく、頬を膨らませている。

「なんでそんなこというの? 最後はちょっと危なかったけど、戦力にはなるでしょ?」
「一人で歩けぬものが戦力になるというのか?」
「別に一人でも歩けるよ。そんなことより、早く先に進もう」
「じゃが、その傷では……」
「関係ない、貴女たちには迷惑かけないよ――私が動けなくなったら、置いていってもらって構わないから」

 立ち上がった詠は、言う通り一人で森の奥へと進んで行ってしまう。トンネルの中での戦いの後から、彼女の雰囲気は少し変わっていた。
 その瞳には確かな覚悟があり、飛鷲涼の奪還という目的に真っ直ぐに突き進むという気概があったし、その力もまた、今の彼女にはある。
 おそらく、彼女は黎愛たちがどんなに制止しようとも、それを押しのけて進むだろう。

 これはもしかしたら、自立だとか、成長だとかいうのかもしれないが、一方で黎愛は彼女の中に『危うさ』を感じていた。
 彼女は今、焦っている。命のやり取りを経験して、一刻も早く涼を助けなければならないという使命感に突き動かされている。

(こういうとき、正すがよいか、見守るがよいか……)

 小学生の身の自分がそんなことを考えていて、黎愛はおかしくなってふっ、と笑う。
 しょうがない……か、と呟いた黎愛も立ち上がって、詠の後をついていこうとしたのだが、そんな彼女の前に獅子神信一が入ってくる。

「いいのかよ、あいつ絶対に足手まといになるぞ?」
「勝手にさせておけばよい、妾たちが何を言っても聞かぬよ。考えてもみよ――義理とはいえあの飛鷲涼の妹じゃぞ」
「? 旧王の血が流れてるだけの小娘のことなんて俺は知らねえから、引き合いに出されてもわかんねえよ」

 そんなことを言う彼は、かつてリベレイターズに所属していた武虎光一郎が見つけた元鬼神隊の血筋であり、黎愛たちの集団を『真・鬼神隊』と名付けたのも彼だ。基本カッコいいものだとかものが好きな傾向がある。まあ、年相応の男子と言うことなのだろう。
 ちなみに自分の納得のいかないことはこうして意見してくるものの、基本は仕事に対しては面倒くさがりで、言われたことしかやらない男だ。まあ、やる気を出したときは予想以上の働きをするのだが。

「それはどうかのう」
「…………?」

 それにトンネル内で言っていた男の言葉も気になるからのう、と付け加えようと思ったが、口には出さなかった。
 獅子神信一は眉をひそめているが、黎愛はそんな彼の横を歩いていく。

「あと、お主は涼よりも年下じゃろう、小娘はどうかと思うぞ?」
「うるせえ、俺にとっちゃ30以下は皆小娘だよ」

 ふっ、と鼻で笑った黎愛が「さっさと行くぞ」というと、チッ、と舌打ちした後しぶしぶと言った様子で獅子神信一は後についてくる。
 そして、代わりにいつの間にか黎愛の隣まで来ていた馬場水仙が話しかけてくる。

「一つだけ質問にいいっすか?」

 水仙はシノノと似たような背景がある娘で、一人売り流され助けを求めているところを第5バーンにて保護した。彼女が馬場一族の娘だと分かったのは鬼神隊の名前を出したときだったが、どうやら馬場家は彼女以外オルクスによって殺されてしまったらしい。
 助けられた恩を持っているのか数か月足らずで、黎愛に(ちなみに武虎光一郎に対してもだが)懐いてくれているので、その従順さのせいか、黎愛は彼女が可愛く感じることが多かったりする。

 彼女に対して「何でも言ってみよ」と黎愛が返すと、「ならば、一つだけ」と言ったあと、

「水仙たちは、どうして飛鷲涼の救出に向かっているっすか?」
「あっ、それ俺も聞きたかったわ」
「……そういえば、お主たちには言っていなかったのう」

 今回の第11バーンへ飛鷲涼を奪い返す計画は黎愛と武虎光一郎が勝手に進めていったものなので、実は水仙も信一もその詳細は知らない。
 黎愛たち鬼神隊の目的はデネブの失脚である、飛鷲涼の奪還に関しては本来の目的と直接関係のない行動で、確かに彼らが疑問を抱くのも仕方がないことなのだ。

 さてさて、どうしようかと首筋を擦りながら考えた黎愛は、

「飛鷲涼が旧王の血統者であり、アルタイルの『結界グラス』の後継者でも彼女を救うことは後々利益になると考えたからじゃよ」

 そう答えると、「それは嘘っすね」とすかさず水仙が返してきたので、驚いて、彼女の顔を見る。

「なぜ嘘だとわかる?」
「なんとなく、水仙には取り繕ったものに聞こえたっす」
「……お主には敵わぬな」

 やれやれ、とため息をついた黎愛は、ふと、嘘をつくとき何か自分でも気づいていない癖があるのだろうか、と思ったが、どうせ自分ではわからないのだからとすぐに考えるのをやめた。
 できれば言いたくはなかったが、歩きながらも向けられる4つの目はだんまりを許してくれそうにはなかった。

「あまり怒らないでほしいのじゃが――私事じゃ」
「……説明しろよ」

 獅子神信一に言われて、どこから説明するべきかと悩む。
 これは本来ならば黎愛一人でやらなければならないこと。仲間の力を借りてはいけないこと。

「アンタレス――蠍芭さそりば梅艶ばいえんにちと用があるのじゃ」
「家名じゃなく本名を知っているって……どんなつながりだよ」

「それは言えぬ、と言いたいところじゃが、一つだけ言えるとすればーー奴とは衝突する運命にあるということじゃ」
「あの蛇女と戦うってのかよ、どんな目的があるにしろ、ハイリスクローリターンな話にしか思えないけどな」
「あんなに堂々と宣戦布告されたのじゃから、仕方がなかろう」

 そりゃいつだよ、という獅子神信一に黎愛は「お主もわかるじゃろう?」と逆に彼に問う。

 んなもんわかるかよ、と案の定考えることを初めから放棄している回答が彼の口から出た。
 代わりに視線を水仙に向けると「そうっすね……」と腕を組んだ彼女は答える。

「飛鷲涼の誘拐……っすか?」
「正解じゃ、梅艶のあの行動こそ、妾への挑戦なのじゃ」

 黎愛の言葉にまたしても信一が「ちょっと待てよ」と割り込んでくる。

「そもそも、なんで飛鷲涼が生きているってわかんだよ。あの場にお前はいなかったはずだし、お前以外の奴らの中じゃ『死んだ』ってことになってるみたいだぜ?」
「涼はあくまで妾を呼び寄せるための人質じゃ。それに、梅艶が涼を殺すことはないじゃろう。なぜなら――」

 と、黎愛の言葉が途切れたのは、森から抜けたからだ。

 先に進んでいた詠は、第11バーンの中心である目の前に広がる町の光景に言葉を失っているようだった。
 そして、黎愛の言葉を聞いていた二人も、初めて見るこの町に驚いている。

「とにもかくにも、あそこにたどり着かねば話にならぬがな」

 黎愛は町の中央を見ながら言う。

 まるで歴史の教科書で見た江戸時代の街並みのような木造建築が立ち並ぶ町であり、中心には、ひときわ目立つ和風の建物があった。
 他の建物とは明らかに違う、石壁や深い堀、金や銀などの光るものはないにも関わらず、美しくも力強い、存在感の塊のような建物。

 それは、紛れもなく『城』であった。

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