光輝の一等星

ノベルバユーザー172952

地下組織

 
 あの世で姉に会えるのならば、と、発した詠の言葉に対して少年は「は?」と返してきた。

「馬鹿じゃねえのか、俺はルードでもなきゃリベレイターズでも、ましてはてめぇの大好きな飛鷲涼の仲間でもなきゃ、それらの敵でもねえ。そんな俺にお前を殺す意思があると思うかよ? あったらすでに、てめぇはあの世に行っているだろ」
「……じゃあ、どうして不意打ちで襲ってきたの?」
「てめぇさんの実力を見るためだよ、まっ、初めから期待しちゃいなかったが……実際に会ってみると、想像以上にひどかったがな」

 そういった少年は詠の上から足を離して、銃を下したかと思うと、ポケットからドロップの金箱を取り出してガラガラと音を立てながら、一個の緑色の飴を出して口に含み、そんな彼を見ていた詠がどうやらものほしそうに見えていたらしく、「いるか?」と聞いてきたので、詠は立ちながら首を横に振ると、少年は、ふん、と鼻を鳴らして、

「死にたきゃそいつでさっさと頭ぶち抜け、俺は止めねえよ」

 彼のあごの先には彼の銃があって、詠が手を伸ばせば届くような位置にあった。一瞬だけ迷った詠は銃に手を伸ばして銃を拾う。
 そして、少年のほうを向いたかと思うと、慣れた手つきで拳銃をクルクルとまわして、少年へと返す。拳銃は見た目よりもかなり重いのだが、こういう重心が肝心になる芸当は『アルデバラン』の『結界グラス』でも使っていたため、詠にはまるでおもちゃのように回すことができた。

「お気遣いありがとう、でも、私にはまだいらないや」
「……そうかい」

 詠から受け取った拳銃を彼女に真似て少年はクルクルとまわそうとしたのだが、手が滑ったのか、その場に銃を落としたので、詠はクスッと笑ってから、

「じゃあ、貴方は誰で、何のためにここに来たの? 実力を見るってどういうことかな?」
「えーと……まずはだな、軽く自己紹介から行こうか」

 コロコロと口の中で飴玉を転がしながら、ドロップを懐に戻し、代わりに携帯のようなものを取り出した。

「俺は獅子神ししがみ信一しんいち。真・きし――とこりゃあ言わねえほうがいいな。まあ、とある『組織』に所属している。好きなタイプは年上の美人なお姉さんで、嫌いなタイプは自分のことしか考えてねえ女。趣味はゲームで、ご飯派かパン派かと聞かれれば麺派だな」

 どうでもいいような情報をつらつらと話していく少年、獅子神信一は手に持っていた端末をボールのように両手で遊ばせた後、詠に見せる。

「こいつは俺の仲間のドクターKが作った『インビジブル』っていう装置で、こいつを持つと体を透明化できる。つまりは人口の神器ってやつだ。俺たち人間は普通にやってりゃどうころんでも『結界グラス』の力には勝てないわけで、だから、こいつを武器としてるわけよ」
「ちょっと待って、さっき貴方はルードとも敵対していないって言ったよね? リベレイターズでもないって、じゃあ、どうしてプレフュードの持つ『結界』と戦うことを考えているの?」
「……まっ、そいつは場所を移してから話そうぜ」

 そういった獅子神信一が詠の肩をつかむと、詠の体が床の中へと入っていくではないか。

「えっ? えっ? えっ?」

 詠が驚いていると、彼女の体はまっすぐ下へと降りていく。重力に引き寄せられてというよりもエレベーターに乗っているような感覚に近い。
 彼女の体は下の階の部屋を通過していき(幸い、部屋の主は帰っていなかった)、そのまま下へ下へと落ちていく。地面についてもなお、彼女の体は落ち続けていく。彼女の肩をつかんでいる目の前にいる少年は慣れた様子で、無言で変わっていく景色を大して感動した様子もなく、見ていた。

 そして、彼女たちはとうとう地下世界の更に下へと到着した。こんな場所があるとは知らなかった詠は、目の前に広がった光景にポカンとするしかない。少年が肩を離すと、それ以上詠の体は地面を透けて落ちなくなった。
 その空間には小さな村があり、人々が普通に生活していた。ただ、いつも詠たちが生きている場所と違っているので、空にはビジョンで映し出された偽りの空はなく、電灯や松明などで、明かりがつけられていた。

「ここは……?」
「ちょっと前まではリベレイターズの基地だったけどな、情報を隠しやすいんで俺たちの隠れ家もこっちに建てたってわけだ」
「そういえばリョウちゃんがセイ姉ちゃんを助けたところだっけ?」
「ん? ああ、そうだな……」

 集落を抜けて、洞窟のような雰囲気がある通路を進んでいく少年の後についていくと、神殿のような場所につく。そこはまるで歴史の教科書に出てくる地上の遺跡のような趣があり、美しくも威圧的な建物だった。
 所々崩れている箇所があるが、少し前、涼がここを一人で襲撃したことを知っていたため、その名残ではないかと思う。

「ねえ、どこ行くの?」
「お前、あの女に誘われただろう? あの青い着物を着たちっこい刀娘によ」
「……黎愛のこと?」
「そうだよ、あいつ、一度決めたことは曲げねえからな、お前に選択権はねえだろ」

 ご愁傷さま、とか言っている少年の前には大きな扉が表れており、その前で少年は立ちどまる。
 扉からは禍々しい雰囲気が漂っており、その扉の絵には地獄の炎のような烈火が描かれていた。

「こいつは鬼門って呼ばれてる、見た目は大したことねえただの扉なのに――だが、俺には、いや、俺達にはその意味は分かるぜ、理由は簡単、こいつを超えられるのは相当の覚悟が必要だったからだ。世界の全てをぶっ壊すくれぇの覚悟がな」
「……どういう意味?」
「んなこと、行きゃわかる。俺たちの仲間になることがどれだけ過酷かってこと……だが、残念ながらお前には選択権も拒否権も、黙秘権すらねえ、あの修羅に見初められちまったお前は不幸なことにどんなに拒絶し、後悔したところで、俺たちの仲間になる以外の未来はねえってわけだ」

 意味が分からずに、詠は閉口する。
 そういった獅子神信一は、ニィ、と悪い笑みを浮かべたかと思うと、その手で思い切り扉をたたいた。その衝撃で、扉はゆっくりと開いていく。


「ようこそ、鬼の道へ」


 ギィ、という音と共に空いた扉の先の光景を一言で言えば『異様』である。
 部屋の一面には奇妙な絵が描かれており、中央には燃え盛る火柱と、あとは怪しげな木像でもあれば変な儀式をやっているようにも見えるだろう。
 火柱を囲んで3人の人間が座っており、こちらを見ていた。部屋の中心だけを見ると去年中学一年生のときにやったキャンプファイヤーを思い出してしまうのは、詠だけだろうか。
 天井は空いているようには見えないが、煙が室内に充満することはなかったが、ただ、炎の熱さで、室内はかなり暑く感じた。

「ほらよ、お待ちかねの新入りだ」
「……獅子神どの、妾はここに連れてきてほしいと言っただけだ。まだ、妾たちの仲間に入るかどうかは決まってはおらぬぞ」

 獅子神信一の言葉に返した火を囲む一人は知っている、賭刻黎愛だ。しかし、残り二人は詠は初対面であった。

「お前がここに連れてくると言い出した時点で無関係ではいられなくなっただろうが? 俺は娘との約束があるんだ、早くしろ」
「いいパパ気取りって、似合ってねえっすよ、先輩」
「誰が先輩だ」

 そんな応答をしているのは、巨体の男と、短い茶髪の、綺麗な顔をしている可愛い、アイドルのような女である。歳はどちらも大学生か、若くて高校生かくらいに見えるが。

「学帽に学ランみたいな格好の男が武虎光一郎で、茶化してんのは鷺宮さぎのみや飛鳥あすか。ああ見えて俺たちよりずっと年上だ」

 小声で信一が説明してくれる。武虎光一郎は確か、涼と戦った男だったっけ。聞いた話なのであまり詳細な個所は覚えてはいないが、龍の神器を持っているのだけは覚えており、それに涼が幻覚を見せられたのも知っていた。
 もしかして、今見ている不可思議な部屋も幻覚かと思い、目をこすってみるが何も変わらない。それならばと、バチンッ、と頬を叩いてみたが痛いだけだ。隣で信一が「なにやってんだよ」とつぶやいていたが、無視した。

 そして、もう一人の女に目をやると、彼女は何処かで見たような気がする。鷺宮飛鳥といったか、いや、そんな古風な名前ではなく、もっとポップな名前でどこかで……。

 詠がそんなことでうんうんと頭を悩ませていると、「詠どの」黎愛が名前を呼んだので、彼女のほうを見る。あまりにも不可思議な空間の中だというのに、普段の彼女が日常に溶け込んでいないように思えるためか、あるいは、彼女の纏う重圧がこの部屋の空気と調和しているためか、彼女はここにいてもあまり違和感のない存在だった。



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