光輝の一等星
第三幕 プロローグ
音楽には様々な種類がある、
クラシック、ポップ、ジャズ、ロックなど、様々なジャンルに分かれており、そのどれも、それぞれの個性があり、違う楽しみ方がある。
どのジャンルが好きにせよ、人生に、一度はコンサートというものには行った方がよい。
音楽プレイヤーで聞くのや、テレビで見るのとはまるで違う。そこには、一体感と、臨場感があり、その迫力は、耳だけでなく、身体で音楽を感じられるのだ。
そんなことを、昴萌詠は、隣にいる姉、飛鷲涼に力説していた。
詠は中学二年生の短い茶髪の少女である。白いティーシャツにショートパンツという服装で、大きなピンクのヘッドホンを首にまわしている。
一方、涼はクラウンハーフアップの若干青色の混じった長い黒髪に、どこまでも美しく、凛々しい少女だ。
いつもの制服は先日のごたごたで新調することになったため、珍しく私服……フィッシュテールスカートの水色のワンピースである。
ここは、第6バーンにある、巨大なコンサートホールの前。入場待ちの行列の一角で、詠たちは並んでいた。
数えきれないほどの人、人、彼らは皆、たった一つのグループのためにここまで足を運んでいるのだ。
完全に暑さにやられている様子の、琴織聖はタオルを頭の上からかぶって停止していた。
聖は、銀に近い金髪の綺麗な髪の毛を持った少女で詠とさほど変わらない体型だが、一応は三つ上で涼と同い年。清楚な白のワンピースを着ていた。
随分ぐったりしている聖を見て、無理やりここまで連れてきてしまったが、大丈夫だっただろうかと心配してると、
「私は問題ありません」
タオルをかぶって、詠のことを見えてすらいないのにも拘らず、まるで心を読んだかのようにそう言った聖に驚いたのだが、
「大丈夫、問題、ありません、暑くなんて、ありません、私は、暑いのが大好きです」
「セイ姉ちゃん!?」
やはり若干ポンコツになっているようだった。ぶつぶつと自己暗示をかけている。
その様子を流石にヤバいと思ったのか、涼が、
「まだ少し時間あるわ、私たちが待っているから、聖、熊谷さんに頼んでちょっと頭冷やしてきなさい」
と言って、聖の身体を押して列から無理矢理外に出した。
「そんな、私はだいじょ――」
「ばないわよ! 早く行ってきなさい」
涼に言われて、反発することもなく、列から外れた聖は、大人しく何処かへ歩いていった。きっと、どこかに車を止めているのだろう。
やれやれ、と言いながら、息をついている涼を見て、
「ごめんね、私の我が儘で……」
「何言っているのよ、面白そうじゃないライブなんて初めてだから、とても楽しみよ」
こんな嫌な顔一つしない姉のこと、詠は大好きだった。
「でも、涼ちゃん知らないんだよね『GRB』」
「そうね、だから今のうちに教えてもらえるとうれしいわ」
うん、と頷いた詠は、説明を始める。
正式名称『Gemini Red Bond』。英単語を適当に繋げてみましたみたいな雑なネームのバンドグループであるが、半年前にリリースしたデビュー曲『black rings』でいきなりミリオンセラーを達成。
若い女性四人のバンドグループということもあって、ロックアイドルとしても活動しているが、その姿を見せるのはライブの時のみである。
CMソングにもその曲は多く起用されており、バンド名を知らなくてもテレビを見られる環境ならば誰でも曲は知っているだろう。
一度聞くと頭に残るフレーズと、歌い手二人による繊細さと力強さが重なり、融合されたハーモニーは聞く人の心を動かすのだ。
そこまで説明すると、涼は感心したように、
「かなり詳しいのね」
「そりゃもう、ファン第一号だからね」
胸を張って、誇っていると、クスリと、涼は笑った。
「全く、調子いいのね」
どうやら彼女は信じていないらしい。
「だって、ファーストライブもいたんだよ?」
すごいわね、とは言っているが、やはり信じてくれていないようだった。というより、冗談だと思われているようだ。
一つ一つ有名な曲を涼に聞かせていくと、彼女でも知っている曲がどんどん出てくる。
まあ確かに、ここまでメジャーになってしまうと、ファン第一号なんて、冗談としか思えないことだろう。
しかし、詠は彼女たちを知っていた。あのファーストライブは今でも鮮烈に脳に刻み込まれているのだ。
聖が戻ってきて、ちょうど、入場が始まる時間になる。
詠が持っているチケットは特別なものであったので、かなり優遇して中に入れてもらえた。
入る直前に聖のことを思い出した涼はスマートフォンで彼女に今すぐ来るようにと電話していた。
暗いホールの中に入っていく。
コンサートの開始時刻までにはまだ時間がある。
それは30分という短くも長い時間。
彼女たちと、自分の確かなつながり、その時間でたどるのには少々短いかもしれない。
ただ、ボーとしているには少し長い時間であることも確かであった。
まだ誰もいないステージを見た詠は、少し前のことをゆっくりと、着実に思い出していった。
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