アンリミテッドペイン

チョーカー

アンリミテッドペイン 中編

 春日あかりのアバター。
 アバターネーム 『ソルシエール』 
 幼い少女のようなアバターに反して、その衣服は体の形を強調するように密着している。
 昔、流行ったボディコンがこういう感じだったと聞いたことがある。
 色は紫だ。靴のハイヒールも紫色で合わせている。
 少女の幼さと妖艶さ。2つの相反する性質がぶつかり合い、互いを高めあっている。
 そして、注目すべきは両手。その両手は素手でありながら武器だ。
 歪で巨大な掌と五本指。鋭利な刃物を連想させる爪。
 対戦相手に恐怖感を押し付ける視覚効果は満点と言ったところ。
 幼さ、妖艶さ。そして、凶悪な武器。
 そんなアンバランスな存在感が、不思議とあかりに似合っていると思った。
 型はなんだろうか?純粋な人間型タイプヒューマンではないみたいだ。
 ハーフモンスター?魔人型? 風貌からの憶測はできない。
 『ソルシエール』の戦歴を確認すると『20戦3勝12敗5引き分け』
 初心者らしい戦歴が表示された。  

 試合開始時間が近づき、俺とあかり———『痛み傷ペインウーンド』と『ソルシエール』はリングの中央へ移動する。
 「やぁ、来てくれて嬉しいよ」
 できるだけ、フランクな感じを意識して話しかけた俺をあかりは
 「話かけないで」と一蹴した。
 「あなたは、『痛み傷』ペインウーンド」何て言うふざけた名前の存在であって、城一郎くんじゃないんでしょ? 私をこの世界に、貴方の愛した世界で叩きのめして、現実と決別でもするつもりなの?」
 「いや、違う。俺はお前を———」
 「殺してやる。お前を殺せば、城一郎くんはきっと・・・・・・」

 試合開始のカウントが始まり『ソルシエール』の言葉を掻き消した。
 両者はリングの端へ移動し、試合開始を待つ。
 空中に表示されるデジタル加工された数字。
 それが0を刻み、試合開始を告げる。

 開始と共に『ソルシエール』が飛び出してくる。
 両足は宙に浮き、極端な前傾姿勢。
 その指を文字通りの手刀に変え、両手で突き立ててくる。
 純粋な人間型タイプヒューマンと違い、他のタイプの混合型は特殊な動作や技が可能な場合が多い。ただし、腕力や耐久力などの基本性能が劣るように設定されて、バランスを調節されている。
 『ソルシエール』もその例に漏れず、速度上昇と高速移動技が搭載されているようだ。
 そして、その動きは速い。
 しかし———
 俺はそれを余裕をもって避ける。 
 ダメージ以外の効果を考えず、ただ使用するだけの行為をぶっぱと言う。
 開始直後に高速移動技の使用は、必ずしも悪手とは限らないが、そう簡単に当たるものではない。
 『ソルシエール』は再び、同じ技を繰り出してくる。
 また避ける。同じ技を同じタイミングでの使用。
 技に工夫がない。
 初見ならともかく、一度避けられた技を素直に使用しても当たるはずがない。
 普通ならカウンターの餌食だ。 例えば相撲で言う蹴手繰りけたぐり
 すれ違う瞬間に、宙に浮かぶ彼女の足を引っ掛けてやると、透明なリングの壁に激突するだろう。
 そのまま、彼女の後頭部に追撃を繰り出せば、それで試合は終わる。
 けれども、俺はそれを行わない。
 勝てばいい。これは、そういう試合ではない。


 彼女は何度も、何度も、同じ技を繰り出してくる。
 その姿には猪突猛進と言う言葉が思い浮かぶ。
 当たるまで繰り返すつもりなのだろうか?そう考えが脳裏に浮かんだ。
 だが、その瞬間、彼女の技に変化が起こる。
 俺に向かって突っ込んでくる途中で彼女の体は急停止。突進技をキャンセルしたのだ。
 『ソルシエール』は既に回避運動を行っていた俺の動きに合わせて、爪を振るう。
 回避は不可能。だが———
 振り落された彼女の攻撃。その腕をキャッチする。
 そのまま捻り上げ、彼女の動きをコントロール。
 『ソルシエール』を地面に叩き付ける。それと同時に距離を取り、離脱。
 空中には、この戦いで初めてダメージが与えられた事を知らせる『FIRST ATTACK』の文字が表示された。
 しかし、『FIRST ATTACK』を与えたのは俺ではなく、彼女のようだった。
 俺の額から、血が流れ落ちていた。

  
 

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